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SGS133 守護神の跡継ぎ

 広間の壁にもアロイスの新たなメッセージが表示されていた。これはウィンキア語だ。


 〈私はアロイスだ。村長と長老たちに重要なことを告げる。

 私は我が後継者にこの拠点と村、そして私のスキルを引き渡した。後継者が大魔獣を倒して、その勇気と力量を示したからだ。皆がこのメッセージを読むころには私は引き渡しを終えて、この世界から消えている。

 これからは、村長と長老、そして村人たちは我が後継者の命に従うのだ。

 なお以前にも伝えたが、我が後継者が村の存続を望まぬと判断したときは、この拠点の破壊処置を発動するかもしれぬ。破壊処置が発動されれば、そのときより24時間後にこの拠点は完全に破壊されるだろう。つまり、魔力泉と結界魔法が消えるということだ。そのときは、村長と長老、村人たちは我が後継者に従う必要はない。村に留まるのも行きたいところへ行くのも自由だ。

 もし我が後継者がこの村を存続させてくれるなら、そのときは村の者皆が我が後継者に真心を尽くして仕えてほしい。それが村の繁栄と皆の幸せに繋がるはずだ。最後に、村長をはじめ長老、村人たちが私に忠義を尽くしてくれたことに礼を言う。心から感謝している。

 我が後継者と村の者皆にマスターのご加護と祝福があらんことを〉


 オレがメッセージを読み終えて振り返ると、ナムード村長と長老たちが広間の床にひれ伏した。オレが読み終えるのを待っていたらしい。


 なんだろ? 不思議に思っていると、村長が大声で何か言い始めた。


「ケイ様、何とぞこれまでの無礼をお許しください。我ら村の者はケイ様を守護神アロイス様の跡継ぎとして崇め、ケイ様の命に従い忠誠を尽くすことをお誓いいたします」


「「「「「「お誓いいたします」」」」」」


 いきなりの宣誓に驚いて、オレは唖然としてしまった。


『ケイ、しっかりして! 何か言ってあげないと……』


『あっ! そっか……』


 ユウに言われてようやく頭が回り始めた。オレは跪いている村長のところに歩み寄った。そして手を取って立ち上がらせた。


「みなさんも立ち上がって……。どうか、椅子に座ってください」


 村長とマルセルなど長老六人がテーブルを挟んでオレの対面に座った。ラウラやダイルたちも座っている。


「まず、村長と長老のみなさんにお礼を言わせてください。長老たちが戦いに加わってくれたおかげでムカデの大魔獣を倒すことができました。それは村長が長老たちに頼んでくれたからです。ありがとう、みなさん」


 オレはテーブルに手を着いて頭を下げた。


「いやぁー、そんなふうに言われると小っ恥ずかしいのぉ……」


 村長は白髪交じりの硬そうなタワシ頭をガシガシと掻きながら言葉を続けた。


「正直言うとナ、この広間でケイ様がアロイス様の後継者候補だと知ったときはの、わしらは皆あんたを馬鹿にしておったのじゃ。失礼な言い方じゃが、あのときは目の前の小娘がアロイス様の後継者になれるはずがないと思っておった。小娘二人に大魔獣が倒せるとは思えなんだからのぉ」


 村長は言葉を一旦切った。何かを考えるように少し俯きながら再び話し始めた。


「じゃがのぉ、この3か月でその考えは間違いだと分かったのじゃ。ケイ様、あんたがわしらに示してくれたのは勇気と力量だけじゃねぇゾ。あんたらはわしらが考えもしなかった闘技場を作った。わしらが協力しないことに挫けずに、あんたらはいつの間にか外様衆を手懐けて魔闘士に仕立て上げた。あんたらはダイルさんたちの信頼を得て仲間に加えた。それにのぉ、ケイ様。あんたはケビンの父親が死んだときに遠くから駆け付けて、泣き喚くケビンを黙って抱きしめてくれたんじゃ」


 村長はまた言葉を切った。それまで伏し目がちに喋っていたが、顔を上げて、オレの目を直視した。


「あんたには勇気もあるし力量もある。知恵がある。挫けない根性がある。仲間から信頼されとる。いや、それだけじゃねぇ。何より誠意が溢れておるンじゃ。

 わしはのぉ、決戦の日が近付いてきたときにナ、長老たちを集めて相談したのじゃ。ケイ様はアロイス様の跡継ぎに相応しい。じゃから、ぜひ跡継ぎになってもらおうとナ。長老たちは皆賛成してくれてのぅ。ケイ様が大魔獣との戦いで危うくなったら、長老たち全員が戦いに加わってくれることになったのじゃよ」


 村長の言葉と目力の強さにオレは圧倒されていた。思わず目をパチパチと瞬いた。オレって、そんなに立派だったか?


「村長。わたしを褒めてくれるのは嬉しいけど、それは買い被り過ぎです。ラウラやダイルたちが頑張ってくれたおかげですよ」


「そうじゃの。じゃがそれもケイ様の人徳のなせる業じゃよ」


 そうかな……。なんだか顔が火照ってきたぞ。


「ところでケイ。おまえが引き継いだこの拠点と村をどうするつもりだ?」


 隣に座っているダイルが聞いてきた。


「そうだった。肝心なことを言わないといけないね」


 村長や長老たちもそれを聞くためにここに来ているのだ。オレは村長の方に向き直って話を始めた。


「この拠点はそのままにしておきます。村の運営は今までどおり村長と長老のみなさんにお任せします。ただし、この村が今のままで良いとは思ってません」


「それは、どういうことかの?」


「まずはバーサット帝国に対する備えです。バーサットの砦には四百人の兵士がいて、その中の六十人が魔闘士だと聞いてます。さらに増強を進めているそうですから、きっとこの村へもまた手を出してきます。その対策が必要です」


 この話は3か月前にバーサット帝国の魔闘士や兵士を尋問して掴んだ情報だ。


 オレの話に対して村長よりも先にダイルが反応した。


「ケイ。バーサット帝国のことを知ってるか? バーサットは危険だぞ……」


 ダイルがバーサット帝国について話してくれた。バーサット帝国は人族の国だが、大地の神様を崇め、魔族とも協力関係にあると言うのだ。この国は皇帝や貴族などの支配層と一部の上級国民だけが優雅に暮らしていて、大半の国民は奴隷や家畜のように扱われて悲惨な暮らしをしているらしい。


 そして、このバーサット帝国は魔族と手を組んで密かに人族の国へ侵略を始めていると言う。


「ダイルがバーサットが危険だと言ったのは、バーサットに侵略された国の住民たちも奴隷や家畜同然に扱われることになるから?」


 オレが尋ねると、ダイルは「まぁ、それもあるが……」と言って話を続けた。


 ダイルはバーサット帝国の非道な行為を色々と見てきたと言う。実際にベルドラン王国やブライデン王国では国が滅びる寸前まで追い込まれたが、何とか撃退したらしい。


 バーサット帝国が他国を侵略する手口は、各国の地下にあるダンジョンの最下層を使うことだ。どの最下層にもクドル・インフェルノと同じように広大なドームがあるらしい。このドームは魔族や魔物が妖魔や魔獣に変異する場所だが、もう一つ特徴がある。それは、各ドームにワープゾーンがあって、別のドームや地上にワープができることだ。つまり、各国のダンジョンの最下層はワープゾーンで繋がっているのだ。


 バーサット帝国はその最下層で魔闘士を養成して、さらにワープゾーンを使って他国へ密かに侵攻しようとしているということだ。


 現にバーサット帝国はこのクドル・ダンジョンにも手を出してきた。3年前に砦を築いたのだ。狙いは明らかだ。クドル湖の周囲にある3か国、つまり、レングラン王国、ラーフラン王国、ダールム共和国だ。


 バーサット帝国は着々とクドル3国への侵攻を準備しているらしいが、砦からの侵攻ルートにはアーロ村がある。この村には七十人もの魔闘士がいて、大半の魔闘士が魔力〈200〉以上だ。バーサット帝国から見れば侵攻の邪魔になるだけでなく脅威となるはずだ。


 地上へ通じるワープゾーンがアーロ村の近くにあるため、砦から進軍するときに村の近くを通ることになる。クドル・パラダイスを逆に回っても進軍できるが極端な遠回りになり、それだけで兵士たちは疲弊してしまう。バーサット帝国にとってアーロ村の存在は目の上のタンコブということだ。


 バーサット帝国はその脅威を取り除くために、3年前にこの村に対して何度か戦いを仕掛けてきた。だが、そのすべてを村の魔闘士たちが撃退したそうだ。その後は手出しをしてこずに静観しているらしい。その理由は、アロイスとアーロ村の住人がこの最下層から出るつもりが無いことをバーサット帝国側が知り、そうであれば脅威ではないと判断したからだろう。ダイルはそう推測している。


「しかしな、アロイスがいなくなったことをバーサット帝国が知ったら、どう動くと思う? アロイスの代わりにケイという神族の娘が村を支配するようになったと知ったら、バーサット帝国はどう動くと思う?」


「また、アーロ村にちょっかいを出してくるわね?」


 オレの代わりにフィルナが答えてくれた。


「そうだ。たぶん、何かを仕掛けてくるだろう。兵を出してくるか、脅してくるか……」


 ダイルはフィルナに頷きながらそう言った。


「さっき、バーサットが危険だと言ってたのはそういう意味だったのね?」


 ラウラが問うと、「ああ」とダイルは頷いた。


 ダイルが話してくれたバーサット帝国の脅威も、これからの動きも本当だと思う。オレも捕らえた兵士たちを尋問して同じようなことを知っていたし、バーサット側の動きを懸念していたからだ。


 正直なことを言えば、アロイスのスキルさえ得てしまえば、村の運営やバーサット対策などは村長や長老たちに丸投げして、とっとと村を出ようと思っていた。面倒なことに巻き込まれたくないからな。


 だが、そうはいかなくなった。村を出るつもりでいることを相談したら、意外なことにユウとコタローが反対したのだ。オレが村を支配する立場になったのにバーサット帝国の脅威に対して何もしないまま村を去るのは、マスターの意向に反するのではないかとユウたちは言うのだ。たしかに以前、アドミンから「マスターの意向にオレが反しない限り魔力制限解除の状態が継続される」と言われてたっけ。


 アドミンに確認すると、マスターの意向とはこのウィンキアに平和をもたらし、マスターの安住の地とすることだそうだ。マスターは行方不明になっているのに、その安住の地にするって意味が無いと思うのだが、それでもアドミンはマスターの命令に忠実なようだ。でも、考えてみればマスターの安住の地にするということは、このウィンキアの世界を平和にするということでもあるから、それでいいのかもしれないが……。


 ともかく、バーサット帝国は魔族と手を組んで人族の国を征服し、支配地を広げようとしている。村を支配する立場になったオレが、バーサット帝国の脅威を見過ごすことはマスターの意向に反することになるらしい。だから、オレはユウたちと相談してその対策を既に考えていた。


 バーサット帝国の脅威を説明してくれたダイルにオレは「ありがとう」と軽く頭を下げて、村長の方へ顔を向けた。


「ともかく、いずれバーサット側から何か仕掛けてくると思います。さっきダイルが言ったように、この村を支配していた守護神がいなくなり、守護神に代わって神族の小娘が村を支配したとバーサット側が知れば、間違いなく何か仕掛けてくるでしょうね」


「ケイ様、それでどうせよと言われるのかの?」


「アロイスがこの拠点の中で生きていることにするのです。この村を支配しているのもアロイスということです」


「なにを言われるのじゃっ!? ケイ様はアロイス様の跡継ぎであり、この村を新たに支配されのじゃろ? それとも、この村を捨てるお考えかの?」


 村長や長老たちの顔色が変わった。不安気な顔でオレを見つめている。


「違います。わたしはアロイスの跡を継ぎますし、実質的には村も支配します。でも、それは当分の間は隠れてこっそりとやります。なぜなら、バーサット帝国を刺激しないためです」


「つまり、アロイス様がいなくなり、神族の小娘が跡を継いだと分かれば、すぐにもバーサットが動き出すと? ケイ様はそう考えておられるのかの?」


 村長の問い掛けに、オレは頷いた。


「ですから、当分の間は隠れてこっそりとこの村を支配するのです」


 村長はオレの言葉を受けて、考え込んだ。


「だけどよぉ、ケイ様。隠れてこっそり村を支配すると言われてもナ、村の衆は皆、ケイ様がアロイス様から大魔獣退治を命じられてあのムカデを倒したことは知ってるゾ。ケイ様のことは今さら隠せねぇことだぁ」


 長老の一人が言った。


「わたしが大魔獣を倒したことは隠す必要はありません。隠すのはアロイスがいなくなったことです。

 アロイスが消えたことを知ってるのは村長と長老たちだけですよね。だから、隠すことはできます。村人たちにはアロイスはまだ元気で、この村を引き続き支配していると説明するのです。そうすれば、バーサット側もアロイスがいなくなったとは思わないでしょう」


「それはそうじゃがのぉ。じゃが、ケイ様のことを村の衆になんと説明するのじゃ? ケイ様が酔狂で大魔獣退治をしたとは誰も思っておらぬし、ケイ様だけがこのアロイス様の住まいに出入りできるのを村の衆は知っておるゾ?」


 村長に言われてオレは考え込んでしまった。たしかに村長の言うとおりだ。オレのことを村の連中に何て説明してもらおうか……。


 考え込んでいると、こちらをじっと見ていたマルセルが声を上げた。


「ケイ様、そんなに難しく考えることはねぇゾ。アロイス様が生きているってことにするのなら、簡単なことだぁ。ケイ様はアロイス様のヨメになるンだぁ。そういうことにすれば、村の衆も納得するゾ。なぁ、皆の衆」


「おおっ! そうだ、そうだ」


「ケイ様はアロイス様のヨメだ」


「こりゃ、めでたい」


 長老たちはパッと顔を明るくして歓声を上げた。


 なにーっ!! オレがアロイスのヨメだって!? 


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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