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SGS113 魔獣を相手に訓練を続ける

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 数日前からあたしとケイは小屋の入り口近くのテラスで食事を取っている。このテラスはケイがクラフト魔法で作ったものだ。テラスには同じく魔法で作ったテーブルがでんと置かれて、その周りには椅子が並んでいた。ケイが作ったにしてはどれもグラグラしないし、テーブルに置いた物が勝手に転がっていくこともない。


 あたしはこのテラスが気に入っている。地下の隠れ家や暗い小屋の中よりもこのテラスで食事をするほうがずっと美味しく感じるし、気分が良くなるからだ。


 ケイはあの大魔獣との無謀な戦いをして以降、大半の時間を訓練に費やすようになっていた。


 今朝もケイはテラスでの朝食を終えるとすぐにクドル・インフェルノへ出掛けてしまった。


 あたしはテラスで椅子に座って考え事をしている。どうやって外様衆を口説き落とすかを考えているのだ。


 あれっ? 誰かが小屋に近付いてくる。


 道沿いの樹の陰から現れたのはギリルだ。何の用だろうか?


 今はあたし一人だ。この男の相手をするのは気が重いのだけど……。


「もう一人の女はどこだっ!? あの神族の女だっ!」


 ギリルの口調は初めから喧嘩腰だ。


「出掛けてるけど、ケイに何か用があるの?」


 気持ちを落ち着けて答えた。こっちまで感情的になると、また戦いになってしまう。


 ギリルはあたしをギロッと睨み付けた。


「よくも大事な娘や息子をおまえらの戦いに誘い込みやがったなっ! おれの家族に手を出すヤツは絶対に許さねぇっ!」


「えっ!?」


 ギリルが何を怒ってるのか、あたしは分らなかった。聞き返そうとしたが、そんなことはお構いなしにギリルは言葉を吐き続けた。


「金輪際、おれの娘と息子に手を出すんじゃねぇっ! あの神族の女にもそう言っとけっ!」


 そう言い捨てると、踵を返してギリルは去っていった。


 何だったんだろ?


 ………………


 その後、あたしはナムード村長の家へ行った。外様衆を勧誘することについて、事前に村長の承諾を得るためだ。村長は家にいて、あたしの話を聞いてくれた。


「外様衆を使うだと? あんな連中が大魔獣との戦いに使えるかのぉ? まぁ、あやつらがケイ様の役に立つのなら外様衆を好きなように使って構わんヨ」


 村長は意外にも嫌がる素振りも見せず簡単に承諾してくれた。


 ついでに今朝の不愉快だった件を話した。ギリルが怒鳴り込んできたことだ。それを話すと、村長は当然だという顔をした。


「ウワサになっとるゾ。ミーナにクドル・インフェルノまで案内させて、大魔獣との戦いに立ち合わせたと聞いたぞえ。それに、あんたらがミーナや弟のケビンを誑かしているとナ。父親のギリルが怒鳴り込んだのもムリが無いことじゃ」


「えっ!? ミーナさんやケビンの父親って、ギリルなの?」


「そうじゃが?」


 村長は今ごろ何を馬鹿なことを言ってるんだという顔をしている。


「前に話したと思うがの、ギリルは3年前にヨメさんを亡くしたんじゃ。いや、殺されたと言ったほうが正しいの。村の外から熱線魔法で狙い撃ちされてのぉ。撃ってきたのはバーサット帝国の魔闘士じゃった」


「バーサットの魔闘士が!?」


 あたしが思わず問い返すと、村長は頷いた。


「あぁ、あのバーサットじゃよ。あのころはバーサットがこの村に手を出し始めた時期でナ。わしは村長としてバーサットに協力するのを頑なに拒んだのじゃ。バーサットはそれが気に食わなかったのじゃな。見せしめに村人を殺した。それがギリルのヨメさんだったンじゃよ。偶然になぁ」


「つまり、ケビンやミーナさんのお母さんということ?」


「そうじゃ。村の外から石壁越しに狙撃されたんじゃ」


 村長の話では、それまではこの村は人族に襲われるということは無かったらしい。魔物や魔族が近寄らないように守護神の結界魔法だけで十分に村は守れていたのだ。だから村の境界も1モラほどの高さの石壁だけだった。その守りの弱点をバーサットの魔闘士に突かれてしまった。


 あたしはケビンの家を思い浮かべた。たしか、ケビンの家は村の防壁の近くに建っていた。だけど、村長の話とはちょっと食い違う。防壁の高さは10モラくらいあって頑丈そうだし、村の外から防壁越しに狙撃するのはムリだと思う。


 あたしがそれを指摘すると、村長は「違うんじゃ」と言って言葉を続けた。


「あの高い防壁はナ、ヨメが殺された後にギリルが一人で全部作ったンじゃ。ヨメをバーサットに撃ち殺されてナ、ギリルは狂ったようになってのぉ。一人で村の石壁の補強を始めたんじゃ。補強と言うより作り直しじゃヨ。今できとるのは全体の8割くらいじゃナ」


「それで、この村の防壁は高さが10モラになってるけど、所々で高さ1モラの石壁が残っているのね?」


「そのとおりじゃ。わしらが手伝うと言ってもナ、ギリルは自分一人でやり遂げると頑固に拒んでのぉ。毎日毎日、作り続けておるんじゃよ」


 魔法を使って毎日作り続けるとしても、とんでもない労力が掛かるはずだ。この村はアロイスの拠点を中心として半円状に広がっている。岩壁に接しているから、村の防壁が必要なのは半円の部分だ。それでも防壁の長さは1500モラくらいあるはずだ。


「それだけ奥さんを愛していたのね……」


「そうじゃろうのぉ。じゃが、ヨメさんだけじゃねぇぞ。娘と息子も人一倍大事にしとるでのぉ。それにギリルはバーサット帝国を誰よりも憎んでおるんじゃ。ヨメの仇じゃからナ」


「それで、あたしたちのことをバーサット帝国の密偵だとか言って疑っていたのね?」


 あたしの問い掛けに村長は頷いた。


「ギリルがあんたに怒鳴り込んだのも、そういう理由あったからじゃ。大事な娘や息子まで殺されてしまうことを恐れておるんじゃよ」


「そういう話を聞くと、ギリルの気持ちも分かる気がするわね」


 あたしはギリルに同情する気持ちになってきた。


「じゃが、困ったことじゃ。ギリルはケイ様が神族と分かった後でも相変わらずケイ様やあんたのことをバーサットの手先だと思い込んでおるようじゃのう……」


 事情は分かったが、ギリルの誤解を解くにはどうしたらいいのだろうか。おそらく口でいくら説明しても分かってはくれないだろう。だけど、ケイが大魔獣を倒してこの村を引き継げばギリルの誤解も解けるはずだ。村を引き継いだら、ケイはバーサット帝国の支配下に入ったりはしないだろうから。


 ………………


 昼過ぎ。ケビンは何も知らずにいつものように小屋に遊びに来た。あたしは今朝の出来事と村長から聞いたことを話して聞かせた。


「だからね、あんたはもうここに遊びに来ちゃダメ。いいわね?」


 あたしが言うと、ケビンは顔を歪めて目を吊り上げた。


「クッソーッ! あいつはウルセーことばっかり言うんだ。おれっちだけじゃなくて、姉ちゃんたちにも手を出してたなんてナ! あのクソ親父のヤツ! 絶対に許せねぇ!」


 ケビンはテーブルを叩いて悔しがった。こんなに怒ったケビンを見たのは初めてだ。それ以外は何も言わずに帰っていった。その背中が父親への怒りで膨らんでいるような気がした。


 ………………


 ムカデとの戦いから10日が過ぎた。ケイは毎日、朝早くから出掛けて行き、夜の遅い時間にクタクタになって帰ってくる。あたしを抱くことも無く、風呂から出たらすぐに眠ってしまう。毎日がその繰り返しだ。口数も少なくて疲れ切っているようだ。きっと、かなりムリをしてるのだ。


 あたしはケイの疲れた顔を見て、数時間前に村長と立ち話をしたことを思い出していた。そのときあたしはケイの訓練のことを村長に話した。ケイが毎日クドル・インフェルノに入って、魔獣を倒しながら必死に訓練を続けていると語ったのだ。村長がケイに同情して助力を申し出てくれるのではないか。そんなことを思って話をしたのだが、期待は完全に外れてしまった。あたしの話を聞いた村長は険しい顔でこんな忠告をくれただけだった。


「神族であってもクドル・インフェルノでは命を落とすかもしれぬ。ケイ様はそれを知っておるのじゃろうか?」


「大魔獣を避けながら魔獣だけを相手にして訓練を続けているはずよ」


「いや、それだけではダメじゃ。クドル・インフェルノでは神族でさえ勝てぬかもしれぬ魔獣が出没するからのう」


「えっ! そうなの?」


「例えばナ、バジリスクロードやキマイラロードなどじゃ。魔獣だけではないぞ。オーガロードやシルフロードなんぞの高位の妖魔も現れるでな」


 村長はそう言った後、それらの魔獣や妖魔の詳しい特性を説明してくれた。バジリスクロードは体内に石化の専用魔石を有しているし、キマイラロードとオーガロードは誘導爆弾の専用魔石を有している。シルフロードは飛行の専用魔石を使って空から魔法攻撃を放ってくる。これらの魔獣や妖魔は魔力〈1000〉前後で攻撃してくるから、神族であってもその直撃を受ければ命の危険があるのだ。


 あたしはケイに村長から聞いたことを話した。


「そういうわけでね、高位の魔獣や妖魔にも注意が必要よ」


「分かった。注意するよ。大丈夫だから」


 本当に大丈夫なのか心配で堪らないが、あたしがそれを口にしたり顔に出したりすると、却ってケイに負担を掛けることになる。あたしが笑顔で明るく振る舞っているのがケイには一番良いと思う。


 ギリルがケビンたちの父親であったことは、あの日のうちにケイにも話しておいた。ケイも驚いた顔をしていた。あの日以降はケビンやミーナさんとは会っていない。


 ケイが訓練を続けている間に、あたしのほうは外様衆の中からヤル気と戦いの経験がある者を選んで、五人の男たちを口説き落とすことができた。


 そして、今日はその五人の男たちを連れて、ケイと一緒に魔獣狩りに来ている。男たちにラストアタックを取らせてロードナイトにするためだ。


 男たちは初めてクドル・インフェルノへ行く者ばかりだ。人や魔物を相手に何度も戦いの経験がある男たちでも、魔獣や大魔獣がうろつくクドル・インフェルノは恐ろしいようだ。


 クドル・インフェルノへ続く洞窟を一列で進んだ。ケイが先頭を歩いて、男たち五人を挟んであたしが最後尾だ。怖がっていた男たちも次第に陽気になっていく。男たちはケイのすぐ後ろの位置を奪い合いながら歩いた。きっとケイのお尻や脚を見て楽しんでいるのだ。イヤらしい男たち。


 洞窟から出ると、またあの風景が目の前に広がった。今日も大魔獣の姿は見えない。たぶん丘を越えたところにいるのだろう。ここから見える魔獣は二頭だ。


「ちょっと待ってて」


 ケイはそう言って、近くのヒュドレバンロード(魔獣豹)に向かっていった。


 ケイの動きは今までとどこか違っていた。いつもの狙撃をしてない。ケイは真っすぐに魔獣豹に向かって浮上走行の魔法で走っていく。


 魔獣豹は100モラほど離れたところで走ってくるケイに気付いた。「グウォーッ!」と一声咆えて、空中に風刃をいくつも射出した。魔獣豹の特殊攻撃だ。


 風刃。それは文字どおり刃のような鋭い風を巻き起こして相手を切断する魔法だ。目には見えにくいが風刃が走れば空気が歪んで見える。


 その風刃が立て続けにケイの上空に放たれた。ケイを目掛けて、斜め前から、斜め後ろからと次々に風刃が突っ込んでいく。誘導されているのだ。


 ケイは走りながら左腕から何かを射出した。はっきり見えないが、空中で何かを風刃と衝突させて、風刃を消し去っているみたいだ。あたしが知らないうちにケイは強くなっていた。


 ※ 現在のケイの魔力〈438〉。

   (自分を鍛えるために魔獣を毎日倒し続けているため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈438〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈438〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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