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SGS148 ラウラ対バーサット分隊

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 相手の兵士たちの中に魔闘士が十人もいるのだから、ミーナが不安になるのも分かる。だけど、あたしは自分の役割を果たさなきゃいけない。


「大丈夫だって。あたしはこれでも15年近くハンターをやってたし、盗賊や敵兵を何人も殺してるからね」


 口ではそう言ったが、ホントはあたしも自信が無い。でも魔力が格段に高まってるし、短い呪文だけで魔法を発動できるようになっている。以前に比べたら圧倒的にあたしは強くなってるのだ。


 あたしたちが動き出そうとしたとき、探知に反応があった。先に相手が動き始めたようだ。


「ちょっと待って! 十人ほどが丘のこちら側へ回り込もうとしているみたい。村の女性たちの退路を断って、捕らえようとしているんだと思う。こちらに向かってくるのは魔闘士が五人と兵士が五人よ」


「どうすンの?」


 不安そうにミーナが聞いてきた。


「ここで待つのよ。相手が丘を回り込んで、こっちを見つけるまでね」


 その十人がこちら側に来たら丘に遮られて本隊へは念話で連絡することはできなくなる。見つけられたとしても、その十人を相手にすればいいのだ。


 相手の分隊がこちら側に回り込んでくるのに数分は掛かりそうだ。待っている間は、相手の本体も動かないだろう。あたしはケイに念話で連絡を入れることにした。


『ケイ、聞こえる?』


『リリカの花園に着いた?』


『そのちょっと手前にいるんだけど……』


 あたしはケイに状況を報告した。


『助けに行きたいけど……。今はダイルと……、なんて言えばいいんだか分らないけど……、合体してて離れられない状態なんだ』


『ええっ!? ダイルと合体? この緊急時に何をやってんのよっ!』


『ラウラ、それは誤解だって。変な意味の合体じゃなくて、その……』


『もういいわよ! 今は時間が無いから。また、いつか聞かせてもらうからねっ! とにかく、こっちは何とかするから、ケイ、あなたの方も気を付けて』


『分かった。でも、ダイルの毛がお尻に食い込んで気持ちが悪くて……』


 あたしは呆れて強制的に念話を切った。命懸けの戦いが始まろうとしてるのに、ケイとダイルは何をやってるんだろう?


 それから一分も経たないうちに分隊の兵士たちが姿を現わした。あの革の鎧は見たことがある。バーサット軍の鎧だ。距離は200モラほど。こちらを見つけて走り寄ってきた。兵士の五人は100モラほど離れたところで立ち止ったが、魔闘士の五人はすぐそばまで来た。全員が男で、あたしたちを取り囲んだ。


「おいっ! おまえたちはアーロ村の者だな?」


 魔闘士の一人がミーナに向かって問い掛けた。


 相手も探知魔法でこっちを探っているはずだ。向こうからはミーナは魔力〈180〉の魔闘士で、あたしは使徒だから魔力〈1〉の一般人に見えているだろう。ちなみに相手の魔力は最大の者が〈220〉だ。


「そうだよぉ。あんたらはバーサットの兵士だネ? それ以上近寄らないでおくれヨっ! 近寄ると殺すからナ!」


 顔を強張らせながらミーナが言い返した。


「近寄るなだと? 近寄るどころか、たっぷりと触ってやるぜ。今からおまえたちを捕らえて体を調べるからなあ。若い女は捕らえて、それが魔闘士ならロードオーブを破壊しろいう命令を受けている。おとなしく降伏しろ!」


 一番図体がでかい男が低い声でそう言うと、その隣にいる男がニヤニヤしながら口を開いた。


「伍長。早くこの女たちを裸に剥いて楽しみましょうぜ。おれはこっちの……」


 ミーナは最後まで聞かずに呪文を唱え始めた。魔力剣を出して攻撃するつもりのようだ。


「この女のバリアを破壊しろ!」


 伍長と呼ばれていた男が命じると、男たちはミーナの方に手を向けた。バリア破壊の魔法だ。こちらに走ってくる間に発動し終わっていて、魔法を地面に垂れ流していたらしい。


 今のままでは、あっという間にミーナのバリアは破れてしまうだろう。遠くでその様子を見ていたバーサットの兵士たち五人も大丈夫と判断したのか、こちらに向かって走ってくるのが見えた。


 だけど安心するのは早いよ。あたしがいるからね。


 左足を踏み出す。一瞬で加速。既に筋力強化と敏捷強化、そして活性化の魔法を自分に掛けてある。周りの動きがゆっくりに見える。電撃剣を亜空間バッグから取り出す。空中に現れた電撃剣を右手で軽く掴み、振り被る。


 狙いは正面の魔闘士。相手の顔が驚愕で歪む。一気に振り下ろした。



 ――――――― ケビン ―――――――


 ラウラ姉は相変わらずおれっちにうるさく言う。完全にガキ扱いだぁ。面白そうだからリリカの花園に連れてけと言ったけどナ、どうせダメだと言われるのは分かってたサ。


 だからヨ、おれっちは走って丘まで来たのサ。ラウラ姉よりも早く着いたはずだぁ。なにしろおれっちの脚は速いし、裏道を知ってるからナ。


 丘の上まで登ると花園が見えてきたぁ。村の姉ちゃんたちが花を摘んでるのが見えたからよぉ、おれっちは駆け下りていったンだ。そうしたらナ、姉ちゃんたちが気付いて、おれっちに声を掛けてきたぁ。


「こらぁっ! ケビン! 今日は女衆だけで花を摘みに来たんだから、あんたはここに来たらダメだぁっ! 早く帰りなっ!」


「違うって! おれっちは知らせに来たンだぁ。バーサットの兵士たちが村に押し寄せてくるんだってヨ! 兵士たちが来る前に早く村に戻って来いって! 村長さんからの命令だゾぉ」


「ホントなのっ!? ケビン、あんたはまた女衆を騙して面白がるつもりだねっ!? その話がホントなら、あんたみたいな子供を使いに寄こすはずがないでしょっ!」


 女衆はみんな、おれっちを子供だとバカにしやがる!


「おれっちの話を信じねぇなら、後で後悔して泣くことになるからナ!」


「うるさい子だねぇ。ほれ、もう帰りな!」


 一番年上の姉ちゃんがおれっちを追い払うようにシッシッと手を振った。


 くそっ! 後で泣いても知らねぇゾ!


 おれっちは丘の上までトボトボと歩いて引き返してきた。そうしたらヨ、丘の反対側でミーナ姉とラウラ姉が男たちと戦ってるのが見えたんだ。おれっちはすぐに体を伏せて戦いの様子を眺めることにしたぁ。こんな面白い見物はねぇゾ。ミーナ姉やラウラ姉がバーサットの兵士たちに負けるはずがねぇからナ。


 男たち五人がミーナ姉に向けて一斉に魔法を放ったみたいだ。バリア破壊の魔法かぁ!? あいつらが魔闘士だとしたらヨ、ミーナ姉が危ねぇゾ!


 ミーナ姉の透明だったバリアが白っぽくなり始めたっ! ホントに危ねぇっ!


 と思ったら、ラウラ姉が動いた! 速いっ! 動きが見えねぇっ! 右手に持った剣で男をバリアごと真っ二つに斬り裂いたゾ。隣の男も一撃で斬り倒しちまった。


 そのとき、遠くから大きな音が響いてきた。何かが爆発したのかぁっ!? 体の芯まで揺さ振られるような音で、これにはおれっちもぶったまげたぁ。


「グゥァァーン! グゥァァーン! グゥァァーン! ……」


 村の方からだ。バーサットとの戦いが始まったに違いねぇ。きっとケイ姉やダイル兄たちが空を飛ぶ魔族どもと戦ってるンだ。村の方角に目を凝らしたけどナ、霞んじまって何にも見えねぇ。


 おれっちが村の方に目を向けてる間に、ラウラ姉は周りにいた五人の男たち全員を倒しちまった。


 遅れて駆け寄って来ていた兵士たちが五人いたけどナ、さっきの戦いを見て全員が逃げ始めたゾ。ざまぁ見ろってンだぁ!


 ラウラ姉はミーナ姉に何か言って、兵士たちを追いかけ始めた。すぐに追い付いて次々と斬り倒しちまったぁ。


 あっ! ミーナ姉がおれっちの方に駆けてきた。見つかっちまったゾ。


「こらぁっ! ケビン! あんた、こんなところで何やってんの!」


 いきなり頭に拳固を食らわせて来やがった。


「グガァーン! グガァーン! グガァーン! ……」


 姉ちゃんに殴られて頭がガンガン鳴ってるのか!?


 違うゾ! また、村の方角から爆発音だぁ。


 おれっちは村の方を見たけど、やっぱり何も見えねぇ。


 ミーナ姉はおれっちの後ろの方に向かって、何かを叫んだ。


「あんたたち、もっと速く走って! 後ろから敵が迫ってるンだよ!」


 後ろから敵だとぉ!? 振り返って見るとヨ、村の女衆が丘を必死に駆け上がって来てる。さっきの爆発音を聞いてヤバイと思ったンだナ。おれっちの話を信じねぇからヨ、こんなことになるんだゾ!


 そのずっと後ろから追い掛けてくるのがバーサットの兵士たちだぁ。麓の林から出てきたみたいだナ。二十人くらいが剣を振り上げてこっちに向かって走ってくるゾ。


「ミーナ姉よぉ。敵が追っ掛けてくるゾ。どうするンだぁ!?」


 おれっちが叫んだのと同時にラウラ姉の姿が見えたぁ。敵に向かって剣を振りかざして駆けていくゾ。ラウラ姉は丘の中腹から回り込んだらしいナ。


 先頭を走ってくる敵と擦れ違った。二番手とも擦れ違っただけに見えた。だけど、なんだか変だゾ。擦れ違ったヤツらが何歩か進んで足を止めた。あっ! 倒れたぁ。擦れ違ったヤツらが次々と倒れていくぞっ!


 すげぇっ! ラウラ姉、すげぇぞっ! あっという間に敵の五人を倒した。


 敵の兵士たちはラウラ姉の強さに気が付いたみてぇだ。ラウラ姉から離れていく。逃げるのかぁ!?


 いや。敵の一番後ろにいたヤツが足を止めてラウラ姉に右腕を向けたゾ。


 あっ! ラウラ姉の胸の辺りが光り始めたぁ。あれはラウラ姉のバリアに何かが当たって光ってるに違いねぇ。熱線の魔法かぁ!?


 だけどヨ、ラウラ姉のバリアは透明のままだから大丈夫みたいだナ。


 ラウラ姉も立ち止って、そいつに右腕を向けたゾ。反撃するのかぁ?


 おおっ! すげぇーっ! そいつが10モラくらいぶっ飛んだ。倒れ込んだまま動かねぇ。体から黒い煙を上げてるゾ。ラウラ姉の熱線魔法が胸か腹に当たったみたいだナ。


 敵の兵士たちが逃げ始めたぁ。ラウラ姉が強いから怖くなったンだナ。だけどヨ、ラウラ姉がそれを見逃すはずがねぇ。熱線魔法で狙い撃ちされて、兵士たちがバタバタと倒れていく。


 ラウラ姉は大魔獣ムカデに熱線魔法で挑んだ狙撃の名手だぁ。バーサットの魔闘士や兵士なんぞ屁でもねぇ。


 生き残った何人かの兵士たちが林の中に逃げ込んだゾ。ラウラ姉もそれをすごい速さで追い掛けて林の中に入っていった。


 おれっちがラウラ姉の戦いに見とれているうちに、村の女衆も丘の上まで登り着いてた。ラウラ姉の戦いを見て歓声を上げてやがる。いい気なもんだナ。


 ※ 現在のケイの魔力〈838〉。

   (バーサット軍本隊の魔闘士や妖魔を多数倒したため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈838〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈838〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


 このエピソードの中にダイルと合体の話が出てきましたが、何があったのかはまた別の機会に書きたいと思います。思わせぶりな話ですみません。笑


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