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SGS119 新たな体に入る

 ラウラの朝食が終わった後、オレたちは小屋の中に入った。


 オレは今から異空間ソウルへ移動するつもりだ。


 コタローの説明によると、異空間ソウルへの移動もワープの一種とのことだ。神族で魔力が〈500〉以上になれば、ワープ魔法を使って自分の異空間ソウルへ自由に出入りできるそうだ。


『じゃあ、行ってくるから……』


『気を付けてね』


 ラウラはなんだか心配そうだ。


『異空間ソウルへ入るだけだからにゃ。何も心配ないわん』


 コタローがそう言うのだから安全なのだろう。


 オレは異空間ソウルを指定してワープを発動した。一瞬で明るい空間に出た。


 足元に黒い犬がいる。ダックスフンドだ。オレを見上げながらシッポを振っていた。これがコタローだな。それと……。


『ユウはどこ?』


 見渡したがそれらしい姿は無い。


『あなたの目の前にいるけど、見えないわよ』


『そっか。ソウルだけだと姿は見えないんだね』


『姿は見えないけど、ケイが来るのを首を長くして待っていたのよ。ソウルゲートへようこそ!』


 ユウが言ったソウルゲートというのは異空間ソウルの正式名称だ。以前にユウやコタローから教えてもらったのだが、ここは巨大宇宙船の中だそうだ。この宇宙船はウィンキアとは別の異世界の宇宙空間に浮かんでいるそうな。


 そしてオレが今いるのは巨大宇宙船の船室の中だと思う。船室と言っても、とんでもない広さだ。神族一人ひとりに半径数キロほどの半球型の船室が、言い換えれば個人用エリアが割り当てられていて、その個人用エリアは完全に独立しているとのことだった。


 広さだけで言えば野球のドーム球場どころではない。それこそ桁違いの広さで、真昼と同じくらいに明るいが、オレとコタローがポツンと立っているだけだった。


『言っちゃあ悪いけど、何も無い殺風景なところだねぇ』


『私はこの場所でずっと我慢してきたんだからね。来たばっかりのあなたが文句を言わないの!』


 ユウに叱られてしまった。


『この場所に何を作るのかはオーナーの自由なのだわん。このドーム状のエリアを使っていたのは初代のオーナーだけでにゃ、公園のようなものをここに作ってたらしいわん』


『それなら、その公園は残ってるの?』


『いや、残ってないわん。初代のオーナーが死んだときににゃ、このエリアの中の物は全部廃棄されて何も無い状態になったからにゃ』


『どうしてそんなもったいないことをするのよ!』


 ユウが憤慨したように言った。


『新しくこの個人用エリアのオーナーになった者にこの場所を好きなように使わせるためだわん。オーナーが変わるたびにこの場所をリセットするという規則はソウルゲート・マスターが決めたことだぞう』


 好きなように使えと言われても、ここに入れるのはオレとユウだけだ。こんな広い場所をいったいどうすりゃいいんだ? とりあえず、ここは放っておこう。


 それよりもソウルゲートに来たら、まず一番初めにやりたいことがあるのだ。


『ええと、以前にユウから聞いたんだけど、備え付けの装備品は廃棄されずに残っているんだよね?』


『そうだにゃ。倉庫の資材と備え付けの装備品は残ってるわん』


 倉庫の資材はガラクタになってるらしいから、それはどうでもいい。オレが興味があるのは装備品の方だ。装備品として数体の人工生命体が残っていて、それを使えばソウルの一時交換ができるという話だった。


『コタロー、ユウとソウルを一時交換したいんだけど、どうすればいい? 人工生命体を使うんだよね?』


『そうだにゃ。まずケイが自分のソウルを一時的に人工生命体に移さないといけないわん。使う魔法はソウル一時移動の魔法にゃのだ』


『人工生命体はどこ?』


『今取り出すわん。使えるのはこの三体だけだにゃ』


 オレの目の前に何かが現れた。人族の女性、それとネコとネズミだ。三体とも眠っていて全裸だ。


 いや……、驚いて表現がおかしくなった。ネコとネズミが何も着ていないのは当たり前だが、女性はホントに全裸なのだ。仰向けで眠っている。オッパイと乳首がきれいで、思わずそこに目が行ってしまう。


 オッパイから強引に目を引き離して女性の顔を見た。25歳くらいでショートヘアの美人だ。


 オレは息が止まりそうになった。面影が似てる。オレの妻に顔が似ているのだ。交通事故で突然に死んでしまった妻。結婚して2年後のことだった……。


『使えるのはこの三体しかにゃいのだわん。全部、偵察用の人工生命体にゃのだ。どれでもケイが好きなのを選んで構わにゃいぞう』


 コタローから言葉を掛けられて意識を引き戻した。


 女性の顔を見て死んだ妻を思い出すなんて……。少し気分が湿っぽくなってしまったが、気持ちを切り替えよう。


『このどれかにわたしのソウルを移すってこと?』


『そうだわん』


 それなら迷うことは無い。


『ネコやネズミになるのはイヤだ』


『と言うことは、この人族の女性だにゃ』


 妻に似た女性か。なんだか心がざわつくが……。でも、これは偶然によく似ているだけで、この女性は妻ではない。しっかりと自分に言い聞かせておく。


『ケイ。ソウル一時移動の魔法を発動する前に床に横になるのだわん。体からソウルが抜け出ると体が倒れるかもしれないからにゃ』


 オレはコタローの指示どおりに横たわった。そして横で眠っている女性を指定してソウル一時移動の魔法を発動した。


 「ふーっ」という長い息遣い。自分が深呼吸をしたのだと気付いた。目を開けて上半身を起こした。ぷるんとオッパイが揺れるのを感じる。隣を見ると、自分が寝ていた。ソウル一時移動が成功したのだ。


 立ち上がってみた。今までより少しだけ視点が高い気がする。オレが入った女性はケイよりも10センチくらい背が高いみたいだ。ケイの身長が160センチくらいだから、この女性は170センチくらいだな。


『次はユウの番だにゃ。ケイの体に入る手順を説明するわん』


『ケイの体に入るって言われると、なんだかイヤなんだけど。自分の元の体に戻ると言ってよ』


 ユウが文句を言ったが、コタローはそれを無視して言葉を続けた。


『ユウがケイの体を指定してソウル一時移動を発動するときにはケイの承諾がいるのだわん。なぜにゃら、体の持ち主はケイだからにゃ。一時移動の状態でもケイのソウルは体にリンクした状態なのだわん』


『でも、ケイのソウルはもう別の体に移ってしまってるわよ?』


『いや、それは違うわん。一時移動をイメージ的に言えばにゃ、ケイのソウルは根っこをケイの体に張り付かせたままでにゃ、こっちの女性にソウルの枝を伸ばしてリンクしている状態にゃのだぞう。だからユウが強引にケイの体に入ろうとしてもにゃ、すごい抵抗を受けて上手く入れにゃいのだわん』


 なるほど。そういうことか。


『それなら、わたしがソウル一時移動をしている間に、悪いソウルに自分の体を乗っ取られる心配は無いってこと?』


『その心配はいらにゃい。それにオイラも監視してるからにゃ』


『とにかく早くやってみましょ!』


 ユウが魔法を発動するとオレの頭の中にユウの存在が伝わってきた。同時に『体の制御を一時的にこの者に渡してよろしいですか?』と問い掛けの言葉が聞こえてきた。アドミンの声に似ている気がする。このソウル一時移動の魔法をコントロールしているのはソウルゲートなのだから、それがアドミンの声と似ていても不思議では無い。オレは『いいよ』と肯定した。


 床に横たわっていたケイの体がピクリと動いた。ユウが体に入ったのだ。ユウは体を起こして、オレを見つめた。


『もどれた……、戻れたわ。ケイ、それとコタロー、ありがとう』


『どう? 5年ぶりに自分の体に戻った気分は?』


 オレが問い掛けると、ユウはピョンピョンと飛び跳ねて体を動かした。


『うん、完全に自分の体よ。違和感とかは無いし』


『今はユウが完全にケイの体を制御している状態だけどにゃ、ユウが見たり聞いたりしたことはケイも見聞きできるのだわん。つまりにゃ、ケイはユウが感じている五感を共有できるってことだぞう。ケイのソウルはケイの体と繋がったままだからにゃ、そうなるのだわん。でも五感を切り離すことはできるぞう』


『今まではわたしがユウに見られてたけど、ソウル一時移動をしてるときは立場が逆になるってことだね』


『なんだかイヤだわ。ケイ、絶対に覗き見しないでね』


 よく言うよ。ユウは今までずっとオレと五感を共有してるのに。


 だけど言葉のバトルでユウには勝てない。結局、ソウルの一時移動をしている間は覗き見をしないことを約束させられてしまった。


『じゃあ、ラウラが待ってるから、このまま隠れ家に戻ろう』


 オレがそう言うと『ちょっと待つのだわん』と言ってコタローが引き止めた。


『まだ説明が終わってないからにゃ』


『なに?』


『このソウル一時移動は色々な制約があるのだわん。一つは時間の制約だにゃ。術者の魔力の大きさでソウル移動の制限時間が決まるのだわん。ケイの魔力は〈500〉を超えたところだから制限時間は5時間だにゃ。制限時間を超えたら強制的にソウルは本来の場所に戻されるぞう』


 コタローが言うには、制限時間を超えたらオレのソウルは強制的に自分の体に戻される。ユウのソウルは異空間ソウルに戻されるらしい。


 それと、ソウルの一時移動が終了して自分の体にソウルが戻ったときには魔法を使えない時間が生じるらしい。その時間は10分間だ。この10分間はすべての魔法が一切使えなくなるから特別に注意しておく必要がある。本来の意味とは違うのだろうが、オレはこの10分間をクールタイムと呼ぶことにした。もし戦闘中にこのクールタイムが発生すると致命的なことになる。ソウル一時移動の魔法は注意して使わないと危ないということだ。


 さらに時間の制約がある。ソウル一時移動からソウルが戻った後に再びソウル一時移動を行うためには10時間から20時間くらい待たねばならないそうだ。これがもう一つのクールタイムだな。


 他にも制約があるとコタローは言う。ソウルが一時移動して別の体に入っている間は魔力が本来の1/5になるらしい。これはソウルの一時移動の状態を維持するのに大きな魔力を使うためだそうだ。


『5時間は短いわよ。もっと長くソウル交換できないの?』


 ユウが不満げに言う。


『ケイの魔力が〈600〉になったら6時間になるわん。〈700〉になったら7時間に増えるぞう。つまりにゃ、一時移動の時間を伸ばしたいにゃら、魔力を高めるしかないってことだわん。それとにゃ、まだ制約があるぞう。ソウル一時移動の魔法を発動中はにゃ、その術者は別の一時移動魔法を発動することはできにゃいのだわん。つまり一時移動魔法の多重発動はできにゃいから覚えておくのだぞう』


 頭が痛くなるくらい制約が多いな。でも……。


『色々制約はあるけど、一時的でも元の状態に戻れるのだから我慢するしかないよ』


 オレの言葉にユウは渋々頷いたが不満そうな顔をしている。


 ※ 現在のケイの魔力〈501〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈501〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈501〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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