SGS136 これからどうするの?
儀式が終わって、関係者一同は拠点の広間に戻ってきた。だが、オレにはまだ仕事が残っている。村人たち全員に祝福を与える作業だ。
初めはロードナイトになっている者だけを配下登録すればよいとオレは考えていたが、荒くれ者たちを抑え込むだけではダメだとコタローからアドバイスをもらったのだ。問題はオレが神族であることを村人たち全員が知っていることだ。それが外部に漏れたらオレを捕えようとして様々な国や神族たちが動き始めるだろう。それは何としても避けねばならない。
色々と相談して、ロードナイトになっている者には配下登録と知育魔法、暗示魔法を掛け、そうでない者には知育魔法と暗示魔法だけを掛けることにした。配下登録機能を使えばロードナイトの戦力アップができるし、知育魔法を使えば村人たち全員の知識レベルを引き上げて、何が良くて何が悪いことかを教え込むことができる。暗示魔法を掛けるのはオレの秘密を漏らさないようにするためだ。
この作業を祝福と称して、村人たち全員に施すことにしたのだ。村人全員というのは正直言ってめんどくさい。だがこれはアーロ村を守るためであり、自分やラウラを守るためだ。サボるわけにはいかない。
その前にまずは一息入れよう。と言うことで、今はみんなでテーブルを囲んでお茶を飲んでいるところだ。
「皆の衆、お疲れ様じゃった。縁組の儀式がつつがなく終わってヤレヤレじゃの」
「みんなの協力のおかげです。ありがとう」
村長の言葉を受けてオレが礼を言うと、ラウラが声を上げた。
「村長やマルセルの演技はイマイチだったけど、アロイスの存在と力をたっぷり訴えることができたみたいね。村の人たちは信じ切ってたわよ」
村長たちは貶されたのに、嬉しそうに頷いている。
「テオドさんのアロイスがハマリ役だったからね。堂々としていて、アロイスのイメージにピッタリだったと思う」
「うんうん、そうだろ」
オレの言葉にテオドさんは得意そうに小鼻をピクピクさせている。
「それはそうと、ハンナさん。おれの姿を描いてくれたか?」
テオドさんが思い出したようにハンナに問い掛けた。ハンナは不思議そうな顔をしている。何のことか分らないのだろう。
「ええと、ほら。ずっと前にアイラ神様を描いてくれただろ? ベルドラン王国で今日の儀式と同じようなのをやったことがあって、あのとき、あんたはアイラ神様が祭壇の上に浮かんでいて後光が差してる絵を描いた。覚えてないか?」
「ああ、あれね。でも、今日の儀式は絵にならないから描いてないわよ」
ハンナが言うと、ダイルが横からそれに同調した。
「ハンナの言うとおりだ、テオド。あんたの姿じゃ絵にならないんだ」
その言葉にテオドさんはがっくりと項垂れた。
「でも、きっと村の人たちは忘れないよ。絵にしなくても、テオドさんのアロイスの姿は村人たちの心の中にずっと刻み付けられてると思うけど……」
オレはテオドさんが可哀そうになって慰めの言葉を口にした。
「そうよ、テオド。まだまだ、あたしのようには行かないけど、今回はよくやったわ。褒めてあげる」
アイラ神の言葉にテオドさんは顔をぱっと明るくした。アイラ神はテオドさんのそんな様子をにこやかに見ていたが、何かを思い付いたようにオレの方を向いた。
「ところで、ケイ。これからどうするの?」
アイラ神から尋ねられて、オレは少し考えた。今のオレの魔力は〈777〉だ。この2か月間で〈250〉くらい高めることができたから、クドル・インフェルノでさらに2か月間鍛え続ければ〈1000〉を越えられるだろう。そうすれば地球にワープできるようになる。生まれ故郷へ帰れるのだ。ほかの神族からちょっかいを出されても抗うことができるようになるはずだ。
「暫くの間、わたしはクドル・インフェルノで自分の訓練を続けようと思う。自分の魔力を普通の神族と同じくらいになるまで高めたいからね。あと2か月間くらいは訓練を続けようかなって……」
オレがそう言うと、ラウラが少し寂しそうな顔をして聞いてきた。
「その間、あたしはどうしたらいいの?」
「ラウラもわたしと一緒にクドル・インフェルノに入って訓練をしようよ。まずはロードオーブのソウルを入れ替えて、その後は魔力上げに励むんだ」
ラウラのロードオーブには大魔獣ムカデのソウルが格納されている。ダイルが気を利かせてくれて、ラウラに大魔獣ムカデへのラストアタックを譲ってくれたからだ。そのおかげでラウラの魔力は〈650〉になったのだが、村長の話によると大魔獣のソウルを格納したロードオーブはそれで魔力の上限に達してしまうらしい。それでは困る。ラウラにはオレと一緒に魔力をもっと高めてほしいのだ。
「すまん。俺のせいでラウラには却って迷惑をかけちまったな」
ダイルが申し訳なさそうな顔をした。
「ダイルのせいじゃないわよ。ダイルはあたしのためを思ってラストアタックを譲ってくれたのだから。それにね、魔力が〈650〉もあるから、次も強い魔獣を狙えるし」
「とにかく、ラウラ。これからも一緒に訓練だよ」
「ケイ、ありがとう」
ラウラは嬉しそうににっこり微笑んだ。ラウラとこれからの予定をもっと話していたいが、そうもいかない。村長たちにも話しておきたいことがあるのだ。
「村長と長老たちにもお願いがあります。この前にもお話ししたことですけど、バーサット帝国やレングラン王国に備えるために、今すぐにこの村を変えなきゃいけません。まずは村の防衛力を全力で高めてほしいのです」
オレの言葉に村長と長老たちは真剣な表情で耳を傾けている。
「お願いしたいことは二つあります。まず一つ目は前にお願いしたことと同じです。外様衆たちを魔闘士にして鍛えてください。それと、譜代衆で既に魔闘士になってる人たちも訓練してもっと強くなってほしいのです。特に魔闘士が個人で勝手に動くんじゃなくて、チームを組んで上手く動けるように訓練してくれると助かります」
「それはこの村の防衛力を高めるために魔闘士の数を増やすことと、合わせて魔闘士の質も高めたいと言われておったことじゃな?」
村長の問い掛けにオレは「ええ、そうです」と頷いて言葉を続けた。
「二つ目のお願いですけど、村の防壁を急いで仕上げてほしいのです。今はマルセルたちがギリルの意志を継いで防壁の残りを作ろうとしていますけど、バーサット帝国に備えるためには急いだ方が良いと思います。だから、村の魔闘士たちを動員して急いで作ってもらいたいのです」
「承知ですじゃ。どっちもアーロ村の防衛力を高めるために重要な案件じゃでな。急いで取り掛かからねばいかんの」
「ええ。それで、魔闘士の組織編成や訓練についての指揮は村長にお願いしたいと思います。特に外様衆は少し緩みがあるみたいですから厳しく鍛え直してください。それと防壁の監督はマルセルに頼みたいと思います。どうですか?」
村長はマルセルや長老たちが頷いているのを見ながら口を開いた。
「鍛え直しが必要なのは外様衆だけじゃねぇ。村の魔闘士たちも同じじゃ。体も心も鍛え直してやるわい。なぁ、長老衆!」
「「おおっ!」」
「防壁の方も村長たちと相談してすぐに始めるゼ!」
マルセルも張り切っているようだ。
「それと、わたしとラウラがクドル・インフェルノで訓練を続けている間、ミサキにはこのアーロ村で連絡役をお願いしたいんだけど、ミサキ、いいかな?」
オレが何をしたいか知っているから、ミサキは「分かったわ」と言って頷いた。
「それから、ダイルにもお願いしたいことがあるんだけど……」
「なんだ?」
「前に地上へ出るルートの話をしたときに、地上へのワープゾーンがあるって言ってたよね。そこまで案内してほしい。ダイルたちが旅に出てしまう前に、お願いしたいのだけど、いいかな?」
オレの言葉にダイルは困ったような顔をした。どうしたのだろう?
「ケイ、ちょっと待って」
横からアイラ神が声を掛けてきた。
「ダイルが旅に出るって、そんなはずはないけど? ダイルには引き続きケイを助けて護衛するようお願いしてあるから。ねぇ、ダイル、どうなの?」
「ああ、そのとおりだ。俺はケイの護衛を続けるってことで問題ない」
「えっ? でも、大魔獣との戦いは終わったし、これ以上、ダイルを引き止めるのは申し訳ないと思うんだけど……」
「ケイ、何を言ってるの! あなたは半人前の神族なのだから狙われる虞があるのよ。使徒もラウラさんとミサキさんだけでしょ。ほかの神族から狙われたら防ぎきれないわ」
アイラ神の言うとおりかもしれないが、ダイルにこれ以上迷惑を掛けていいのだろうか。
「ケイ。ダイルが護衛すると言ってくれてるのだから、遠慮しないでお願いしたらどうかしら? フィルナやハンナもいいのよね?」
ラウラが嬉しそうに問い掛けると、フィルナとハンナもにこやかな顔で頷いた。
でもなぁ……。そんなに甘えていいのかなぁ……。
オレが迷っていると、突然、アイラ神から念話が入ってきた。
『ケイ。ラウラさんの言うとおり遠慮しなくていいのよ。あたしはあなたやユウナさんに返し切れないほどの借りがあるのだから。それに、あたしはダイルにはちょっとした貸しがあるから、ちょうどいいの』
オレに語りかけるアイラ神の目は慈愛に満ちている気がした。
「それなら、アイラやダイルたちの気持ちに甘えさせてもらうね。ありがとう」
オレの言葉にダイルはにっこり微笑んだ。
「よし。そうと決まったら早い方が良いな。祝福の儀式が終わったら、地上へ出るワープゾーンに案内するよ。そのまま地上に出よう。護衛を兼ねて俺たちも一緒に行く」
なんだかダイルは張り切ってる感じだ。フィルナとハンナもニコニコしている。
「それがいいわ。ケイは地上に出た後、クドル3国のどこかにワープポイントを設定するつもりでしょ?」
さすがにアイラ神だ。オレがやろうとしていることを予想しているようだ。
「うん。ワープポイントさえ設定したら、いつでもワープで行き来できるようになるからね」
「あたしはダールム共和国にワープポイント用の家を持っているのよ。ケイもワープポイント用の家を各地に持つと思うけど、クドル3国の中だったらダールム共和国がお勧めよ。中立だし治安も良いから。それにね、物資を買い付けするのにもダールムは便利なの。貸し倉庫がたくさんあってね……」
アイラ神が色々とアドバイスをしてくれた。
「それと、これを持っておきなさい。役に立つから。ラウラさんとミサキさんのも用意してきたわ」
アイラ神が渡してくれたのは縦長の小さな箱で船のような絵が彫り込まれていた。
「カイエン共和国の身分証よ。あたしが身分を保証してるものだから、たいていの国はその身分証で出入りできるはずよ」
本当にありがたい。オレたちはアイラ神に心から礼を述べた。
その様子を見ていた村長が口を開いた。
「ケイ様。あんたやラウラさんたちはずっと働き通しじゃ。また2か月の間、クドル・インフェルノで訓練するとか言っておったが、少し休むことも必要じゃゾ。アイラ神様から身分証をもらったことじゃし、地上の国で骨休めをしてきたらどうかの?」
「村長、気持ちはありがたいけど、バーサット帝国が……」
「もし何か動きがあったとしても、そのときはわしらだけで対応できるゾ。今までもそうじゃったからのぉ。それに、あんたはワープとやらですぐに戻って来れるんじゃろ?」
「たしかに……。それなら、ミサキを残していくから、何かあったらミサキを通して連絡してください」
「おお、ミサキ様を残してもらえるなら安心じゃ。それとナ、ケイ様が地上の国へ行かれるなら、一つお願いしたいことがあるンじゃが……」
「なんですか?」
「わしたちの村は貧しい。いや、魔獣から取れた大魔石は数えきれぬほど持っておるのじゃが、それを使うすべがないンじゃ。村では何もかも自給自足じゃからのぅ。それでナ、地上の国へ行ったなら村で足りない物資を買い付けてほしいのじゃよ。休みを取るよう勧めたのにナ、こんなお願いをするのは厚かましいと分かっておるンじゃがのぉ……」
村長が言うには、村では魔闘士たちが組みを作って毎日交代で魔獣狩りに出掛けているそうだ。肉や皮を取るためだが、大魔石も必ず取れる。毎年最低でも300個は確実に取れるらしいが、大半の大魔石は使われずに余ってしまうのだ。
その数を尋ねると、なんと、ご先祖様から代々溜めてきた大魔石は10万個以上あって、村長が保管しているらしい。実はアーロ村は大金持ちの村だったのだ。
こうして村長から物資の買い付けも頼まれて一部の大魔石を預かり、オレたちは地上へ向かうことになった。
アイラ神とテオドさんは「またねー」と言いながらワープで帰っていった。
※ 現在のケイの魔力〈777〉。
※ 現在のユウの魔力〈777〉。
※ 現在のコタローの魔力〈777〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




