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更に次の日は、山に向かった。
馬で登れる所までは馬で行き、高原で馬から降り、昼食にした。
「これといってないですねぇ」
「何処からか種を仕入れて、栽培するしかなさそうですね」
「そうなるのか。でもそうすると、何を栽培するのかが問題になる。お年寄りや子供ができるもので、他との競争に勝てるもの……」
みんな、昼食時くらい頭休めたらいいのにー。
外でご飯って気持ちいいよ。
こんな大自然でご飯食べるなんて、中々できないよ。
というか、あたし、向こうに小さく見える緑が気になっているんだよね。
なんで、あそこだけ鬱蒼と茂っているの?
草? 低木? どっちだ?
「コンディンガ子爵、あそこに見えるものは草ですか?」
鬱然と茂っている場所を指した。
「はい、草ですね。5月の後半から7月にかけて黄色い小さな花をつけるんです。村人たちは、春は河川敷でハイキングをしますが、初夏の頃はこちらの方にハイキングに来るそうです」
うん?
この暖かさに茂った草に小さな黄色い花……
まさかなのか?
「あの草は、山の至る所にあるのですか?」
「ガディオッホ領には小さな山が3つありますが、その山全てに生えているはずです」
「ルチル、あの草が気になるの?」
「少し……私の思っている物なら当たりなのですが……」
「行きましょう! ルチル嬢が欲しい物! すぐに見に行きましょう!」
オニキス伯爵令息が、勢いよく立ち上がった。
「新しいスイーツー!」
「オニキス様、私が今探している物は豆であって、草ではないんです」
「ええ……喜んだのに……」
とりあえず、草を見に行くことにした。
草はルチルの胸の高さくらいまであり、一面に広がっている。
頭に浮かべているものであってほしいと願いながら、ルチルは草を千切り、両手で揉んで匂いを嗅いだ。
みんな興味深そうにルチルを見た後、同じように揉んだ草の匂いを確かめている。
「独特の匂いがするね」
「はい! 当たりですよ、アズラ様!」
「これが?」
「これ、畑で栽培しましょう! 畑での栽培には3年かかりますが、その間は山に刈りにくればいいんです。そして、山でまた伸びてもらう間に畑を収穫。畑での栽培は、村ごとにズラしてもいいのかもしれません。そうすれば、近隣の村で助け合って、人手不足が解消になるかもです」
人の手を介しての栽培は難しいはずだけど、3つの山に茂っているなら栽培成功するまでもつでしょう。
「待って、ルチル。これは何になるの? このまま食べるの?」
「お茶ですよ。女性の味方、ルイボスティーです。王妃殿下にお茶会で飲んでもらえば、貴族の女性たちはこぞって買いますよ。加工と販売はアヴェートワ商会でしますので、ご安心を」
うふふふふ。
これでまたアヴェートワ商会にお金が落ちるわ。
「ルチル嬢、悪い顔になってますよ」
「あら、ごめんなさい。すごい発見だったもので」
「そんなに美味しいお茶になるんですか?」
「うーん……どうでしょう。ハーブティーで薬のようなお茶ですから」
ルイボスティーって、特に好き嫌いが分かれたような気がするんだよねぇ。
「薬のような? そんなに苦くて、本当に売れるんですか?」
「薬のような味ではなく、薬のような効能があるんです。老化防止に肌を綺麗にする効果、太りにくくする効果に、安眠作用で次の日の朝目覚めがいいというお茶です。だからといって、飲み過ぎるとダメなんですけどね。1日1~2杯のお茶ですね」
「母上が飛びつきそうな言葉の並びだね」
アズラ王太子殿下が、楽しそうに笑った。
領地に来てから見ていなかった表情だ。
ずっと不安だったのだろう。
「俺飲んでみたいです。飲めます?」
「今すぐは難しいですね。魔導士の方たちに、茶葉に加工する魔道具をつくってもらわなければなりませんから」
「じゃあ、収穫もゆっくりでいいんだね」
「はい。先に種を集めることを忘れないようにしてくださいね。ものすごく小さい種ですから気をつけてください」
「それは、僕よりも農家の皆が心得ているよ。コンディンガ子爵、戻ったら計画を練ろう」
「はい、喜んで」
次の日からは、まだ訪ねていない村を回った。
数日後には、合流したシトリン公爵令嬢も混えて、川辺でルチル提案のバーベキューをしたり、ルチルが持ってきていた羽子板で遊んだりした。
本当は運動用にバトミントンが欲しかったが作るのが難しそうなので、似たような遊びの羽子板をリバーに作ってもらったのだ。
魔法陣関係ないのにと、ブツブツ言いながらも作ってくれた。
かなり白熱し、飽きもせず何度も遊んだ。
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