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SGS149 ミレイ神、謀を巡らす

 ――――――― ラウラ ―――――――


 こちらに斬り掛かってきた兵士たちだけでなく、林に逃げ込んだ兵士たちも見つけ出して全員殺した。あたしは今、自分の目と探知魔法を使って討ち漏らした敵兵がいないか林の中を確認しながら歩いている。


 あたしがバーサットの魔闘士や兵士たちと戦っている間に、ケイとダイルはアーロ村に迫っていたバーサット軍を撃退していた。ケイとは少し前から念話を繋いだままにしているから、あたしはケイたちの戦況も大雑把に掴んでいたのだ。


 ケイたちは空を飛ぶ魔族どもをことごとく撃ち落とし、地上の敵軍も壊滅状態まで追い込んだらしい。どうやって敵軍を撃退したかは分からないが、ケイとダイルが二人で協力し合ったことは確かなことのようだ。村の方角から聞こえていた爆発音は二人が誘導爆弾の魔法を使って敵軍を撃破する音だったのだろう。


 今はその勢いでバーサットの砦を攻撃して破壊しようとしているらしい。ケイとダイルのたった二人でだ。


 ケイからの念話によると、砦にはバーサット帝国側の魔闘士が十人くらいと兵士が五十人くらい残っているとのことだが、それよりも問題は砦の中にオーガロードが四頭もいることだ。オーガロードは誘導爆弾の魔法を得意とする危険な妖魔だ。


 ケイとダイルも誘導爆弾を使って砦を攻撃しようとしていた。しかし砦には兵士だけでなく女性や子供がいることが分かって、ケイは攻撃を取り止めたらしい。


 なんと、敵の司令官は自分たちがバーサットから連れてきた流民や奴隷たちを人質に取って、ケイたちに退却を要求していると言う。退却しないと人質を殺すと脅していた。いや、脅しただけではない。人質の大半が女性で、司令官はその何人かを見せしめに殺したようだ。


 ケイとダイルはその脅しに屈して、砦から離れようとしていた。念話でその状況を聞いていて、あたしは腹が立ってきた。


『ケイ。砦から遠ざかることなんか無いわ。砦を誘導爆弾で破壊するべきよ! 敵が人質に取ってる女や子供って、バーサットが自国で徴用した流民や奴隷でしょ。自国の流民や奴隷を人質に取るなんて、敵の司令官はバカじゃないの?』


 ケイは優し過ぎる。優しいことは悪いことではないが、敵に対しても優しいのだ。それが原因で自分や味方に害を及ぼしかねないのに。


 でも、ケイが弱い者に対して優しいことは、あたしも今までずっと一緒にいたから分かっていた。そういうケイが好きなんだけど……。


『わたしもラウラみたいに割り切れたら楽なんだけどね。敵の司令官と同じように、わたしもバカだから……』


 ケイにそんなことを言われると、ちょっと悲しい。


『別にケイがバカだとは言ってないわよ。人質になっているのが敵側の流民や奴隷だと分かっても、ケイならそれを見殺しにできないって思っていたけど……。でも、悔しいじゃない! みすみす敵の思う壺にはまっちゃうなんて……』


 結局、遠距離からの誘導爆弾を使った攻撃は行わず、代わりにケイとダイルが砦に突入して白兵戦を行うことになった。そうすれば人質の犠牲も少なくなるはずと考えたのだ。でもその分、ケイたち自身が危険になる。それなら、あたしも……。


『ケイが砦に突入するのなら、あたしも一緒に戦いたい。リリカの花園のほうはもう大丈夫だから。

 こっちはリリカの花園の近くでバーサットの別動隊と遭遇して戦いになったの。魔闘士が十人くらいと兵士が二十人くらいいてね、村の女性たちを襲おうとしてたから全員殺したわ。

 村の女性たちは全員無事だと思う。女性たちとはこれから合流するところよ』


『砦の攻撃はわたしとダイルで大丈夫だから、ラウラには女性たちを村まで送り届けてほしい。村は安全になったけど、村へ戻る道はバーサットの残党が襲ってくるかもしれないから気を付けて』


『分かったけど……。ケイ、無茶しないでね』


 ケイと念話で話をしながら討ち漏らした敵兵がいないか林の中を確認したが、大丈夫なようだ。


 林から出て、あたしは丘へ向かって歩き始めた。丘の上にはミーナや村の女性たちがいて、こちらを見ていた。ミーナのほかに女性たちが十人いるから全員が無事なようだ。


 女性たちの中に子供が一人いて、あたしに手を振っている。なんとケビンだ。あたしの言い付けに背いて、あの子はこっそりリリカの花園にやってきたのだろう。後でこってり説教とお仕置きをしてあげよう。


 ………………


 丘の上に着くとケビンが走り寄って来て、あたしに抱き付いた。


「ラウラ姉、すげぇナ。バーサットの兵士たちをバタバタ倒したのをずっと見てたゾ。おれっちも魔闘士になったらラウラ姉やケイ姉みたいに強くなりてぇ。ラウラ姉よぉ、おれっちに戦い方を教えておくれヨ。なぁ、いいだろ?」


 ケビンは甘えるように言った。あたしに抱き付いたままだ。


「何を言ってんのよ、ケビン! あんたはまた言い付けを守らないで、こんな危ないところまで来たくせに。それを誤魔化そうとしてるんでしょ! それに、あんた、どこに顔を埋めてんのよ!」


「いいじゃねぇか! 減るもんじゃねぇし。柔らけぇ……」


 ケビンがあたしの胸から離れない。近くで見ていたミーナがつかつかと歩み寄って来て、ケビンの頭をパカンと叩いた。


「こらっ、ケビン! あんたは、またどさくさに紛れてっ! ラウラさんに謝りなっ!」


「いてててっ……」


 ミーナがケビンの耳を引っ張って引き離してくれた。


「ミーナ、もういいわ。それより、早く村へ戻りましょ」


「でも、村は攻撃を受けてるヨ?」


 年長の女性が聞いてきた。あたしはケイから聞いた戦況を簡単に説明して、村はもう安全だと言うと、女性たちは皆一様に安堵したような顔になった。


「じゃあ、一緒に帰ろ。ナ! ラウラ姉よぉ。ケイ姉たちが待ってるゾ」


 そう言いながらケビンはあたしの手を握ってきた。あたしを見上げてにっこり笑う顔を見たら、こっちまで微笑んでしまう。ホントに憎めない子だ。 



 ――――――― ミレイ神 ―――――――


 アーロ村に攻め込もうとしたバーサット軍があっさり負けてしまった……。


 私は偵察に出した使徒たちから念話で戦況の報告を受けていた。私が今いるのはバーサットの砦とはアーロ村を挟んで反対側だ。村からは4ギモラほど離れている。ここまで飛行魔法で飛んで来て、垂直に切り立った岩壁にちょっとしたテラスを見つけた。地上からは高さ500モラほどの位置だ。ここなら発見される虞は無いし、遠視魔法を使えばアーロ村に攻め込むバーサット軍や村の様子がよく見える。きっと攻防戦を楽しめるだろう。


 しかしその期待は完全に外れてしまった。使徒からの報告によると、バーサット側の妖魔や魔物たちが遥か上空から群れをなして飛んで来てアーロ村を攻撃しようとした。だが、村のずっと手前ですべて撃ち落とされてしまったらしい。空中の妖魔や魔物たちを撃ち落としたのは村から単騎で出撃してきた者だそうだ。


 地上を進軍していたバーサット軍もその者から誘導爆弾を次々と撃ち込まれて壊滅状態になったようだ。


 バーサット軍の完敗だった。おそらくアーロ村から単騎で出撃したのは守護神と呼ばれているアロイスに違いない。まさかこれほどまでに強いとは……。


 ケイはアロイスと組んでいったい何を企んでいるのだろう? 気に掛かる……。


 副官のニドもケイの暗殺に失敗したと言っていたし、バーサット軍を使ってアーロ村を攻め落とし、同時にケイも抹殺するという作戦も失敗してしまった。


 だが、まぁ良い。私が立てた作戦でバーサット軍を壊滅状態にまで追い込んだのだ。これでレングランはしばらくの間は安泰だ。レング神様やジルダ神様も今度の成果はお喜びになるだろう。


 できればこの戦いでケイも殺してしまいたかったが……。だが、まだ悲観することは無い。バーサット軍が負けた場合に備えて第二の策を用意してある。サレジにケイを始末させるのだ。そのためにサレジには暗示を掛けてあるし、ケイを上回るほどの魔力も与えた。きっと上手くいくはずだ。


「くそっ! ラウラのやつ、いつの間にあんなに強くなりやがったんだ?」


 声を出したのは隣にいるサレジだ。私は飛行魔法でこの男と副官のニドをテラスまで運んで来ていた。第二の策について詳細な指示を与えるためだ。サレジには私と会ったことをすべて忘れるように暗示で仕込んである。


「どうしたの?」


「あれを見てくれ」


 サレジが指さしたのは真下に見える丘だ。遠視の魔法で見ると、丘の上に女たちが立っていて同じ方向を眺めていた。その視線の先には女が一人いた。林の中から出て来て、丘を登ろうとしている。丘の中腹辺りにはバーサット兵たちの死体が点々と転がっていた。


「あの女がラウラだ。おれの従者で優秀なハンターだったが、ケイに誑かされてな。色々あって、罪人としてケイと一緒にこの闇国へ流されてきたんだ」


「あのバーサット兵たちはそのラウラとかいう女一人に殺されたの?」


「そうだ。あんたが村の方を見ている間、おれはずっとラウラがバーサットの兵士たちと戦う様子を見ていたんだ。林の中に逃げ込んだ兵士たちもいたが、ラウラが皆殺しにしてしまったようだ」


 サレジが腹立たし気に言うと、ニドが横から言葉を挟んできた。


「おれもラウラを知ってますが、闇国へ流される前は普通の一般人でした。おそらくこの闇国でケイに手伝ってもらってロードナイトになったのでしょうね」


「くそっ! おれの女だったのに生意気に強くなりやがって!」


 サレジは顔を歪めている。自分の従者だった女が驚くほど強くなっていることが気に入らないらしい。


 私がこのテラスに降り立ったのは30分ほど前だ。そのときには十人ほどの女たちが丘の中腹で花を摘んでいた。麓の林には三十人ほどのバーサット兵たちが潜んでいることも分かっていた。おそらくバーサットの別動隊だろうが、どうせ雑魚どもだ。私はアーロ村に攻め込もうとしている本隊の方が気になって、別動隊のことは気にもしなかった。


 私がアーロ村に気を取られている間にラウラという女がバーサットの別動隊と戦って皆殺しにしたということのようだ。探知魔法で見るとラウラの魔力は〈1〉だ。たぶんケイの使徒になっているからそう見えるのだ。実際の魔力は〈500〉を越えているのだろう。


 私がラウラの様子を見ていると、バーサットの砦を監視していた使徒から念話で連絡が入ってきた。


『ミレイ神様。砦が攻撃を受けています。砦に何者かが侵入して内部で戦いが行われている模様です。先ほど、その侵入者の一人がオーガロード二頭を追って砦から出て来ました。オーガロードを追っていたのは豹族の男です。砦の外でオーガロード二頭と豹族との戦いになり、大きな爆発が起こりました。オーガロードが豹族の男に向けて誘導爆弾を撃ち込んだのですが……』


『それなら、豹族の男は死体が分らないほどバラバラになったわね?』


 オーガロードは誘導爆弾の専用魔石を体内に持っている。オーガロードが撃ち放つ誘導爆弾の魔力は〈1000〉を大きく越える。それが直撃すれば、私のバリアでも耐えられないだろう。それほど危険な妖魔なのだ。


『いえ、それが……。豹族の男はオーガロードの誘導爆弾の直撃を受けたはずですが、無傷のようでして……。オーガロードを二頭とも倒してしまいました』


『そんな……』


 そんな馬鹿なことが起こるはずはない。だが、実際にそれが起こったのだ。


 その豹族の男というのは大魔獣ムカデとの戦いでケイを助けたあのダイルとかいう名の魔闘士に違いない。


 オーガロードが放った誘導爆弾の直撃を受けて無傷だということは、そのダイルという魔闘士の魔力は〈1000〉を大きく超えているのかもしれない。


 以前に聞いた話では、ダイルはケイの護衛ということだった。ケイを殺そうとしたらダイルが邪魔をするだろう。とすれば厄介だ。どうしようか……。第二の策を補強して、ダイルにはケイと一緒に消えてもらうしかないわね。


 でもその前に……、私はケイのことをもっと知りたくなってきた。ケイは闇国へ来て僅か数か月という短い間に、アロイスというバケモノだけでなくダイルという超人も味方に付けてしまった。きっと何か大きな秘密があるに違いない。できればケイを殺す前にその秘密を探り、何を企んでいるのか知りたいものだ。あたしが利用できるかもしれないから……。


 第二の策をどうやって補強するかを考えながらテラスから下を覗くと、ラウラが丘の上に着いたところだった。すると、どこからか男の子が現れてラウラに抱き付いたのが見えた。


「あの子は?」


 私が呟くと、それに答えたのは副官のニドだ。


「アーロ村の子供です。元気のいい子ですよ」


 遠視魔法では遠方の会話も聞き取れる。ラウラたちの会話を聞いていると、子供の名前が分かった。ケビンという名前らしい。


「あの子はラウラという女だけでなく、ケイとも親しいみたいだわねぇ……」


 ニドに問い掛けたというよりも、考えていることがつい口に出てしまった。


 そんなことより第二の策をどうやって補強しようか……。男の子が馴れ馴れしくラウラに抱き付くのを眺めながらはかりごとを巡らせていく――。


 そうだわ! 良いことを思い付いた。この作戦ならケイとダイルを……。ふふふふっ……。


 ケイ。あなたは今、ダイルやアーロ村の魔闘士たちを使って気分良くバーサットの砦で戦っているのでしょうね。それでいいの。レングランの代わりにどんどん戦って、バーサットの砦を壊滅させるのよ。それがあなたの役目だから。


 でも、いい気になって戦えるのは今だけよ。役目を果たして、私に秘密を話し終わったら、あなたにはこの地の底で静かに死んでもらうわ。恨むならサレジを恨みなさいね……。


 ※ 現在のケイの魔力〈838〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈838〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈838〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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