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SGS152 戦い終わって待ち人現る

 戦いが終わって5日が過ぎ、その後始末も終えて、オレはようやく自分の時間が持てるようになった。考えてみれば大魔獣と戦った後、ゆっくりと休んだことが無い。ダールムで休暇を楽しもうと思っていたけれど、結局その数日間はカーラ魔医の診療所やガリード兵団に関わっていたからだ。それに、ユウと体を交換すると言ったのに、最近はそれもできていない。


『よし、決めた。今日から3日間はゆっくり休むことにする。体も交換するからね。ユウ、聞いてる?』


 話しかけると、ユウからすぐに念話が返ってきた。


『ケイ、ありがとう。久しぶりだから……、うれしい』


『でも、数日後にはラウラと一緒にクドル・インフェルノに入って訓練を始めるつもりなんだ。訓練している間は体の交換はできないから、今のうちに楽しんでおいて』


『うん、分かってる。何をしようかなあ……』


 ユウがわくわくしているのが手に取るように分かった。



 ――――――― ユウ ―――――――


 ケイと体を交換したときには時間の制約がある。今のケイの魔力では一日の中で約8時間が精一杯だ。アーロ村の朝の時間帯から夕方頃まで私は村の周辺を散歩したり、村の人たちと何気ない会話をしたりして楽しんだ。ネコ耳帽を被っているから、村の誰もが今は私がユウであると承知の上で相手をしてくれている。


 ケイはその間、ミサキの体に入って短い休息を楽しんでいるみたいだ。


 そんな休息も今日で終わりらしい。ケイは明日からクドル・インフェルノで訓練を始めると言ってる。訓練で魔獣を倒し続ければ、いつかは魔力が〈1000〉になって、日本へワープで帰ることができるのだ。ケイのことだから必死で頑張るのだろう。私も精一杯協力するつもりだ。


 私が散歩をするときはたいていフィルナとハンナが一緒に付き合ってくれる。お喋りしながら散歩するのが一番楽しい。


 今も三人で一緒に散歩していると、村長さんの家の前で声を掛けられた。


「わしの家でお茶でも飲まんかの?」


 村長に誘われて家に入ると長老たちが何人かいて、私たちはその会話に加わった。会話の内容は専ら先日のバーサット軍との戦いのことだ。村人たちはその話を聞きたがった。私はずっとケイとダイルが一緒に戦うところを見ていたから、リアル感満載で語り部のように話してあげた。


 フィルナとハンナも今回の戦いの最中はダールムの家にいたから、私に戦いのことを尋ねてきた。色々話したが、戦いが始まる直前にケイがダイルを使徒にしたと言うと、二人は慌てて立ち上がった。


「なによ、それって! ハンナ姉、知ってた?」


「いいえ。フィルナ、あたしも初めて聞いたわ」


 そう言うと、二人は「ダイルを問い詰めてくるわね」と言いながら村長の家を飛び出していった。


 その後もしばらく村長たちとお茶を飲みながら話をしていると、ダイルが現れた。


「ユウ、ちょっと話したいことがあるんだ。散歩しながら話をしないか? いいかな?」


 ダイルは何か深刻そうな顔をしている。


 突然にどうしたのだろう? 私がフィルナやハンナに色々話したことに腹を立ててるのかしら?


 何となくダイルと二人だけで話をするのは気が進まないし、今は村長たちと話している最中だ。


「ああ、わしらに遠慮は無用じゃ」


 私が目で問い掛けると、村長がにこやかな表情でそう言った。


「ユウ様、もしかするとダイルさんから結婚の申し込みかもしれねぇゾ!」


「そうだナ。ダイルさんならヨメさんが三人や四人になっても毎晩喜ばせることができそうだもンなぁ」


 えっ!? そうなのかしら? でも、そんなはずはない。ダイルは私がケイと体を共有していることを知ってるから結婚を申し込もうなんて考えないだろう。それに、私には大輝という大切な人がいる。


 何の話だろうか……。ダイルと一緒に散歩に出ることが少し憂鬱になってきた。


 村の門から出たところでダイルに問い掛けた。


「話って何ですか?」


「うん……。もうちょっと歩いてから話すよ」


 なんだろう? ダイルは気が重そうだ。何か躊躇ためらっている感じだ。言いたくないけど私に言わなきゃいけないことがあるみたいだ。きっと嫌なことを言われるのだろうな。ますます憂鬱になってきた。


「あらっ!? ケビンがこっちに来るわ」


 前方からケビンが駆け寄って来て、私の前で止まった。


「ケイ姉、捜してたンだぁ。ダイル兄も一緒だネ? ちょうど良かったよぉ」


 ケビンはずっと走ってきたみたいで息が苦しそうだ。私をケイと間違えてる。


「私はユウだよ。で、どうしたの?」


「ユウ姉ちゃんかい? どっちでもいいや。とにかく、ユウ姉ちゃんよぉ。おれっちと一緒に来てほしいんだよぉ。ダイル兄もナ」


 ケビンは時々いたずらを仕掛けてくる。今回もそうかもしれない。どうしようか躊躇っていると、ケビンは前をどんどん歩き始めた。


「とりあえず、付いて行ってみるか?」


 ダイルに問われて私は頷いた。


「そうね。いたずらかもしれないけど……」


 ケビンの後に付いて1時間近く歩いたときだった。


「ここで待っててくれねぇか? 会わせたい人がいるンだぁ」


 ケビンが突然振り向いて私に向かって言った。


「いいけど……。会わせたい人って、だれ? どこにいるの?」


 会わせたい人って……。もしかすると彼かもしれない。私が一番会いたい人。アイラ神と以前に話したときに、彼のほうから私に会いに来ると言ってたもの。きっと大輝だわ。


 期待が一気に膨らんだ。


「ずっと向こうで待ってるはずだぁ。呼んでくるからナ」


 ケビンが走っていった先には500モラほど離れたところに緑色の丘が見えていた。


「あの丘って……。ほら、何日か前にバーサットの別動隊とラウラが戦った場所じゃないかしら? ええと、丘の向こう側にリリカの花園があるって言ってたでしょ?」


 その丘は一面が草に覆われていた。高さは50モラくらいで、傾斜は緩やかだ。


 時間が過ぎるのが遅い。ケビンはまだ姿を現さない。ダイルもなんだかイライラしているみたいだ。そう思っていたら、ダイルが何かに気付いたのか私の方に顔を向けた。


「ユウ。丘の向こう側に魔力が〈900〉の魔闘士がいる。ケビンと一緒にこっちへ歩いてくるみたいだな。探知魔法で見たら分かるぞ」


 ケビンと一緒に彼が私の方に歩いてくる……。喜びが込み上げてくる。私はこの日が来るのをずっと待っていたから……。


 探知魔法で彼を探そうとしたけど無理だった。私が自分の体に入ったときは魔力がケイの1/5になる。今は〈169〉しかないのだ。


「魔力が〈900〉の魔闘士……。そんなに強くなったのかしら? あっ、ごめんなさい。もしかすると私の知ってる人かもしれないと思って……」


「知ってる人? そうなのか?」


 ダイルは不安そうな顔をした。彼を警戒しているのかしら……。


「会ってみないと知り合いかどうか分らないけど……。とにかくケビンたちのところへ行ってみましょ」


 早く会いたい。私は駆け出したい思いを抑えながら歩き出した。


 あっ! 丘の上にケビンの姿が見えた。でも、あの人はいない。どうしたのだろう?


 ケビンが丘から駆け下りてきた。ケビンは私の前で立ち止まると右手に持った花束を差し出してきた。これはリリカの花ね? 私はその可憐な黄色の花を受け取った。


 すると、ケビンは私のもう一方の手を取って引っ張った。


「ユウ姉ちゃん、早く来ておくれよぉ。リリカの花園で姉ちゃんを待ってる人がいるンだからヨ」


 ケビンに手を引かれて何歩か前に歩いた。


「ケビンたら、どうしたのよ? 仕方ないわね。ダイル、先に行ってるから」


 後ろを振り向いてダイルに声を掛けて、ケビンと一緒に走り始めた。


 あの人が丘の向こうで待っている。そう思うと足が自然に速くなるから不思議だ。


 丘の上に立つと反対側の中腹は一面が黄色一色のお花畑だった。今を盛りとリリカの花が咲き乱れている。


 でも、あの人の姿が見えない。


「ケビン? 彼はどこなの?」


「あれっ? どこ行ったンだぁ? もしかするとユウ姉ちゃんをビックリさせようと思って、花の中に隠れてるンじゃねぇか?」


 それを聞いて、私はリリカの花園に続く小道を駆け下りた。ケビンも後から付いて走ってくる。花園が近付くと風に乗ってリリカの花の甘い香りが漂ってきた。もうすぐ彼に会える。私の大輝と会えるのだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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