表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

友と残映 前編

 

 猫西(ねこにし)は下校途中、灰青の影に出くわした。いつもとは違う道の角を曲がった矢先のことだった。

 灰青の影は小石よりも大きく、コンクリートブロックよりも小さく、濃く、それでも雷のごとき鋭さで迫ってきた。

 狭く、薄暗い道。

 得体の知れない影。

 ――ぼろり。

 給食のパンが手からこぼれ落ちる音に驚いて後ろに転ぶ。


(怖い……!)


 目を(つむ)った。だが、しばらくしても痛みは感じない。おそるおそる目を開けると、地面にあったはずのパンが消えていた。辺りを見回せば、ブロック塀に登って颯爽(さっそう)と去っていく影があった。その影はパンを咥えるように見えた。



「……猫か」



 この町では、よくある光景であった。かつて多頭飼いに悩まされた老婆が飼い猫を放ったため、ご飯を探し求めている野良猫が多いのだ。


 今しがた出会ったのは、しかし、ほかと違う。立ち姿が気高く、灰青の垂れ耳や長毛がファーのついた(かばん)のようで、黄金(きん)の瞳は稲穂畑を思わせる輝きを持っていた。


(また、会えるかな?)


 願いに応えるように、放課後になると決まって灰青の猫が姿を現した。そして、猫西は給食の余りを与える。この関係は、一週間ほど続いていた。


 今日も灰青の猫を前に屈み、給食のパンの欠片を()く。

 灰青の猫は左右に行ったり来たりする。そうやってはじめは警戒するものの、徐々に歩み寄り、足もとでパンを食べはじめるのだった。



「僕、猫が好きじゃないんだ。目つき怖いし、親も外の猫には触るなって言うし。でも君は平気。君に会いたくて、先週から毎日学校通ってるんだ」



 グルグルと鳴く声は低く、品がある。



「僕たち、友達になれるかもね。なんてね、さすがに図々しいよね」



 月のように淡い光を持つ瞳がまっすぐ見つめてくる。



「……僕たち、友達だ」



 パンを口に含む猫の仕草が愛おしく、自然と笑顔になった。

 手を伸ばすと、灰青の猫に()みつかれた。



「君が食べやすいようにパンをちぎりたいだけだよ……」



 脂汗が(にじ)んでも微笑を崩さず、明るい声音を努めた。痛みは、友達に見せたくない。



「放して」



 双方の(にら)みあいは続いた。涙が流れる頃、ようやく灰青の猫が走り去った。


 帰宅後、母は猫西を引っ張りながら病院へ急いだ。涙を目にいっぱい溜めながら(しか)る母の声が罪悪感を抱かせた。


 それでも診察を待つ間、猫西は灰青の猫に思いを巡らせていた。友達になったのだから、あの子を守らないといけない。敵ではないと伝えなければいけない。友達のことを考えると痛みも空腹も遠ざかっていった。


 後日、親を説得し、ついに灰青の猫を保護する許可をとった。しかしながら()まれた日以降、灰青の猫に会うことはなかった。


はじめまして。不定期更新ですが、よろしければよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ