13
事件が起きた週末、カーネと祖父が迎えに来た。
「護衛騎士の方々は?」
「あやつらは今、訓練を1から受けなおしている。弱いからな」
みんな、頑張って……陰ながら応援しているよ。
「今日は家に帰ったら、アラゴとリバーと一緒に王宮に行くぞ。話し合いが必要だからな」
「はい。きっとそうなるだろうと思っていました」
「ルチルは賢いな。自慢の孫だ」
ありがとうございます、お祖父様。
何を話してもお祖父様が愛してくれていて、きっと家族も全員愛してくれる。
アヴェートワ家の子供に生まれ変わることができて、本当に幸せです。
帰宅すると待っていた父とリバーと一緒に、そのまま転移陣で王宮に向かった。
アズラ王太子殿下が転移陣前にいないので、まだ帰ってきてないのかな? と思っていると、駆け寄ってくるアズラ王太子殿下たちが見えた。
「はぁはぁ……間に合わなかった……ごめん」
「いえ、間に合っていますよ」
「ルチル、間に合っていない。甘やかしてはいけない」
お父様、アズラ様必死になって来てくださったんですから。
甘やかしてもいいじゃないですか。
「そうだね。僕は、ルチルに甘えすぎているよね。頼ってもらえるように頑張るよ」
「いえ、これ以上がんば一一
「殿下、いい心掛けです。明日は1時間早くから訓練をはじめましょう」
「ああ、頼む」
今も、ものすっごい早いですけど!!!
起きたら数分で出て行ってますよ!
でも、アズラ様がやる気なら止められない。
無茶はしてほしくないけど。
アズラ王太子殿下のエスコートで応接室に向かった。
部屋に入るなり、リバーがドアに魔法陣の紙を貼り付けている。
「リバー、何してるの?」
「防音の魔法陣です。タンザ様に依頼されました。創るの難しかったですよー」
楽しそうに笑うリバーに「へぇ」と返すと、「冷たい」と泣かれる。
ここ最近の定番のやり取りだ。
お茶は既に用意されていて、両陛下以外部屋の中にはいなかった。
ソファに座ると、難しい顔をしている陛下が口を開いた。
「防音にしなければならない話ということか」
「はい、陛下。学園に魔物が現れた件ですが、この前話した内容が全てではありません」
「そうだろうとは思っていた。たまたまアヴェートワ前公爵が学園にいるなんて、どう考えてもおかしいだろう」
祖父が、あの日あった事を包み隠さず話した。
父とリバーは先に聞いていたようで、驚いているのは王家の3人だけだ。
「まずは、ルチルに礼を言おう。アズラを救ってくれて感謝する」
「いえ、魔物を倒したのはお祖父様です」
「ルチルがアヴェートワ前公爵を呼んでくれたからだ」
「僕からもお礼を言わせて。ありがとう」
王家の3人から頭を下げられた。
謙遜しすぎてもよくないので、小さな声で「はい」とだけ返事をしておく。
「次に、ルチルが見えたモノについてだが、未来が視えるでいいのか……」
「はい。私は、その力が金色の魔法ではないかと思っています。リバー、お前はどう思う?」
「どうでしょうか? 予知夢は光の魔法だと言われています」
「リバー、私は夢で視たわけじゃないの」
「と言いますと?」
「起きている時に景色が浮かんだの。それに……」
「ルチル、大丈夫だ」
祖父に微笑みながら頷かれて、ルチルも頷き返した。
祖父はいつも確かな愛情で包み込んでくれる。
「スイーツの作り方は、小さな頃に夢で見て作ってもらうようになったわ。四方が本棚で囲まれている所で、本を読んで知るの。
でも、2年間眠った後から、夢じゃなくて頭に浮かぶようになったの。スイーツも石鹸も、刺繍花やコースターも作り方が浮かぶようになった。
そして今回、アズラ様が魔物に襲われて怪我をする場面を視たわ……半信半疑で誰にも言えなかったけど……最終的にお祖父様に言えてよかった……」
「それは興味深い話ですね。他にそういった未来は視えていませんか?」
「視てないわ。だから、これからも視れるのかどうかは分からないわ」
「視たいモノが視えるわけではないと」
「ええ」
リバーと会話をしていて、きちんと受け答えしているはずなのに、リバーはどこか上の空だ。
「ルチル様、私は未来が視えるというよりも、気になったことがあるのですが」
「なにかしら?」
「魔物が現れる前、空間が歪んで見えたとタンザ様に言われたんですよね。その時の状況、詳しく覚えていますか?」
「詳しくって言っても、お祖父様が言ってた通りで……えっと……アズラ様の後ろの空間が波打つように歪んで、その中心からヒビ割れて空間が裂けたの」
「魔物の周りに、何か変わったモノは見えませんでしたか?」
「特には……あっと思った時には、お祖父様が魔物を止めていたし」
リバーは考える時の癖のようで、いつも通り人差し指を顎に当てて、宙を見ている。
「リバー、何か思い当たる事があるのか?」
「私が思うに、金色の魔法は知識そのものではないかと」
「知識そのもの?」
「ルチル様は、この世に無いものを生み出しています。それこそが、金色の魔法ではないかと。本棚に囲まれた場所で本を読んでいた、という話に間違いないと思いました。そして、それらは全て未来予言の本ではないのかと」
ごめん。それで得たのは細かい前世の記憶……
でも、リバーの言うことは的を射てる?
前世の記憶を持っていること自体が、金色の魔法なのかもしれない。
話し合いは明日の投稿まで続きます。
ルチルの祖父ダンザ・アヴェートワ前公爵は、火と水の魔法の使い手。
父のアラゴ・アヴェートワ公爵は、火と炎の使い手。
どこかのタイミングで人物紹介します。
いいねやブックマーク登録、誤字報告ありがとうございます。
読んでくださっている皆様、ありがとうございます。