SGS111 大魔獣に挑む
巨大ムカデとの距離は約300モラだ。これだけ離れていれば、狙撃が外れたとしても余裕で逃げ切れるだろう。よし! 試してみよう。
「今からあのムカデに向けて熱線で狙撃をしてみようと思う。あのムカデの攻撃力を確かめるのと、自分の攻撃がどれくらい通じるのか試してみたいんだ」
「でも、ケイ。大丈夫なの……?」
「うん。遅かれ早かれ一度は実戦で試してみないとね。わたしと一緒にいたら危ないから、ラウラもミーナさんも、先に洞窟へ戻っててほしい」
そう言うと、ラウラがじっとオレを見つめてきた。その瞳が揺れている。オレのことが心配で堪らないようだ。
「分かったわ。ミーナさん、ここはケイに任せて、あたしたちは先に洞窟の入口まで引き返しましょ」
不安な気持ちを押し殺すようにラウラが言うと、ミーナさんは頷いた。
「ムカデは見た目以上に足が速いからね。気を付けるンだよ」
ふたりが足早に洞窟に向けて待避していく。オレはそれを見届けて、ムカデの方に視線を戻した。
ヤツはまだ針猪を食らっていた。頭がちょうどこちら側にあるから目を狙える。オレは膝撃ちの姿勢で狙撃スキルを発動した。
動きが超スローになり、ヤツの目が拡大されてピタッと照準が合った。熱線を放つ。最大パワーだ。ヒット! 右目に命中した。
ヤツは食いついている針猪を放し、ゆっくりとこちらに頭を向けた。触角が上下左右に動いている。右目は焼け爛れているが、左目は真っすぐにオレを捉えているようだ。
鳥肌が立ってきた。恐怖で震えそうになる体を無理やり抑え込んで、オレは再び狙撃スキルを発動した。今度は左目に照準を合わせる。
オレが熱線を放つと同時に、ヤツが毒砲を放ってきた。
『逃げろにゃん!!』
高速思考でコタローから発せられた警告を聞きながら、オレは洞窟に向かって必死に走り始めた。もどかしいほど体の反応が遅く感じられる。
浮上走行を発動して一気に丘を走り下りる。
『毒の砲弾が10発。丘を越えて向かって来てるにゃん。ニャニャッ!! ムカデはケイの位置を捕捉してるみたいだにゃ。正確に誘導弾がこっちへ落ちてくるぞう! 真っすぐに走ったらダメだわん!』
不思議だがムカデは丘の反対側にいるオレを捉えているようだ。砲弾を躱すためにオレはジグザグに走り始めた。
前方の草地に毒の砲弾が着弾して草や土を撒き上げた。毒を浴びた周囲の草が一気に枯れていく。
ジグザグ走行しているオレの周りに砲弾が次々と着弾する。跳ね返った毒液がオレのバリアにプチプチと当たってバリアを削っていく。コタローとユウのバックアップでバリアはすぐに回復した。
『ムカデが急速接近してくるわん! 速いにゃん! もう丘を越えたぞう!』
オレの探知魔法もムカデの接近を捉えていた。凄いスピードだ。真っすぐにオレに向かってくる。
『両目を潰したはずだけど、こっちが見えてるのっ!?』
『あのムカデは6個の目を持っているのだわん。それににゃ、目よりも触角を使って敵の位置を察知してるようだぞう。だからにゃ、その全部を潰さないとダメだわん』
分かったけど、ヤバイ。オレよりもヤツの方がずっと速いのだ。
オレは洞窟の入口に向かって必死に走り続けている。入口まで100モラほどだ。だが、ムカデもオレの100モラ後ろに迫っている。
今のままでは追い付かれてしまう。どうにかしないとマズイ。一瞬、浮遊魔法で空中に上がろうかと考えたが、それでは毒砲で狙い撃ちされるだろう。
高速思考の状態だが何も考え付かないままオレは走り続けた。
『爆弾の魔法を放って時間を稼いだら?』
『それだ!』
オレはちょっと後ろを見て右腕をムカデの方に向けた。走りながら3発の爆弾を射出。迫るムカデ目掛けて大きな火球が飛んでいったが、それを見ている余裕は無い。
実時間で2秒とちょっと。大きな爆発音が響いて、オレのバリアにも何かの破片が飛んで来てバチバチと当たった。3発ともムカデを直撃したか近辺に着弾したはずだ。
やったか!?
オレは走りながら振り向いた。
土煙が濛々と舞い上がってはっきりとは見えないが、30モラほど後ろにヤツの頭があった。まだ、動いている。と言うか、オレに迫って来てる。
爆弾の魔法はほとんどダメージを与えていない。どれだけ装甲が硬いんだ!?
洞窟までは40モラ。ダメだ。追い付かれる……。
『ケイ、ムカデの牙に注意しろにゃん! バリアごと体を挟まれたら終わりだぞう!』
『注意しろと言っても、どうすんのよっ!? もっとちゃんとアドバイスをしてあげてっ!』
ユウも必死だ。なにしろオレだけじゃなくって、ユウの命も掛かってるから。
『石壁を作って盾にするのだわん!』
『だけど、ムカデとの間に石壁を作ろうとしたら、立ち止って振り返らないといけないわよ? そんなことしたら逃げられなくなるわ』
『違うわん! 走りながら自分の前方に石壁の柱を何本も立ててにゃ、その柱の間に逃げ込むのだわん。石壁を盾にしながらムカデの攻撃を防いでにゃ、その隙に洞窟に逃げ込むしかにゃいぞう。柱を立てる場所はムカデに追い付かれるあの地点だわん』
オレはコタローの指示どおりに、洞窟から15モラほど離れた場所に向けて魔法を放った。ニョキニョキと石の柱が伸びていく。断面が1モラ四方くらいの石柱だ。高さ5モラほどの石柱3本を2列立てたところで、オレはその柱の間に走り込んだ。
その直後、「ガッシーン!!」という衝撃音が響いて柱と地面が揺れた。振り返ると、巨大ムカデの頭と牙が石柱に追突していた。
柱と柱の間は1モラほど。ムカデは入って来れない。柱は地中深く埋まっているから倒されることはないはずだ。
心配なのは石柱が破壊されること。それと毒だ。
ムカデは両牙で石柱を挟んだまま頭を振り始めた。ガシガシと音がして石の柱が削られていく。牙のほうが硬いのだ。
目の前の巨大な顎と牙にオレは圧倒されていた。あの石の柱が折れたら、オレは食われてしまう。脚がガクガクと震えだした。
『ケイ、しっかりしてっ! 柱を立てながら洞窟の方に移動するのよっ!』
『分かった』
オレは震えを抑えて、魔法で石柱を立て始めた。
『マズイにゃん! ムカデが柱に次々と脚を掛けてるわん! 取り囲もうとしているようだぞう!』
石柱を増やしたから3本が3列になっている。ムカデは自身の長い体でそのすべてを外側から抱きかかえるようにして巻き付こうとしているのだ。9本の石柱うち5本にムカデの脚が食い込んでいる。
オレは石柱を立てることに必死だったから、ムカデの動きに気付くのが遅れてしまった。だが悔やんでも仕方ない。高速思考モードだからまだ時間はある。
『ケイ、あの柱の間から抜け出るか、上に跳び上がるか、それくらいしか逃げる方法は無いわよ』
『いや、跳び上がるのはダメだぞう。跳び上がったら思うように動けにゃいわん』
つまり、まだ塞がれてない柱の間から走り出るしかないってことだ。
オレは柱の間に跳び込んだ。巨大ムカデの胴体と脚がスローモーションで迫ってくる。脚で石柱を掴もうとしているのだ。今のままではオレはムカデの胴体か脚と激突してしまう。一か八か脚を斬り落とすしかない。
オレは脚の付け根を狙って魔力剣を振り降ろした。跳ね返されるか!?
「ピキッ!」という音がして、あっけないほど簡単に脚が落ちた。オレは斬り付けた勢いのままムカデの胴体の下を潜って石柱の外に転がり出た。
「ピキッ! ピキッ! ピキッ!」
立て続けに同じような音が続いた。
『えっ!? なに?』
『ケイ、洞窟に向かって走れにゃん! ムカデの脚が飛んでくるわん!』
走りながら振り返ると、ムカデの脚が4本、空中に浮かび上がるところだった。脚の先がギザギザに鋭く尖っていて、まるで古代の英雄が使っていた薙刀のようだ。穂先が凶暴に輝いている。
それがオレに向かって次々と飛んでくる。明らかに誘導されている。
巨大ムカデはこんな奥の手を持っていたのか!?
※ 現在のケイの魔力〈403〉。
※ 現在のユウの魔力〈403〉。
※ 現在のコタローの魔力〈403〉。
※ 現在のラウラの魔力〈320〉。




