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SGS137 地上に向けて出発

 アイラ神たちが帰った後、オレは礼拝堂の中に村人一人ひとりを招いて祝福を与える儀式を行った。ロードナイトになっている者には配下登録と知育魔法、暗示魔法を掛け、そうでない者には知育魔法と暗示魔法だけを掛けた。オレが神族であることやオレの特殊な能力について秘密にするよう暗示を掛けた。村の外の者に喋ろうとしたらオレの秘密を忘れるような暗示にしてある。


 オレの魔力が高くなったため暗示魔法の失敗は激減している。だから数分で暗示は掛かるが、それでも村人の数は二百人くらいいるから全員に祝福を与え終えるまで2日間を要した。


 すでに魔闘士になっている者は祝福の効果を実感して大喜びし、まだなっていない者も早く魔闘士になりたいと意欲を燃やした。この祝福は村人たちに大きな恩恵となったようだ。


 ケビンにも祝福を与えた。この子には本当にお世話になっている。素直で良い子だと思う。大人になったら、きっと高位の魔闘士に成長してくれるだろう。楽しみだ。


「ケイ姉。大魔獣ムカデとの戦い、おれっちはずっと見てたゾ。ケイ姉はやっぱり凄いナ。おれっちが見込んだとおりだぁ」


 そう言って、ケビンは持ってきた袋の中に手を突っ込んで、ゴソゴソと何か大きな黒い物を取り出した。なんと、出てきたのはドンガ(大熊)の頭だ。


「これ、ケイ姉にやる! おれっちの宝物だぁ。親父と一緒に狩りに出て、親父とおれっちで初めて倒した獲物だゾ。親父に頼んで被れるようにしてあるからナ。ケイ姉のような勇者にふさわしい宝だぁ」


 ドンガの頭を切り取って剥製にしてあるようだ。しかも、中を刳り貫いて、頭がすっぽり入るようにしてある。ケビンに無理やり被らされて頭を入れると、口の穴から外が見えるようになっていた。


 ケビンにとっては亡くなった父親との思い出の品だ。ケビンの大切な宝物なのだろう。それをオレにくれると言う。断るわけにはいかないな。


 オレはケビンに礼を言って受け取った。とりあえずは隠れ家に飾っておこう。


「熊の胴体も親父が寝袋にしてくれたんだぁ。寝袋もケイ姉にやるヨ! 熊の毛皮は暖かいゾ。それに手足も付いてるから寝袋に入ったままオシッコに行けるんだぁ。後で持って来てやっからナ」


 ケビンの気持ちが嬉しかった。熊の寝袋ももらっておこう。


 こうして祝福の儀式も終わり、オレたちは地上に向けてアーロ村を出発した。同行しているのはラウラとダイル、フィルナ、ハンナの四人だ。



 ――――――― ミレイ神 ―――――――


 いつものように待っていると男が森の中に入ってきた。私を見つけると近寄ってきて報告を始めた。


「何日か前に養女様が大魔獣ムカデを倒したゾ。大魔獣ムカデは二頭現れてナ、一頭は養女様が倒して、もう一頭は豹族の魔闘士が倒したンだぁ。

 そして昨日、神殿で縁組の儀式が行われたぁ。養女様はアロイス様の正式な養女となられたのサ。おれたち村の者は皆、儀式に参加してヨ、アロイス様と養女様に忠誠を誓ったのサ。アロイス様はその忠誠心を喜ばれてナ、村の者全員に祝福を与えてくださったンだぁ。養女様は我ら村の者に軍備の増強をお命じになったゾ。バーサット帝国の侵攻に備えるためだナ」


「その養女様というのはケイのことね? ケイは無事なの?」


「ケイという人は知らねぇゾ。養女様が誰なのかも知らねぇナ」


 え? どういうことかしら? この男は前回までの報告ではケイが誰であるかを間違いなく知っていた。今になって知らないというのは変だ。


「その養女様は何歳くらいなの? 顔や姿は見たのよね?」


「思い出せねぇ。何も分らねぇ……」


 男は頭を抱えた。これは明らかに不自然だ。おそらく忘れるように暗示魔法を掛けられたのだろう。


「その豹族の魔闘士のことは思い出せるの?」


「ああ。ダイルっていう名前でよぉ、養女様を捜して2か月くらい前に村にやってきたンだぁ。養女様の護衛だと言ってたナ。だからよぉ、ダイルさんは大魔獣ムカデとの戦いではずっと養女様を助けてたゾ。

 豹族のくせにヨ、奥さんが二人もいてナ。人族とエルフで、どっちもとびっきりの美人なンよぉ。

 ダイルさんが魔獣どもや大魔獣ムカデと戦うところを見物したンだけどナ、とにかく強かったぁ。ありゃあ、村長さんや長老たちよりもずっと強いナ」


 この男はダイルという豹族の魔闘士のことは忘れていないらしい。忘れているのはケイのことだけのようだ。ケイのことを聞かれたらケイを忘れるように暗示されていたということか……。


 もしかすると、この男が間者だということが露見したのだろうか? いや、そんなはずはない。もしそうなら、今ごろ私は村のロードナイトたちに囲まれているはずだ。だが、そんな気配は無い。では、何のための暗示なのだろう?


 そのとき私の後ろに控えていた副官のニドが念話で語り掛けてきた。


『ミレイ神様、これは何か変ですよ。もしかするとアロイスがこいつに暗示を掛けたのかもしれません。暗示を掛けた理由は分かりませんが、ともかく、この男を間者としてこれ以上使うのは危険です』


 どうやら私と同じように危機感を抱いたらしい。今回もニドを同伴させて正解だった。


『そうね。ニド、あなたの言うとおりだわ』


 私がニドと念話している間も村の男は黙って立っていた。私からの指示を静かに待っているのだ。


「おまえはもう散歩に出ないでいいし、ここで私に報告をする必要もないわ」


 男に指示を与えて、村に返した。


 私もすぐにワープ魔法でマリエル王国にある自分の隠れ家に移動した。もちろんニドも一緒だ。


 さっきあの男は養女様が大魔獣ムカデを倒したと話していた。養女様というのはケイのことだろう。つまり、ケイは大魔獣ムカデを倒せるほど強くなっているということだ。しかも、アロイスというバケモノのような男の養女になっていて、ダイルとかいう豹族の魔闘士が護衛として付いているらしい。


 ケイは何かを企んでいるに違いない。それが何かは分からないが、ケイは予想した以上に危険な存在になってしまった。


 ケイが何を企んでいるにせよ、ケイの存在は大きな脅威だ。ケイと私との関係が神族たちに知られたら私は破滅する。やはり、密かに消すしかない。


『ニド。今からこの隠れ家に使徒たちを招集して、大魔獣狩りの指示を出すつもりよ。あなたもその狩りに参加しなさい』


『使徒を総動員して大魔獣を狩るのですか? その理由を伺っても?』


『あのサレジという男にラストアタックを取らせるためよ。サレジが大魔獣を倒すということは、それはつまり、サレジにケイを上回るほどの魔力を与えるということ。分かったでしょ?』


 あたしの言葉を聞いても、ニドはまだ不思議そうな顔をしている。


『まだ分からないようね。サレジを強い魔闘士に仕立てて、ケイを確実に始末させたいの』


 その言葉にニドが驚いた顔になった。


『しかし、ケイの暗殺は自分にお命じなったのでは?』


『あなたにも命じたけど、ケイの抹殺は極めて重要なことなのよ。複数の手立てを講じておくのは当たり前でしょ。あなたはあなたで命じられたことを進めなさい。ただし焦って、私の関与が露見することが無いようにね』


『分かりました』


 ニドは硬い顔で頭を下げた。まだ何か不満があるのだろうか。


 いや、今はそんなことよりもサレジのことに集中すべきだ。サレジを強い魔闘士に仕立ててやれば、その後はサレジが動いて作戦が進んでいくはずだ。


 サレジには既に暗示を掛けてあるから私の意のままに動く。サレジには作戦としてバーサット帝国の砦に駐屯している部隊をアーロ村にぶつける策を授けた。サレジは自分自身が考えた作戦だと思っているだろうが、それは暗示によって私が授けた策なのだ。


 さっき、あの男はケイが村の軍備増強を命じたと言ってたが、これはちょうど良い。私がサレジに授けた策に符合するのだ。バーサット側が勝てば、それに乗じてケイを殺すことができるだろう。


 もしバーサット側が負けたとしても、第二の策を用意してある。サレジの頭の中には暗示でその策も植え込んであるのだ。サレジはすべてを自分で考えた策だと自惚れているだろうが、それで良い。サレジが上手く動いてくれれば、必ず闇国でケイを葬ることができるはずだ。表に出ることなく闇国で、必ず……。



 ――――――― ケイ ―――――――


 アーロ村を出発して2日後、オレたちはレングランの王都が見える丘の上にいた。迷うことなくダイルの案内でここまで来れた。クドル・インフェルノにあるワープゾーンを通って魔樹海の中に出て、そこからレングランまでの約80ギモラを浮上走行の魔法で移動してきたのだ。


 天気が良くて、この場所からクドル湖やレングランの王都が一望できた。


「ケイ、懐かしいでしょ?」


 景色を眺めていると、ラウラが声を掛けてきた。


「うん。ラウラたちと一緒に初めて狩りに来て、ここで景色を眺めたよね。あのときの気持ちを思い出したよ。一生忘れられないほどきれいだと思った」


 丘の上でラウラやダイルたちと思い出話をしながら景色を堪能した。そして、その日の夕方にダールム共和国に着いた。


 ダールム共和国はレングラン王国のすぐ南にあって国境を接している国だ。レングランと同じようにクドル湖に面している。街は高さ15モラほどの街壁にぐるりと囲まれていて、その正門には検問所があった。アイラ神からもらった身分証を見せると何の問題もなく街の中に入ることができた。


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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