SGS120 知識を植え付けてもらう
ソウルの一時移動魔法を使ってユウは元の体に戻れるようになった。でも、ユウは満足していないのか、何か言いたいことがあるようだ。
『文句があるのなら、はっきり言えば』
『文句なんて無いわよ。こうやって元の体に戻れたことに感謝してるのよ。でも、少しだけ言わせてもらうなら、色々手順があるのは面倒よね。ソウルの一時移動のたびに、横になったり、ケイのソウルが先に移動するのを待たなきゃいけなかったり……』
『オイラが予想したとおりだにゃ。ユウがそうやって文句を言うと考えていたのだわん。それでにゃ、一連の魔法を組み合わせて一つの新しい魔法として登録しておいたのだわん。それを使えばいいぞう』
コタローはその新しい魔法に〈ソウル一時交換〉という名前を付けたそうだ。オレが発動すれば今のように一瞬でそれぞれの体にソウルを一時移動できるらしい。発動後に都合が悪くなったら途中でキャンセルもできるようだ。だが、ちょっと気になることがある。
『ちょっと確認したいんだけど、ソウルの一時移動が終わって、この女性の体からソウルが抜けた後は体が放置されたままになるからマズイよね?』
『それは心配にゃい。オイラが操縦して異空間ソウルまで戻すからにゃ』
なんと、乗り捨て自由ってことだ。
『さすが、コタローちゃん。サービス満点だわね』
ユウの言い方にはなんとなく棘がある。だが、そんなことは気にせずにコタローは話を続けた。
『サービスついでににゃ、知育魔法でケイのソウルに知識を植え付けておくわん。メニューを使うために必要な知識にゃのだ。一瞬で終わるから心配いらにゃい』
『え、メニューって?』
オレがそう問いかけている間に知識の植え付けは終わったみたいだ。だが、今までと何も変わった気がしない。ホントに終わったのだろうか?
『メニューが何かってことはにゃ、やってみれば分かるわん。頭の中でメニューを表示するように指示を出せばメニューが見えるはずだからにゃ。この世界で何か分らないことがあれば知識をまず調べてみれば良いぞう。知りたかったことや手掛かりが得られるかもしれないからにゃ。
それとにゃ、その指示や表示される文字は全部ソウルゲートの標準語を使うことになるのだわん。つまり古代語と呼ばれている言語だにゃ。まずはメニューを出してみろにゃん』
コタローに言われたとおり、オレはメニューを出すよう念じてみた。
おっ。古代語が使えるぞ。
目の前の空中に文字が表示された。
なるほど、これがメニューか。他人には見えないらしい。
古代語で「魔法一覧」、「スキル一覧」、「コマンダー機能一覧」、「ソウルゲート装備品一覧」、「ロード化魔具一覧」、「異空間倉庫」、「マップ」、「メモ」、「状態表示設定」という文字が表示されている。
「魔法一覧」を開くと魔法の一覧が表示された。「ヘルプ」があって、魔法の用途や使い方が詳しく表示されるみたいだ。一覧に中から魔法を選んで発動できるらしいが、これは使わないな。今までみたいに頭の中で魔法名だけで発動したほうが速いからだ。
「スキル一覧」を開くとオレが使えるスキルの一覧が表示された。「狙撃」と「対空防御」、「急所突き」だ。この一覧からスキルが発動できるようだ。しかし、オレはスキル名で発動するから、この一覧からの発動も使わないだろう。
「コマンダー機能一覧」を開くと何かの一覧が出てきた。表示されたのはオレが使えるコマンダー機能らしい。コタローに尋ねるとコマンダーとは地球生まれの神族のことだ。つまり、オレが神族として使える機能の一覧ということだ。「使徒登録機能」、「配下登録機能」、「探知偽装」、「ロードオーブ停止機能」、「全方位照準機能」、「遭難者探知機能」などの言葉が並んでいた。ヘルプがあって、この一覧から発動できるようだ。一つひとつの機能は後で調べよう。
「ソウルゲート装備品一覧」を開いたら文字どおりソウルゲートの装備品一覧が現れた。「偵察用人工生命体 人族タイプその4;使用中」、「偵察用人工生命体 犬タイプその2;使用中」、「偵察用人工生命体 ネコタイプその1」、「偵察用人工生命体 ネズミタイプその1」と出た。他にも装備品があったのだろうが、コタローが言ってたように失われてしまったようだ。
「ロード化魔具一覧」を開くと「契約済みのロード化魔具はありません」と表示された。コタローに尋ねると魔具というのは魔法が付呪された武器や防具、道具などの総称らしい。そして、ロード化魔具というのはその魔具に妖魔や魔獣のソウルを封じ込めて、ウィンキアソウルの魔力を常時使えるようにしたものだ。オレはそんな物は持ってない。
「異空間倉庫」というのは、このソウルゲートの倉庫に保管した物の一覧が表示されるらしい。一覧には「ゴミの山(廃棄不可)」というのが1件表示されているだけだ。
しかし、ゴミの山が廃棄不可ってどういうことだ? コタローに尋ねると、倉庫に保管されている資材の中で使えなくなった物やオーナーが廃棄指示した物は自動的にゴミの山に移されるそうだ。ゴミの山は実はゴミではなく、オーナーが魔法を使ったときに魔法の材料として使われる。だから重要なのだ。ゴミの山の整理や廃棄も自動的に行われるそうだ。
「マップ」は文字どおり地図だ。今までコタローがオレの頭の中に描いてくれていたマップと基本的には同じもののようだ。1万年前の航空写真で、マップ上で自分の現在地と向いている方角が分かる。自由にマップの拡大や縮小もできる。街の名前や街道などは1万年前の地図だから載ってない。ただし、自分が探索して新たな情報が得られた場合はマップ上に自動的に追記されるから便利だ。
「メモ」を開くと「新しい記録を作成しますか?」と表示された。ここは文字どおり何かのメモを作成して保管しておく場所のようだ。今は使わない。
「状態表示設定」はバリアの耐久度と時刻などの表示をするかどうかのスイッチらしい。通常はオフになっている。これをオンにしてみると、視野の下の方に緑色の棒グラフが現れた。これがバリアの耐久度を現わしているようだ。その近くの数字は自分の魔力値だ。今は〈100〉という数字が表示されている。ソウルを一時移動している状態だから、魔力が1/5になっているのだ。視野の上の方には時刻が表示されている。とりあえず、状態設定表示はオンにしておこう。
『メニューを使ってもいいけど、わたしにはコタローがいるから、メニューはあまり使わないと思う』
コタローの良いところは必要なときにアドバイスや援護してくれるし、相談にも乗ってくれる。心強い味方だ。
『オイラに任せておけば大丈夫だわん。これからもたっぷりサービスさせてもらうにゃ』
『じゃあ、ラウラが待ってるから隠れ家に戻ろう』
『でも、ケイ。ソウル一時移動の状態だから魔力が〈100〉になってるわよ。ワープを使って大丈夫なの?』
ユウが心配しているのは尤もなことだ。ワープに必要な魔力は〈500〉だから、ソウル一時移動の状態では魔力が足りない。
『本来の魔力が〈500〉に達していれば問題にゃい。ソウル一時移動の状態でもソウルリンクの太さは〈500〉のままだからにゃ。不足している魔力はソウルゲートが補完するから大丈夫なのだわん』
『それなら私やコタローもワープしてラウラさんのところに行けるのよね? この異空間ソウルから出られるのよね?』
『イエスだわん』
『ありがとう、コタロー!』
ユウはコタローを抱いて踊り出した。よほど嬉しかったのだろう。
『それじゃ、ワープしよう』
『でも、ケイ。あなた、裸のままよ。いいの?』
『隠れ家にワープすれば着る物はあるし、ラウラにはいつも裸を見られてるから大丈夫』
そう言って、オレはワープした。ユウも続いてワープしてきた。
ラウラは何も無いところにオレたちが現れて驚いた顔をした。オレがワープで戻ってくるのを待っていたはずだから、そんなに驚くこともないだろうに。
「ケイ、この人は……、誰なの?」
ラウラがユウに向かって尋ねた。
あ、そうか。ラウラはオレたちがソウルの一時交換をしているのを知らないし、この妻に似た女性もラウラは初めて見るから不審に思うのもムリは無い。
「ラウラさん、私はユウよ。ここにいる女性がケイなの。ソウルを一時的に入れ替えてる状態なのよ。よろしくね」
「そうなんだ、ラウラ。わたしは、こっちの女性に入ってるんだ」
オレが言うと、ラウラは困惑したような顔をした。
「えっ!? ユウちゃんがケイの体に入ってて、ケイはこの女性に入ってるの? ややっこしい! 名前はなんて呼べばいいのよ?」
ラウラに言われて、女性の名前を知らないことに気が付いた。
『コタロー、この女性の名前を教えて』
高速思考で問い掛けた。
『名前にゃんか無いわん。でもにゃ、これからもこの体を使うにゃら、名前が必要だぞう。名前はケイが付けるべきだにゃ』
『えっ!? わたしが?』
たしかに今後も頻繁にソウルの一時交換をするだろうから、この女性には名前が必要だ。でも、名前を付けろと言われても困る。どんな名前にしようか?
※ 現在のケイの魔力〈501〉。
※ 現在のユウの魔力〈501〉。
※ 現在のコタローの魔力〈501〉。
※ 現在のラウラの魔力〈320〉。




