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SGS145 この世界での目・耳・手足を得る

 診察室に入るとガリードとその娘のルーナはベッドを囲んでアドルと楽しそうに話をしていた。ティーナも母親のマリーザのベッドに寄り添って話をしている。


 アドルもマリーザも顔色は良くて、順調に回復しているようだ。検診の魔法で調べると二人とも手術の傷は完全に塞がっていた。


 カーラ魔医とクレナ魔医がオレたちに気付いて駆け寄ってきた。


「問題なさそうね」


 ハンナが声を掛けると、二人とも嬉しそうに微笑んで頷いた。


「先生たちのおかげです」


 アドルとマリーザはオレたちが誰だか分からずにキョトンとした顔をしていた。だがそれぞれ自分の家族から説明を受けて、感謝の言葉を口にした。


 ハンナが記念にこの場の幸せな感じを描きたいと言い出したので、アドルとマリーザが寝ているベッドを部屋の中央に移して、その周りをみんなで取り囲んだ。


「はーい、笑ってーっ!」


 ハンナが呼び掛けると、みんなはぎこちなく微笑んだ。まるで集合写真を撮ってるような感じだな。


 ハンナはさらさらと絵を描き上げていく。オレはその間にガリードに声を掛けて、昨日約束していた依頼内容の相談をすることにした。


 カーラ魔医に断って空いている病室を借りて、ガリードと二人きりになった。


「それで? おれたちの兵団に頼みたいこととは何だ?」


 オレはガリードの人となりを知り、昨日から考えていたことがある。それは、ガリード兵団を自分の目や耳、手足にしたいということだ。敵から身を守るためには、まず敵を知らねばならない。


「ガリード兵団に諜報活動と人の捜索をお願いしたいと考えています」


 その言葉にガリードはジロリとオレを見た。


「諜報活動?」


「わたしが依頼することを調べて報告してほしいのです。調査は極秘に行うこと、特にわたしの名前を出さないことが肝心です」


「もっと具体的に言ってくれ。誰を調べて、誰を捜索しろと言うのだ?」


「調べる相手はレングラン王国とバーサット帝国です。捜索する相手は行方不明になっているわたしの子供です。それと、バドゥでわたしを殺そうとした犯人を捜し出してください」


「子供と犯人を捜すのは分かるが、調査する相手がレングラン王国とバーサット帝国だと言うのか!? いったいその国の何を調べるんだ?」


「それを話すためにはわたしの秘密を話さなければいけません。あなたは誠実な方だと思います。でも、申し訳ないですが、あなたを完全に信用して良いか分かりません。それで、あなたがここで聞いたことを絶対に漏らさない保証がほしいのです。そのために、あなたに命じます。わたしの秘密を絶対に漏らさないこと。いいですね?」


 ガリードは返事をしないで不満そうな顔をしている。


「念のために言っておきますが、昨日あなたに掛けた暗示魔法はずっと有効ですよ。だから、あなたはわたしの命令には逆らえません。それで、返事は?」


 暗示のことを思い出したのか、ガリードは顔を強張らせて声を絞り出した。


「わ、分かった。あんたの秘密は絶対に守ると誓う」


 誠実そうなガリードに暗示魔法で強制するのは気が引けるが仕方ない。


 オレは自分の身の上を語った。ガリードとは長い付き合いになると思うから、オレのことは知っておいてもらった方が良い。


 オレが異世界から召喚されてウィンキアに来たことや、神族と同じ能力を持っていること、召喚されたときに自分の意識や記憶が書き換えられていて、レングランで結婚して子供を産んで普通の女性として暮らしていたこと、最近になって本来の意識と記憶を取り戻したことなどを語った。


 さらにレングランで暮らしていたときのことや、奴隷に落とされた経緯、闇国でのことも詳しく語った。家が盗賊に襲われて子供が拉致されてしまったことや、奴隷のときに一緒にゴブリンの国へ行ってテイナ姫と親しくなったこと、闇国に流された話とアーロ村の支配者となったこと、バーサット帝国が魔族と手を組んでクドル3国やアーロ村を侵略しようと狙っていることなどだ。そういうことを掻い摘んでガリードに話した。


「まるで、絵空事の物語りのようだが……。それに、神族と同じ能力を持っていると言ったが本当なのか?」


 オレは頷いて、部屋の中で何度か短距離ワープをして見せた。


「ワープだけじゃないですよ。あなたが患ってる体の不調も全部治せます」


 そう言いながらガリードの体にヒール魔法を掛けた。


「どうです? 例えば、こんなことをしても……」


 オレは指先を自分の目のすぐそばに近付けて見せた。


「今までは霞んで見えなかったでしょ? でも今は、はっきり見えるようになったはずです」


「たしかに……。近くの物が見えにくかったのが治ってるな」


 ガリードはオレを真似て自分の指先を目の前に近付けて見つめている。


「肩も楽になった?」


「言われたら確かにそうだな。肩が凝っていたが軽くなった気がする……」


 ヒールを掛ける前に検診魔法で調べたから、ガリードが老眼であり、血行不良が原因で肩も酷く凝っていることが分かっていた。加齢による体の不調は普通のキュア魔法では治らない。だが、コタローから教えてもらって、オレが使う神族のヒール魔法なら完全ではないがある程度治療できることが分かっていたのだ。


「たしかに、あんたは神族だ」


 ガリードはそう言いながら、床に手を突いてひれ伏そうとした。オレはそれを押し止めた。


「そういうことは止めてください。わたしに対する態度や言葉遣いも今までと同じにしてください。いいですね?」


 オレの言葉にガリードは頷いた。


「では話を戻して、あなたに依頼したいことをお話しします。さっきも言ったように、ガリード兵団にはわたしの目や耳、手足となって継続的に諜報活動を行ってもらいたいのです。具体的には……」


 オレはガリードにレングラン王国とバーサット帝国についての具体的な調査内容と、盗賊に拉致されて行方不明になっているセリナの捜索について説明した。オレを暗殺しようとした犯人については、現場周辺の目撃者捜しとバドゥの線から追ってもらうしかないだろう。


 オレがガリードに依頼したいのは諜報活動と捜索だけではない。


「実はもう一つお願いしたいことがあります」


 オレの言葉にガリードは早く続きを言えというような顔をした。


「あなたにはこの診療所への出資と支援をお願いしたいのです。出資するお金はすべてわたしがあなたに差し上げます。わたしの代わりにあなたが出資したことにしてほしいのです」


「この診療所に出資? どうしてそんなことをするんだ?」


 オレは昨日の帰り道でハンナたちと話し合ったことを説明した。この診療所に助けを求める人たちが大勢来ると予想されるが、今の二人の魔医だけでは対応しきれないことは目に見えている。だから、魔医や看護師の増強と育成、診療所の増築、術式の研究などを早急に進めることが必要だ。それには費用と人材が要る。


 自分と関わりが無いことは放っておくのがオレの基本姿勢だ。だが、この診療所とあの二人の魔医とは関わりを持ってしまった。めんどくさいことに首を突っ込むのはイヤだが、自分が関わったことを無責任に放置するのはもっとイヤだ。それで、この診療所と魔医たちが困らないように、どうやって手助けをするか、それを昨夜みんなと話し合ったのだ。


「そう言うことで、ぜひガリードさんに出資者となってほしいと思います。重い病に罹ったり怪我をしたりした人たちがこの診療所で安心して治療ができるようになれば良いと、わたしはそう思ってます。この診療所がそういう拠点となるように、あなたに出資者となってもらって、これから先も支援者としてこの診療所を支えてあげてほしいのです」


「なぜ、おれなのだ? あんたが出資者になればいいんじゃないのか?」


「さっきも言いましたが、わたしは神族です。表に出ることができません。だから、わたしの代わりにあなたに表に出てもらって、出資者と支援者という役割をお願いしたいのです。

 あなたを選んだのは、ガリード兵団という基盤を持っていることと、ご子息の治療を通してあなた自身がこの診療所や新しい術式に理解があること、そして、あなたが誠実だと考えたからです。ガリードさん、この診療所の支援と育成を委ねるのにあなたは相応しい方だと思います」


「ほう……。それで、あんたは何をするんだ?」


「わたしや仲間は裏であなたとこの診療所を支えます。もちろん必要な資金は出します。身勝手な依頼であることは分かっていますが、ぜひお願いします」


 オレは頭を下げた。ガリードは暫くの間、目を閉じて考えていた。


「分かった。おれは承知するしかない。どうせ断れないのだ。もし断ったとしても命令されるだけだろうしな」


「いえ、無理強いはしません。もし受けてもらえないのなら、ガリード兵団に代わる別の組織を探すまでです。ただし、ここでわたしが話したことはすべて忘れてもらいますけど」


 オレの言葉を聞いて、ガリードはニヤリと笑った。


「おれはあんたが嫌いじゃないし、神族の友人を一人くらい持つのも面白い。それにガリード兵団は諜報も捜索もお手の物だし、おれも息子もこの診療所には世話になってる。あんたの思いどおりになるのは気に入らんが、すべて引き受けよう。ただし、金は掛かるぞ」


「ありがとうございます」


 オレはガリードにもう一度頭を下げて礼を言った。


「諜報と捜索に必要な金額を言ってください。それと、出資に必要な金額も」


「そうだな……。とりあえず、諜報と捜索で……」


 ガリードとの話し合いで、まず着手金を支払うことになった。これからの活動内容に応じて資金はどんどん必要になっていくだろう。だから、その都度、必要となる資金を話し合い、オレが支払っていくことで合意した。


「じゃあ、まず着手金ということで、これだけ渡しておきますね。足りなくなりそうなときは遠慮なく家の方に連絡をください」


 オレはそう言って、大魔石がぎっしりと詰め込まれた大きな革袋を異空間ソウルから取り出してガリードに渡した。予め用意しておいたものだ。


 ガリードはその中を確認してにっこり微笑んだ。取引きは成立した。オレはこの世界での目・耳・手足を得たのだった。


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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