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SGS126 そして2か月が過ぎた

 今回のアイラ神との会合は期待以上の成果があったと思う。アイラ神と友達になれたし、いつかユウの恋人と会うことになっても何とか上手くやっていけそうなメドがついた。子供の行方は分からないが、この件は焦らない方が良さそうだ。


 あっ、もう一つ聞きたいことがあった。


『ええと、アイラと連絡したいときはどうすればいい?』


『フィルナが近くにいれば、フィルナ経由で連絡をちょうだい。フィルナはあたしの使徒だから、いつでも念話で話ができるから。それと、この村にはワープポイントを設定したから、呼ばれたらいつでもワープしてくるわよ。呼ばれなくても遊びにくるけどね』


 そう言ってアイラ神は笑顔になった。


 ワープポイントというのは予め登録しておいたワープ先のことだ。ワープはどこへでも行ける魔法ではない。ワープポイント設定魔法を使って事前に登録しておいた場所か、または自分の使徒がいる場所にしかワープできないのだ。


『それと、あなたもカイエン共和国に遊びに来てね。カイエンにワープポイントを設定しておけば、いつでも会えるわよ』


 オレがコタローから与えられた〈知識〉によると、カイエン共和国というのはアイラ神が実質的に支配している国の名前だ。神族が裏で支配している国は普通は王国制で統治をしているが、カイエンは共和制だ。国王ではなく国民の選挙で選ばれた元首によって国が統治されているらしい。アイラ神はその元首や国を陰から支えているようだ。


 フィルナが教えてくれたことだが、アイラ神がいないとカイエンという国は混乱することになるようだ。そのことを元首も国民もよく分かっていて、アイラ神は国民から敬愛されている存在らしい。アイラ神の存在に頼っているのは国家としてアブナイと思うのだが、オレがそれを心配しても仕方がないことだ。


 カイエンは造船と貿易で成り立っている国だ。造船と言っても造っているのは普通の船ではない。空を飛ぶ船で、魔空船まくうせんと呼ばれている。ただしどこでも飛べるわけではなく、魔樹海から放出されている魔力の反発を利用して浮遊するため、飛べるのは基本的には魔樹海の樹上近くの空中だけである。


 魔空船を発明したのはカイエンの人間で、百数十年前のことらしい。このウィンキアの世界で大半の魔空船はカイエン共和国で造られている。見よう見まねで魔空船を自国で造っている国もあるらしいが、その品質はカイエン製に全く及ばないそうだ。


 ちなみに魔空船が発明されたおかげでオーブ石とオーブ玉の輸送は危険度が半減し、輸送期間も大幅に短縮されたそうだ。オーブ石とオーブ玉はソウルオーブを作るための原材料だ。商隊がドワフン王国(ドワーフの国)で産出されたオーブ石をエルフン王国(エルフの国)へ運び、ここでオーブ玉に加工してもらって、それを自国の神殿まで輸送して納品する。神殿では神族がソウルオーブ作成魔法を使って、オーブ玉をソウルオーブに仕上げるのだ。


 以前にラウラから教えてもらったのだが、魔空船が発明されるまではオーブ石とオーブ玉の輸送は悲惨だったらしい。レングランから五十人の商隊が出発したとして、生きてオーブ玉をレングランへ持ち帰ることができるのはほんの数人だけだったようだ。大半の者が魔樹海や原野で魔物や魔族に殺されたり、盗賊に捕らわれて奴隷に売られたりしたようだ。生還率が1割にも満たなかったのが、魔空船が発明されてからは生還率は2割から5割ほどにも高まったと言う。


 今でも5割にも満たない生還率であることにオレは驚いたが、魔空船でレングランからブライデン王国までは行けるが、そこから先は魔空船が飛べない地域となるため、昔と同じように商隊は徒歩や馬で進むことになるのだそうだ。


 思考が横道にそれてしまったが、カイエンは面白そうな国だ。いつかぜひ行ってみたい。


『うん。必ずカイエンに行くよ』


 オレの言葉にアイラ神はにっこり微笑んだ。


『待ってるわ。それじゃあ、あたしは帰るわね』


 にこやかだったアイラ神は少し心配そうな顔になって言葉を続けた。


『それと、ケイ。ムカデの大魔獣と戦うことは聞いてるわ。ダイルたちが助けてくれると思う。ダイルはね、あたしの友達。とんでもなく強いから、彼を頼って大丈夫よ。でも、ムリはしないでね』


 アイラ神はそう言った後、ワープの呪文を唱えて帰っていった。


 ………………


 そして2か月近くがあっと言う間に過ぎた。オレは毎日魔獣狩りを続けた。クドル・インフェルノの中でも魔獣の影が濃い地域に遠出をして、村に戻るのは半月に1回くらいだった。村に戻ったときだけユウとソウルを一時交換した。


 この2か月の間にラウラとダイルたちは闘技場の整備を済ませていた。ラウラは毎日のようにダイルたちやパーティーの男たちと一緒に闘技場で訓練を続けていたらしい。ミサキも駆り出されて、クドル・インフェルノの天井近くに浮遊魔法で浮かんで、そこからラウラたちに指示を出す訓練をしていた。ミサキを操縦しているのはコタローだ。


 おっと。忘れるところだったが、ダイルやフィルナ、ハンナとはこの2か月の間に遠慮せずに何でも言い合える友達になっていた。ラウラはほぼ毎日、昼間は闘技場の整備や訓練でダイルたちと一緒にいるし、夜も一緒に食事をしている。


 ダイルたちは村長の承諾をもらってオレたちの小屋の隣に石造りの平屋を建てた。そこで生活を始めたからどんどん仲良くなったようだ。


 ラウラがダイルたちと友達関係になったものだから、オレもその仲間に入れてもらったのだ。オレは半月の狩りから戻ると2日の休養を取るが、その間はほとんどダイルたちと一緒に過ごした。今ではお互いに呼び捨てで会話をしている。


 ダイルはオレたちに強さの秘密を教えてくれた。ダイルの魔力は実は〈900〉を越えているらしい。それを「探知偽装」で自分の魔力を低く見せているそうだ。それとダイルは耳やシッポの先っぽにも目があるらしい。これにも驚いた。色々と凄い能力を持っている特殊なロードナイトのようだ。フィルナとハンナも魔力が〈500〉を超えているから、この三人が大魔獣との戦いに加わってくれるのは本当に頼もしい。


 オレも重要なことをダイルたちに打ち明けた。二重人格のことを打ち明けたのだ。自分のソウルの中にケイの意識とユウナの意識があることを思い切って告白した。それを告白しようと思ったのは、ダイルたちと一緒にいる時間が長くなってきたからだ。ソウルの一時交換でユウが体を動かしているときに、ダイルたちにユウのことを受け入れてほしいと考えたのだ。


 オレが説明したのは最小限のことだけだ。レングランで盗賊に襲われて死にかけたことが切っ掛けでユウナの意識が現れ始めたことや、そうなったのは何年も前にアイラ神の姉のミレイ神に暗示魔法を掛けられて意識を操作されたことが原因らしいと話した。


 それと、ユウナの意識になっているときでも、必要があればいつでもケイの意識に戻れることも付け加えておいた。ただし、10分間は魔法が使えないなどの制約があることは話していない。もちろん、オレが異世界から召喚されてきたことやソウル交換をされたことなども話してない。


 以前に決めておいた自分の名前もしっかり伝えた。「ケイ・ユウナ・マード」という名前だ。


「それでね、わたしがユウナになったらユウって呼んでほしいんだけど、いいかな? ケイの意識でいるときは今までどおりケイって呼んでもらえる?」


 オレがそう言うと、ダイルたちはなんだか戸惑っている。


「でもね、私たちから見たら今がケイちゃんなのかユウちゃんなのか分らないわよ?」


 フィルナからそう言われてしまってオレは考え込んでしまった。


「ユウちゃんになったときに、これを被ったらどうかしら?」


 困っているオレを見て、ハンナが取り出したのは麻のような粗い糸で編んだベレー帽だ。なんと……、その帽子にはネコ耳のような形が編み込まれていた。ネコ耳の先端が内側に折れ曲がっていて、ダイルの耳とそっくりだ。


「あたしが自分で編んだのよ。あたしもフィルナも似たような帽子をたくさん持ってるから、よかったら使って。ちょっと被って見せてね」


 ハンナはそう言いながら、唖然としているオレの頭にそのネコ耳帽を被せた。


「わぁーっ、よく似合うわよー。素敵ねー」


「ホントだわ。あたしもほしいな……」


「たくさんあるからラウラとミサキにもあげるねー」


 こんな感じで話が進んで、結局、ユウが体を動かしているときにはネコ耳帽を被ることになった。


 ダイルたちがオレの告白を聞いて気味悪がったりしないか心配だったが、意外なことにスンナリと受け入れてくれたことが嬉しかった。そればかりか、オレが正直に打ち明けたことをダイルたちは喜んでくれたし、ユウが体に入って挨拶をしたときはフィルナやハンナは目に涙を浮かべていた。たぶん、オレに同情してくれたのだろう。


 ダイルたちへの告白が上手く進んで気を良くしたオレは、村の主だった者へも同じように打ち明けることにした。ダイルたちに告白した翌日、まず、村長と長老たちに集まってもらって説明した。名前の呼び方や、ユウのときはネコ耳帽を被っていることも話して、その後、ユウになって挨拶をした。


 ケビンやその家族、ラウラのパーティーメンバーなど、よく顔を合わせて話をする者にはユウになったままでラウラが一緒に付いて回って説明した。


 話を聞いた者はみんな一様に驚いていたが、反応は好意的だった。ユウに入れ換わって挨拶をしたときに「ケイ様よりもユウ様の方が女らしくておれの好みだナ」とか言い合っていたのが気になったくらいだ。


 女らしさでオレがユウに敵うはずがないのだ。だいたい女は外向きの顔になると急にお淑やかに化けたりするからな。


 ………………


 そして、ついに決戦の日が来た。ムカデの大魔獣と戦うのだ。オレたちは闘技場へ向かった。


 ※ 現在のケイの魔力〈762〉。

   (自分を鍛えるために魔獣を毎日倒し続けているため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈762〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈762〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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