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SGS122 モグラ叩き作戦

 不意に目に映っているものが変わった。今はテーブルの上のコップが見えている。元の体に戻ったのだ。


「ケイ、大丈夫かにゃ?」


 声を発したのはベッドに座っているミサキだ。いや、正しく言えば、ミサキの体に入っているのはコタローのはずだ。


「コタローだよね?」


 オレがミサキに向かって尋ねた。


「そうだわん」


「やめてよ、コタロー。ミサキの体でミサキの声なのに、コタローの口調で言われると、あたし、鳥肌が立ってくるから」


 ラウラが先に文句を言った。オレと同じように感じていたようだ。


「でもにゃ、オイラがこんな口調で喋ってるのはユウからの命令なのだわん」


 そう言われれば、この口調をコタローに命じたのはユウだった。


 わんにゃん口調でミサキが喋るのを聞いていると、ラウラじゃないけどオレも鳥肌が立ってきそうだ。すぐに止めさせないと……。


『ユウ、聞こえる? コタローの口調を……』


 念話でそう言い掛けて、自分の念話に手応えが無いことに気付いた。念話が使えなくなってる。そう言えば、ソウル一時移動から戻ったときに10分間はすべての魔法を使えない状態になるとコタローに言われてたな。


「コタロー、魔法を10分間使えないからユウに念話ができないんだけど。ユウは異空間ソウルにちゃんと戻れてる?」


「戻れてるから心配にゃいわん。ユウも念話ができなくて焦ってるけどにゃ」


 やっぱりダメだ。わんにゃん口調でミサキから話しかけられると、違和感があり過ぎて頭がおかしくなりそうだ。


「ミサキに命令! わたしが魔法を使えるようになるまで静かにすること。喋ったらダメ! 分かった?」


 ミサキは頷いた。あと残りは5分くらいだ。


 そして、その時間が過ぎると、待ちかねたようにユウから念話が飛び込んできた。わんにゃん口調でミサキが喋るのは困ると訴えると、ユウはすぐにコタローの調教を始めた。


『たしかに私はコタローにわんにゃん語で話すよう命令したわよ。でも、コタロー。わんにゃん語で話すのはコタローが犬に入っているときだけよ。ミサキに入ってるときは普通に話しなさい』


「普通に話すって、どんなふうに話せばいいのか分からにゃい。もっと具体的に喋り方を教えてほしいにゃ」


 それからはユウとコタローの間で喋り方の訓練が続いた。ラウラも割り込んで指導しているからややこしい。


 ミサキに入ったコタローに「話し方も振る舞い方もお淑やかにするのよ」と教え込んでいるようだ。ミサキが大人の女性で、外見上もそういう雰囲気を持った女性だからというのがその理由らしい。どうやら「死んだ妻に似てる」とオレが話したことがユウやラウラの心の中にそんなイメージを作ってしまったみたいだ。


 でも、今度はオレが困ってしまう。オレがミサキに入ってるときに「お淑やか」を続けるのは難し過ぎるぞ……。


 ………………


 翌日の昼過ぎ。ラウラが言ってた豹族の魔闘士とその奥さんたちが小屋にやってきた。


 オレはケイの本来の体に戻っている。ユウとコタローは異空間ソウルの中だ。だが、ミサキは急いでこっちにワープさせた。豹族の魔闘士たちに紹介しておきたいからだ。ミサキの体はコタローが操作している。


 小屋の前のテーブルを囲んで六人が座った。オレの正面が豹族の魔闘士で、その左右に奥さんたちが座っている。オレの左右にはラウラとミサキがいる。


 豹族を見るのは初めてだ。厳つい顔や体格を想像していたが、意外に細面で優しい顔立ちだった。


 髪の毛からちょこんと出ているネコ耳に目が行った。正確には豹耳だが。その耳は先端部分が内側に折れ込んでいて、なんとも言えないほど可愛い。


 思わずにっこりと微笑んでしまった。奥さんたちの顔付が険しくなった気がした。


「はじめまして。わたしがケイです」


 オレは軽く会釈して言葉を続けた。


「ラウラはご存じですね。こちらの女性はミサキです。ラウラと同じようにわたしの使徒で、昨日この村にワープを使って連れて来ました」


 オレが紹介すると、ミサキが豹族の魔闘士に向かって微笑んだ。ミサキの体はコタローが操縦しているのだが、その最中も異空間ソウルにいるユウから「ほら、そこで微笑むの」とか、念話で色々と助言が飛んでいるようだ。


「ええと、俺はダイルだ。そしてフィルナと、こっちがハンナ。二人とも俺の妻だ。よろしく頼む」


 ダイルさんは奥さんたちに手を回しながら紹介してくれた。仲が良さそうだ。


「ワープは使えないと聞いていたが?」


「昨日、ようやく魔力が〈500〉を超えたので、わたしもワープ魔法を使うことができるようになったのです。でも……、ムカデの大魔獣を倒すのはまだ難しいと思います」


 声が少し暗くなってしまった。それで、意識して明るく言い足すことにした。


「ですから、残りの2か月で魔力をもっと高めるつもりです」


「まだ魔獣と戦い続けるってことか? 一人で大丈夫なのか?」


 ダイルさんが心配そうに言った。初めて会ったのに、まるで娘を気遣う父親のような感じだ。


「ええ、大丈夫です。最初は怖かったですけど、最近は魔獣との戦い方も掴めて来ましたから」


 ダイルさんは少しの間、オレの顔をじっと見つめた。なんだろう? 不思議な感じの人だな。


「そうか。それで、お願いがある。ラウラさんから聞いていると思うが、俺たちも大魔獣との戦いに加えてほしい。アイラ神からケイさんの護衛を頼まれているんだ。戦いに加わっていいか?」


「それはわたしの方からお願いしたいことです。ぜひ戦いに加わって、わたしたちを助けてください。よろしくお願いします」


 オレは丁寧に頭を下げた。


「まかせてくれ。それで、その作戦を相談したいのだが」


「はい。今考えているのは……」


 作戦の話になったので、オレは以前にラウラと相談していた作戦の概略を説明することにした。この作戦はモグラ叩きの遊びから思い付いた作戦だ。


「まず、ムカデの大魔獣と戦う前に闘技場を用意しておきます……」


 その闘技場の地面には人が通れるくらいの小さな穴をたくさん開けておく。それぞれの穴は地下トンネルで蜘蛛の巣状に繋いでおく。そして、その闘技場にムカデの大魔獣を誘き寄せる。


 戦いの本番ではラウラが穴から頭を出してムカデを挑発する。ラウラはオトリになってムカデを引き付けながら穴から穴へと逃げ回るのだ。逃げるのは地下トンネルを使う。ムカデは地下トンネルには入ることができない。だからラウラが攻撃を受ける恐れがあるのは穴から頭を出したときだけだ。


 オレはムカデがラウラを探し回っている隙にこっそり大魔獣に近付いてムカデの触角と目を潰す。その後は優位に戦えるはずだ。


 オレは浮上走行の魔法を常時発動するから穴に落ちることは無い。危なくなればワープで逃げる。


 だがおそらく、ラウラやオレは何度かムカデの攻撃を受けてバリアの耐久度が落ちるだろう。それに、戦いの最中では予期しない事態が発生するかもしれない。だから、地下トンネルの中に遊撃隊を用意しておく。オレたちにバリア回復の魔法を掛けたり、一緒に攻撃に加わってもらったり、状況に応じて臨機応変に動いてもらうのだ。その遊撃隊はラウラが今育てているパーティーの男たちだ。


 全体の指揮はミサキが行う。本当はミサキを操縦しているコタローが行うのだが、それを言うことはできない。


 ラウラがどっちの方向に逃げたら安全かをミサキが上空から見ていて指示を出す。穴から頭を出したときに攻撃を受ける恐れはあるが、その危険性はミサキの指示に従えば極力小さくできるはずだ。地下トンネルの中で待機している男たちにバリア回復や攻撃の指示を出すのもミサキだ。


 ちなみに念話は障害物があったら通らない。だが神族の念話だけは違う。距離的な制約はあるが、神族は障害物があっても念話で話をすることができるのだ。ミサキは神族ではなく使徒ということになっているから地下トンネルにいる男たちに念話を送れるはずがないのだが、これは無理やり説明を付けるしかない。ミサキが使徒になったときに理由は不明だが神族と同じように魔法を使えるようになったと説明した。だからミサキは障害物があっても念話で話すことができるし、ワープ魔法を使うこともできるという、かなり無理のある説明になった。その説明を聞いたダイルさんたちは不思議そうな顔をしていたが、そんなこともあるのかと思ったようだ。本当のことを言えなくて申し訳ないな。


 ユウはいつものようにオレの戦いをバックアップする。しかし、ユウのこともダイルさんたちには内緒だ。


 以上が作戦の概略だった。


「この作戦名がね、モグラ叩き作戦って言うのよ。変わってるでしょ?」


 ラウラが少し自慢げに言った。以前に作戦名を話したときに、ラウラがその由来を聞いてきたので説明した。しかし、ここでその話を持ち出すとは……。


 ダイルさんが作戦名を聞いて何か言いたそうな顔をした。モグラ叩きという聞きなれない言葉に違和感を持ったのかもしれない。


 ハンナさんが先に口を開いた。


「モグラって地面の中を掘って進む生き物でしょ? それを叩く作戦って、何か意味があるのかしら?」


 ラウラはオレの顔を見た。


『ごめんなさい。余計なことを言っちゃった……』


『ラウラのおしゃべり! でも、ダイルさんたちになら、わたしのことを少し話しても大丈夫だと思うけど』


 仕方ないな。そう思いながら、オレは話し始めた。


「実はね、わたしが生まれた国にモグラ叩きっていう遊びがあるんです。オモチャのモグラがたくさん開いた穴から頭を出したところをハンマーで叩く遊びでね、どの穴からモグラが現れるか分からないから面白くて夢中になるんです。今度の作戦もそれに似てるでしょ?」


「モグラはラウラさんで、それを夢中になって叩こうとするのはムカデってことね?」


「そう。ムカデはモグラに気を取られて夢中になってるはずです。それをわたしがこっそり近付いて倒すってことですね」


 ハンナさんは頷いている。作戦名の由来を聞いて納得したようだ。だが、今度はフィルナさんが口を開いた。


「ところで、ケイさん。あなたが生まれた国ってどこの国ですか? そのモグラ叩きという遊びがある国のことですけど」


 この質問には困った。なんて答えよう……。


 ※ 現在のケイの魔力〈501〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈501〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈501〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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