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「私としては賛成しかねますが、ルチル様の3つの能力公表しますか?」
「どれも公表しづらいな……」
「ある意味、神の領域ですからね。神殿がまた神子様と言って、騒ぎだす可能性が高いですね」
「それに、本当に魔物を使って襲ってくる者がいるのなら、魔力が見えるということは絶対に伏せていた方がいいでしょう」
「未来が視えるのも、その者にとっては厄介ですしね」
陛下が、頭を抱えながら1つ息を吐いた。
「どこかで公表せざるを得ないだろうが、今は公表しない。ここにいる者たちだけの秘密だ」
全員がしっかりと頷く。
「ルチル。これからは、体に少しでも異変があったり未来が視えた時は、すぐに教えてほしい」
「分かりました。ですが、もしかしたら今回は偶然で、次視えても起こらないかもしれません」
小説と話がズレてるってことは、起こらない可能性もある。
それもあって、今回言い出しにくかった。
「起こらない時の問題より、起きた時の方が問題は重くなる。幸せな未来なら起こらないと落ち込むが、誰かが不幸になる未来なら起こらない方がいい。その手助けができるかもと、軽い気持ちで教えてくれたらいいんだ。その後のことは大人の仕事だ」
祖父と父も頷いている。
「分かりました。視えた時はすぐにお伝えします」
「父上、1つご相談なのですが」
「なんだ?」
「今の話を全て、ラセモイユ伯爵家オニキスに伝えてもよろしいでしょうか? 彼は風の魔法の使い手で、伝書鳩も修得済みです。ルチルが視えた時の連絡係として最適です」
「そうだな。学園内からの連絡係は必要だろう」
「ありがとうご一一
「私は、まだあの子を信用していませんよ」
「母上……」
「アズラに、あのようないかがわしい本をたくさん持ってくる子なんですから」
いかがわしい?
祖父と父が、鋭くなった瞳をアズラ王太子殿下に向ける。
「殿下、ルチルに何か不満でも?」
「ない! ないよ! 母上! なぜそのことを知っているのですか!」
「近衛騎士が教えてくれました。いかがわしい本より、そろそろ閨の手順本を渡した方がいいのではないかと。本は回収済みです」
王妃殿下ー!
それは、今ここで言ってはいけないことです!
お祖父様とお父様の顔を見てください!
地獄の門番化してますよ!
「殿下。ルチルには指一本触れないでください。今後、エスコートも必要ありません」
「待って! 確かに受け取った! 受け取ったけど、ちゃんとは見ていない!」
「ちゃんとは見ていないとは……ちゃんとではなくても見たと」
アズラ様が可哀想だ。
王子様っていっても思春期の男の子だからねぇ。
これでグレたら大変だよ。
「そ、それは……パラパラっと見ただけで……ルチルだったらいいなって……それで……」
うわー! アズラ様、それダメ! ダメなやつー!
お祖父様とお父様から炎が見える……
アズラ様殺される……
「でも、ルチルとは結婚初夜にと約束してる! だから閨の本も今はいらないし、ルチルとの約束は絶対破らない!」
こらー! 純粋真っ白真面目人間!
正直に言っていいことと悪いことがあるんだよ!
結婚初夜の約束ってダメなやつね!
そんな話してるのバレたやつね!
「殿下、ここはハッキリさせておきましょう。ルチルとは、どこまで進んでいるのですか?」
「キ一一
「お父様! 話が大分と逸れていますわ。私の能力をオニキス様にはな一一
「ルチル、殿下に答えられたら困るのか?」
「い、いえ……アズラ様とは、清いお付き合いをしていますので問題ありません」
ルチルは陛下に助けを求めようと見ると、陛下は目を閉じて我関せずを貫いていた。
「殿下、どこまでかお答えください」
「キスまでだよ」
「もうキスまでしていると」
「おおお父様! アズラ様は悪くないのです! キスも私からしかしたことがありません! 私がしたくて奪っているのです!」
おおおおおお! あたし今何言った!
アズラ様を守らなければという気持ちと、お祖父様とお父様からの愛の重さが分かる故の後ろめたさで焦りすぎた。
地獄だ……ここはもう地獄だ……
ああ、お祖父様もお父様も泣いてしまった……
収拾つかない……
「ルチルは、私に愛していると言ってくれているのに……殿下の方が好きとは……」
「お祖父様、比べるものではありません。家族全員愛しています」
え? なに? どうしてアズラ様まで泣くの?
「僕は……僕はまだ……ルチルに愛してるって言われてない……」
ああ、ごめんなさい! まだ言ってないです!
ごめんなさい! 今度言うから泣かないで!
混沌とした状態の部屋で、楽しそうにしているのは王妃殿下とリバーだけ。
2人の楽しいと思っている内容は違うだろうが……
「話を纏めると……ルチルの能力は秘密、ラセモイユ伯爵令息を連絡係に任命する。以上だ」
陛下が立ち上がり、王妃殿下がそれに倣った。
放っていかないでー。
両陛下が部屋から出ていくと、すぐにチャロとカーネが入ってきた。
どんよりしている部屋に、何があったのだろうと顔を見合わせている。
「タンザ様、アラゴ様、帰りましょう。私、ルチル様に言われている魔道具作らなきゃいけないんです」
「そ、そうよね! リバー! 帰りましょう!」
ルチルは、祖父と父の腕を引っ張り、2人を立たせた。
「アズラ様、また明日です」
泣いているアズラ王太子殿下に縋るように見られた。
心を痛めたが、ここでアズラ王太子殿下を優先すると更に風当たりが悪くなると心を鬼にして、ぎこちない笑みを返してアヴェートワ公爵家に帰っていった。
帰ってすぐに祖母と母の所に行き、祖父と父を何とかしてほしいと2人を押し付けた。
夕食は弟と2人っきりだったが、次の日の朝食は元気になっている父と、苦労しただろう祖母と母もいて、楽しく食べ終えた。
祖父は、アズラ王太子殿下の特訓に行っていなかった。
アズラよ、どうして夜1人っきりの時に見なかったのか…1人じゃない時間ばかりで、誰かいるのが当たり前だからか…
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