↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

彼女のおとぼけ(細川視点)

 

 時は遡り、細川(ほそかわ)親子が猫西家から出た後のこと。

 


「どうだった? うまくいった?」



 細川が窓の外を眺めていると、運転中の母が話しかけてきた。



「何が?」

「あの男の子じゃないの? 昔、猫にパンあげてた子って」

「そうだよ」



 と細川がうなずくと、「じゃあ」と母は続けた。



「その猫が飼い主のもとに戻った話はしたんでしょ?」

「してない」

「なぁんで! そのために会いたかったんじゃないの?」



 母の声が驚きに満ちていた。



「違う話で盛り上がっちゃった」

「そうなのぉ? どうしても話したいっていうから、わざわざ遅れるふりをしたのに」



 細川がとぼけると、母は不満を含むため息をこぼした。



「代わりに伝えようか? あの子のお母さんの多英さんとは良くさせてもらってるし」


「いや、いい」


「そーお? でもせっかくだから、はやく教えてあげたいわ。行方不明から一ヶ月もかかったから今もよく覚えてる」


「それは、でも……」



 細川は沈んだ表情を浮かべると、ミラー越しの母は眉根を下げて優しく笑んだ。



「飼い主さんは感謝してたわ」

「……そうだね、ママ。機会があれば伝えるよ」

「そうしてあげなさい。ところで模試の結果はどうだったの?」

「自己採点の感じだと悪くなかった」

「そう。あの男の子を見習って、今年こそ獣医学部受かるといいわね」

「……うん。頑張るね」



 明るく答えたが、内心は爆ぜていた。

 彼が誉められる対象になるのは納得いかない。野良猫に施しを与える者は許さない。

 少しは反省しているかと思ったら、のうのうと保護活動して!

 偽善者は嫌いだ。助けた気になるのは、猫にも人にも無礼だ。英雄になったつもりなら性根からへし折ってやる。


『動物関係の仕事を目指すと思ってた』


 細川は彼の言葉を思い出し、鼻で笑い、ため息を吐いた。こみ上げる殺意を外へ追い出すように。


 首を動かせばキャリーバッグが視界に入る。偽善者を(かば)うような動きをした、嫌な猫。が、猫に罪はないし、そのような下らない理由で世話をしないなんてことはない。あの男のもとに置いておくくらいなら、引き取ってしまったほうがいいと考えただけ。


 細川は闇に溶け込む長髪を手櫛(てぐし)ですきながら、再び窓の外に目をやった。



「偽善者は本物に勝てないんだから、すっこんでなよ」

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。