表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/373

11

ルチルは朝から憂鬱だった。


今日だよ、事件が起きるの。どうしたものか……


「ルチル、今日はずっと元気がないけど体調悪い?」


「いえ、元気ですわ」


「でも、ご飯もほとんど食べていないし……」


今は、もう昼食時。

事件は、お昼後すぐの4限目に起こる。

アズラ王太子殿下が怪我をするのだ。

それも、魔物が学園に入ってきてだ。


どう考えても分からない。

魔物はどうやって入ってくるんだろう?


学園も高い塀に囲われている。

文章を思い出しても、飛行型の魔物じゃない。


「アズラ様、お昼から剣術の授業ですわね」


どうにか授業に出ない方向に……

でも、他の学生が怪我をしてしまうかもしれない……


「そうだね。唯一、体を動かす授業だから楽しみだよ」


1年生の間の魔法の授業は、簡単な魔法動作が実技であるくらいで、ほとんど教室での授業になる。

2年生からは、魔法の実技で体を動かすことが増える。


「今日は何処で授業をされるのですか?」


「剣術の授業はいつも運動場だよ」


運動場でしていたのか。知らなかった。


あああああ! どうしよう!

どうすればいい!!


「お祖父様との訓練と学園での授業とは、大変さが違いますか?」


本のアズラ様は、1回で何でもこなす天才だった。

剣術も1回でマスターしていたため、練習を疎かにしていたはず。

そんな描写は無いけど。


でも、今横にいるアズラ様は、お祖父様の訓練で何度も死にかけていると、チャロがこっそり教えてくれた。


お祖父様に注意しても、聞く耳持ってくれなかったよ。

ごめん、チャロ。


今のアズラ様が、本のアズラ様より強ければ怪我をしない……かもしれない……

かもなんだよねぇ……


「比べられないよ。アヴェートワ前公爵の訓練は……やり甲斐はあるけど……大変の一言では表せれないからね」


すまん! ルチルバカのお祖父様ですまん!


お祖父様……お祖父様がいれば魔物が出ても、誰も怪我しないんじゃないか?

ここは公爵令嬢としての力を使うべきか……


「ルチル? 本当に大丈夫?」


「アズラ様……私……私……」


「うん、どうしたの?」


「お祖父様に無性に会いたくなりましたわ! 今から会いに行ってきます!」


「え? ルチル!? 駄目だよ! 1人で行動しちゃ!」


アズラ王太子殿下の引き留める声を無視して、アズラ王太子殿下の手も華麗に躱し、魔力を足に溜めて走り出した。


だが、いつも馬車に乗る玄関ホールに行っても馬車がない。

当たり前だ。迎えの連絡なんてしていないのだから。


「ルチル嬢、殿下を困らせないでよ」


「ひゃ! うううそでしょ? オニキス様」


「幽霊じゃないからね。そんなに驚かないでよ」


だって、どうして追いつけるの?


「殿下から魔力操作のやり方は聞いてるよ。フローもジャスも知ってるから。というか、あの場で使うのはどうかと思ったけどね」


え? まさか超能力者だったりする?

あたし、思っただけだよね?


「思ってること顔に出てる。パーティーの時の仮面早く被って」


「そんなに思っていること、顔に出ていますか?」


「出てる出てる。それよりも戻らないと。殿下が発狂する」


「駄目! お祖父様をお呼びするんです!」


「呼ぶたって、馬車もないのにどうやって? それに、会いたいんじゃなくて?」


「あ……そう! 会いたいから呼ぶんです!」


そんな胡散臭そうに見ないで、お願い。


「はぁ、仕方ない」


そう言って、オニキス伯爵令息は胸の辺りで手のひらを上に向けた。

緩い風が起こったと思ったら、半透明な鳥が現れた。

オニキス伯爵令息が手を1回弾ませると、鳥は空高く飛んでいった。


「アヴェートワ前公爵に連絡したから」


「オニキス様……今のは一体……」


「風の魔法の使い手は、ああやって連絡取れるんだよ。便利でしょ」


「初めて見ました! すっごいですね! いいなぁ!」


前触れもなくオニキス伯爵令息が吹き出し、可笑しそうに笑いはじめた。

「お腹いた」とか呟きながら、目に溜まった涙を拭っている。


「ああ、おかし。ルチル嬢って、どっかズレてるよね」


「失礼な。ズレてませんよ」


「でさ、どうしてアヴェートワ前公爵を呼びたいのか教えてくれない?」


「会いたいからですわ」


「俺、口固いよ?」


「知りませんでした。覚えておきます」


「そうですか。それで殿下の様子を見る限り、殿下も事情を知らないよう……って早すぎ。もう来た」


物凄い大きな音を立てて、馬が走っている音が聞こえてくる。

正面を見ていると、砂埃を巻き上げて馬に乗った祖父が現れた。


馬車より馬単体の方がよっぽど早い。

さすが、お祖父様だわ。


ルチルたちの前に着いたと同時に、祖父は馬から飛び降りルチルの両肩を掴んできた。

馬は疲れ切ったようで、倒れるようにその場に座ってしまっている。


「ルチル! 何があった!? 助けて欲しいとは、誰を殺せばいい!」


祖父の顔は、かなり険しい。

今なら本当に誰かを殺してもおかしくないほどだ。


横目でオニキス伯爵令息を見ると、ニカッという効果音がつきそうな笑顔を返された。


「お祖父様、勘違いですわ。ただ無性にお祖父様に会いたくなっただけなのです」


「おお、そうか。それは嬉しいな。そうだ! これからデートにでも行こうか」


「いいですね! では、学園内になりますが散歩しましょう」


「そうだな。街に行くとアラゴが五月蝿いからな」


そこに、事務員の人が何事か? と外に出てきた。

祖父の姿を見て何か不手際があったのかと怯えていたが、孫に会いたかっただけだと言うと、事務員の人は安心して戻っていった。


いいのか、それで?

というか、門番の人も止めることできなかったんだろうな。


「ということで、オニキス様。お祖父様に連絡を取ってくださってありがとうございます。無事に会えましたので、オニキス様は授業に行ってください」


めっちゃ胡散臭そうに見られてる。

オニキス様は、あたしに対して繕おうとしないんだよね。

あたし的には、そこが好感ポイントだけどね。


「まぁ、アヴェートワ前公爵が一緒だと言えば、殿下も安心するでしょう。では、失礼いたします」


お辞儀をして去っていくオニキス伯爵令息の後ろ姿を見送る。


「あの子は?」


「ラセモイユ伯爵家のオニキス様ですわ」


「あの子が。中々いい側近候補じゃないか」


側近候補なのね。

そうなのかもと思ってたけど、本当にそうだったか。


「お祖父様、エスコートしてくださいませ」


「もちろんだ。ルチルと散歩は久しぶりだな」


微笑み合い、祖父のエスコートで学園内を歩きはじめた。






いいねやブックマーク登録、誤字報告、ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、感謝しています。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ