SGS154 非力な自分
オレとケビンが人質になっているせいでダイルは抵抗できない。今のままではダイルがサレジに殺されてしまう。情けないが、自分の体はマヒして動けないし、クールタイムで魔法も使えない。ケビンはサレジの熱線魔法で瀕死の状態だ。
ダイルに向かってサレジの勝ち誇ったような声が響いた。
「では、バリアを解除しろ。一旦眠ってもらうが心配するな。後で起こしてショーを楽しませてやる。約束する。ふっふっふっふっ」
サレジの命令にしたがってダイルはバリアを解除したようだ。表情は硬いが、ダイルは堂々としていて男っぽい。
サレジが眠りの呪文を放つとダイルは花の中に倒れていった。
サレジはオレを抱えたままダイルに近寄った。気を失ったケビンも念力で運んでダイルの隣に横たえたようだ。
「ふふふっ。おまえの護衛もたいしたことはなかったな。これで邪魔をする者がいなくなった……」
サレジはそう言いながら何かを取り出した。
「おまえにこれをつけてやろう。首輪だ」
右手に持っている首輪を見せた。
『従属の首輪など、わたしにつけてもムダだ!』
『ふふふっ。よく似てるが、これは従属の首輪ではない。神族封じの首輪というアーティファクトだ。おまえにこれをつけてやる』
そう言うと、サレジはオレを花の上に横たえて首輪をつけた。オレはマヒしていて抵抗できない。あと少しでクールタイムが終わるはずなのに……。
サレジが何か呪文のような言葉を呟くとカチッという音がして首輪が閉じた。
『これでまた、おまえはおれの従者になった。おれの命令に従わなければ電撃罰を与えるぞ』
『おまえの従者になどなるもんか! 従属契約には絶対に同意しないぞっ!』
『勘違いをしているようだな。この首輪にはおまえの同意など必要ない。おれが呪文を唱えたから首輪はすでに働き始めているのだ。それと言っておくが、この首輪はおまえが神族だとしても外せない。無理やり外そうとしたら首輪に殺される。おれを傷付けたり殺そうとしても同じだから気を付けるんだな』
サレジはそう言った後、また呪文を唱えた。マヒ解除の呪文だ。体の感覚が戻って来て手足も動くようになった。魔法は……、ダメだ。クールタイムがまだ続いているようだ。
オレが立ち上がったのを見てサレジが口を開いた。
「これで体が動くようになったな。マヒした体ではお互いに楽しめないからなぁ。うっふっふっふ……」
卑劣な男だ!
「では命令する。まず、着ているものを脱いで裸になるんだ!」
「そんな命令に従うわけないだろっ!」
「そうか? では、仕方がないな」
サレジが何か呟くと、強烈なショックを受けた。オレは体を硬直させて花の中に倒れ込んだ。これまでにも何度か食らった電撃と同じような痛みだ。気を失わなかったから、少し軽めの電撃だったのかもしれない。
だが、再び電撃を受けるのはイヤだ。それに、今のままケビンを放っておくと死んでしまうかもしれない。
オレはゆっくり立ち上がりながら声を絞り出した。
「分かった。言うとおりにする。服を脱ぐから……」
オレが着てるのは豹柄のワンピだ。脱ごうとして裾に手を掛けて手を止めた。ケビンを見ると、脚からの出血が続いているようだ。それに熱線で脚を撃たれていて酷い火傷を負っている。やはりこのままではケビンが死んでしまう。
「服を脱ぐ前にお願いがある。その子にキュア魔法を掛けてくれないか?」
「いいだろう」
サレジはキュアの呪文を唱えた。ケビンの出血は止まったようだ。
少しだけホッとしたが、まだ自分の魔力が回復しない。もうクールタイムの10分は過ぎているはずだ。ナゼだ? もしかすると……。
「わたしが魔法を使えないのは、この首輪のせいなのか?」
「今ごろ気付いたのか? その首輪は神族封じの首輪だと教えただろ? 神族の魔力を調整できるのだ。今は魔力を完全に止めている。だから今のおまえは……、ただの女だ。おれに支配された女の奴隷だよ。ふっふっふっ」
それを聞いて愕然となった。念話も使えないからユウやラウラとも連絡できない。この窮地を救う手だてが無い。
「さぁ、おまえの言うとおり子供にキュアを掛けてやったから、今度はおまえの番だ。早く服を脱ぐんだ!」
サレジの言葉を聞きながら考え続けた。ユウもオレと同じようにクールタイムがあるから念話を使えなかったはずだ。でも、もうクールタイムは終わった。だからユウはミサキ(コタロー)やラウラに緊急連絡を入れただろう。
ミサキはワープを使えるが、今はリンクが切れてるみたいだ。だからオレのところへはワープで来ることはできない。と言うことは、ここへ来るためには足を使うしかないということだ。ミサキやラウラたちがここに駆け付けてくるには30分以上は掛かるだろう。だが、そのときのオレは人質に取られた状態のはずだ。ラウラたちはサレジに勝てるだろうか?
「おいっ! 何をしてる。まだ逆らうのか?」
「分かってる。脱ぐから……」
覚悟を決めた。ワンピを捲り上げて思い切って脱いだ。それを花の上に置く。
「下着と靴も脱ぐんだ。裸になれと言ったろっ!」
言われたとおりブラの紐を外した。オッパイが重く感じる。パンツと靴も脱いだ。やっぱり恥ずかしい。オッパイと股間を手で隠す。自分が女だと意識してしまう。
「手で隠すな!」
渋々手を外すと、サレジの強い視線を感じて思わず顔を伏せてしまった。自然に体を竦めて内股になってしまう。何の抵抗もできない自分が情けない……。
「そんなに恥ずかしがらなくていいぞ。ふふっ。いい体だ……」
言われて顔が赤くなるのを感じた。
「おまえをすぐにでも味わいたいが、その前に護衛の男を起こしてやろう。おまえとのショーを見せてやると約束したからな」
サレジはさっきダイルをなぶり殺しにすると言ってた。何とかしないと……。でも、何もできない。
焦りと不安な気持ちが膨らんでいく。
サレジは横たわっているダイルに近付いて何か呪文を唱え出した。マヒの呪文。続けて検診の呪文だ。
「おい! こっちへ来て、こいつを裸にしろ!」
サレジが命じた。ダイルを裸にしてどうするつもりだ?
ゆっくりとダイルに近付いた。ダイルは花の中で眠っている。命令に逆らったらまた電撃罰を受けるだけだ。言いなりになるのはイヤだが仕方ない……。
しゃがみ込んでダイルの上着を脱がせ始めた。
鍛え抜かれた体は贅肉が一切ない。自分の窮地を何度も救ってくれたダイル。間近で見ると眠っているダイルは意外に可愛い顔をしている。そう言えば笑顔も可愛かったな……。でも、目の前のダイルは自分のせいで殺されてしまうかもしれない。無力で、ごめん……。
勝手に涙が溢れてきた。今の自分は泣くことしかできない。
「もたもたするな! シャツを完全に脱がせるんだっ!」
眠っているダイルの体は重い。腕を取ってシャツを脱がせていく。上半身を持ち上げようとしたが重くて持ち上がらない。魔法が使えない自分はなんと非力なんだろう。
「おいっ、もっと尻を突き出せ! よく見えるようになぁ」
何を言われてるのか最初は分らなかった。振り返って見るとサレジがすぐ後ろにいて、こちらの体を下から覗き込んでいる。
頭に血が上ってサレジを叩こうとした。その腕を取られたと思ったら、天地がぐるっと回って背中から花の中に落ちた。投げ飛ばされたのだ。次の瞬間、電撃が体を貫いた。
一瞬、朦朧とした。花の匂いで意識がはっきりしてくる。体を起こすと、サレジと目が合った。
「逆らうとまた電撃罰を食らわすぞ! さぁ、服を脱がせろ!」
電撃を受けたせいで体が重い。ゆっくりと立ち上がって、サレジとは反対側に回った。
「まぁ、いいだろう。おまえの体は後でゆっくり味わうからな。さっさと続けるんだ!」
四苦八苦しながらダイルのシャツとズボン、靴をなんとか脱がせることができた。
「その下着も脱がせろ!」
ダイルの下半身など見たくもない。目を逸らせながらパンツを脱がせた。
「おっ。なかなか立派だな。獣人だからそんなものなのか? おまえも恥ずかしがらずに見てみろ!」
別に恥ずかしいから目を逸らしたんじゃない。見ると、たしかに立派だ。昔の自分の体を思い浮かべて心の中で比べてしまった。ちょっと悔しい。
「こいつの体をボロボロにしてやる……」
サレジがダイルの股間を睨みながら呟いた。何をやろうとしているのか想像してぞっとした。
「その前に……」
サレジがダイルに近寄ってきた。何をするつもりだろ?
「少し離れて、おれが何をするか見てるんだ!」
サレジはそう言いながら短剣を取り出した。
「やめろっ!」
サレジを突き飛ばそうとしたが、逆に片腕一つで軽く弾き飛ばされてしまった。
花の上に仰向けに倒れた。その直後、全身に痛みが走って体を仰け反らせた。くそっ! また電撃罰か。
痛みを堪えながらサレジを見た。ダイルのそばにしゃがみ込んでいる。短剣の切っ先をダイルの肩に当てると、躊躇うことなくズブリと突き刺した。ダイルはマヒが掛かっているから無反応だ。
サレジが何をしているのか分かった。ダイルの体の中からロードオーブを取り出そうとしているのだ。
サレジはその処置が終わると、今度は魔力剣を出した。その剣を振り上げると、ニヤリと冷酷な笑みを浮かべた。
何をするのか分かって止めようとしたが、体が竦んで動かない。
サレジは何の躊躇いもなくダイルの右腕に剣を振り下ろした。
「キャッ!」
思わず声が出てしまった。
サレジは立ち上がって、何かを蹴り飛ばした。切り離されたダイルの右腕が数モラ飛んで花の中に落ちた。黄色の花の中に赤い血が点々と飛び散る。
サレジは呪文を唱えた。えっ!? マヒ解除の呪文? 今、マヒを解除してしまったら、ダイルは……。
※ 現在のケイの魔力〈846〉。
※ 現在のユウの魔力〈846〉。
※ 現在のコタローの魔力〈846〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




