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SGS108 選んだ道は険しすぎる道

 オレたちはアロイスのスキルを複写したソウルオーブを探すことにした。


 ソウルオーブを置きそうな場所としてまず考えられるのは、やはりアロイスの屍が横たわっている近辺だろう。生命リフレッシュ装置をもう一度開いて調べ直した。しかし見える範囲では何も見つからない。


『アロイスの体の下は?』


『えーっ! 調べなきゃダメかなぁ?』


『一番怪しい場所よね?』


 ユウは簡単に言ってくれるが、裸で横たわっているアロイスは体が死蝋化してベッドにくっ付いてしまっている。それを剥がして調べるのはオレしかいない。


 ヤバい。目の前のグロさと臭いに吐き気がしてきた。でもここは我慢だ。


 魔力剣を薄く延ばしてベッドとアロイスの体の間に差し込んでいった。一応、体全体はベッドから切り離せたと思う。


 よし。念力で体を持ち上げよう。


 でも……、均一に体全体を持ち上げるのが難しい……。


 あぁぁぁーーっ! 頭が置いてけぼりで、アロイスの首が「ろくろ首」のようにぐにゅーっと伸びてしまった。


『ケイ、終わった?』


 えっ? ユウは見てなかったのか? もしかすると気持ち悪いから、この作業をオレだけに任せて、ユウは視界のスイッチを切ってたのか?


『一応、念力でアロイスの体は持ち上げたけど……』


『じゃあ、見てみる……。キャァァァァーーッ!!』


『ど、どうしたの!? ユウちゃん、何かあったの?』


 ラウラが心配して聞いてきた。


 その後で『わざとやったでしょ!』と二人に責め立てられたが、偶然だ。無実だ。


 それはさておき、結局、探し物は見つからなかった。


『何も見つからないね……』


 そう言いながらオレはもう一度部屋の中を見回した。


 あれっ? 壁に何か文字が浮き出ている。さっきまでは何も無かったはずだ。


『なんて書いてるんだろ?』


 ユウが読んでくれた。


 〈私のスキルを引き継ぐための条件は貴殿がマスターと同じ世界で生まれた神族であることだが、それだけでは私のスキルは引き継げぬ。

 マスターが私に命じたもう一つの条件は、勇気と力量を持った強者にスキルを引き渡せということであった。貴殿は私が用意した試練を受けて、私に勇気と力量を示さねばならぬ。

 すでに貴殿には試練のことを予告しておいた。貴殿がこの拠点に入ったということは、その試練を受ける覚悟ができているということだ。

 貴殿が強者であるかどうかを私は見極めたいが、貴殿がこれを読むころには残念ながら私は死んでいるだろう。私の命を支えてきた生命維持装置が修復不能となってしまったからだ。

 そこで私に代わって試練の合否を見届ける者を用意した。その者は貴殿自身だ。そのために私は貴殿に対して暗示魔法を掛けた。この暗示により貴殿はこの試練から逃れることはできない。貴殿自身が合否を見届けて、ここに戻ってくるのだ。

 貴殿が赤い石を押して私が用意した試練を受けることを選んだときに、貴殿に暗示魔法を掛けた。その試練とは大魔獣を殺すことだ。どの大魔獣でもよい。一頭を殺すのだ。期限は今より90日後だ。その期限内に大魔獣を仕留めよ。これが私が貴殿に与える試練だ。これを果たせば貴殿を強者と認め、我が後継者としよう。暗示魔法により我がスキルは貴殿に引き継がれるはずだ。

 なお貴殿は大魔獣を倒すまでは、暗示魔法により、このダンジョンから出ることはできぬし、ここで知った事を他に漏らすこともできぬ。

 大魔獣を殺した後は、ただちに我が拠点(この場所)へ戻るのだ。期限内に大魔獣を仕留めていれば、スキルだけでなく我が拠点とこの村も貴殿に引き渡そう。

 貴殿は我が拠点やこの村の引き継ぎを望まないかもしれない。それでも良いが、必ずここへ戻るのだ。ここに戻ったときに私が貴殿に掛けた暗示魔法がすべて解除されるからだ。

 なお、期限を過ぎても大魔獣を殺せぬ場合は、貴殿は暗示魔法により強制的に大魔獣に挑み、相手を殺すか貴殿が殺されるまで戦い続けることになる。その場合、相手を殺したとしても強者と認めることはできぬ。ここに戻れば暗示魔法は解除されるが、スキルもこの拠点も貴殿には与えられぬ。

 まずは勇気を示すことだ。勇気を持てば道は開ける〉


 ユウに何度も繰り返し読んでもらって、オレはようやく理解した。自分がまた致命的な失敗をしてしまったことに気付いたのだ。


 オレが選んだ道は険しすぎる道だった。オレは90日の内に大魔獣を殺さねばならない。その期限を過ぎれば、オレに掛けられた暗示魔法によって、オレは自分の意思とは無関係に大魔獣に挑んで、おそらく殺されるってことだ。


 おやじぃ……。


 心の中で、つい親父に対して愚痴を言いたくなった。


 ユウが言ってたように無謀なことはせずに、引き返しておけば……。


 呆然とオレは立ち尽くしていた。


『さっきの入口のところで異空間ソウルの記憶域に何かが書きこまれたことは分ってたけどにゃ、このメッセージから推測するとだにゃ、書きこまれたのはアロイスのスキルはみたいだわん』


『えっ!? ホント? それならコタローがその内容を解析してスキルをゲットできるわね?』


 ユウがコタローに尋ねてくれたが、それはオレの気持ちを察したからだろう。


『それは危険だにゃ。ムリに解析しようとしたら書きこまれた内容が壊れてしまうかもしれにゃいし、ケイにどんな悪影響を及ぼすか分からないわん』


『じゃあ、コタロー。ケイに掛けられた暗示の解除は? 暗示の解除はできるでしょ?』


『それもムリだにゃ』


 そうだろうな。暗示魔法に一旦掛かってしまうと自殺でもしない限り解除が困難であることはオレが一番分っている。


『つまり、あたしたちで大魔獣を殺すしかないってこと?』


 ラウラの言うとおりだが、オレたちに大魔獣を倒せるのだろうか? そもそも大魔獣の姿さえ見たことが無いのだ。だが、この90日以内に大魔獣を倒す作戦を考えないと、オレが殺されることになるのだ。ここで棒立ちになっているわけにはいかない。


『わたしが大魔獣を倒せるかどうか分らないけど、やってみるよ……』


『ケイ一人だけが戦うんじゃないよ。あたしたちも一緒に戦う。それに、村長たちにも相談して協力をお願いしたらいいと思うけど?』


『ラウラさんの言うとおりよ。アロイスのメッセージには大魔獣を一人で倒せとは書かれていないから、ケイがラストアタックを取ればいいだけだと思うわ』


『そっか……、そうだよね。じゃあ、ここから出てみんなと相談するよ』


 ところで出口はどこだろ?


 オレがキョロキョロと探していると、反対側の壁に文字が浮かんでいることに気付いた。


 〈対面の壁に貴殿への重要な指示を記してある。貴殿へ与える試練についての指示だ。それを読み終えたなら、ここから出るがよい。右の壁に印がある。そこに魔力を注げば出口が開く〉


 対面の壁の重要な指示というのは、さっき読んだメッセージのことだろう。


 右の壁には赤く光る場所があった。そこに魔力を流すと壁の一部が上がって行き、その奥にもう一つ部屋が現れた。だが、どこにも出口らしき扉は無い。恐るおそる部屋に足を踏み入れて、部屋の中を調べた。


 対面の壁にメッセージらしき言葉が表示されている。


 〈右の壁に印がある。そこに魔力を注げば外に出られる。なお、一旦ここを出れば、この扉から中に入ることはできぬから注意せよ〉


 その印に魔力を注ぐと、アロイスの寝室に通じていた入口の壁が上から下りてきた。今のままではこの部屋の中に閉じ込められてしまう。オレは半分パニックになりそうになった。


『ここはエアロックのようになってるのね。内側の扉と外側の扉があって、外からの侵入を防いでいるのよ』


 ユウの推測どおり内側の扉が閉じた直後に外側の扉が開きだした。その先は縦穴になっていた。下を覗くと遠くに礼拝堂がある広場が見えた。これはさっき上がってきた縦穴だ。上へ行くとラウラたちが待っている広間がある。


 オレは浮遊魔法を発動して、縦穴を上り始めた。エアロックの扉は自動的に閉じ始めた。上手くできてるな。


『ケイ、早くこっちに来て! アロイスからの告知文がここの広間に現れたの。村長や長老たちが動揺してるわ』


 縦穴を上がっている途中でラウラから慌てたような連絡が入った。


 ※ 現在のケイの魔力〈400〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈400〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈400〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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