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SGS124 アイラ神との会談その2

 アイラ神はオレの話を聞いて相当ショックを受けたようだ。黙ってテーブルに目を落としていたが、やがて「ふーっ」と大きな溜息を吐いて顔を上げた。


『あなたに会いに来て良かった……。本当のことをちゃんと話せて、そしてあなたのことも聞けたから』


『わたしに会うためにアイラ神様がわざわざ来られたのには理由がありますよね? その理由を教えていただけますか?』


 オレの問いかけに、アイラ神はじっとオレの目を見つめた。


『きれいな目をしてるわね……』


 そう言って、アイラ神はまた目を伏せた。泣いているのか!?


 少しの間、アイラ神は声を押し殺して泣いていた。そして、指で涙を拭って話を続けた。


『ごめんなさい。いつも姉に馬鹿にされるのよ。すぐに泣くってね……。

 あなたはきっとあたしたち姉妹を恨んでいるでしょうね。あなたに会いたかったのは……、一番の理由は、あなたに会って本当のことを話そうと思ったの。そして謝りたかったの。

 本当にごめんなさい。あなたをこんな目に合わせてしまって。無理やり召喚した上に、あなたのソウルを女性の体に移し替えてしまった。あたしの姉がやったことだけど、あたしはそれに協力してしまったし、姉の無茶な行いを止めることもできなかった……。

 そのことをずっと後悔してるの。謝って済まされることではないけれど、まずは謝りたいと思ってここに来たのよ』


 オレは俯きがちに話すアイラ神をじっと見つめた。アイラ神からは念話を通して謝罪の気持ちがダイレクトに伝わってきた。心から謝っていることが分かる。思わず抱きしめたくなるような、そんな気持ちになってきた。


『ケイ。アイラ神の謝罪を受け入れてあげて』


『でも、ユウ。それでいいのかな?』


『ケイに対してこれだけ謝ってくれたのだから、私に対してもきっと同じ気持ちだと思うの……』


 ユウのその言葉を聞いて、オレは確かめたくなった。


『アイラ神様……』


 オレが声を掛けると、アイラ神は顔を上げた。


『わたしに対するアイラ神様の謝罪の気持ちはよく分りました。ミレイ神様のことは許す気にはなれませんが、アイラ神様の謝罪は受け入れます。でも……』


 オレが少し口ごもると、アイラ神は小首を傾げてオレの次の言葉を待った。


『でも、あの召喚で、わたしよりもっと酷い目に遭った人がいます。その人への謝罪は……』


『ユウナさんのことね? ソウル交換の魔法を失敗してユウナさんを死なせてしまった……。それは姉が犯した罪だけど、それを止められなかったことをあたしはどれほど後悔したことか……』


 そう言って、またアイラ神は涙を零した。


『ユウナさんに謝れるのなら、あたしは心からお詫びをしたい。でも、ユウナさんはもういない……。だから、その代りにあたしはユウナさんが愛した人を支えようと思ってるの。そんなことでは、とても謝罪の代わりにはならないけれど……』


『ユウナさんが愛した人って……、ユウナさんの恋人のことですか?』


 アイラ神は小さく頷いた。


『たしかアイラ神様が引き取ったはずですよね?』


『そんなことまで知ってるの!?』


 アイラ神は本当に驚いたようだ。少し喋り過ぎたかもしれないな。


『わたしがアイラ神様にお会いしたかった理由の一つが、実はそのことなんです。恋人の名前は、たしかダイキだったはずです。ダイキさんは元気なのでしょうか?』


 アイラ神はオレの言葉を聞いて固まってしまった。ユウの恋人の名前までオレが知っているはずがない。それをオレが知っていたから訳が分からなくなっているのだろう。


『あなたが……、あなたが、どうしてその名前まで知ってるの?』


『それは……、時々、頭の中にユウナさんの記憶や感情が蘇ってくるんです。たぶん、ソウルが入れ換わっても、体の脳の中にその記憶や感情が残っていて、それが出てくるんだと思います』


 これはウソだ。オレはユウから恋人の名前を聞いていたからダイキという名前を知っていたにすぎない。こんなウソを吐いたのは、こちらが知りたいことをアイラ神から聞き出すためだ。


 アイラ神はオレの説明に頷いた。


『ソウルの移植をしたら、そういうことが起こる場合があるそうね。体の元の持ち主の記憶や感情が脳の中に残っていて、それがソウルの移植後になって現れて影響を与えることがあるらしいの。あなたの場合もきっとそれね』


 へぇ。ホントにそういうことがあるんだな。でも、オレの場合は脳からユウの記憶や感情が蘇ってくるというのは、今のところはないが。


 しかし、アイラ神は実際にそういうことがあると言ってるから、それを利用させてもらおう。


『正直に言うと、自分の記憶や感情がすごく不安定なのです。自分が男だったときの記憶や感情はしっかりと自分の中にあるんですけど、断片的にユウナさんの記憶や感情が蘇って来ます。最近はそれが酷くなって来て、気が付いたら自分にユウナさんが乗り移ったような感じになって、そのまま何時間も過ごしていることがあるんです』


 オレの話を聞いて、アイラ神は驚いたのか目を見開いた。


『よくそんな状態になるの? その……、ユウナさんが乗り移ったような状態のことだけど』


 オレの説明にアイラ神は食い付いてきた。これは、オレとユウがソウルを一時交換している状態のことを説明するのに都合が良い。オレはその状態と矛盾しないように説明の内容を取り繕った。


『ええ。そうなったのは最近ですけど。それも毎日のように、そんな状態になります。でも、魔獣と戦っているときにそうなったら危ないので、その状態にならないように自分の意志で調整できるようになりましたけど……』


『もっと詳しく教えてもらえる?』


 ナゼか分からないが、アイラ神はオレのその状態について熱心に聞いてきた。


 オレはソウルの一時交換の状態について、つまり、自分がケイの意識でいるときとユウナの意識になるときのことを説明した。


 説明したのは、ユウナの意識が自分の体を動かしている状態が5時間くらい続くことや、その間も自分の意識や五感ははっきりしていて何が起こっているのか見聞きできていること、危なくなったら自分に強制的に戻れることなどだ。


 アイラ神はオレの話を目を潤ませながら聞いていた。


『あなたに会いに来て本当に良かった。今の話を聞いて、少し希望が出てきたから……』


 アイラ神が独り言のように言った。


『それは、どういうことですか?』


『あっ、ごめんなさい。あなたが大変な思いをしてるのに、あたしがそれを喜ぶのは変よね。でも、あたしがあなたに会いに来たもう一つの理由が、ダイキさんのことなのよ。それをお話しするわね』


 アイラ神は濡れた瞳でオレを見つめ、手で涙を拭った。表情も感情も豊かな人のようだ。


『あなたがさっき言ってたように、ダイキさんはあたしが引き取ったのよ。ユウナさんに対するせめてもの罪滅ぼしのつもりで、ダイキさんをロードナイトにして育てようと思ったの』


『それで、ダイキさんはロードナイトになったのですか?』


『ええ。でもね、あたしがダイキさんに支援できたのは僅かなことだけだったわ。ダイキさんは自分で努力したのよ。行方不明になっているユウナさんを捜し出すためにね』


『ユウナさんが行方不明って……。ユウナさんがどうなったのか、ダイキさんへ説明してないのですか?』


 オレの質問にアイラ神はまた泣き出しそうな顔になった。


『ごめんなさい。説明できなかったの。あたしは重要なことをダイキさんに秘密にしてしまったの。ユウナさんがケイという別人になって、レングランで結婚して子供を産んだことをね。そんなことを話したら、ダイキさんはきっと自暴自棄になってしまうから。だから、ダイキさんはユウナさんがこの世界でずっと行方不明になっていると思っていたわ』


『それで、ダイキさんはどうしたんですか?』


『ダイキさんはロードナイトになった後も自分の魔力を高めるために必死だったわ。この世界でユウナさんを捜し出すための力を身に付けようとしたのよ。そして一刻も早くユウナさんを捜し出そうとしてね、旅を続けたの。その旅の最中に見つけてしまったのよ。ユウナさんを……。いえ、ケイさん、あなたをね』


『えっ……』


『レングランの王都で偶然にあなたを見かけてしまったみたい。ダイルはあなたが結婚していて、赤ちゃんもいて幸せに暮らしているのを知ったのよ』


『それなら、秘密にしていたことは……』


『ええ。もう秘密にしておくことはできなかったわ。あたしはダイキさんがあなたと再会したことを聞いて、今まで秘密にしていたことをダイキさんに謝って説明したの。召喚のときの出来事をね。

 ダイキさんは怒り狂ったわ。そのときダイキさんは初めて知ったのよ。自分の愛した人が暗示魔法でケイという別人になって、レングランで結婚して神族の子供を代理出産したことをね』


『それなら、ダイキさんは全部知ってしまったということですか?』


『いいえ。あたしは一つだけ本当のことを言うことができなかったの。それはユウナさんの体にソウル移植が行われたことよ。ケイという男性のソウルがユウナさんの体に入っていて、ユウナさんは浮遊ソウルになってしまったことを話すことができなかったの。ダイキさんに対してその事実はあまりに残酷なことだから……』


 アイラ神は言葉を切った。話の一つ一つにアイラ神の気持ちが籠められている気がした。零れ出た涙は、彼女の気持ちが溢れて出たものかもしれない。


 アイラ神は思いやりがあって素直な人のようだ。オレは自分がアイラ神のことを好きになっていることに気付いた。この気持ちは男女間の好意ではなく、人としての好意だと思うが……。


『ダイキさんは、今もユウナさんを捜してるのですか?』


『ええ。ダイキさんは今もユウナさんが生きていると思っているから……』


『でも、ユウナさんのソウルは……』


『そうね。ユウナさんは浮遊ソウルになってしまったけれど、ダイキさんは今もそれを知らないままなの』


『そうですか……』


『ごめんなさい。あたしはダイキさんに誤魔化しの説明をしているの。姉の暗示魔法で、ユウナさんのソウルの表面には別の意識と記憶が作り込まれていて、その人格が表に出てると……』


 アイラ神は辛そうに言った。


『その作り込まれた人格というのはわたしのことですか?』


 オレの問い掛けにアイラ神はコクリと頷いて、言葉を続けた。


『そう。ケイさんのことよ。ユウナさんの意識と記憶はソウルの奥で深い眠りに就いていると説明しているの。だから、ユウナさんの意識と記憶を取り戻せるかどうか分からないと……。

 ダイキさんはあたしの説明を聞いた後も、僅かな望みを持ち続けてるのよ。ユウナさんが元の状態に戻るかもしれないと……』


 アイラ神の話を聞いて、ユウから念話が入ってきた。


『ケイ。大輝がどこにいるかアイラ神に聞いて。私は大輝に会いたい。私のことをずっと思ってくれてる大輝に会いたいの……』


 ユウからの念話にも恋人を慕う気持ちが溢れている気がした。


『まかせて』


 オレはユウにそう答えて、アイラ神に向かって問い掛けた。


『それで、ダイキさんは今どこに?』


『ダイキさんの居場所をあなたに話すより、あなたのことをダイキさんに話した方が早いわ。

 あたしがあなたに会って、こうして話し合ったことをダイキさんに伝えてもいいかしら? そうすれば、ダイキさんは自分で判断してあなたにきっと会いにくると思うけど……』


『はい、伝えてください』


 オレはきっぱりと言った。アイラ神は驚いた顔をしてオレをじっと見つめた。


『本当にいいの? それは……、あなたがダイキさんを受け入れることを意味するのよ? 女性として、そして、恋人として』


 そう言われて初めて気が付いた。そういうことなのだ。


 ユウはもちろん、そのつもりだろう。でも、自分は……。


 自分は女性としてユウの恋人を受け入れることができるだろうか……。


 ※ 現在のケイの魔力〈501〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈501〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈501〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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