SGS121 新たな体の名前を決める
ユウは自分の元の体に入っていて、オレは新たな体に入っている状態だ。考えてみれば、今のようにソウルを一時移動している状態で名前を呼び合うのはややこしいことになるな。この状態のときに、オレはユウに対して「ケイ」って呼び掛けるのか?
ええい、ややっこしい。とにかく今はこの女性の名前を決めなきゃ。
なんて名前にしようか? オレは自分が入っている女性の顔を思い浮かべた。妻の顔と重なる。そうだ、この名前しかない。
「ミサキ……」
「えっ? 今、なんて言ったの?」
「わたしが入っている女性の名前。ミサキっていう名前でどうかな?」
オレの言葉にラウラは不思議そうな顔をした。
「ケイが決めたのなら、あたしは良いと思うけど……。ミサキって珍しい名前だよね」
「ミサキって、日本の……、私たちが生まれた国の女性の名前よね? 何か理由があるの?」
ユウが鋭く問いかけてきた。どうしようか。正直に話した方がいいかな……。
「言うのがちょっと恥ずかしいんだけど、わたしの妻の名前だったんだ。結婚して2年後に交通事故で死んでしまったけどね。この女性の顔が死んだ妻に似ていて、それで……」
オレが説明すると、ユウもラウラも「その名前がいいよ」と言って賛成してくれた。
「じゃ、名前はそれで決まり。これからはミサキって呼ぶね。で、ミサキ。どうして裸なの?」
あっ! そうだった。
オレは異空間ソウルでの出来事をざっと説明した。ミサキが実は人工生命体だと知って、ラウラは驚いた顔をした。
いきなりラウラが右手を伸ばして来て、オレのオッパイをふわっと撫でた。ぞわーっと電気が走って体がビクンとなる。思わず「キャッ!!」と悲鳴を上げた。
「いきなり、なにするんだよーっ!」
「普通の女性の体と同じなのね。と言うより、それ以上に敏感かも……」
ラウラが近付いて来て、オレをぎゅっと抱きしめた。
「やわらかい……。あたし、ケイも好きだけどミサキも好きよ……」
その言葉に心が解けそうになる。ラウラの背中に手を回して口づけをした。
「あんたたち、いい加減にしなさい! そんなことやってる場合じゃないでしょ!」
そうだった。ユウに叱られて我に返った。オレはラウラの亜空間バッグから下着とワンピを出してもらって、それを着ながら話を続けた。
「それで……、名前をなんて呼ぶかって件だけど、この女性はミサキという呼び名で良いとして、問題はそっちだよね」
オレはユウを指差した。
「今はその体にユウが入っている状態だけど、なんて呼べば良いのかな? ケイって呼ぶの?」
これには意見が色々出た。名前をケイに統一しないと他の人が混乱するとか、誰が入っているかで名前をケイとユウで使い分けないと自分たちが混乱するとか、いっそ別の名前に変えてしまったらどうかとか。
で、結論が出た。オレが入っているときはケイ。ユウが入っているときはユウと呼ぶ。人から名前のことを聞かれたら、正式な名前は「ケイ・ユウナ・マード」だと答える。ケイがファーストネーム、ユウナはミドルネーム、マードはラストネームだ。
ウィンキアの世界でもミドルネームやラストネームがある。ただし、そういう名前を持っているのは富豪や貴族、王族、それに神族など支配的な立場にある特権階級の者だけだ。庶民はファーストネームだけで生活をしている。
ラストネームはその家の主人の名前だ。オレの場合はレングランで結婚してマードが主人となったからラストネームをマードとした。マードのことは全く記憶に無くて死んでしまった亭主の名前だが、人に説明するときに便宜上必要なので名前を使わせてもらうことにしたのだ。
名前をどうするかで時間を取られてしまったが、これでラストネームのケイと呼んでも、ミドルネームのユウと呼んでも不思議ではなくなる。
では、小屋から出よう。ユウに外の空気を吸わせてやりたいし、村長のところへ行って自分の滞在許可を取っておきたい。
ラウラは今日の訓練もメンバーの男たちだけに任せたそうだ。だから、今日はラウラもオレたちと一緒に行動する予定だ。
小屋から外に出た。すると、ユウはテーブルのところに駆け寄って椅子に腰掛けた。
「ねぇ、何か食べる物を出して」
そうか。ユウは自分で何かを食べて味わいたいのだろう。なにしろ、ずっと何も口にしてなかったからな。
ラウラが亜空間バッグからパンや干し肉などを出した。コップに水も注いだ。
ユウはそれを手に取って食べ始めた。
「硬いけど美味しい。自分で食べるって、こんな感じだったのね」
パンを小さく千切ってモグモグと食べる姿が可愛い。オレはユウが愛おしくて堪らなくなった。どうしてこんな気持ちになるんだろ……。
ユウは食べ掛けのパンを置いて、近くの雑木のところへ駆けていった。その葉っぱに触って深呼吸をした。
「空気が美味しい。樹の匂いがこんなに素敵だったなんて……」
オレにはユウが輝いて見えた。なんて綺麗なんだろう……。
外見は普段の自分の姿かもしれないが、中に入っているソウルによって人の輝き方は違うのかもしれないな。
「ミサキ、ラウラさん、村長のところへ行きましょ」
ユウから声を掛けられてオレは自分がぼんやりしていたことに気が付いた。ラウラも目をぱちぱちしていて、夢から覚めたような顔をしている。
「ええと、ユウがラウラを呼ぶとき、呼び捨てにしたほうがいいよ。普段、わたしも呼び捨てにしてるから」
オレの言葉にラウラもユウも同意してくれた。
三人で念話に切り替えて、これからのことを色々と相談しながら村長の家まで歩いた。家に着くと、すぐに村長が現れた。
「これはケイ様。何かご用ですかの?」
ユウに向かって挨拶した後、オレに気付いて顔をこちらに向けた。
「おや? 新しい顔じゃナ?」
村長はオレを見ている。いや、視線はオレの脚を見てるようだ。このスケベじじい!
「この女性は私の使徒です。私がワープ魔法を使えるようになったので、こちらの村にワープで連れて来ました。名前はミサキ。私たちの小屋に一緒に滞在させる予定です。村長に紹介しておこうと思い、今日はこちらに伺いました」
ユウが予め決めておいた筋書きでオレを紹介した。
「ミサキです。どうかよろしくお願いします」
オレは大人の女性らしく淑やかに挨拶した。
「これはどうも。ご丁寧なことじゃナ」
村長はにこやかに挨拶を返した。
「ケイ様の雰囲気がいつもと違っておるように感じるの。女らしくなったと言うか、色っぽくなったと言うか……。気のせいかのぉ?」
村長は鼻の下を伸ばしている。そんな村長を見てラウラが言葉を返した。
「村長。あんた、スケベジジイの顔になってるわよ。ケイが女っぽくなったのはね、きっとミサキが加わったせいよ。あたしから見てもミサキは色気があるから、ケイやあたしもそれに感化されてるの。どうかしら? あたしも色っぽくなってきたでしょ?」
「ラウラさん、あんたは変わっとらんの。と言うか、周りの男たちに感化されてきたんじゃないかえ?」
「それってどういう意味よ!?」
オレは「おっさん臭くなったと言いたいの?」と村長に尋ねようとして、ぐっと堪えた。危なかった。危うく火に油を注ぐところだった。
帰り道でもラウラはプリプリと怒っていた。
ソウル一時移動のタイムリミットまではもう少し時間があったので、遠回りしながら小屋まで戻った。ユウは森の香りや小鳥のさえずり、麦畑を走る風の輝きなど、普段は見過ごしてしまうものに声を上げて喜んだ。
小屋に戻って、地下の隠れ家に入った。ユウとラウラはテーブルの椅子に腰を掛け、オレはベッドの上に座って、その瞬間が訪れるのを待った。
※ 現在のケイの魔力〈501〉。
※ 現在のユウの魔力〈501〉。
※ 現在のコタローの魔力〈501〉。
※ 現在のラウラの魔力〈320〉。




