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SGS110 クドル・インフェルノに踏み入る

 村を出ると、オレたちはミーナさんの案内で村とは反対側の岩壁の方へ向かった。岩壁の直下には川が流れていて、対岸の岩壁には洞窟が口を開けていた。


 浮上走行の魔法を使って川面の数モラ上を走って進み、洞窟に入った。クドル・インフェルノへ続く洞窟で、長さは1ギモラほどもあるそうだ。中は真っ暗だが、三人とも暗視の魔法を発動している。魔物や魔獣とも遭遇しなかった。


 長い洞窟を抜けると、まず目に飛び込んできたのは巨大な岩の柱だった。直径が何十モラかありそうな柱が何十本も上に向かって伸びていて天井を支えている。その天井はクドル・パラダイス側よりは低いところにあったが、それでも地面から天井までは300モラか400モラくらいありそうだ。


 地面は緩やかに波打っていて、草地が広がっていた。300モラほど先には低い丘が連なっていて、丘の向こう側は見えない。どうなっているのか調べるには、丘の上まで行かなければならないだろう。


 ここから見える草地には魔獣が二頭いた。ケングダンブゥロード(魔獣猪)とヒュドレバンロード(魔獣豹)だ。魔獣猪は丘の麓にいて、ここからの距離は250モラほど。魔獣豹は500モラ以上離れている。


「大魔獣は見当たらないね。この辺りには昔からムカデの大魔獣が居付いているンよ。あの丘を越えたところが根城みたいだから、たぶんそこにいると思う。行ってみる?」


「でも、丘に行くには途中にあの魔獣猪がいるけど……、どうするの?」


 ラウラが尋ねるとミーナさんは困った顔をした。


「どうしよう? あたし一人だけじゃ倒せないし……」


 そう言いながら、ミーナさんはオレたちの顔を見た。


「あんたたち、大魔獣に挑むくらいだから魔獣狩りはできるンでしょ? だったら、あの魔獣猪くらいは倒せるよね?」


「魔獣猪なら何日か前に倒したばかりよ。あんな魔獣、ケイとあたしで軽く倒せるわよね?」


 ラウラよ、無茶を言ってはいけないぞ。あのときはホントに死にそうになったのだから。


「あんたたち、ホントに戦えるン? なんだか頼りなさそうだけど……」


 オレの顔色が変わるのを見たのか、ミーナさんが心配そうに尋ねてきた。


 たしかに今のような不安な気持ちで戦ったら危ない。


 どうしようかと思っていると、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『あのときと違って、今のケイは魔力が〈400〉になってるわ。魔獣猪は〈360〉だから、いつものように私とコタローがバックアップすれば大丈夫のはずよ』


『ユウの言うとおりだけどにゃ、安心はできないわん。問題は誘導されて飛んでくる針毛だにゃ。今のところは高速思考で軌道を予測しながら避けるしかないにゃ。魔力が上がってるからにゃ、前に戦ったときよりケイは速く動けるわん。それににゃ、バリアの耐久度も格段に上がってるわん。当たって砕けるしかにゃいぞう』


 砕けたくはないが、やってみるしかないだろう。


「ラウラ、この前の戦いと同じ作戦で攻撃してみる。援護が必要になったら連絡するからね」


「了解。ケイもあたしも魔力が高まってるからきっと大丈夫よ。でも、気を付けてね」


 オレは頷いて、身を屈めながら移動を始めた。ラウラたちが潜んでいる洞窟の出口から200モラくらい横に移動して、膝撃ちの姿勢を取った。


 狙撃スキルを発動する。オレの目には魔獣猪が大きく拡大されて見える。ヤツの左目を狙うのだ。スキルのアシストで照準が固定された。


 最大出力で熱線を放つ。左目にヒット! ヤツは頭を横に振って熱線を逸らして、前に数歩進んだ。


 オレはすぐに立ち上がって、魔力剣を構えながら魔獣猪に向かって走り始めた。浮上走行の魔法で浮かんで走っているから草に足を取られることは無い。


 あれ? なんだか様子が変だ。魔獣猪が動きを止めた。この前に戦ったときはすぐに反撃してきたのに、どうなってるんだ? 脳にダメージが入ったのか?


 魔獣猪は5秒くらい動かなかったが、頭を何度か振って「ブフォーッ!」と地面に大きく息を吹きかけた。再起動したようだ。


 オレは魔獣猪まで100モラのところまで走り寄っていた。オレが敵だと気付いた魔獣猪は針毛を発射。オレに向かってキラキラ光りながら10発以上の針毛が誘導弾となって飛んでくる。


 オレは針毛の軌道を予測しながらジグザグに走るが、誘導弾をすべて避け切るのはムリだった。1本がオレのバリアに当たって白い光を発する。衝撃が体に伝わって転びそうになったが、何とか持ち堪えた。


 距離は30モラまで近付いた。魔獣猪は針毛を飛ばすのを諦めて、オレを片目で睨みながら牙を向けようと身構えている。


 オレのバリアはコタローの魔法で完全に回復した。高速思考と視覚の感度が同調して周りの動きがスローモーションになる。オレは走り続ける。


 距離は20モラ。ヤツは頭を低くして牙を上下に振っている。まるで巨大な生コン車がアクセル全開で空ぶかしをしているようだ。


 距離10モラ。ヤツは右目を爛々と光らせている。1モラ以上ある牙がキラリと光った。その牙でオレを弾き飛ばす気か、それとも串刺しにする気か。


 空気が濃厚な殺気で満ちている。このまま正面から突っ込むのは馬鹿だ。


 オレはステップを踏んでヤツの死角に回り込んだ。潰れている左目の方だ。


 ヤツは驚いて頭を横に振った。消えた敵を探しているのだ。口や鼻からの飛沫が飛んでくる。


 ヤツが気付く前に足元に飛び込んだ。魔力剣に最大限のパワーを注ぐ。擦れ違いざまに左前脚に剣を打ち込んだ。スパッと斬れた手応え。オレはそのまま走って20モラほど離れた。


 振り返るとヤツは体勢を崩しながらこちらへ向きを変えようとしていた。切断された左前脚からは血が噴き出している。ヤツは思うように動けない状態だ。


 さっきまでヤツの堅い針毛や骨に魔力剣の斬撃が通るか不安だった。だがもう大丈夫だ。行けるぞ! 自信が湧いてくる。


 すぐさま、ヤツの死角に駆け寄って魔力剣を叩き付けた。狙ったのは後脚だ。腱を切断。そのまま駆け抜けて10モラのところから振り返る。


 立っていられないはずだ。思ったとおりヤツが倒れていく。


 ドーンという地響きを立てて魔獣猪が横に倒れた。だが、それでも立ち上がろうと暴れている。オレは背中側に回り込んで、ヤツにマヒの魔法を撃ち込んだ。一発で成功。魔獣猪がおとなしくなった。


 頭側に回って右目に最大出力で熱線を撃ち込む。脳まで貫通。近付いて調べると、魔獣猪は息絶えていた。


『ユウやコタローが言ったとおりだったよ。魔力が高まったから、前よりも戦いがずっと楽だった』


『それもあるけどにゃ、最初に遠距離から撃った熱線の狙撃で魔獣猪の脳にかなりのダメージを与えたんだろうにゃ。あの一発で敵の動きがかなり鈍くなったからにゃあ』


 なるほど、そういうことか。


 ラウラたちに連絡を取ろうとすると、二人が走ってくるのが見えた。戦いが終わったのが見えたようだ。


「ケイ、大丈夫?」


「うん、ラウラが言ったとおりだった」


「でしょ!」


 ラウラは自分のことのように嬉しそうだ。


「さすがね! でも、大魔獣の強さはあんな魔獣猪とは比べ物にならないからね。とにかく、この魔獣の大魔石だけは取っておきましょ」


 ミーナさんが分解の魔法を唱えようとした。オレはそれを制して、クラフト魔法の解体を発動した。神族固有の異空間魔法だ。目の前に横たわっていた山のような魔獣猪が数十秒で部位ごとに解体されて並んだ。


 その様子にミーナさんは目を剥いた。


「すごーいっ! こんなの見たことないよっ! あんた、やっぱり神族様だったンだね」


「あんたねぇ、今ごろ何言ってるのよ?」


 ラウラはそう言いながら大魔石や肉の美味しいところなど必要なものだけを亜空間バッグに入れて、残った大半の部位は分解して土に戻した。


 さっきから気になっていたが、探知魔法で400モラほど先に魔獣がいることが分かっていた。丘の反対側だ。探知魔法で相手の魔力が分からないと言うことは、オレよりも相手の魔力が高いということだ。大魔獣かもしれない。


 丘を登っていくと、反対側が見えてきた。こちら側と同じような景色だ。草原や雑木林が広がり、天井に向かって何本もの巨大な柱が伸びている。


 その巨大な柱の1本。柱の付け根近くにそいつはいた。ムカデの大魔獣だ。ちょうどその巨大ムカデは何かに飛び掛かって戦いを始めたところだった。


 オレたちは姿勢を低くして息を殺しながらその戦いを見つめた。巨大ムカデの相手は探知魔法で見ると魔物のケングダンブゥ(針猪)だと分った。戦いは一瞬で終わった。ほとんど戦いにならなかった。針猪はムカデの牙に胴体を挟まれて、そのまま二つに切断されてしまったからだ。パワーの差は圧倒的だった。


 ムカデのバケモノはムシャムシャと針猪を食べ始めた。ここからの距離は300モラくらいあるが、針猪と比べることで巨大ムカデの途轍もない大きさが分かる。体長は20モラ近くあるだろう。


『ジャドゲオグロード(魔獣ムカデ)が巨大化したのだろうにゃ。体長は魔獣ムカデの2倍くらいあるぞう』


『だけど、問題は体の大きさよりも魔力の方だよね』


『普通の魔獣ムカデにゃら、魔力は〈260〉だけどにゃ』


「こいつの魔力がどれくらいあるかってことだよね」


 オレが声に出して呟くと、ミーナさんがすぐに答えてくれた。


「言い伝えではね、大魔獣は普通の魔獣の5倍くらいの魔力があるンだって」


 と言うことは、あの大魔獣の魔力は〈1300〉ってことか。


「とんでもない魔力だね」


 そんな怪獣と戦って勝てるはずが無い。


「もっと弱い大魔獣はいないの? ケイとあたしが一緒に戦うとしても、あんなバケモノを相手に、どうやって勝つのよ!?」


 ラウラが強い口調でミーナさんに問い掛けた。オレの気持ちを代弁してくれているのだ。


「あんたたちの気持ちは分かるけど。でもね、このクドル・インフェルノでは、あのムカデは大魔獣の中じゃあ弱いほうなンよ。あれより弱い大魔獣なんて聞いたことがないよ」


「ほかにはどんな大魔獣がいるの? 一番弱いヤツを相手に選ばないとね。なにしろケイとあたしの命が掛かってるんだから」


「2ギモラくらい移動すれば別の大魔獣がいるよ。右に行けばサソリで、左に行けば蜘蛛の大魔獣よ。奥に行けば同じような巨大ムカデいるらしいわ。戦う相手は自由に選べるけど、どれを相手に戦う?」


 ミーナさんは瞳をキラキラさせながらオレたちを見つめた。答えは分かっていても、オレの口からそれを聞きたいのだろう。楽しんでるのか?


『普通のボンジャスピガロード(魔獣サソリ)なら魔力は〈480〉だにゃ。ネバグパイダーロード(魔獣蜘蛛)は〈460〉。大魔獣がその5倍の魔力を持つにゃらば〈2400〉と〈2300〉だわん。ムカデの大魔獣は〈1300〉だからにゃ。比べるまでもないぞう』


 コタローからのアドバイスを聞いて、オレは溜息をついた。


「イヤでも戦う相手はあのムカデのバケモノってことになるね」


 あいつと戦うことになるのか……。


 オレは300モラ先で針猪を貪り食う巨大ムカデを見つめた。


 ここからあいつを熱線魔法で狙撃したらどうなるだろうか? オレの狙撃は魔獣猪に対しては有効だった。もしかすると、あの巨大ムカデに対しても効き目があるかもしれない。それに、あいつがどんなふうに攻撃してくるのかも知りたい。


 オレはヤツを眺めているうちに試したくなってきた。


 ※ 現在のケイの魔力〈403〉。

   (魔獣猪を倒したため、その魔力の1%分が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈403〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈403〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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