SGS134 配下登録をする
オレにアロイスのヨメになれなどと、突然にそんな突拍子もないことを言い出すとは……。マルセルはオレが困っている様子を見て、助けるつもりで言ってくれたのだと思うが。
もっと困ったことになってしまった。このピンチをどうやって切り抜けようか……。
オレが考えていると、フィルナが声を上げた。
「ちょっと待って。ケイはたしかに未亡人で独身だけど、まだ若いのよ。そんなこの世にいない人のおヨメさんするのは可哀そうよ。ケイだって本当に好きな人と結婚したいはずだもの」
「なるほど。たしかにフィルナさんの言うとおりじゃ。それなら、ケイ様とアロイス様を養子縁組みしたらどうかの? アロイス様はケイ様を自分の養女に相応しいかを確かめるために、大魔獣を退治するよう命じられたことにするのじゃ」
「おおっ! さすがは村長だぁ」
「ケイ様が独身のままの方が村の衆も喜ぶゾ。なにしろ、ケイ様に恋焦がれとる男どもは多いからナ」
「おれの息子もだぁ」
「息子って、おめぇ、自分のことじゃねぇのかぁ?」
「ガハハハハ」
その後もオレの気持ちを確かめることなくどんどん話が進んで行き、結局、オレをアロイスの養女にすることが決まった。近いうちに村で養子縁組の盛大な儀式を行って、名前も「ケイ・ユウナ・アロイス」に変えることになった。まぁ、仕方ない。ヨメになるよりは良いだろう。
バーサット帝国への対策を話し合うはずが、いつの間にかヨメや養女の話にすり替わってしまった。
「話をバーサット対策の件に戻します。さっきも話したように、バーサットの砦では魔闘士の増強を進めています。今のままだと、魔闘士の数はこの村をすぐに追い抜くでしょうね」
「じゃが、守護神アロイス様がこの村を守っておられる振りをこれからも続けるし、大魔獣を退治したケイ様も新たに養女として加わったと知れば、バーサット帝国は手出しをして来ぬじゃろう」
「いえ、それは甘いと思います。ダイルが話してくれたように、バーサット帝国はこの最下層に築いた砦を足場にして、クドル3国を侵略するつもりです。それに、この村にレングラン王国の魔闘士たちが来たと聞きました。おそらくレングランもバーサットの動きに気付いていて何か対策を講じようとするでしょう」
「そのとおりじゃ。何か月か前に地上の国から魔闘士たちが来たのぉ。クドル・パラダイスがバーサット帝国から侵略されるのを防ぐために来たとか言っておったゾ。あれからは村には来なくなったが、その後のことは分らぬ。村から偵察隊は出しておるんじゃがのぉ……」
「レングラン王国はバーサット帝国の軍隊がクドル・パラダイスを通って地上に進出するのを黙って見ているはずがありません。地上に進出する前にバーサット軍を叩こうとするでしょう。それはこのクドル・パラダイスが戦場になるということです。そのとき、このアーロ村は間違いなく戦いに巻き込まれます」
オレの言葉に村長や長老たちは顔を強張らせた。
「ケイ様、それで、どうすればいいのじゃ?」
「まずは、このクドル・パラダイスでバーサット帝国やレングラン王国の動向を探って正確な情報を掴むのです。それと、このアーロ村を変えなきゃいけません。まずは村の防衛力を高めるために魔闘士の数を増やしましょう。数だけではなく、その質も高めていくことが必要です」
「バーサットやレングランの動向を探るのは分かるが、魔闘士を増やすのはのぉ……。この村では譜代の者は大半が魔闘士になっておるゾ。残りの者は子供か体の弱い者だけじゃ」
「この村には外様衆と呼ばれている男たちが百人ほどいます。この男たちを教育して訓練し魔闘士にするのです。既に五人は魔闘士になっているし、実戦で鍛えたから魔力も全員が〈200〉を超えました」
「外様衆のぉ……」
村長は渋い顔をした。長老たちも不満気な顔だ。
「何か問題がありますか?」
「外様衆は知ってのとおり大半が地上の国で罪を犯してここに流されてきた罪人じゃ。性根の悪い者は村には入れておらんが、それでも荒くれ者が多い。そのような者どもに魔闘士の力を与えると、何か騒動を起こすやもしれぬでのぉ……」
たしかに村長の心配は尤もだ。騒動を起こされるのは困る。だがオレは既にその対策を考えていた。今からそれを実証して見せよう。
「その心配は無用です。どうして心配が要らないのか、今からそれをお見せします。どなたかに先陣を切ってほしいのですが……」
「先陣を切れとナ? 何をするのじゃ?」
「バリアを外して少し眠ってもらうだけです。わたしの配下となる儀式だと思ってください」
「ケイ様の配下となる儀式のぉ……。それと外様衆への心配とがどういう関係にあるのかよく分らんが、わしが先陣を切ろう」
村長はそう言いながらバリアを切った。オレは立ち上がって村長の後ろに立った。村長にはテーブルに顔を伏せてもらってから、オレは眠りの魔法を掛けた。そして、眠っている村長の手を取って「配下登録機能」を発動した。
配下登録機能。これはオレの魔力が〈500〉を越えたときに手に入れた機能で、コタローの話では地球生まれの神族だけが使えるらしい。
相手を自分の配下として登録すると、オレの配下になった者は厳しい魔法修行をすることなく、どのような属性の魔法でも使えるようになる。さらに、スキルの修得も今までよりも簡単になるのだ。ただし、魔力の強さが足りない場合は高度な魔法を使えないとか、神族専用の魔法は使えないとかの制限はあるが。
実は既にこの機能を使ってラウラのパーティーメンバー五人をオレの配下に登録済みだ。
男たちは魔法の修行をせずに色々な魔法が使えるようになったと喜んでいた。例えば、今までは〈火〉属性を使う者は〈水〉属性の魔法は基本的に使えなかったが、オレの配下になったから修行をすることなく〈火〉属性の魔法も〈水〉属性の魔法も使えるようになったのだ。
配下登録をするためには、相手がロードナイトであり、オレが眠りの魔法で眠らせて手を触れること、その者がオレに対して敵意を持ってないことが必須条件だ。コタローに尋ねたら、敵意があるかどうかは異空間ソウルの人工知能が読み取って判定しているらしい。つまり、コタローが判定してるってことだろう。
登録できる配下の数は無制限だ。ただし1年に1回は登録の更新が必要だから、配下の数を増やし過ぎるとオレが面倒になる。更新処理にはオレが必要だからな。更新を怠ると、その者のロードオーブが停止するというペナルティが付くらしい。つまり、配下になってオレから逃亡したら、そいつは損をするということだ。
それと、配下となった者に対してはいつでもそのロードオーブを停止させたり再起動させたりできる。だから、もし自分に逆らうような配下が現れたら、そのロードオーブを使えなくすればよいのだ。
さて、村長をオレの配下として登録したから、村長を目覚めさせよう。
「どうですか?」
村長は眠りから覚めると、目をパチパチさせた。
「いや……、何も変わっとらんゾ?」
不審げな顔だ。
「たしか村長は〈土〉属性の魔法は使えなかったはずですよね? そこの床に向けて石壁の呪文を唱えてみてください」
「石壁の呪文なんぞ、覚えとらんわい。そんな呪文は使わねぇからのぉ」
「では、その知識も授けましょう」
オレは村長の手を取って知育魔法を発動した。オレの魔力が〈500〉に達したから知育魔法も使えるようになったのだ。古代語や呪文、この世界の一般知識などを村長のソウルに植え付けた。一瞬で終わった。
「今度はどうです?」
「おぉっ! 呪文が頭に浮かんでくるゾ! 不思議じゃ……」
村長が石壁の呪文を唱えると、目の前の床に縦横1モラ厚さ30セラの石壁が現れた。
「「「「「おおっ!!」」」」」
長老たちから驚きの声が上がった。村長は驚きのあまり声も出ないようだ。
「どうしてじゃ!? どうして、わしが石壁の魔法を使えるようになったのじゃ?」
「それは、村長がわたしの配下になったからです……」
オレは配下登録機能の概略を説明した。
「じゃが、魔法は何万回、何十万回と唱えて初めて身に付くものじゃぞ? 石壁の魔法なんぞ、わしは生まれて初めて使ったんじゃが……」
「わたしの配下になれば、何十万回も呪文を唱えて魔法の修行をする必要はなくなります。魔法の属性に関係なく、自分の魔力の強さに応じた魔法を使えるようになるのです。それと、もう一つ……」
オレは村長から少し離れたところまで歩いて行って、村長の方に向き直った。そして、村長のロードオーブを停止させた。
「村長、今はどうですか? 魔法が使えますか?」
オレの問い掛けを受けて、村長は色々な呪文を唱えたが、全部空振りだった。
「これは、どうしたことじゃ! 魔法が一切使えぬようになったゾ!」
「わたしが村長のロードオーブを停止させたのです」
「ケイ様。あんたは、そんなことまでできるのか……」
村長は絶句している。
オレは配下登録した者に対してロードオーブの停止や再起動を自由にできることや、1年ごとに更新が必要なことを説明した。そして、停止させていた村長のロードオーブを再起動させた。
「たしかに、ケイ様のこの能力があれば村の魔闘士たちを完全に掌握できるのぉ。これなら外様衆を魔闘士に加えても安心じゃ」
「この方法なら、魔闘士の質を一気に高めることができます。魔闘士の数を増やすのは地道に魔獣狩りをして外様衆にラストアタックを取らせるしかないですけどね」
オレの言葉に村長も長老たちも頷いた。
「それで村長、どうしますか? わたしの配下になりますか?」
「もちろんじゃ。わしは喜んでケイ様の配下になるし、忠誠をお誓いするぞ」
「長老のみなさんは?」
「おれたちもぜひ配下に加えてもらいてぇ。なぁ、皆の衆」
「「「「「おおっ!」」」」」
全員が喜んで配下に加わると言うので、オレは長老全員を一人ずつ配下登録していった。
全員の配下登録が終わったときに、マルセルがオレのところに来て頭を下げた。
「おれ、村の防壁を作れなくて困っていたンだ。でも、ケイ様のおかげで解決しそうだ。ありがとうナ。ホントに助かったヨ」
「え? どういうこと?」
聞くと、事情がようやく分かってきた。マルセルは継承の儀式を行って、ギリルの魔力を引き継いだ。そしてギリルの意志も引き継ごうと、村の防壁を作ることにしたそうだ。防壁を作るためには〈土〉属性の石壁魔法が必要だが、マルセルは〈風〉属性の魔法を取っているため〈土〉属性の魔法は使えない。〈風〉と〈土〉は相反する属性であり、どちらか一方しか使えないからだ。それでマルセルは仕方なく〈風〉属性を捨てて、〈土〉属性の魔法に切り替えたらしい。
ところがマルセルは何度やっても石壁の魔法を失敗したそうだ。それは当然である。普通は魔法は何万回か何十万回か呪文を唱え続けてようやく修得できるからだ。〈風〉属性の浮遊魔法も使えなくなったし、〈土〉属性の石壁の魔法も失敗ばかりだし、途方に暮れていたらしい。今回、オレの配下になったことで、それが一気に解決したと言うのだ。
村長や長老たちもマルセルが困っていることを知らなかったそうで、マルセルの嬉しそうな顔を見て、広間は和やかな雰囲気になった。だが、話はまだ途中だ。
「話の続きがあります。もう一度席に座ってください」
オレが言うと、みんなは席に着いてオレの顔を見た。
「この村にはバーサットの件だけでなく、ほかにも問題があります」
「問題? ケイ様、それは何じゃ?」
「村の男の数と女の数の釣り合いが取れてないことです」
「譜代の者は男も女も五十人くらいで釣り合っておるンじゃが、百人くらいおる外様衆の大半が男じゃからのぉ。じゃが、こればかりは……」
村長は腕を組んで顔をしかめた。
「ケイ様、分かったゾ! ラウラさんが外様衆の男同士を熱心にくっ付けていた理由はそれだナ!」
マルセルが立ち上がって大声を出した。だが、それはすごい誤解だ。
「なるほど。そうじゃったか……」
村長やほかの長老たちまで納得したような顔をして頷いている。
「ケイ、そうなのか?」
ダイルまでがマジに聞いてきた。フィルナとハンナは驚いたように口に手を当てて、ラウラは赤い顔をして俯いている。
「いえ、違います。とんでもない誤解です」
オレはラウラを睨みながら答えた。
「わたしはこの村の女性の数をもっと増やしたいと思います。できれば数が釣り合うくらいまでにね」
「じゃが、ケイ様。そのようなことが、できるかのぉ……」
「そうですね、村長。簡単には増やせません。この問題の解決は少し時間が掛かります。わたしに考えがあるので任せてください」
オレの言葉に村長は頷いた。
別に難しいことを考えているわけではない。オレは地上の国で女奴隷を買い集めてこの村へ連れてくるつもりだ。
女奴隷を買い集めると言うと残虐に聞こえるが、実はそうではない。奴隷の女が地上の国でどれほど酷い扱いを受けて悲惨な末路をたどるか、オレは自分が奴隷になっていたから嫌と言うほど知っている。
この村に連れてきた女奴隷は、奴隷の身分から解放して普通の村人として扱う。この村で結婚するのも、腕を磨いて魔闘士になって村を出ていくのも自由だ。ただし、暗示魔法を掛けて秘密は守ってもらうが。
だがその前に、まずオレ自身が地上の国へ出ることが先決だ。行って戻ってくるルートを見つけなければならない。
「ほかにも解決すべきことがあります。それは地上と行き来する道を見つけることです」
その後も話し合いは続いた。地上へのルートについてはすぐに目途が付いた。ダイルが地上へ出るワープゾーンを知っていたのだ。その場所はクドル・インフェルノの中にあるらしい。
バーサット帝国やレングラン王国の動きを探る件も手を打った。村の魔闘士を編成して今まで以上に偵察を密にすることにしたのだ。
そして、アロイスとの縁組の儀式は3日後と決まった。
※ 現在のケイの魔力〈777〉。
※ 現在のユウの魔力〈777〉。
※ 現在のコタローの魔力〈777〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




