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SGS151 バーサット砦での戦いその2

 オレが異世界から召喚されてきたことはずっと秘密にしてきたことだ。それを司令官だと名乗った男は知っていた。


『ケイ、どうなってるの?』


 ユウも同じように疑問を抱いたのだろう。高速思考で話しかけてきた。


『分らない……。わたしが異世界から召喚されてきたことを知っているのは限られた者だけだよね。ミレイ神とアイラ神、それにラウラと……』


『でも、アイラ神やラウラがバーサット側に私たちの情報を渡すはずがないわよ?』


『うん、そうだね……。今思い出したけど、あのカイゼル髭の魔闘士もわたしたちのことを妖魔人だと言ってたよね。ほら、何か月か前にアーロ村の近くでバーサットの偵察隊と戦ったときだよ。あのときも、バーサット帝国の皇帝が特殊な能力を持った妖魔人を捜していると言ってた』


『そう言えば、死んだギリルもそんなことを言ってたわよ。バーサットでは特殊な能力を持った妖魔人を味方に付けて密偵にしてるって』


『うん。どういうことだろ……? あの司令官に聞いてみるしかないね』


 オレは高速思考を解除して司令官に話しかけた。


「何か勘違いをしてないか? わたしは妖魔人などではない」


「いや。おまえは無詠唱で魔法を使っているらしいし、魔力も隠しているようだ。皇帝が捜しておられる妖魔人の特徴と一致する。我らの味方になれば、皇帝はおまえが望む物を与えてくださるだろう。金でも地位でもな」


 なるほど。オレが無詠唱で魔法を使ったから特殊な妖魔人らしいと推測しただけってことか。でも……。


「異世界から召喚されてきたって言ったよね。それはどういうこと?」


「詳しいことは私は知らぬ。皇帝からそう聞いただけの話だ」


 オレはすぐに高速思考に切り替えてユウに話しかけた。


『つまり、この司令官はわたしが異世界から召喚されてきたことを知っていたのではなくて、推測しただけってことだね』


『そうね。この司令官はバーサットの皇帝から命令されていただけみたい。でも、皇帝はどうしてそんな命令を出したのかしら? 異世界から召喚されてきた特殊な能力を持った妖魔人を探せなんてね……』


 ユウの言うとおりだ。だがここではこれ以上この件は調べようがない。


 このときオレは予想もしていなかったが、この件はオレたちに大きく関わってくることになる。だがそれはもう少し……、1年近く先の話だ。


 高速思考を解除して、司令官にもう一度話しかけた。


「何か誤解しているようだけど、わたしは皇帝が捜しているという妖魔人じゃないよ。人質を盾にわたしを説得しようとしてもムダだから、人質たちを解放してもらえないかな?」


「フフフッ。異世界人は虫けらのような者の命でも大事にするらしいな。人質を解放しろと言ったことが、おまえが異世界人であることの何よりの証拠だ。

 異世界人には人質を取って脅すのが有効だと聞いていたが、なるほど、そのとおりだな。ならば、その手で行こう。おい、そこの女を殺れっ!」


 司令官の指示を受けた魔闘士が女性の一人を背中から短剣で突き刺した。女性は悲鳴を上げながら崩れ倒れた。それを見たほかの女性たちが悲鳴や泣き声を上げた。だが、誰も逃げ出したり座り込んだりしていない。おそらく念力の魔法でその場から身動きできないように固定されているのだろう。


「女ども、うるさいっ! 泣き喚くなっ!」


 司令官が大声を上げると、女性たちの泣き声はさらに大きくなった。


「くそっ! 泣き喚くやつは殺すぞっ! おい、そこの一番うるさい女を殺せっ!」


 司令官がヒステリックに叫ぶと、指示を受けた魔闘士はその命令を冷徹に実行した。その女性が悲鳴を上げて崩れると、ほかの女性たちは手で自分の口を塞いで泣き声を押し殺した。


「どうだっ! まだ続けようか? 女たちはまだ八人もいるからな」


 司令官の顔は女性たちに隠れて見えないが、きっと冷酷で残忍なヤツに違いない。オレは高速思考に切り替えてユウに話しかけた。


『ユウ、どうしようか? あの魔闘士たちの背後に短距離ワープして、全員を魔力剣で倒そうと思うんだけど……』


『ケイがずっと速く動けると思うけど……。でも、敵は訓練された魔闘士が五人よ。人質が何人か犠牲になることを覚悟して仕掛けるしかないわね』


『うん。仕方ないよね……』


 高速思考を解除。すぐさま短距離ワープを発動しようとした。


 そのとき、砦が揺れるほどの爆発音が響いた。砦の外で大きな爆発があったようだ。おそらくダイルがオーガロードと戦っているのだろう。ダイルが無事でいるか心配になったが、今は自分の戦いに集中するべきだ。まだ爆発の揺れが続いている。この一瞬がチャンスだ。


 オレは短距離ワープを発動した。ワープ先は魔闘士たちの後ろ。部屋の隅のちょっとしたスペースだ。


 ワープの直後、振り向きざまに司令官と名乗った男を一撃で斬り捨てた。オレの魔力剣は男のバリアはあっさり破り、そのまま男の体を縦に切り裂いたのだ。


 筋力強化と敏捷強化の魔法をユウが掛けてくれているからオレの動きは速い。目で追うのは難しいほどだ。


 残った魔闘士たちも驚きの表情を顔に浮かべただけで、オレに斬られて倒れていった。爆発音とともに、さっきまで部屋の入口に立っていた女が消えて、突然、その女に後ろから斬り付けられたのだ。魔闘士たちは何が起こったのか理解が追い付かないまま死んでいったと思う。ちょっと可哀そうだが、人質になった女性たちの命を救うためには敵を一気に倒すしかない。


 女性たちは自分たちの背後で惨劇が起こっていることに今ごろ気付いて悲鳴を上げ始めた。


 うーん、この女性たちをどうしよう? とりあえず眠らせておこう。


 オレは女性たち全員に眠りの魔法を掛けて、会議机の上に寝かせた。


 それよりもダイルのことが気になる。大丈夫だろうか……。


 探知魔法で探ったが、砦の中に魔闘士はいなかった。敵の魔闘士は全員死んだようだ。普通の人族は百人以上いるが動いていない。全員がダイルの威圧魔法で動けなくなっているようだ。


 ダイルはどこだろ? まさか死んだりしてないよな……。


 念話で呼び掛けたがダイルからの返事は無かった。ダイルは探知偽装しているから探知の魔法にも反応しない。


 オレは急いで正面の城壁まで走り、城壁の上に飛び上がった。そこから村の方角を見ると、砦から600モラほど離れた草地でキノコ雲が立ち昇っているのが見えた。さっきの大爆発はあれだな。


 誰かが砦に向かって走ってくる。ダイルだ。無事だったようだ。オレはダイルに向かって手を振った。


 ………………


 戦いのその後のことを簡単に述べておこう。


 ダイルはオーガロード四頭をすべて倒していた。あの大爆発のときには、ダイルは亜空間シェルターに待避していて無事だったとのことだ。


 この戦いが始まる前にバーサット軍はこの砦で四百人ほどが駐屯していたらしいが、生き残った兵士は百人にも満たなかった。


 バーサット側にこれほど多くの死者が出たのは、ダイルやオレが殺しまくったからではない。アーロ村の魔闘士たちが反撃に出て、逃げるバーサット軍を追撃して皆殺しに近い損害を与えたからだ。


 バーサットの砦に駐屯していた魔闘士や妖魔はすべて死んだ。生き残ったのは普通の兵士たちだけだった。


 ミサキ(コタロー)からのアドバイスで、生き残った兵士たちはオレが暗示を掛けた上でバーサットに送り返した。暗示でアーロ村との戦いの記憶を消したのだ。もちろん、オレやダイルのことも覚えていないはずだ。


『時間を稼げればいいのよ。バーサット側は調査隊を出したり、逃げ戻った兵士たちを調べたりして、情報操作に気が付くはずよ。でも、それには時間が掛かるから、ケイが魔力を高めるための訓練をしたり、アーロ村の防衛力強化を行うくらいの時間は稼げると思うわ』


 それがミサキの考えだった。


 アーロ村から魔闘士たちに来てもらって砦の中を徹底的に調べた。ソウルオーブや軍資金、武具、食料、衣類、生活用品などを見つけて、戦利品として村へ持ち帰った。


 それと、ダイルが重要な情報を見つけてくれた。それは各国の地下にあるダンジョンの最下層マップだ。マップにはワープゾーンの場所が細かく記されていた。


 このマップを見れば、ダンジョン内のワープゾーンを経由して行きたい国のダンジョンの最下層へワープすることができる。ただし、そこから地表へ出るルートは記載されてなかった。おそらくバーサット側もそこまでは調べ切れていないのだろう。


 内部の調査が終わった後、砦は破壊した。それと、バーサットからクドル・インフェルノに通じていたワープゾーンもダイルにお願いして破壊してもらった。


 これでバーサット帝国によるクドル3国への侵攻は難しくなるはずだ。ワープゾーンを破壊したから、バーサット帝国がクドル3国へ侵攻するには魔樹海の中の細い街道を進軍してくるか、魔空船で魔樹海を超えるしかないが、どちらにしても大軍を送り込むことはできないと思われる。そうは言っても油断はできないが……。


 砦にいた人質は大半を救出することができた。この戦いで死んだ人質は五人。生き残ったのは女性が九十二人、3歳くらいまでの小さな子供が十八人、男性が七人だ。


 人質になっていた女性も男性も砦で下働きをするためにバーサットの国内で徴用された流民や奴隷だった。子供たちの父親は砦の士官や兵士で、全員が砦で生まれていた。女性たちは昼間は兵士たちの世話をして、夜は兵士たちの相手を強要されていたらしい。


 ちなみに、この下働きをしていた者たちは全員がアーロ村の住人になることになった。バーサット帝国へ戻るかアーロ村の住人になるかを尋ねたところ、女性も男性も全員が村の住人になることを希望したからだ。


 まぁ、あれだ。オレがアーロ村の人口を増やそうと思って、選択肢をこの二つしか与えなかったのだから、当然の結果ではあるのだが。


 この女性たちが村に来てくれれば女性不足の問題が一気に解決する。下働きの女性たちは全員が十代から三十代前半までの若さだから、村で独身の男たちは大喜びするだろう。


 だが、無条件に誰でも村の住人にするわけにはいかない。一人ひとりに暗示魔法を掛けて取り調べを行ったが、敵対したり悪意を持った者はいなかった。それでも念のために全員にオレの秘密を守るよう暗示を掛けた。それと、全員が従属の首輪をつけていたから従属解除の魔法でその首輪を外した。


 ………………


 村に戻ってからも戦いの後始末が残っていた。戦いで亡くなった村の魔闘士たちの合同葬儀や新たな住人たちの受け入れ儀式などだ。新たな住人たちの大半が若くて美しい女性たちだったから、村の男たちは浮かれていて何日もお祭り騒ぎが続いた。オレたちの小屋に毎晩のように通い続けていた男たちも来なくなった。女性の数が増えたことがこんなところにも影響しているようだ。


 バーサット帝国からの当面の脅威は取り除いた。だが安心してはいられない。おそらくバーサット帝国はまた何かを仕掛けてくるだろう。それが数か月後なのか数年後なのか、まだずっと先のことなのかは分からない。言えるのは、それに備えておくことが必要ということだ。


 少し余裕ができた今がそのチャンスだ。


 村長や長老たちとアーロ村の統治方針を話し合った。まずは、引き続き村の防衛力を高めていくことが重要だ。防壁を整備するようなことだけではなく、魔闘士を増やし続け、一人ひとりの能力やチームとしての戦力を高めていくのだ。しかし、それだけでは殺伐とした村になってしまう。村の住民たちの暮らしをもっと良くすることや、村の特産品である大魔石を地上の国で売って、その代りに食料や衣料品を買い付けること、すべての基盤となる人の育成に力を入れていくことなどを統治方針として決めて、村長と長老たちを中心に村全体で取り組んでいくことにした。


 バーサット帝国やレングラン王国の脅威は村人たちはよく分かっているから、村長や長老たちの指導で上手く動いていくと思う。


 ………………


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

   (バーサットの砦で魔闘士を倒したため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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