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SGS131 再びアロイスの拠点に入る

 倒した二頭の大魔獣からは硬いムカデの殻や牙などの貴重な素材や数十個の大魔石が得られた。ダイルたちが倒したムカデは当然ダイルたちの取り分だ。オレたちが倒したムカデは長老たちやパーティーの男たち、そして村長に渡して山分けしてもらった。


 ラウラとオレはもっと価値があるものを得ることができた。ラウラが得たのは破格の高い魔力だ。ダイルが気を利かせてくれて、ラウラにラストアタックを取らせてくれたのだ。ムカデの大魔獣は魔力が〈1300〉だったから、そのソウルをオーブに格納したことでラウラの魔力はその半分の〈650〉になった。


 ラウラにラストアタックを譲ってくれたということは、ダイルたちの魔力はそれよりも高いということだ。特にダイルの強さには驚かされた。魔獣たちをあっという間に倒したし、余裕で大魔獣ムカデと戦っていたようだ。ダイルは魔力が高いだけでなくスキルや戦闘経験がオレよりも格段に上なのだろう。


 オレはラウラの魔力が一気に倍増したことを知って、ラウラの手を取って喜んでいると、村長から意外なことを言われてしまった。


「喜んでおるのに水を差すようですまんがナ、大魔獣のソウルを格納したロードオーブは魔力がそれで打ち止めになると聞いておる」


「それって……、つまり、ラウラの魔力が〈650〉で止まってしまって、それ以上は高まらないってこと?」


「そういうことじゃナ」


 それは困る。たしかに魔力〈650〉は普通に考えれば抜きん出た魔力だが、オレは魔力〈1000〉を越えることを目指しているから、ラウラにも一緒に追随してほしいのだ。ラウラにも以前からそのことは話してある。


「あたし、ロードオーブのソウルをもう一度入れ替えるわ。ラストアタックを取らせてくれたダイルには悪いけど、魔力が〈650〉より上がらないのは困るもの。ケイと一緒に頑張るつもりだから」


「そうだよね……」


 その後、クドル・インフェルノで訓練をしていて魔力が格段に高い妖魔と遭遇し、ラウラはそのラストアタックを取ることになる。そして、ロードオーブのソウルを入れ替えるのだが、それはもう少し後の話だ。


 ………………


 話が逸れたが、オレが得ることができたのはアロイスのスキルとアーロ村を支配する権利だ。正確に言えば、これからアロイスの拠点に入ればそれを得ることができるはずだ。


 今、オレたちはアロイスの拠点の入口にいる。岩壁を刳り貫いて作られた広間の中だ。


 戦いの後始末が終わってから、オレはラウラとミサキ、それとダイルたちを伴ってここに来たのだ。ナムード村長やマルセルなど長老たちも一緒に付いてきた。この村を支配する者が変わるのだから、その場に立ち会って確認するためだ。


「アロイスの拠点にはケイしか入れないの?」


 ハンナが不満そうな顔で尋ねてきた。ここまで来たのだから、そりゃ入ってみたいよな。その気持ちは分かる。


「うん。神族しか入れない。それにね、色々な条件が付いてるから、わたし以外の神族が入るのはムリだと思う。ええと、試してみる?」


「どうやるの?」


「あの窪みに体を入れたら上から扉が下りて来て窪みの中に閉じ込められるんだ。その中で全身を調べられる。それで、条件を満たす者だけが拠点の中に入れるようになってる。条件を満たさなかったら入れないだけだから、心配いらないよ」


 オレは広間の奥の壁を指さした。薄暗い長方形の窪みがあって、窪みの中の壁には穴がたくさん開いていた。その窪みに体を入れるのだが、かなり勇気が要る。オレもここに来るのは2回目だが、初め来たときはオシッコをちびりそうなくらい怖かった。


 ハンナもフィルナも気味悪そうに窪みを見ている。


「あの穴から触角がたくさん出て来て全身を這いまわるのね? あたし、耐えられないわ」


 ハンナが小鼻を膨らませて身悶えした。何を妄想しているのかは想像がつく。


「でも、試してみようかな……」


 ハンナが呟いたが、それを無視してダイルが口を開いた。


「入口から入れないのなら、土魔法で岩を刳り貫いて中に入ってみるか?」


 ダイルがそう言うと、後ろで黙って聞いていた村長が慌てて口を開いた。


「それはダメじゃ。不正な方法でアロイス様の住まいに押し入る者があったら、その者を道連れにして住まいがすべてが破壊されると言い伝えられておるのじゃ」


「たぶん、それはホントのことだと思うよ」


 オレが呟くと、ダイルは頷いた。アロイスはウソを吐かないからな。


「じゃあ、行ってくるね。少しここで待ってって。できるだけ早く戻るから」


 オレの言葉にラウラとミサキは頷いた。ダイルも手を振って応えてくれた。フィルナとハンナは何かを囁き合っている。その声が聞こえてきた。


「ねぇ、全身を調べられるのなら、着てる物を脱がなくていいのかしら?」


「触角はワンピやパンツの隙間から入ってくるのよ、きっと……」


「まぁっ!」


 二人の会話を聞いてると、こっちまで身悶えしそうになってくる。


 ………………


 前のときと同じ手順でアロイスの拠点に入った。今度も床が開いて体が落ちたが、今回は余裕だ。何が起こるのか分かっているから、恥ずかしい悲鳴を上げることもなかった。


 拠点に入るときには今回も強制的に眠らされた。コタローが言うには、眠らされてる間にオレに掛けられていた暗示の解除が行われたそうだ。


 床に着地して部屋の中を見渡した。まず気付いたことは、アロイスの亡骸が消えてしまったことだ。亡骸があったはずの天蓋付の大きなベッドは空っぽになっていた。


『たぶん、アロイスの死体は分解魔法で土になって、どこか別の場所に排出されたのだろうにゃ。アロイスはこの世界から自分の死体も消したみたいだわん』


 なるほど。そういうことか……。


『ケイ、壁の文字……』


 ユウに言われて壁を見た。前回ここに入ってきたときもこの壁にアロイスのメッセージが表示されていた。今もメッセージが表示されているが、前回とは違う内容のようだ。古代語だが、知育魔法で知識を得たから今度はオレにも読める。


 〈おめでとう。貴殿は私の期待に応えて期限までに大魔獣を倒し、ここへ戻ってきた。貴殿を私の後継者と認め、この拠点と村を引き渡そう。これから先は貴殿が思ったとおり自由にすればよい。

 私が貴殿に掛けた暗示はすべて解除された。私のスキルについては既に貴殿の異空間ソウルおよび貴殿のソウルに書き込まれている。なお、貴殿の場合は私のスキルをすべて書き加えてもスキル数が神族の最大スキル数である50個に達しないため、私のスキルの取捨選択をすることなくすべてのスキルを書き加えた。

 貴殿は難題を克服してここに至った。険しい道であったろう。貴殿が示した勇気とその力量があれば、貴殿が進む道がたとえ今後も険しくとも大抵のことは乗り越えられるはずだ。貴殿が進む道にマスターのご加護と祝福があらんことを〉


 シンプルなメッセージだが、なんだかアロイスから励まされたような気がした。


 たしかに険しい道だった。死ぬほど険しい道だった。この3か月の間に何度も死にそうになったが、仲間たちの協力を得ながら何とかここまでやって来れた。その一つひとつが写真を捲るように思い出されて、ようやく「やり遂げたんだ」という嬉しさが込み上げてきた。


 オレの心の中にあの言葉が浮かんできた。今回の無謀とも思える挑戦を後押ししてくれたあの言葉だ。


 “迷ったら険しい道を選べ”


 その言葉を教えてくれた自分の父親にオレは心から感謝した。


『ねぇ、アロイスのスキルって使えそうなのがあるの?』


 ユウに言われて、メニューの「スキル一覧」を開いた。


 ※ 現在のケイの魔力〈777〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈777〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈777〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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