SGS127 大魔獣ムカデとの決戦その1
闘技場はクドル・インフェルノの中にある。洞窟を出てすぐのところに完成していた。ここが大魔獣ムカデとの決戦の舞台となる。その広さは150モラ四方ほどだ。
モグラ叩き作戦のために作られた闘技場だが、オレが最初に考えていたような地面の穴は作ってない。ダイルから色々と意見をもらって、大幅に見直したからだ。
どこを見直したかと言うと、まずオトリが三人に増えた。ラウラだけでなく、フィルナとハンナもオトリになってくれることになった。
闘技場には穴を無くした代わりに高さ3モラほどの石柱を多数配置した。この石柱は内部に煙突状の縦穴が通っていて、地下トンネルと繋がっている。煙突の内側は鋼壁で作られていて、大魔獣が石柱と激突しても壊れないよう十分な強度が確保されている。
この石柱にラウラたち三人のオトリを分散して配置することにした。ラウラたちはこの煙突の穴から上半身を出してムカデに対して遠距離射撃を行う。ムカデは怒ってラウラたちオトリに向かっていくはずだ。オトリを次々と変えてムカデを誘導する。
そのために石柱の配置に工夫がしてあった。ムカデがオトリに向かっていくように石柱を並べて見通しが利く誘導路を確保していることだ。一見バラバラに配置されたように見える石柱だが、ムカデは怒りにまかせてオトリを追いながら誘導路をオレたちが仕掛けた罠に向かって進むようになっているのだ。
誘導先にはダイルが仕掛けた罠があって、そこでダイルがムカデに戦いを挑んで足止めをする予定だ。オレはその隙にムカデにこっそり近付いて急所を突く。これがダイルたちと見直した作戦案だ。
穴を無くして石柱に変更したのは戦いを優位に進めるためだ。石柱が邪魔をするからムカデはあの凄いスピードで移動することはできなくなる。それに、オレやダイルは石柱を使いながらムカデから隠れたり移動したりできる。さらに、石柱の配置を工夫することでムカデを罠に誘導することができるのだ。
ちなみに、石柱の煙突には蓋が付いていてムカデの毒が内部に入らないようになっている。ラウラたちオトリの三人はムカデから毒砲を撃たれたら、煙突の蓋を閉めて梯子を伝って地下トンネルに逃げ込めば安全だ。
それと、少し迷惑な話だが、なんと、村人たちが観客席を作ってしまった。オレたちがムカデの大魔獣と戦うところを見物したいと言うのだ。村人たちが作った観客席は分厚い石壁に守られていて、しかもクドル・パラダイスへの洞窟と繋がっているから危険が迫ったら待避できる。だから安全だ。楽しみがほとんど無いアーロ村で、今回の大魔獣との決戦はまたとない娯楽イベントなのだろう。
観客席を作るに当たって、1か月前に村長がオレに許可を求めてきた。少し迷ったが、大魔獣を倒せばオレが支配することになる村だ。その村人たちが喜ぶようなサービスをしておくのも良いかもしれない。そう思って渋々承諾した。
オレたちは早朝から闘技場に来て、作戦の最終確認をした。村人たちにも戦いの時刻を伝えてあったから、大勢が集まっているようだ。
ついにそのときが来た。戦いが始まるのだ。
既に全員が位置に着いている。ラウラたちオトリ役は石柱に入っているし、ダイルは闘技場のどこかに隠れている。オレがムカデを誘き寄せるのを待っているはずだ。
遊撃隊の男たちは地下トンネルの中にいて、いつでも出動できるよう構えているだろう。ミサキも上空300モラのところに浮かんでいた。全体の状況を監視しながら指揮を取るためだ。
オレはムカデを狙撃するために丘を越えたところにいた。草地で膝撃ちの姿勢を取っている。
ムカデの大魔獣はいつもの場所でエサを食べていた。オレがムカデを狙撃すれば、怒ったムカデはオレを追ってくるはずだ。そのまま闘技場までムカデを引き込めれば作戦は上手く進んでいくだろう。
『みんな。いいわね? 始めるわよ。ケイ、狙撃をお願い』
ミサキから合図が来た。ミサキは違和感なく女性らしい動作や話ができるようになっている。ユウが徹底的に教え込んだ成果だが、実はコタローが操ってると思うと、ちょっと複雑な心境だ。
おっと。そんなことを考えてる場合じゃない。
『了解。はじめるよーっ!』
オレは狙撃スキルを発動してムカデの右目に熱線を撃ち込んだ。
――――――― ケビン ―――――――
おれっちはミーナ姉やマルセル兄と一緒に大魔獣決戦の見物に来てるンだ。朝早くから観客席に陣取って、戦いが始まるのを待ってるわけサ。
姉ちゃんたちは観客席の内側で見てるけど、ちっちゃい覗き窓しかねぇからヨ、ろくに見物なんぞできねぇ。それでおれっちは観客席の屋根に上がって見物することにしたわけヨ。屋根も分厚い石で出来てるから尻が冷てぇけどナ、そこは我慢するしかねぇサ。
ミーナ姉たちは屋根は危ねぇって止めたけどヨ、心配いらねぇよ。大魔獣はおれっちのような雑魚は無視するだろうからナ。それに危なくなったら観客席に逃げ込めばいいのサ。おっちゃんたちが屋根の出入り口に毒避けの蓋を付けてくれたからナ。だから、毒の弾を撃たれても中に逃げ込めば平気なわけヨ。
あれっ!? おれっちだけが屋根の上を一人占めできると思ってたらよぉ、村長と長老たちも上がってきたゾ。長老になったばかりのマルセル兄までいるナ。ミーナ姉を放っておいていいのか?
「ほぉーっ。ここはよく見えるのぉ。ケビンや、わしも横に座るゾ」
村長は勝手におれっちの隣に来て胡坐を組んだ。長老たちが座ってるとこへ行けばいいのにヨ。
仕方ねぇ。相手をしてやるか。親父のことで村長には色々世話になってるからナ。
「村長よぉ、ケイ姉とラウラ姉は大魔獣に勝てるよナ?」
「さぁて、どうじゃろうのぉ。じゃが、神族の使徒をやっとるような助っ人が加わったからの。勝てるやもしれぬナ」
頼りねぇナァ。村長たちが加われば勝てること間違いねぇのにヨ。
「おっ! 始まったようじゃ」
村長が丘の方を指さした。見るとケイ姉が凄い速さで丘から駆け下りてくる。
ありゃっ!? 空中に黒い点々が現れて、ケイ姉を追い掛け始めたゾ!
「なんだぁ?」
思わずおれっちが声を出すと村長が答えた。
「ムカデの毒砲弾じゃ!」
あの黒い点々が毒砲の弾らしいナ。見てると、ケイ姉には当たらずに空中で消えていく弾が多い。変だナ?
何発かがケイ姉の近くに落ちて、緑色の煙を上げた。
「ほぉ。こりゃ凄いわい! ケイ様は毒砲弾をほとんど撃ち落としたゾ!」
えーっ!? 弾はよぉ、凄い速さで飛んできたんだぜっ!
「ほとんど撃ち落としたって? そんなこと、できんのかヨ!?」
「ケビンよぉ、それどころじゃねぇゾ!」
村長の言うとおりだ。ケイ姉の後を追って、ムカデの大魔獣が丘の上に現れたンだ。ムカデのヤツ、超速ぇぞっ! ケイ姉、追い付かれちまう!
「ありゃっ!? おかしいの? ムカデが足を緩めとる。どうしたんじゃ?」
ホントだ。ムカデは丘の真ん中辺りで止まりやがった。でも、おかげでケイ姉は無事だゼ。闘技場の中に走り込んで、石柱の陰に隠れたみたいだナ。
「ムカデは闘技場を警戒しとるようじゃが……」
村長はそう言いかけて、不審げな顔で辺りを見回し始めたゾ。なんだろ?
「ケビン、何かおかしな音が聞こえんか?」
村長に言われておれっちも気が付いた。「シャッ! シャッ!」というような音が聞こえる。ムカデが出してるみたいだナ。
「不気味な音だナ。村長よぉ、ありゃ何の音だぁ?」
「わしも初めて聞いた音じゃ」
村長も気味悪そうにしてるナ。あの音のせいでおれっちも鳥肌が立ってきたゾ。
※ 現在のケイの魔力〈762〉。
※ 現在のユウの魔力〈762〉。
※ 現在のコタローの魔力〈762〉。
※ 現在のラウラの魔力〈320〉。




