SGS125 アイラ神との会談その3
ユウの恋人と会うということは、それは恋人同士として付き合うということだ。オレは優羽奈の振りをして恋人の大輝と話をしたり、手を握ったりすることになる。いや、それだけじゃないよな……。
自分は優羽奈として振る舞えるだろうか。そして、恋人として大輝を受け入れることができるだろうか……。
おそらくムリだ。芝居をずっと続けていくなんて、できっこない。
でも、オレはそんな重大なことを何も考えないままアイラ神と密談をして、恋人に会いたいと言ったユウに「まかせろ」と応えてしまった。
考え込んでいるオレの様子を見て、アイラ神が心配そうな顔をした。
『ムリはしなくていいのよ。あなたにダイキさんの恋人役を押し付けようなんて、あたしは考えてないから。むしろ、ムリにそんなことをしたら、あなたもダイキさんも不幸になってしまうわ』
アイラ神は優しいな。だから、オレも真摯な気持ちでアイラ神に応えよう。
『正直に言って、わたしがケイの意識でいるときは、ダイキさんを自分の恋人として受け入れるのはムリです。でも……、ユウナさんの意識になったときは、ユウナさんがダイキさんを心から心配していることが分ります。そんなユウナさんがダイキさんに会ったら……、たぶん、ユウナさんはダイキさんを自分の恋人として受け入れると思います。それをわたしが拒むことはできませんよ』
『でも、そのときも……、あなたの体がユウナさんの意識になっているときも、ケイさんは何が起きているのか見聞きできるのでしょ? 本当にいいの?』
『ええ。そのときは見聞きしないようにします。ユウナさんがダイキさんと一緒にいるときはわたしは眠ってるようにしますから大丈夫ですよ』
アイラ神はオレをじっと見つめた。潤んだ瞳でオレの手を握ってきた。
『あなたは本当に優しい人だわ。なんてお礼を言ったらいいか。そうしてもらえたら、ダイキさんも救われるし、あたしも気持ちが軽くなります』
『それで、アイラ神様にお願いがあります』
『はい、なんでしょう?』
『アイラ神様がダイキさんに会って、わたしのことを話すときに、わたしがケイの意識でいるときとユウナさんの意識でいるときがあることを説明していただきたいのです。そして、わたしがケイのときは恋人の真似はできないと伝えてください』
オレの依頼にアイラ神は大きく頷いた。
『それはあたしに任せて。ちゃんと説明するわ。でも、ケイさんのことは男性のソウルだとは絶対に言えないから、姉が暗示魔法でユウナさんのソウルの中に作り出した別の女性の人格だということにするけど、それで良いのかしら?』
それを受け入れるしかないだろうな。優羽奈のソウルの中に作り出された別の人格と思われてしまうのは、何か「まがい物」のような感じがして引っ掛かるが……。
『そう説明するしかないですよね。でも、ダイキさんに説明するときには、ケイの人格は作り出されたものだけど、消えることのない本物の人格だとはっきり言ってください』
ダイキさんに会ったとき、オレの人格を蔑ろにされては堪らないからな。
『それは必ず言っておくわ。でも、ダイキさんはあなたのことを軽んじるような人ではないと思うけど。もしダイキさんがあなたに辛く当たるようなら、あたしが許さないから』
アイラ神はオレの不安を分かってくれている。オレが頷くと、アイラ神は言葉を続けた。
『それと、お互いに絶対に言わないと約束してほしいことがあるの。それは、あなたがケイという男性のソウルでユウナさんの体に移植されたことよ。もし、そのことを知っている人がいるなら、その人にも口止めをお願いしたいの。口止めの理由はあなたとダイキさんを守るためよ。そのことを言ってしまったら、ダイキさんもあなたも深く傷付くと思うから。どうかしら?』
『それは、わたしの方からもお願いしたいことです』
アイラ神はオレの手をぎゅっと握りしめた。アイラ神の手が暖かい。
『あなたとは良いお友だちになれそうね』
アイラ神はにっこり微笑んだ。オレも笑みを返した。すると、アイラ神が何か思い出したような顔をした。
『あっ、聞くのを忘れるところだったけど、あなたが神族だとフィルナから聞いたけど本当なの?』
『はい。わたしも驚いたんですけど、神族だけが使える魔法を自分も使うことができるんです。ヒール魔法でどんな怪我や病気でも一瞬で治癒できるし、ワープもできます。それに年も取らないし、ええと……、生理だって無いんですよ』
『不思議ね……。どうしてそうなったのかしら?』
『分りません。でも、もしかすると、代理出産で神族の子供を産んだことが関係しているのかもしれません』
オレは出任せの推測を述べた。オレのことを信じてくれているアイラ神に対して本当のことが言えないから少し心が痛い。
『とにかく、あなたが神族と同じ能力を持っていることは秘密にした方がいいわよ。そうしないと、色々な神族や国があなたを取り込もうと狙ってくるから』
『はい、それも口止めするようにします。それと……』
『なにかしら?』
『わたしの方からアイラ神様にお聞きしたいことがあるのですけど……』
『いいけど。その前に、その堅苦しい言葉遣いを止めてほしいな。あたしとあなたはお友達になったでしょ。それは、お互いに呼び捨てで何でも言い合ったり助け合ったりする友達ってことよ。あたしはあなたのことはケイって呼ぶわ。あたしのことはアイラって呼んでほしい』
アイラ神は本当にフランクなようだ。では、遠慮なくそうさせてもらおう。オレは頷いた。
『約束よ』
そう言って、アイラ神はまたオレの手をぎゅっと握りしめてきた。
『じゅあ、これからアイラって呼ばせてもらうけど、ホントにいいのかな?』
オレがそう言うと、アイラ神はにっこり微笑んで頷いた。
『そう、それでいいのよ。ケイはやっぱり男の子っぽい喋り方になるのね? 素敵よ』
『面と向かってそう言われると、なんだか照れるけど……。それで聞きたいのはね、わたしの元の体のことなんだけど。男だったときの体がどうなったのか知ってる?』
『ミレイ姉さんが保管していると思うけど……。姉さんのことだから、ちゃんと保管してるか怪しいわね。でも、そんなことを聞いて、どうするつもり?』
『もし自分の体が保管されてるなら、その体を返してほしいと思ってる』
『ソウル移植をして元の自分の体に戻るつもりなの?』
アイラ神が少し心配そうに言った。ソウル移植も失敗のおそれがある魔法だから、たぶんそれを心配しているのだろう。
『いえ……、たぶんソウル移植で元の体に戻るようなことはしないと思う。今考えてるのはね、別のことなんだ。この体がユウナさんの意識になっている間だけ、わたしは元の自分の体に一時的に戻っていようかと考えてる。わたしとユウナさんは同じ一つのソウルだから難しいかもしれないけれどね』
本当はオレとユウナは別々のソウルだが、アイラ神に対しては偽りの説明をしているから、こう言うしかないのだ。
『そう言えば、そんな魔法があったわね。ソウルの一時移動ができる魔法よね? その魔法なら安全だって聞いたことがあるわ。でも、あなたが言うように一つのソウルだから一時的とは言っても分離するのは難しいかもしれないわね』
『でもね、元の体を返してもらえるなら、試してみる価値はあると思うんだ』
『そうね。今度、姉さんに会ったら、あなたの元の体がどこにあるか聞いてみるね』
『うん。急がないけど、期待してる。それと……』
オレは少し躊躇った。アイラ神はオレが言い出すのを待っている。
『自分が産んだ子供ことだけど、もし行方を知っているなら教えてほしいんだ。盗賊に襲われて拉致されたって聞いてるけど。もし行方が分かれば、子供を取り戻したいから』
『それはあたしも気にしてるけど、子供の行方は分からないままよ。ミレイ姉さんが手を尽くして捜しているから見つかったら連絡がくるはずだけど……』
そう言って、アイラ神は不思議そうにオレを見つめた。
『でも、どうしてなの? あなたが産んだ子供だけど、実際はミレイ姉さんの子供なのよ……。もしかして子供を育てたときの記憶が残っているの?』
『いや、セリナという名前を思い出したくらいで、子供の顔さえ覚えてないんだ。でも、自分が産んで育てた子供だし、半分は自分の血が入っているからね』
ホントはユウにせっつかれて子供を取り戻そうとしているだけだ。だけど、それは言えないからな……。
オレの言い訳を聞いてアイラ神は頷いている。得心してくれたみたいだ。
『そうだったわね。あなたの精子を使って体外受精をしたから、そういうことになるわね』
『うん。だから、捜し出して取り戻したいと思ってるんだ』
『でも、貴重な神族の子供よ。もし行方が分かればミレイ姉さんが取り戻すだろうし、いったん取り戻したら手放さないと思う。それに、他の神族や国がその子のことを知ったら、大変なことになるわ。だから……、もしあなたが子供を捜し出そうとするのなら、軽はずみな行動はしないほうが良いと思うけど……』
アイラ神の助言には真心が籠っていた。
『分かった。わたしもアイラの言うとおりだと思う。でも、もし行方が分かったら教えてもらえる?』
『ええ。姉さんに何気なく聞いてみる。あたしに聞きたいことはそれだけ?』
アイラ神が聞いてくれたので、自分の頭の中を整理したが、聞きたいことは全部聞いたと思う。
※ 現在のケイの魔力〈501〉。
※ 現在のユウの魔力〈501〉。
※ 現在のコタローの魔力〈501〉。
※ 現在のラウラの魔力〈320〉。




