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SGS143 手術の助手をする

 アドルが眠るベッドをハンナとカーラ魔医、クレナ魔医、そしてオレの四人で取り囲んだ。ハンナがオレに助手をやるように指名したからだ。手術の手伝いをさせるだけでなく、万一の場合にはヒール魔法でリカバリをさせようというつもりだろう。ラウラとフィルナはすぐ後ろで見守っている。


「では、今からセルド魔医の術式で患者の悪性腫瘍除去を始めます。まず、手術を始める前に清浄の魔法で患者とあたしたちの体や周囲を清めます。これは手術で開腹したときに患者が悪い病に感染するのを防ぐためです。それと、開腹した後の患者の患部を絶対に手で触らないこと。手の代りにすべてキュアと念力の魔法を使って処置を行います」


 そう言ってハンナは清浄の魔法を掛けた。


「患者は既に魔法で眠っているから、次に電撃マヒの魔法を掛けます。これは手術の痛みを感じさせないようにするためです」


 ハンナはそう言って呪文を唱えた。そして、患者の体に刺激を与えてマヒしているか確認してから、もう一度、念のために眠りの魔法を掛けた。


「次に魔力剣の魔法で腹部を切開します。このときに出す剣は指先を延長するくらいに小さくします。切開するときに注意することは……」


 具体的な注意点を説明しながらハンナがアドルのお腹を切り開いていく。それを見つめていたカーラ魔医は小さな悲鳴を上げた。思わず出てしまった声に慌ててカーラは自分の口を押さえた。


「ケイ。あなたは助手だから念力で術野を広げてくれる?」


「術野を広げるって?」


「あたしが検診魔法で臓器を調べながらキュア魔法を患部に照射していくから、あなたは念力魔法を使って臓器や患部が見えるように広げてほしいの。開腹した切り口を念力魔法を操作して広げておくのよ。それと、臓器の微妙な操作も念力でお願いすることになるからね」


 そりゃ大変だ。オレは呪文を唱える振りをして念力を発動した。ハンナの指示に従いながら術野を確保していく。出血はハンナが一時的にキュア魔法で止めているから問題ない。


 悪性腫瘍は胃や腸などの臓器に広がっていたが、ハンナは検診魔法で確かめながらキュア魔法を使って腫瘍を除去していった。


 カーラ魔医もハンナの指導を受けながら実際に内臓に直接キュア魔法を照射して、確実に腫瘍が除去できることを確かめた。クレナ魔医もオレの代わりに念力魔法で術野を確保する操作を行って、その感触を掴んだようだ。


 手術中はハンナとオレだけでなくカーラ魔医やクレナ魔医の顔にも玉のような汗が浮かび、ラウラとフィルナがそれをタオルで拭ってくれた。手術は2時間ほどで終わった。


「これで完全に悪性腫瘍は除去できたわ」


 患者の全身を検診の魔法で調べてハンナが言った。


「本当ね。これでアドルさんは完全に良くなるわね」


 カーラ魔医も自分自身で検診魔法を掛けて納得したようだ。


「ええ、凄いわ! カーラ、この術式を使えば患者を為す術もなく死なせるようなことは無くなるわね。今までのように辛い思いをしなくて良くなるのよ!」


 クレナ魔医も興奮した声を上げた。ハンナはその様子を見て微笑んだが、再び患者に目を向けて顔を引き締めた。


「あとは、清浄の魔法で患部を清めて、切開した手術口をキュア魔法で塞ぐだけよ。切開や腫瘍の除去は短時間でできるけど、キュア魔法で傷口を塞いで完治させるのは時間が掛かるからね。ここで油断しないようにね」


 ハンナはここでも的確な指導をしながらカーラ魔医とクレナ魔医に患者の治療をさせた。


「手術を始めてから2時間くらい掛かったかしら? 意外に早かったけど、セルド魔医の術式による手術はこれで終わりよ。

 でも、術後の治療を怠ると感染したり再発したりするからね、注意しなさい。体の外からで良いから内臓にキュア魔法を時々照射して治療を続けることが肝心よ。悪性腫瘍は完全に除去してるから、後は軽度な内臓疾患の治療と同じなの。だから、魔力が〈100〉以上あれば治療できるわ。数日間治療を続ければ疾患と切り口は完治するから、その後は患者の体力を回復させるだけよ」


「分かりました。ご指導ありがとうございました」


「先生、ありがとうございました。でも……」


 カーラ魔医はハンナに心から感謝しているようだ。クレナ魔医も感謝の言葉を口にしたが、まだ何かを言いたいらしい。


「でも、この術式を私たちだけで行うのは難し過ぎます……」


 クレナ魔医が言ったのは尤もなことだった。まず、キュアや魔力剣の魔法、それと念力魔法の細かくて正確な操作が必要だが、クレナ魔医は自分の技量では難しいと感じているらしい。それに、人体の知識が無いから、どこを切ったらいいのか、どの臓器がどんな働きをしていて、どんなところに気を付けないといけないのか、そういったことが分らない。だから生身の体を魔力剣で切ったり念力で操作するのが怖いとクレナ魔医は言った。


 たしかに技量や知識が不足したまま、この術式を行うのは危険だろう。


「クレナ魔医の言うとおりよ。あたしも何となく怖いって感じていたもの」


 カーラ魔医も同調して不安だと言い始めた。それを聞いたハンナがオレに念話で話しかけてきた。


『この術式に初めて挑んだセルド魔医も同じような不安を口にしてたわ。キュア魔法を使ってもなかなか正確な処置ができないとか、血管の場所が分からないから切るのが怖いとかね。それで、フィルナからアイラ神様にお願いしてもらって、人体の知識を植え付けてもらったりしたのよ』


『そっか……。たしかにそんな不安を抱えていたら、この術式では治療できないよね。と言うことは、その不安の原因を取り除けば良いってこと?』 


 そう言って、オレはフィルナの方に向き直った。


「フィルナ。あの神族様にお願いして、祝福を与えてもらったら?」


 オレの問い掛けに、フィルナは少し戸惑ったが意味は分かったようだ。


「え? ええ、そうね……」


 そうと決まったら、すぐに実行だ。祝福とはオレの配下登録機能を使うことだ。それをカーラ魔医たちに施すのだ。


「カーラ魔医とクレナ魔医には神族様の祝福を受けてもらいたいけど、良いかな?」


「しゅくふく? その神族様の祝福って何ですか?」


 オレは祝福について簡単に説明した。魔法の属性に関係なく魔力に応じた魔法が使えるようになることや、スキルの修得についても今までよりも簡単にできることなどだ。同時に人体の構造についての知識も知育魔法で植え付けるつもりだ。


「だから技量不足も少し練習をすれば必要な技量は身に付くはずだし、人体についての知識不足の心配も無くなるけど、どうする?」


「それなら、ぜひ神族様にお願いしてください」


 カーラ魔医の言葉に、クレナ魔医も頷いている。


「祝福は眠っていないと受けられないんだけど、眠りの魔法を掛けてもいいかな?」


 二人の了解をもらって、空いていたベッドに横になったカーラ魔医とクレナ魔医に眠りの魔法を掛けた。すぐに配下登録と知育魔法を掛けて、二人を目覚めさせた。


「もう終わったんですか?」


 二人は不思議そうな顔をしている。


「神族様は忙しいからね。ぱっと現れて、あっという間に祝福を与えて帰っていったよ」


「でも、何も変わった気がしないのだけど……」


 アーロ村でも祝福を施された誰もが同じような反応をした。だから、その対応にはオレも慣れている。


「二人とも土壁の魔法は使えなかったでしょ? でも、今は使えるようになってるから、そこの床に土壁を出してみて。呪文も知育魔法で植え付けられてるから分かるはずだよ」


「ホントだわ! こんな呪文、知らなかったのに……」


 そう呟いて、カーラ魔医は土壁の呪文を唱えた。目の前の床に縦横1モラくらいの土壁が現れた。


「凄い! 本物だわ」


 カーラ魔医が自分が出した土壁を触りながら呟いた。オレがそれを壁解除の魔法で消して、今度はクレナ魔医に同じことをやらせた。


「人体の知識も頭に入ってるでしょ? 例えば腹部の血管と筋肉の位置を思い浮かべてみて……。どうかな? 頭の中に詳細な絵が浮かんできたと思うけど」


「本当に浮かんできた! 今までこんなこと、知らなかったのに……」


 二人は神族から与えられた祝福の恩恵を実感したようだ。その様子を見ていたハンナが口を開いた。


「あとは魔力剣とキュア魔法、それと念力魔法の訓練を続けるだけね。細かい処置を正確にできるようにするのよ」


「はい、分りました。ハンナ先生」


「頑張ります!」


 カーラ魔医もクレナ魔医も明るい声でハンナに答えた。


「あっ! 忘れてた……」


 オレは思わず声を出してしまった。ガリードたちを病室で待たせたままだ。きっと治療がどうなったのか心配して、ヤキモキしていることだろう。


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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