SGS141 ガリード団長を尋問する
ガリード団長とその部下らしい女性はカーラ診療所から連絡を受けて、すぐに飛んできたようだ。診察室に入ってきた二人は少し息が荒かった。
「カーラ先生、うちのアドルが継承の儀式を希望してると聞いた。もう、回復する望みは無いということか?」
「ガリードさん。はっきり言うけど、あたしではムリだわ。病変が内臓全体に広がっているの。これを完治させるには魔力〈500〉以上で経験豊富な魔医が治療しないといけないけど、そんな魔医はどこにもいない。残る手立ては、隣国のレングラン王国かラーフラン王国の神殿に行って、高額のお布施を出して神族に頼んでみるしかないけど……」
カーラ魔医がマリーザの治療を続けながらガリードに答えた。腸に開いた穴を少しでも塞ごうとキュア魔法の魔力を注ぎ続けているのだ。
「先生と話がしたいのだが、その治療にはまだ時間が掛かるのか?」
「ええ。先に病室へ行ってて。あと20分くらいしたら行くわ」
カーラ魔医の言葉に頷いて、ガリードたちは診察室を出ていった。
『ちょっとガリードを尋問してくる。みんなはここで待ってて』
オレはラウラたちにそう言って、カーラ魔医にはトイレに行くと言って診察室を出た。胸の痛みのことを尋ねられたが、自分でキュア魔法を掛けたから痛みは治まってきたと答えた。もちろんそんな痛みなど初めから無いのだが。
ガリードがいる部屋は探知魔法で分かっている。少し乱暴だが、押し入って尋問するつもりだ。
オレが部屋に入っていくと、ガリードとその部下の女性が不思議そうな顔をしてオレを見た。
「どうした? 部屋を間違えたのか?」
オレはそれに答えず、二人のバリアを破壊して眠りの魔法を掛けた。魔力〈233〉くらいのバリアなら一気に破壊できるのだ。
ベッドでは30歳くらいの男が眠っていた。痩せていて顔色も悪い。この男がアドルという名の入院患者だろう。魔力は〈194〉だ。
オレはガリードを床に寝かせたまま暗示魔法を掛けた。部下の女性もガリードの隣で眠っている。オレがガリードに掛けた暗示は、オレに対してウソを言ったりオレの命令に従わなければ、全身がマヒして激痛が30秒続くというものだ。
『声を出さないで!』
オレはガリードを目覚めさせて、暗示魔法を掛けたことを念話で説明した。だが、ガリードはそれを理解できずに声を出そうとして激痛に襲われた。それを何度か繰り返して、ようやく命令に従うしかないと理解したようだ。
『わ、わかった。言うとおりにする……。あんたは誰だ?』
『わたしはケイ・ユウナ・アロイス。あなたの隣の家に住むことになった者です。わたしの名前は聞いているよね?』
オレの言葉にガリードは大きく目を見開いた。
『昨日、男がおれたちの本拠に侵入して来て、おれや隊員全員が眠らされてしまった。そして、ケイ・ユウナの家の者を守ることを約束させられた。おれたちはそれに従っているぞ。約束を破ったら罰すると言われたが、あんたに罰せられるようなことはしていない。なぜ、こんな理不尽なことをするんだ!?』
ガリードは正直に話しているようだ。もしウソを吐いたら体に激痛が走るから一目瞭然だ。
『わたしはさっき殺されそうになった。通りを歩いていると、バドゥがわたし目掛けて突進して来て、わたしと診察室にいる親子を跳ね飛ばして逃げていった。たぶん、わたしを暗殺しようとしたのだと思う。あなたの差し金でしょ?』
『いや、そんなことは知らないし、そんな命令も出してない』
どうやらこれも本当のようだ。オレはその後もガリード兵団について尋問を続けたが、意外にもガリード兵団はまともな私掠兵団だと分かった。ダールム軍と共に首都や商隊の防衛を担っているらしい。自分たちを荒っぽく見せることで盗賊や魔族からも恐れられているようだ。悪名高い理由はそういうことか……。
尋問をしていてガリードという男の人柄もよく分かった。意外にも誠実な人間のようだ。人を見掛けや職業で判断したらダメだと言うが、まさにそのとおりだ。ガリードを暗殺の主犯だと考えたのは完全にオレの早とちりだった。
『分かりました。あなたは本当のことを言ってるらしい。手荒なことをして申し訳ありません。謝ります』
オレはガリードを念力で起き上がらせてキュア魔法を掛けた。そしてガリードに向かって頭を下げた。
『それと、ここで起こったことや、わたしがあなたに暗示魔法を掛けたことは秘密にすること。これは命令です。申し訳ないけど、もし誰かに話そうとしたら全身に痛みが走ります。そこで眠っている女性にも言い聞かせて秘密を守らせなさい』
『分かった……。だが、あんたたちはいったい誰なんだ? おれのバリアを一瞬で破壊して眠らせた。あんたも昨日の男も桁違いの強さだ』
ガリードがオレたちのことを知りたがっている。
『知りたい気持ちは分かるけど、余計な詮索をしないこと。これも命令です』
オレの命令にガリードは悔しそうな顔をして頷いた。
「もう声を出して喋っていいですよ。それと、さっきのお詫びに、そのベッドで眠っている人を助けたいと思います。その治療についてカーラ魔医と相談するから、あなたも一緒に診察室まで来てもらえますか?」
オレが声を出して話しかけると、ガリードは驚いたような顔をした。
「本当にアドルを助けられるのか?」
「まあね」
ガリードの部下の女性も目覚めさせて事情を説明し、オレはガリードたちを伴って診察室へ戻った。カーラ魔医はまだマリーザの治療を続けているし、クレナ魔医も娘のティーナを治療している。ティーナはベッドに横になって治療を受けながら心配そうに母親のマリーザの様子を見ていた。
オレは診察室に入ったところでガリードとその部下の女性に待つように言って、ラウラたちに念話で話しかけた。
『わたしを狙ったのはガリード兵団じゃなかった。ここにいるガリードに暗示魔法を掛けて尋問したのだけど、かなり痛い思いをさせてしまったから、お詫びに入院している彼の部下を治療しようと思う。どうかな?』
オレが相談すると、フィルナから念話が返ってきた。
『ガリードたちが見ている前でケイがヒール魔法で治療するのは止めた方が良いと思うわ。ケイが神族だって分かってしまうから。私に別の考えがあるの』
フィルナはそう言って、今度はハンナに向かって話しかけた。
『ハンナ姉、あの術式をカーラ魔医に教えたらどうかと思うんだけど、どうかしら?』
『セルド魔医の術式ね? あたしもそれが良いと思う。あたしなら教えられるしね』
ハンナの言葉を受けて、フィルナはオレの方に向いた。
『ケイ、あたしたちに任せてもらえる?』
『いいけど……、どうするつもり?』
『まぁ、見てて』
フィルナはオレたちに微笑みかけると、治療を続けているカーラ魔医に向かって口を開いた。
「カーラ魔医。実はね、私はアイラ神様の使徒なの。こっちの三人もその関係者よ」
その言葉にカーラ魔医は驚いた顔をした。
「本当なの? それならあなたは高位のロードナイトなんでしょ? 魔力は〈500〉を越えてるの? もし越えてるのならこの女性の治療をお願いしたいし、ほかにも治療してほしい患者がいるのよ。そこにいるガリード団長の部下でセルドっていう患者なの」
「いえ、私たちは患者の治療はしないわ。その代わり、ここにいるハンナがあなたに新しい術式を教えることができるわよ。その術式を使えばね、魔力が〈500〉を越えてなくても難しい病気や怪我を治療できるようになるの。どうする? 新しい術式を教えましょうか?」
フィルナの話を聞いて、カーラ魔医は疑わしそうな顔をした。
「そんな術式があるなんて、今まで聞いたことがないわ。もしかして、あたしを騙してお金を巻き上げるつもり? 騙し取るようなお金なんてこの診療所には無いわよ」
「誤解しないで。あなたが誠実な魔医だと思ったから、教えようと思っただけよ。お金なんて要らないし、ほかの条件も無いわよ」
「本当なの? あたしの魔力でも使える術式?」
「ええ。手術を行う魔医は魔力が〈100〉以上あって、キュア魔法と電撃マヒ、あとは魔力剣の魔法が使えれば大丈夫よ。
それとね、助手になる人が必要なの。助手は念力魔法を使えることが条件になるから〈50〉以上の魔力が必要だわね」
「それなら、あたしとクレナ魔医で問題ないけど……。その術式って、どうやるの?」
カーラ魔医は疑いながらも興味を示してきた。
※ 現在のケイの魔力〈777〉。
※ 現在のユウの魔力〈777〉。
※ 現在のコタローの魔力〈777〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




