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SGS116 ミレイ神、排除を決断する

 ――――――― ミレイ神 ―――――――


 アーロ村まで700モラの森の中。私でもこれ以上は近付けない。あの村には魔力が〈500〉を超えるロードナイトが何人もいる。それは探知魔法で分かっていることだ。


 それにもっと怖いのは守護神と呼ばれているアロイスの存在だ。使徒のニドから聞いた話では、アロイスは1万年も生きていて魔力は〈3000〉だと言う。そんなヤツに見つかったらタダでは済まないだろう。


 そろそろ予定の時間だ。


 男が現れた。アーロ村の住人だ。以前に私が村の様子を見るためにここへ来たとき、通り掛かった男を捕まえて暗示魔法を掛けた。私の間者に仕立てたのだ。


 私がここへ来るのは半月に1回くらいだが、男は毎日、時間になったらこの場所に現れる。私と会ったときは、男は私に村の様子を報告して帰っていく。男は自分では毎日決まった時刻に散歩に出ているだけだと思っている。この森の中で私に会って報告をしていることは覚えていないのだ。それが私の暗示魔法の力だ。


 私が半月毎にアーロ村へ来る理由。それはケイが私にとって危険な存在かもしれないと思うようになったからだ。前にここへ来たとき、私は自分の耳を疑うような話を男から聞いた。ケイがアロイスからの依頼で大魔獣と戦うことになったと言うのだ。もっと驚いたのは、ケイのことを人族ではなく神族だと男が断言したことだ。


 そんな馬鹿な! 私は信じなかった。でも、もしかしたらという不安は感じた。それで半月毎に様子を見にくることにしたのだが……。


 そして今日。男は私に報告をして村へ戻っていった。


 今回の男の報告は特に差し障りのあるような内容ではなかった。ギリルという魔闘士が大魔獣に挑んで死んだと男は言ってたが、私には関係ない。


 だが報告の中で気になることが一つあった。ケイが村長や長老たちの前でヒール魔法を使って怪我人を治療したと言うのだ。怪我人は大魔獣に腕を斬り落とされていたが、ケイがヒール魔法を使うと一瞬でその腕が生えてきたと言う。間違いなくケイが使ったのはヒール魔法だ。つまり、ケイは神族と同じ能力を持っているということだ。


 それにしても、どうしてケイが神族と同じ能力を持ったのだろうか。いったいナゼ……。


 ケイは私の子供を代理出産している。もしかするとそれが影響して、ケイにも神族と同じ能力が芽生えたのかもしれない。


 アロイスから依頼を受けた後、ケイは危険な場所へ出向いて魔獣を倒しながら訓練を重ねているらしい。それが本当だとすれば、ケイに掛けた暗示が解けて、ケイは記憶を取り戻したということだ。私が暗示で作り出した女性の意識のままであれば、恐ろしくて魔獣と戦おうなどと思わないはずだ。ケイはきっと元の男性の意識を取り戻しているに違いない。


 ケイが神族と同じ能力を持っていて、しかも元の記憶を取り戻しているとすれば、ケイを放置しておくことはできない。ケイが神族だと分かれば、ほかの神族が騒ぎ出す。ケイがほかの神族に捕らえられて尋問されれば、私が秘密にしておきたい悪行が露見してしまうだろう。私が密かに自分の子供を代理出産をさせたことは絶対に隠し通さねばならないのだ。もしそれが露見したら、私は破滅する。


 私が取れる方法は二つだ。ケイを自分の味方に付けてその存在を隠蔽するか、それともケイを密かに消し去るか。そのどちらを取るか……。


 今まではケイが暗示に掛かっていて、女性の意識のままでいると私は思っていた。だから子供の養母であるケイを守るつもりだった。使徒のニドを使ってケイを密かに守らせていたのだ。だがケイの暗示は解けてしまった。想定外の事態だ。


 果たしてケイは私の味方をするだろうか? ケイを異世界から召喚して、強制的に女性の体にソウルを移植して、子供を産ませた。今はそのすべてを私がやったと知っているはず……。


 どう考えても味方にするのは難しそうだ。やはりケイは危険だ。ケイには気の毒だが、ここではっきりと決断しなければならない。私にとって危険なものは排除するのだ。


 妹のアイラにも気付かれないようにして、密かにケイを消し去ろう。それが一番安全な方法だ。


 それを誰にやらせるか……。一番簡単なのは私の使徒を使うことだ。ニドが今も私の副官として同行している。ニドは私の使徒の中で古参の一人だ。信頼できる男だから副官に任命して、いつもそばに置いて私の補佐をさせている。今も静かに後ろに控えているから、ここは手っ取り早くニドにやらせようか……。


 いや、思い付きで安直に暗殺などさせるべきではないだろう。慌てて事を起こすと思わぬ痛手を被るかもしれないからだ。ニドを使うにしても慎重に対処させるべきだ。


『ニド、あなたにやってもらいたいことがあるの。それは……』


 私がケイの暗殺を命じると、ニドは硬い表情で命令を受諾した。今まではケイを守れと言っておきながら、今度はケイを殺せと命じたのだから、ニドが複雑な心境になるのは仕方がないことだ。


『焦る必要はないわ。慎重に機会を伺うのよ』


『分かりました』


 ニドだけを頼るのも不安がある。ニドの心境を考えると、ケイに手心を加えてしまうかもしれない。念のために別の手段も用意しておくべきだろう。


 となると……、使うのはあいつだ。


 名前はサレジ。レングランのハンターで、ケイの親方だった男。ケイに憎しみを抱いていると聞いている。


 私がこの闇国とバーサット帝国の砦のことをレング神様に報告したとき、レング神様はすぐにレングランの王へ連絡して対処するよう指示した。レングランの王は直ちにハンターの部隊を編成させて、この闇国へ送り込んだ。軍を動かさずにハンターを送り込んだ理由は、バーサット帝国とレングラン王国が真正面で対立するのを避けたかったからだろう。


 それと経緯は分からないが、複数のハンター隊で一つの部隊が編成されて、どういう訳かサレジが隊長に任命された。それを知って私は少し心配になった。サレジが闇国でケイを捜し出して、何か派手なことを仕出かすのではないかと思ったからだ。そのせいでケイが神族と同等の能力を持っていることがレング神様に知られて、ケイと私の関係が露見してしまったら……。考えただけで恐ろしい。


 だが今はサレジがこの闇国に送り込まれてきたことに感謝している。ケイに強い憎しみを抱いている男。あの脂ぎった顔。貪欲そうな瞳。ケイを密かにこの闇国で葬るには、打って付けの男だ。あいつに暗示魔法を掛けて使うのだ。


 サレジにこっそり工作させて、バーサット帝国軍をアーロ村にぶつける。どちらが勝っても構わない。両者とも疲弊することは確実だし、レングランの戦力は温存できるのだから。そして、その戦いにケイを巻き込んで密かに葬るのだ。派手なことを仕出かさないようサレジに注意しておけば大丈夫だろう。


 この策略を進めるために、まずはこの闇国でサレジを捜し出して暗示を掛けなければならない。バーサット帝国軍をアーロ村にぶつけるための工作を開始させるのだ。


『ニド、あなたはサレジを知っていたはずよね?』


『ハンターギルドでケイの親方だった男ですか? 知っていますが、それが何か?』


『サレジがレングランからこの闇国に派遣されて来ていることも知っているわよね? まだ闇国のどこかにいるはずよ。捜し出して、見つけたら直ちに私に知らせなさい。ちょっとサレジに頼みたいことがあるの』


『承知いたしました』


 ニドは駆け出していった。この闇国はぐるっと一周したら元の場所に戻ってくるような地形だ。遅くとも数日で見つかるはずだ。


 ニドにケイの暗殺を命じたし、これからサレジを使った仕込みも行うから、これだけの備えをすれば大丈夫だろう。おそらくケイを暗殺する手段としてはニドを使うよりもサレジを使う方が本命になると思う。いずれにせよ、ケイという危険要因は確実に取り除けるはずだ。


 ここまで考えて、自分が肝心なことを忘れていたことに気が付いた。考えてみればケイは大魔獣と戦うことになっている。私が手を下す前にケイは大魔獣に殺されてしまう可能性が高いのだ。私は余計な心配をし過ぎたのかもしれないわね。



 ――――――― ラウラ ―――――――


 また日々が過ぎて、ケイがアロイスに暗示を掛けられてから1か月近くが経とうとしていた。


 ギリルの葬儀が終わった後、あたしとケイは小屋に戻って、ムカデの大魔獣とどうやって戦うか相談して大まかな作戦を立てた。本当にこんな作戦であのムカデを倒すことができるのだろうか。たまらなく不安だ。


 ケイも不安なのだろう。訓練に出掛けたまま帰って来ない日が続いている。あたしもパーティーの男たちと一緒に魔獣狩りの訓練を続けている。


 そんなある日の朝、あたしは村長から呼び出しを受けた。ケイを捜して男が訪ねてきたと言うのだ。使いの者は、ケイを訪ねてきた男は豹族だと言った。村の入り口で待たせているらしい。


 念話でケイに尋ねてみたが、全く心当たりが無いと言う。とりあえず、あたしが会って確かめるしかない。


 村の門まで行くと、村の魔闘士たちに取り囲まれた男がいた。村長と話をしているようだ。


 えっ!? あれは……、あの人だ。間違いない。あたしの命の恩人だった。


 ※ 現在のケイの魔力〈492〉。

   (自分を鍛えるために魔獣を毎日倒し続けているため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈492〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈492〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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