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SGS135 縁組の儀式

 儀式の日が来た。オレはフィルナたちに派手なドレスを着せられ、神殿のテラスに立っていた。オレの斜め前には金ぴかの鎧を纏ったアロイスが立っていて、神殿の広場で歓声を上げる大勢の村人たちに手を振っている。


 なぜ、アロイスがいるのか。それは長老の中の誰かが「縁組の儀式を行うのなら、儀式の場にアロイス様がいないのは不自然だ」と言い始めたのが発端だ。言われてみれば、そのとおりだ。アロイスが姿を見せないと却って怪しまれる。


 だが、アロイスはこの世にいない。だから、誰かがアロイスの代役を務めることになった。村長や長老を代役にするのは、村の連中にすぐばれるからダメだ。となるとダイルしかいないが、ダイルには豹耳とシッポがある。


 最初は豹耳とシッポを隠せばなんとかなると村長たちは考えていた。だが、ハンナとフィルナの会話がそれをひっくり返した。


「もし、儀式の最中にダイルのシッポがぽろっと出たら、儀式はメチャクチャになるわね」


「ハンナ姉。儀式がダメになるだけじゃないわよ。アロイス様への信仰心もガタ落ちよね」


「守護神からペテン師へ真っ逆さまに落っこちるってことね」


 二人の会話を聞いて、村長や長老たちはみんな青くなったのだ。


 それで、オレがフィルナ経由でアイラ神に相談して代役を立ててもらうことになった。ダイルやフィルナが言うには、アイラ神はこういう催しでの演出が大好きらしい。相談すると、アイラ神は喜んで手伝うと言ってくれて、代役としてアイラ神の使徒を連れて来てくれた。


 その使徒はテオドという名前で、なんとダイルの師匠だそうだ。オレは死蝋化したアロイスしか見ていないが、テオドさんの見た目はアロイスによく似ていた。2モラくらいの身長で筋肉質。年齢も30歳くらいだ。


 事前に挨拶をして、今回の儀式の打ち合わせをしたときに、テオドさんは変なことを言ってた。


「おれに任せておけ。ずっと前にダイルから頼まれて同じような儀式をやったことがある。そのときは裏方しかやらせてもらえなかったが、今回は主役だからな。アロイスの役を上手く演じてやるから心配するな」


 同じような儀式ってなんだろ? だが、尋ねたら話が長くなりそうだからスルーした。ともかく、テオドさんが張り切っていることはよく分かった。


 そして今。テオドさんは自前の鎧や剣で正装して、村民の前でアロイスとして演説をしている。オレは斜め後ろでそれを聞き、ラウラやダイルたちもテラスの端のほうに立ってアロイスの話を聞いていた。


「ということで、この娘を私の世子せいしとし、私が持つ能力を授けた。そして、名前をケイ・ユウナ・アロイスと名付けた。これからケイ・ユウナは私と共にこの村を支配することを皆の者に宣言する。では、ケイ、ここへ」


 呼ばれて、オレはアロイスに向かって跪いた。アロイスがキラキラと輝くティアラを取り出してオレの頭に被せた。


「ケイ・ユウナはアロイス様の世子として共にこの村を支配し、アロイス様の名に恥じぬよう振る舞うことをお誓いいたします」


 オレはアロイスに跪いたまま当たり障りのない宣誓をして頭を下げた。これでオレはアロイスの正式な世子、つまり跡継ぎとなった。


 宣誓が終わってアロイスの横に立つと、階段の下に村長と長老たちが歩み出て跪いた。広場の方からザワザワと衣擦れの音や「静かにしろ」と言う声が聞こえてきた。村長たちに合わせて、村人全員がその場で跪いているのだ。


 やがて静かになって、村長の声が広場に響き渡った。


「アロイス様、ケイ・ユウナ様、このたびはおめでとうございます。我ら村の者はケイ・ユウナ様を守護神アロイス様の世子として崇め、ケイ・ユウナ様に対しましてもその命に従い忠誠を尽くすことをお誓いいたします」


「「「「お誓いいたします」」」」


 村人たち全員が声を揃えて誓った。村人全員が跪いて、アロイスとオレに忠誠を誓っている。オレはなんだか訳も分からず感動していた。きっと、この日のことは忘れることがないだろう。


「皆の者、私は皆の忠誠心を嬉しく思う。その忠誠心と今日のこの日を祝して、村の者全員に私の祝福を与えることとしたい。まずは、村長と長老たちから始めよう……」


 そう言いながら、アロイスは右手を前に差し出した。村長と長老たちが空中に浮かんだ。村人たちが一斉に「おおーっ!!」と驚きの声を上げた。


 空中に横たわった形で村長たち一人ひとりがアロイスのところに運ばれる。村長たちは皆眠っていて、アロイスに手を触れられて、元の場所へ戻されていく。


 実は全部、オレが念力魔法などを使って操作しているのだが、村人たちは誰もそれに気付かない。と言うか、無詠唱だから気付くはずが無いのだ。


「祝福を与えた。では、起きなさい」


 その言葉に村長たちは目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回した。そして、「おおっ!」と声を上げて、石壁の呪文を唱え出した。すると、階段近くの床の上に縦横1モラの石壁が現れた。


「すごいゾ! わしは〈土〉の魔法は使えなかったが、このとおりじゃっ!」


 今度はマルセルが浮遊魔法の呪文を唱えて空中に浮かび上がった。そして、5モラくらいの空中から石壁の呪文を唱えて、広場の床に石壁を作って見せた。


「おれは〈風〉の魔法も〈土〉の魔法もどっちも使えるようになったゾ! それに頭の働きがビックリするほど良くなったみたいだナ。今までは頭の中が泥水のよう濁っておったが、今では泉の水のように澄んでおる」


 ほかの長老たちもそれぞれが魔法を使って驚きの言葉を口にする。それを見て、ようやく村人たちも何が起きているのか理解し始めたようだ。


「すげぇーナ!」


「どうなってるんだぁ!?」


「祝福だぁ! あれがアロイス様の祝福ってことだゾ!」


 村人たちが歓声を上げ始めた。


「そうじゃ。アロイス様は、我ら魔闘士に相反する属性の魔法を使えるようにしてくださったのじゃ!」


「それだけじゃねぇゾ! おれを見ろ。何万回も呪文を唱える修行なんぞしねぇで、このとおり魔法が使えるようになったゾ!」


 村長とマルセルが叫んだ。


「「「「おおっ!!」」」」


 村人たちの歓声が大きくなって広間に広がっていった。騒ぎはなかなか収まらない。アロイスが村人たちに静まるよう手で合図をすると、次第に静かになっていった。


「私はこれより我が拠点に籠もって、また研究に没頭する。この村とこの地のことはケイ・ユウナに任せる。村長と長老、そして村の者は皆でケイを支えてやってくれ。よいな?」


「ははーっ、畏まりました!」


「「「「畏まりましたーっ!」」」」


 村長が跪いたまま頭を下げると、村人たちもそれに続いた。


「それから村人たちへの祝福だが、ケイ、おまえが行いなさい。村人たちにおまえの力を見せるのだ」


「はい、分りました」


 オレは軽く頭を下げた。手筈どおりだ。


 アロイスはテラスの背後にある礼拝堂へ入り、村人たちの方に向かって右手を高く掲げた。アロイスの背後に眩い金色のオーラが立ち昇った。


「「「「ア・ロ・イ・ス! ア・ロ・イ・ス! ア・ロ・イ・ス……」」」」


 誰かがアロイスの名前を叫び始めると、村人たちも続けて叫び出した。広場に連呼が木霊する中、アロイスは満足そうに微笑みながら消えていった。


「「「「おおーっ!!」」」」


 村人たちが驚きの声を上げた。


 実はアイラ神に手を取られて、アロイスと言うかテオドさんはワープしただけだ。アイラ神は礼拝堂の空中で待機していて、照明の魔法を使ってオーラを演出したり、テオドさんを退場させたりしてくれた。


 縁組の儀式はこうして成功裏に終わった。


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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