17
3月になると春期テストがやってくる。
1年生は基礎となる授業ばかりなので、テスト前に勉強をしている子は見かけない。
そんな中、隠れて必死に勉強をしている平民のみんなの所にルチルは通った。
もれなくアズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息がついてくる。
驚いたのが、女の子だけの集まりと思っていたのに男の子もいて、1年生全員で勉強していたことだ。
そして、それよりも驚いたことが、オニキス伯爵令息の説明が先生たちよりも分かりやすいことだった。
「先生になれますよ」と伝えると、「生徒が取り合って喧嘩になるからなれないよ」と返される。
軽口のやり取りは楽しい。
そんなやり取りは、平民の子たちの緊張も軽くしてくれていた。
そんなテスト前とテスト期間が終わり、休み前にテスト結果の順位が貼り出された。
みんな満点で同率でしょうよと、順位表を見に行って目を剥くことになる。
「嘘でしょ?」
「なにが?」
一緒に見に来ていたシトリン公爵令嬢の耳元に、顔を寄せた。
「どうして、皆さん満点ではないのでしょう?」
「バカだからでしょ。平民に負けるなんて恥もいいところだわ」
シトリン公爵令嬢の言葉に姿勢を戻し、もう1度順位表を見やる。
同率の場合は、身分が高い者から名前が載る。
もちろん1番上にある名前はアズラ王太子殿下だ。
同率1位でルチル、シトリン公爵令嬢、フロー公爵令息、ジャス公爵令息、オニキス伯爵令息なのだ。
分かっただろうか。
公爵令息の次の名前が伯爵令息ということに。
つまり侯爵家の満点がいないということだ。
というか、この6人以外に満点は後3人しかいない。
10クラスあってだ。
そして、次の順位10位にヌーとシュンの名前が載っている。
2人も順位表を見て、さぞかし驚くことだろう。
春休み期間は「アヴェートワ公爵家にある転移陣を使って、行き来してくださいね」と言ってある。
春休み初日に領地に戻ると言っていたから、ご褒美に何かもたせてあげよう。
領地の人たちの星になれる順位なのだから。
ヌーとシュン以外の平民の子たちは、真ん中あたりに名前があった。
文字がちゃんと分からないながらも健闘している。
その他の人たちの名前の横の点数を見ていく。
ボロボロだ。
よくこれで威張っていられるものだと感心した。
ルチルは、アズラ王太子殿下が順位表を最後まで見ていたことに気づいていた。
きっと2年生3年生の分も見るのだろう。
どういう性格かということも大切だが、頭の良し悪しも側近候補には大切になってくるはずだ。
いい人が見つかるように祈るしかない。
順位表を見終わり、たまたま順位表の前で会ったフロー公爵令息とジャス公爵令息も一緒にカフェテリアに移動した。
「ルチル、明後日からの春休み楽しみだね。久しぶりにずっと一緒だね」
「殿下とルチル嬢、どこかに行かれるのですか?」
「はい。アズラ様と一緒に、王家が所有する領地に行く予定なんです」
「ええ! 殿下、ひどい! 俺聞いてないですよ! 楽しそう! 行きたい!」
「どうしてオニキスを連れて行かなきゃいけないの。嫌だよ。邪魔しないでよ」
「行きたい。っていうか、行きますから。俺一緒に行きますからね」
「来るな!」
ルチルの横でシトリン公爵令嬢が手帳を広げた。
「私は、もう領地でのお茶会が入っているから行けないわ。でも、転移陣使えば少しなら行けるかしら。フローとジャスは? 行けるんじゃないの?」
「私は行けますね。ジャスはどうですか?」
「無理だ。稽古がある」
「どうして、みんな来ようとするの?」
「殿下、学生とは遊びたい盛りなんですよ。行ったことのないところは行きたくなるもんでしょ」
肩を落としたアズラ王太子殿下が、恨めしそうにオニキス伯爵令息を睨んだ。
「オニキスのせいだ」
「みんなで楽しく過ごせるんです。俺のおかげですよ」
みんなで楽しくは同意だけど、今回は公務なんだけどなぁ。
春休みに行く王家所有の領地は、今アズラ王太子殿下が治めている領地だ。
王家が所有する前の領主は、脱税をし、独自で重い課税をしていた。
生活に苦しんだ領民たちは、若い人たちが中心に出稼ぎに領地を出るようになり、今や領民はお年寄りと子供の集まりになっている。
残された領民たちは、農作業をしようにも力がなくままならない。
現地を見ないかぎりは、現状を打破できる施策を思い付けないということで、ルチルはその旅に同行することになっている。
何か気づく点があれば教えてほしいと、アズラ王太子殿下からお願いされたのだ。
前の領主と脱税に関わっていた貴族数人は、爵位を剥奪し、牢屋行きになっている。
今その領主の代わりにその土地に住み、アズラ王太子殿下とやり取りをしているのは、文官のマホガニー・コンディンガ子爵。
単身赴任中だそうだ。優しいおじ様だと聞いている。
まぁ、みんなで行ったほうが楽しいし、気づくことも多いのかもしれない。
呑気にそんなことを考えながら、微笑ましいやり取りをしているアズラ王太子殿下たちを眺めていた。
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