SGS150 バーサット砦での戦いその1
――――――― ケイ ―――――――
オレとダイルはバーサットの砦に突入しようとしている。
ここまではダイルと協力し合ってアーロ村に侵攻しようとしていた敵を殲滅した。空から村を攻撃してこようとしたガルーダロードたちはすべて撃ち落としたし、地上から村に迫っていたバーサット軍も上空から爆撃して壊滅させた。だが今はその詳細を思い返している時間は無い。その話は別の機会に譲るとして、まずは砦の内部に突入して、この砦を制圧することに注力するべきだ。
アーロ村へ進軍してきたバーサット軍を壊滅させた今が好機だ。敵が弱体化しているこの機をとらえて、一気に砦を攻撃して破壊するのだ。オレがダイルにその考えを相談すると、彼も賛成してくれた。
探知魔法で調べると、砦に残っている敵の戦力はオーガロードが四頭。それと、人族の魔闘士が十人ほど。あとは普通の兵士が五十人くらいだ。
問題は人質を取られていることだ。人質と言っても、それは砦の中で下働きをしている流民や奴隷たちだ。敵の司令官はその人質を盾にして、オレたちに砦の攻撃を中止して退却するよう脅しを掛けてきた。人質の大半が女性で、中には子供もいる。
念話でその状況を知ったラウラは砦を誘導爆弾で破壊するべきだと言ってきた。人質は敵国側の流民や奴隷たちなのだから気にせずに攻撃しろってことだが、オレにはムリだ。罪の無い者たちをオレの攻撃魔法で殺してしまうなんて寝覚めが悪すぎる。だから遠距離から誘導爆弾で砦を攻撃することは諦めた。
その代りに砦へ突入して、白兵戦で戦うことになった。ダイルがそう言い始めたのだ。たしかに人質の犠牲もそのほうが少なくなるはずだ。ダイルは自分一人で砦に突入するつもりだったようだが、そんなことはさせられない。オレも加わって二人で砦に突入して、中にいる敵を殲滅することになった。
砦の城壁の下まで短距離ワープを使って一気に転移してきた。ダイルも一緒だ。ここに来るまでの間にダイルにお願いして一時的に〈使徒の契約〉を結んだのだ。ダイルがオレの使徒になってくれれば、ワープで一緒に転移することができるからだ。
この戦いでは短距離ワープを駆使した。短距離ワープはオレが編み出したスキルで、自分の目で見える範囲であれば行きたい位置に瞬時に転移することができる。この短距離ワープを使えば瞬時に敵の真後ろに現れて攻撃したり、敵の攻撃から素早く逃げたりできるから、攻撃するのも逃げるのも格段に有利になるのだ。
そういう理由でダイルにも一緒にワープしてもらっているが、この戦いが終わったら〈使徒の契約〉は解消するとダイルには言ってある。
オレたちは砦の城壁のすぐそばへ短距離ワープすると、すぐに亜空間シェルターの中に潜んだ。
亜空間シェルターはダイルが持っているアーティファクトで、いつでもどこでも起動できるらしい。その中に入ってしまえば周りからは見えなくなるし、攻撃を受けることもないそうだ。フィルナやハンナから聞いていたが、超便利なチートアイテムだった。どうしてダイルがそんなアーティファクトを持っているのか尋ねたが、また機会があれば教えると言われた。なんだか誤魔化された気がする。
ともかくオレたちは少しの間だけ亜空間シェルターの中に潜んだ。
それぞれ戦う相手を決めていた。ダイルが相手にするのはオーガロードだ。ミサキ(コタロー)からの情報によるとオーガロードは誘導爆弾の専用魔石を体の中に持っている危険な妖魔で、誘導爆弾を撃ったときの魔力は〈1340〉にもなるそうだ。ダイルはそれを四頭とも自分に任せろと言ってくれた。
正直言ってオレがオーガロード四頭を相手にするのは荷が重い。大魔獣ムカデとの戦いでダイルがオレよりも強いことは分かっていた。だからダイルの申し出に甘えて、その相手をダイルに任せてしまったのだが、本当にそれで良かったのだろうか。
オーガロードが誘導爆弾を放てばその魔力は大魔獣ムカデに匹敵するほどになるだろう。間違いなく危険だ。それを四頭も相手にしてダイルは勝てるのか。心配してもどうしようもないから、ダイルに任せるしかないのだが……。
………………
そして今。亜空間シェルターから出て、ダイルとオレは二手に分かれた。それぞれが砦に突入するのだ。ダイルはオーガロードと戦い、オレが戦うのは人族の魔闘士たちだ。
オレは短距離ワープでダイルから100モラくらい離れた場所へ転移した。そこから城壁を飛び越えて砦の中に入った。
砦の中には石造りの建物が並んでいた。ところどころに兵士や下働きの女たちがいたが、オレが近寄っても蹲って体を震わせているだけだった。ダイルが広域の威圧魔法を放ったらしい。それで兵士たちは戦闘不能な状態に陥っているのだ。普通の兵士たちは全員がソウルオーブを装着してバリアを張っていただろうが、ダイルの圧倒的な魔力に対しては役に立たなかったようだ。
探知魔法で調べると魔闘士七人が砦の中心にある建物の中にいる。それ以外に魔闘士は三人いるが、オーガロードたちがいる方へ走っていったから、そっちはダイルに任せよう。
オレが中心にある建物に向かって歩いていると、男が三人、その建物から出てきた。その中の一人が建物のそばで立ち止ってオレを指さした。その男から何かを指示された男たち二人がオレに向かって走ってきた。三人とも魔闘士で魔力は〈100〉を少し超えたくらいだ。
「見掛けない顔だな。おまえは誰の配下だ?」
「いや、この女は砦の者ではないぞっ。おい、おんな! おまえはどこの誰だ!?」
オレに駆け寄ってきた男たちは二人とも剣を抜いていて、いつでもオレに斬りかかれる体勢だ。
「え? ええと、アーロ村から来たんだけど、名前はちょっと……」
男たちはオレの言葉に唖然としている。
『ケイ! 目の前にいるのは敵だよ!? 敵と話をしてる場合じゃないと思うんだけど……』
ユウが高速思考に切り替えて話しかけてきた。
『質問されたから、ついマジメに答えちゃった……』
『そうよね……。考えてみれば、私たちって人族と面と向かい合って戦った経験がほとんど無いのよね。こういう場合って、どうすればいいのかしら……?』
さっきまではダイルと一緒に戦っていたし、遠距離から魔法で攻撃をしていた。だから自分が人族を殺しているという実感が乏しかった。でも今は、その相手が目の前にいるのだ。
『さっき、ダイルからも言われた。相手は人間で、顔まで見える敵を自分の手で殺すことになるけど、本当にできるのかって』
『でもケイは、大丈夫だって答えてたじゃない。今までも自分の手で人を殺したことはあるからって』
『うん。この闇国へ来たときにバーサットの偵察隊と戦って、捕らえた兵士を三人殺したからね。あのときは吐きそうだった。でも、今は大丈夫。敵と戦うから、ユウ、サポートをよろしく』
『うん、まかせて』
砦に突入する前からユウはバリアを張ってくれている。オレは魔力剣を右手に取り出して、高速思考を解除した。
「お、おまえはっ!?」
「そう。あんたたちの敵だよ」
男の一人がオレに斬り掛かってきた。相手から攻撃を仕掛けられたほうが、こっちも遠慮なく戦える。甘いことは分かっているが。
これまでに魔獣との戦いの中で数えきれないくらい魔力剣を使った接近戦を繰り返してきた。だからスキルを使うまでもなく、敵の動きに合わせて体が自然に反応していく。
男が斬り下げてきた剣をかわしながら魔力剣で相手の胴を払った。「パリン」という音とともに男のバリアが砕けて、その体を分断。男は崩れ落ちるように倒れた。魔力が圧倒的に違うのだ。
もう一人の男はそれを見て逃げ出した。逃がすわけにはいかない。熱線魔法であっさりと倒した。
建物のそばでオレたちの様子を見ていた男は慌てて建物の中に逃げ込んだ。オレも男を追って建物に入り、魔闘士たちの反応がある2階の部屋へ階段を駆け上がった。
探知魔法でその部屋には魔闘士が五人と、それ以外に普通の人族が十人ほどいることが分かっている。その十人はおそらく下働きをしている女性たちだろう。
オレは部屋のドアを開けて中に入った。
「止まれ! そこで止まらなければ、この女たちが死ぬことになるぞ!」
オレは言われたとおり立ち止った。
部屋は10モラ四方……、いや、もう少し広いか。会議室のようだ。部屋の真ん中に大きな会議机がある。その会議机を挟んだ反対側に女性たちが横一列で立たされていた。恐怖のせいかダイルの威圧魔法のせいか、青ざめた顔色で皆一様に震えていた。大半の女性が声を殺して泣いている。
男たちはその女性たちに隠れるように部屋の奥に立っていた。明らかに女性たちを盾にしている。
「卑怯なことはするな! あんたたちはバーサット帝国の軍人なんだろ!?」
「卑怯だと? 私は皇帝から与えられた任務を果たそうとしているだけだ」
「あんたが誰だか知らないけど、か弱い女性たちを人質に取ることがあんたの任務なのか?」
「違う。これはおまえと話をするための手段にすぎぬ。私はバーサット帝国クド方面軍司令官ガイト・キンダル。この砦の最高指揮官だ。私は我が皇帝から命令を受けている。特殊な能力を持った妖魔人を見つけたら味方に付けよとな。おまえは皇帝が捜しておられる妖魔人であろう。異世界から召喚されてきたという特殊な能力を持った妖魔人に違いない」
オレはその言葉に衝撃を受けた。どうしてオレが異世界から召喚されてきたことを知ってるんだ!?
※ 現在のケイの魔力〈841〉。
(バーサットの砦で魔闘士を倒したため、魔力が増加)
※ 現在のユウの魔力〈841〉。
※ 現在のコタローの魔力〈841〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




