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SGS144 ガリード兵団との取引き

 オレはカーラ魔医に了解をもらって、病室で待っているガリードたちを迎えに行った。病室に入っていくと、二人は不安げな顔で立ち上がり、オレに目で問い掛けてきた。


「成功したよ。診察室に入って良いって。アドルさんはまだ眠ってるけどね」


 オレがそう言うと、ガリードたちは急いで診察室に駆けて行った。


 診察室に戻ると、ガリードとその部下の女性がベッドで眠るアドルを覗き込んでいた。


「アドル……。助かって良かった……」


 ガリードが泣いてる!? そんなに部下思いの男だったのか……。


「ええ。本当に……。お兄様が死んじゃうなんて考えられないもの……」


 えっ!? この女性はアドルの妹だったのか? その女性は顔をガリードの方に向けた。


「お父様。もうお兄様にムリはさせないでね」


「ああ、分かってる」


 ええっ!? この二人は親子か? そうすると……、アドルもガリードの息子ってことだよな。


 こっそりカーラ魔医に尋ねると、「知らなかったのですか?」と言われてしまった。アドルたちがガリードの部下だと思い込んでいたのは、完全にオレの早とちりだった。ちなみにガリードの娘の名前はルーナだそうだ。


 ハンナはカーラ魔医たちと相談して1時間後にマリーザの手術を始めることにした。ただし、今度はカーラ魔医が治療を行い、クレナ魔医が助手に付く。ハンナとフィルナ、それとオレは万一のときに備えてそばで立ち会うだけだ。ラウラには家具などの受け取りがあるので先に家に戻ってもらった。


 その1時間を利用して、カーラ魔医とクレナ魔医はキュア魔法や念力魔法の操作訓練を続けた。祝福を受けた後だと言っても、1時間では大きな効果は期待できないが、それでも魔力操作は確実に上手くなるはずだ。


 ハンナはその1時間でガリードたちに治療の結果や手術後の療養について説明を行った。ガリードたちはその説明に納得し、再び病室に戻っていった。マリーザの手術が終わるまでは病室で待機して、アドルが目覚めるのを待つつもりのようだ。


 そして1時間が経過し、マリーザの手術が始まった。ここには結果だけを書いておこう。


 マリーザの手術は無事に成功した。血管を傷付けるなどの小さな失敗はあったが、カーラ魔医は落ち着いてキュア魔法ですぐに止血したし、クレナ魔医は吸い上げの魔法で内臓に溜まった血液を外に排出した。小さな失敗を自分たちで対処したことは貴重な経験になったはずだ。


 腸に開いた穴は内臓に直接キュア魔法を照射してもすぐには塞がらない。コタローによると、カーラ魔医の魔力であれば塞がるまで1日くらいは掛かるらしい。その間は、マリーザをずっと眠らせたままで、閉腹した体の外から時々キュア魔法を照射して治療を続けねばならない。


 先に手術したアドルも同じように術後のケアが必要だ。だから、完治するまでの数日間はアドルもマリーザも一緒にこの診察室で治療を続けることになる。


 マリーザが手術している間、娘のティーナは魔法で眠らされていた。手術が終わってから目覚めさせて、母親の手術が成功したことをカーラ魔医が告げた。


 ティーナはベッドから出て、母親のマリーザのところに駆け寄った。


「お母さん……、助かって本当に良かった……」


 眠っている母親の手を握って、ティーナは大粒の涙を零した。マリーザの顔色は運び込まれたときよりもずっと良くなっている。カーラ魔医の治療が効果を現わして来ているということだ。


 ガリードと娘のルーナも再び診察室に入って来て、ベッドに寄り添ってアドルが目覚めるのを待っている。


 そろそろオレたちは診療所から出てもいいだろう。


「じゃあ、わたしたちは帰るね。また明日の今ごろ様子を見にくるけど、万一、容体が悪化するようなことがあったら遠慮なく連絡して。数日はこのダールムの家にいるから。ええと、家の場所はガリードさんの本拠地のすぐ隣だよ」


 オレがそう言うと、カーラ魔医やクレナ魔医が駆け寄ってきた。


「本当にありがとうございました。今までは助けることができなかった患者も、この術式で救うことができそうです」


 カーラ魔医がそう言うとクレナ魔医も頷いた。ハンナは二人から尊敬の眼差しで見つめられて、微笑みながら口を開いた。


「そうね。でも、色々な病状や怪我を自分たちで想定して、この術式の応用を研究しないとダメよ。それと訓練を忘れないようにね」


 ハンナはすっかりカーラ魔医とクレナ魔医の師匠のようになっている。


 オレたちが診療所を出ようとしたところでガリードに呼び止められた。


「待ってくれ、ケイさん。息子を助けてくれた礼をしたい。望みがあれば何でも言ってくれ」


 ガリードの眼差しは誠意に満ちていた。心から感謝しているという気持ちが伝わってくる。


「あなたに対して手荒なことをしてしまった。だから、わたしたちはそのお詫びをさせてもらっただけです。礼などは考えないでください。ただし……」


 オレは何となく考えていたことを口にしようとして、少し迷った。


「なんだ? 遠慮なく言ってくれ」


「ただし、わたしはガリード兵団と取引きをしたいと考えています」


「取引き?」


 ガリードが聞き返して来て、オレは頷いた。


「そう。取引きです。ガリード兵団に依頼したいことが色々あるので……。もちろん正当な対価は支払います」


「その依頼の内容とは何だ?」


 そう言われても漠然と考えていたことだから、まだ頭の中が整理できてない。ガリードも少し警戒しているようだし、この場で思い付きで話をするのはマズいだろう。


「明日の今ごろ、またここに来ます。そのときに会えますか? 依頼の内容はそのときに話すので」


「分かった」


 ガリードと約束して帰路についた。オレは家への帰り道でフィルナとハンナに礼を言った。


『フィルナが助言してくれなかったら、わたしはアドルにヒール魔法を掛けて終わりにしてたと思う。それと、ハンナの手術とカーラ魔医たちへの指導は見事だったよ』


『たまたまセルド魔医の術式を知っていたから、あの場で使えると思っただけよ』


 フィルナが謙遜したように答えた。


『でもね、フィルナ。わたしがヒール魔法で治療したとしてもアドルとマリーザだけしか救えなかったはずだよね。だけど、フィルナとハンナがあの術式をカーラ魔医たちに教えてくれたおかげで、命を救われる人がこれからも大勢出てくると思う。これは凄いことだよ』


 オレの言葉に隣を歩いていたハンナは少し困ったような顔をした。


『ケイ、そんなに単純な話じゃないわよ。きっとこれからが大変よ。あの術式のウワサが広まったら、助けてくれって言ってくる人たちが大勢来ると思う。だけど、あの二人の魔医だけじゃ対応できなくなることは目に見えてるわ。それにね、手術をする部位によってはさっきのように簡単じゃないはずよ。手術ができないこともあるかもしれないし、失敗することだってあるかもしれないもの。

 あたしたちはあの二人の魔医に大きな重荷を背負わせてしまったのかもしれないわ……』


 ハンナに言われて、オレも初めてそのことに気が付いた。どうしたらいいのだろう。考えながら歩いていると、いつの間にか家に着いてしまった。


 家では荷物の受け取りが終わったラウラが一人で家具の配置をしながら待っていた。オレたちも手伝って家具の配置やアーロ村へ送る資材の整理を行い、それが終わって夕食を食べているとダイルが戻ってきた。闇国へ続く入口を見つけたそうだ。


 ………………


 翌日。オレたちは全員一緒にダイルが見つけた闇国への入口を見にいった。お弁当を持って、ちょっとしたハイキングだ。


 その場所はダールムから南東25ギモラほどの原野の中にあった。丘と丘の間に谷ができていて、幅10モラほどの川が流れていた。オレたちがいる丘の中腹から谷底までは50モラほどだ。丘と谷は草で覆われているだけだから見通しは良い。川の流れは緩やかで、谷底に生えた雑木林の中に流れは続いていた。


「ここからは見えないが、あの雑木林の中に洞窟があって川が流れ込んでいる。それが闇国への入口だ。クドル・パラダイスまでの距離は長いが、水の流れは緩やかだし、水の上はずっと広い空洞が続いている。だから、浮上走行の魔法で楽に進むことができるはずだ」


「ダイル、ありがとう……」


 オレは少し考えて、また言葉を続けた。


「ここでお弁当を食べた後で、わたし一人でその洞窟から入ってクドル・パラダイスまで行ってみるよ」


「えっ? ケイ、一人で大丈夫なの?」


 フィルナが聞いてきた。ラウラたちも心配そうな顔をしている。


「大丈夫。心配いらないよ。何かあったらワープで逃げるから。ええと、みんなは先にダールムの家に戻ってて。わたしもクドル・パラダイスへ着いたら、ワープで家に戻るから」


 緑に覆われた丘と谷は青空に映えて風景画のように美しい。川の流れの音を聞きながら、みんなで一緒に食べたお弁当は美味しかった。


 その後、オレたちは浮遊魔法でゆっくり谷底まで下りて、浮上走行の魔法で水の上を歩いて雑木林に入った。林の中を100モラほど進むとその洞窟があった。


 ダイルが言うとおり流れの上は広い空洞で、奥までずっと続いているようだ。


 オレはみんなと別れて、一人で洞窟を進んでいった。照明の魔法で周囲を照らし、浮上走行で走って進んだ。傾斜は緩やかだ。女奴隷たちを眠らせたまま念力魔法で運ぶのは問題なさそうだ。


 分岐があるところは流れが急な方を選んだ。前に闇国へ流されたときは常に流れが緩やかな方を選んでしまい、そのせいでクドル・パラダイスに出たときに1ギモラ近い滝を落下することになったからな。同じ失敗は繰り返さない。


 クドル・パラダイスが近付いてきたためか、流れがしだいに急になってきた。だが、浮上走行の魔法が使えないほどではない。


 遠くに明るい点が見えて「ゴーッ」という音が大きくなってきた。流れの出口だ。そこから見下ろすと、高さ20モラほどの滝になってクドル・パラダイスの川に流れ落ちていた。下に見える川幅は50モラほどだ。ここからであれば念力魔法で女奴隷たちを対岸まで運べる。


 この場所はマップで見ると、アーロ村まで10ギモラほどの地点だった。


 このルートを使えば、オレとラウラだけで安全に女奴隷たちをアーロ村まで護送できるだろう。


 よし。これで闇国へ下ってくるルートが確立した。オレはダールムの家へワープした。


 ダイルたちは既に家に戻って来ていた。聞くと、10分ほど前に着いたそうだ。


 闇国へ下るルートについて簡単に説明してから、オレたちはすぐにカーラ魔医の診療所へ出掛けた。もう夕方近くになっていて、ガリードとの約束の時間が迫っている。ダイルだけは用があると言って先に出掛けたから別行動だ。


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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