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一緒に行く行かないで一悶着あったが、トゥルール王国の南地区にあるアズラ王太子殿下が治めているガディオッホ領に着いた。


王都にある神殿からガディオッホ領にある神殿へ転移陣で移動し、そこから馬車に乗る。

ガディオッホ領の神殿でマホガニー・コンディンガ子爵に歓迎され、子爵が管理してくれている邸に着くと使用人たちが出迎えてくれた。


ガディオッホ領には、アズラ王太子殿下とルチル、フロー公爵令息とオニキス伯爵令息が来ている。

シトリン公爵令嬢は、後から合流する予定だ。

急に人数が増えたのだ。

邸の人たちは大変だっただろう。


それぞれの部屋に案内され、少し休憩をしてから庭でお茶をした。

アズラ王太子殿下とコンディンガ子爵は、別室で話をしている。


「馬車から見る限り長閑なとこみたいですね」


「そうですね。王都よりも暖かくて過ごしやすそうです」


「風も気持ちいいですね。お昼からは色々と回るんですよね」


2人にも、この土地の説明はしているそうだ。


「はい。何か閃くことがあればいいのですが」


「チラホラと若い人たちが戻ってきているんですよね? 畑仕事は再開できないんでしょうか?」


出稼ぎといっても、外での仕事は難しいようだ。

ガディオッホ領が王家所有になり、3年免税になったことで戻ってくる人たちもいるという。


アズラ王太子殿下は、この免税期間3年の間に何か施策を出し、領地を潤さなければならない。

何か改革をしていかない限り、徴税が始まっても納めてもらえる税はなく、領地は死んでいく一方になる。


今回は、収入になりそうな物はないか探しにきたのだ。

その他の施策は、今後の収入次第になってくる。

何もできないと、王太子の支持は劇的に下がるだろう。

アズラ王太子殿下を不幸にしないためにも、ルチルは注意深く観察しようと決めている。


「見てみないことには何ともですよね。元々の特産は何だったんでしょう」


「サトウキビだったと思いますよ」


「砂糖は売れても安いですからねぇ」


「生産されている領地は多いといいますものね。でも、お砂糖ならアヴェートワ商会にはどれだけあっても困りませんから、アヴェートワ商会と取り引きできそうですけど。力仕事ができる人が少ないと、栽培は難しいのでしょうね」


見たことはないが、料理長から聞いた話で想像するに、この世界のサトウキビは前世の2倍以上の太さがあるようだ。

そんなサトウキビの刈り取りは大変だろう。

お年寄りと子供ができるイメージが湧いてこない。

力が弱くてもできる農作業って、何があるんだろう? と考えを巡らせた。


昼食を食べ終わり、簡素な服に着替えて、馬で領内を見て回ることにした。

ルチルは、アズラ王太子殿下の馬に乗せてもらう。


実は、アズラ王太子殿下はルチルといつも2人乗りをしている祖父や父を羨ましく思っていたらしく、密かに練習していたそうだ。

ようやく出番がきたと、嬉しそうに馬上に引っ張り上げてくれた。


近いところから順番に数ヶ所村を回り、暗くなる前に邸に戻ってきた。

どこも似たようなもので、畑は痩せこけ、領民たちの体も服も家も質素なものだった。

邸の周りも町というより、他よりも少しだけ裕福な村だった。


2日目はおにぎりを作ってもらい、朝から遠出をして昨日見られなかった村を回った。

昨日見た村とほとんど変わらない。牧場はないようだ。


「ここの方たちの主食は何でしょう?」


夕食時、ルチルがアズラ王太子殿下に尋ねたが、コンディンガ子爵が答えてくれる。


「今は、殿下が配布してくださっているお米になります。その他の食材や日用品は、商隊が村を回って販売をしています。後は、川で魚を釣ったり、山や森の中で山菜や木の実を採ったりしています」


「コンディンガ子爵から聞いていた通り、畑は機能していないようだね。育ててはいるようだけど、どれも売りに出せるような物には見えなかった」


「はい。そこを殿下に見ていただきたかったのです。領民たちは、決して畑を耕すことを放棄していません。みんな何とか必死に頑張っています。悪政がなければ良い土地だったのです」


「そうだね。頑張っている領民たちに、期待を込めた目で見られたからね。僕も領民たちに負けないよう頑張るよ」


笑顔のアズラ王太子殿下に、コンディンガ子爵が小さく頭を下げる。


「コンディンガ子爵。今日行った村と他の地域の村は、そんなに変わりないですか?」


「はい、全てあのような感じです」


「殿下、もう村回りはしなくていいんじゃないでしょうか? それよりも、特産品になりそうな物を探しませんか? 村に顔を出すのは、特産品を見つけてからにしましょう。時間がなくなると困ります」


「うん、そうしよう」


オニキス様の側近候補、納得だわ。

提案する前にしてくれて感謝。

森か山で特産品になりそうな物あればいいなぁ。


ガディオッホ領は小さな領地なので、1日あれば馬で領地の端までいける。

邸は領地の真ん中辺りにあるので、邸を中心に東西南北に分け、4日間かけて先に各村に顔を見せる予定だった。


その予定は変更して、次の日は森を見て回ったが、自然豊かですねという言葉以外、誰も口にできなかった。


またその次の日は、川付近を中心に調べてみた。

春の花が綺麗に咲いていたが、菜の花じゃないのかとルチルは陰で息を吐き出した。

菜の花ならば、なたね油になるのにと。






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