SGS123 アイラ神との会談その1
モグラ叩きの遊びから話が派生して、生まれた国を質問されるなんて予想もしてなかった。なんて答えようか戸惑っていると、ユウから高速思考で念話が入ってきた。
『ケイ。ダイルさんたちは味方だとは思うけど、私たちが召喚されてきたことはまだ話さないほうがいいわよ』
『分かってる。誤魔化すから心配しないで』
ダイルさんたちの視線が自分に集まっていて、痛みを感じるほどだ。
「実は……、わたしは記憶が曖昧なんです。レングランで盗賊に襲われて死にかけました。死の淵から生き返った後の記憶は鮮明なんですけど、その前の記憶を全部無くしてしまったのです。でも時々、断片的に思い出すことがあって、モグラ叩きという遊びもその一つなんです。ですから、自分が生まれた国もどこか分りません」
「そういうことか……」
ダイルさんが呟いた。
「以前にラウラさんから聞いたのだが、ケイさんは自分が神族だとは知らなかったらしいな。それも記憶を無くしたせいだろうな……」
ダイルさんの言葉に黙って頷いた。本当のところはもっと話はややこしいが、ここではそんな説明はできない。ダイルさんは何かを考えながら、それを言葉にしているようだ。
「アイラ神に会いに行こうとしていると聞いたが、それはケイさんが記憶を取り戻すためにアイラ神に会って話を聞くってことか? そういうことだよな?」
ダイルさんはまるで自問自答してるような感じでこちらに尋ねてくる。
この人はどういうつもりなんだろう? 自分が心に秘めていて聞いてほしくないことにグイグイと踏み込んでくる感じだ。
「はい……」
小さな声で答えた。
「なぜ、アイラ神なんだ?」
「えっ!?」
その問いかけに思わず言葉を詰まらせた。
「それは……、アイラ神様の名前が記憶の断片に出てきたからです」
「そうか……」
ダイルさんは何かをじっと考えている。そして、また口を開いた。
「フィルナはアイラ神の使徒だ。だから、念話でいつでもアイラ神を呼び出せる。ケイさんが望むのならアイラ神に連絡してこっちへワープで来てもらうことができるが、どうする?」
「えっ!? どうするって……」
突然の話に、また言葉を詰まらせてしまった。
『ケイ、願っても無い話だわ。でも、アイラ神様とは二人っきりで話ができるようにお願いするべきよね?』
『うん……』
ユウからのアドバイスが有難い。なんだかダイルさんから押されっ放しな感じだ。気を取り直して、ちゃんと話そう。
「そうしていただければ助かります。ただし、話し合いはアイラ神様とわたしの二人だけでお願いしたいのですが、それでもいいでしょうか?」
「ああ。実はアイラ神には事前に伝えていて、アイラ神からも同じことを言われてるんだ。アイラ神と連絡は取れたか?」
ダイルさんはそう言いながらフィルナさんの方を向いた。
「ええ。1時間後にこっちへ来てくださるって」
「そうか。ケイさんもそれでいいかな?」
「はい。よろしくお願いします」
自分が予期しないうちに話がどんどん進んでいく感じだ。
「よし。それじゃ、本題の作戦のことに話を戻そう。モグラ叩き作戦だが、基本的にはそれで良いと思う。ただし、ムカデのスピードと毒砲への対策が要るな。それと、俺たちが加わるから……」
ダイルさんが改善策を付け加えて作戦は出来上がった。そして予定どおり1時間後にアイラ神がワープしてきた。
………………
アイラ神はフィルナさんのすぐ近くに現れた。
「みんな楽しそうね」
アイラ神はダイルさんたちに話しかけた後、オレの方を向いた。表情はにこやかだ。見た目は20歳くらい。栗色のロングヘアで、白人と日本人のハーフっぽい顔立ちだ。とびっきりの美人と言っていいだろう。
「久しぶりね、ケイさん」
アイラ神が挨拶をしてきたが、その言葉にオレは戸惑ってしまった。アイラ神はオレの顔を知っているのだろうが、オレはアイラ神の顔は初めて見たのだ。
「あの……、わたしもご挨拶をしたいのですが、アイラ神様が久しぶりと仰ったのでビックリしているんです。わたしは記憶を無くしてしまって、盗賊に襲われたときから前のことはほとんど覚えていないので……」
「そのことはフィルナから聞いてるわ。どこかで、二人だけで話がしたいのだけど、場所はあるかしら?」
「はい。小屋の下に隠れ家を作っているので、そこでよければ」
オレはアイラ神を案内して隠れ家に入った。ダイルさんたちはクドル・インフェルノへ闘技場を作りに行ってくれるそうだ。ラウラもそれに同行すると言っていた。ミサキは別に用があることにして、こっそりと異空間ソウルに戻した。
オレとアイラ神は隠れ家のテーブルに向かい合って座った。
『単刀直入に聞くけど、どこまで思い出してるの?』
アイラ神はいきなり切り込んできた。
『さっきも話したように、レングランで盗賊に襲われて死にそうになりました。それより前のことは何も憶えてないんです』
『違うわ。あたしが聞いてるのは異世界からあなたが召喚されてきたときのことよ』
オレはアイラ神の瞳を覗き込んだ。アイラ神の目つきは真剣だ。
『あたしの名前を思い出して、それであたしに会おうと考えたって聞いたわ。それはつまり、あなたは召喚されてきたときのことを思い出したからでしょ?』
なるほど。アイラ神の推測は正しい。
オレはアイラ神をぜひ味方にしたい。ここで下手に誤魔化したら不信を招くだけだ。オレはアイラ神をまっすぐに見つめて口を開いた。
『すべて。そういう意味では全部を思い出してます』
『あなたが男性だったことも?』
イヤなことを聞いてくるなぁ。
オレは黙って頷いた。顔が赤くなってるかもしれない。
『そう……』
アイラ神は何かを考えているようだ。そしてまた言葉を続けた。
『召喚されてきたとき、あなたの身に何が起きたのかを簡単にお話ししておくわね。あなたが今入っているその体はユウナさんという人の体なのよ……』
アイラ神はオレにそのときのことを説明しようとしているようだ。念話を通して真摯な感情が伝わってくる。オレは黙って聞くことにした。
『あなたを異世界から召喚したのは姉とあたしなの。召喚魔法は二人以上の神族が協力し合って呪文を唱えないと魔法が発動しないから、あたしは姉に頼まれて手伝ったのだけど……。そのとき、ユウナさんも一緒に召喚されてきたの。と言うか、実は姉の本当の狙いはユウナさんだったのよ。ユウナさんを召喚しようとして、それにあなたは巻き込まれてしまったと言ったほうが正しいわ』
アイラ神はそこで言葉を切った。その後の説明をどうするか迷っているようだ。
オレは黙ってアイラ神が話を続けるのを待った。
『姉がユウナさんを召喚した目的はね、ユウナさんの体に自分の受精卵を移植して代理出産をさせることだった。でもね、姉はユウナさんに代理出産をお願いしたけど頑なに拒まれてしまった。それで姉は仕方なくユウナさんのソウルを諦めたの。そしてユウナさんの体にあなたのソウルを移植したのよ。でもそのとき、姉はソウルの移し替えに失敗して、ユウナさんは浮遊ソウルになってしまったの……』
アイラ神は目を伏せて、また言葉を切った。辛そうな顔をしていたが、少し間をおいて話を再開した。
『ユウナさんの体に入ったあなたには姉が暗示魔法を掛けたのよ。この世界で女性として生きてきた記憶と感情をあなたのソウルに植え付けて、あなたが違和感なくこの世界で子供を産んで育てていけるようにね。
あなたはレングランで結婚して無事に出産した。その子の実の母は姉よ。だからその子は神族なの。でも、あなたたち夫婦はそんなことは知らずに自分の子供だと思い込んで育てた。盗賊に襲われたあの日までね。
あなたのご主人は殺されて、子供は盗賊に連れ去られてしまった。そして、あなたも殺されたと思われてたけど、何日かして生き返ったと聞いたわ』
オレは身動き一つせずにアイラ神の説明を聞いていた。話の大半は知っていたことだった。オレは高速思考を発動してユウに話しかけた。
『ユウから聞いてた話と一致するね』
『そうね。アイラ神はウソを言ってないと思うけど、まだ安心できないわ。わざわざこの村までケイを訪ねてきた理由があるはずよ。それが何かを確かめるまではね』
『うん。でも、その理由を確かめるにはアイラ神に直接聞くしかないよね』
高速思考を解除して、オレはアイラ神に話しかけた。
『それで、アイラ神様はその話をわたしに伝えるためにここへお越しになったのですか?』
『あたしの話を聞いても驚かないのね? どうして驚かないの?』
『アイラ神様が話してくださったことは既に知ってましたから。あのとき、わたしが召喚されて女性の体にソウルを移されたときも、実はずっと意識があったのです』
これにはアイラ神は驚いた顔をした。今の話はウソだ。あのときのオレは完全に意識を失っていた。意識があったのはユウであり、オレはユウからその話を聞いただけだ。
『本当なの!? あのとき、眠りの魔法を掛けたはずだけど、異世界の人には魔法が掛かり難いのかもしれないわね……』
『わたしを召喚したのがあなたの姉のミレイ神様だということも知っていますし、ユウナさんの恋人が一緒に召喚されてきたことや、ミレイ神様の卵子に体外受精するときにわたしの精子が……、わたしが男だったときの精子が使われたことも知っています』
オレの言葉を聞いて、少しの間、アイラ神は何も言わずに固まっていた。
※ 現在のケイの魔力〈501〉。
※ 現在のユウの魔力〈501〉。
※ 現在のコタローの魔力〈501〉。
※ 現在のラウラの魔力〈320〉。




