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2月になり、寮の部屋でマカロンを食べながら「もうそろそろ1個目の事件だなぁ。どう対策しようかなぁ」と考えているとノックされた。
ちなみに、1月中に王妃殿下には3種類の柄違いのコースターを15個ずつ渡している。
「お礼に何か欲しい物はない?」と聞かれたが、特に欲しい物はなく保留中だ。
鞄に付ける刺繍花は7種類ほど可能な限り作り、順次父に渡している。
チラホラと鞄に付けている生徒を見はじめた。
ただ、学園に通っていない人たちにも、刺繍花があると広がりつつあるそうだ。
生徒が欲しいと両親に相談をして広まっているらしい。
作り方を教えて、作れる人を増やした方がいいのか? と悩みたいところだが、最近の悩みは1個目の事件の対処法だった。
ノックに「どなたですかー?」と呑気に返すと、目の前で本を読んでいるシトリン公爵令嬢に「マナー!」と怒られた。
「突然すみません。ヌーです」と、緊張気味の声が聞こえてきた。
ヌーが来たことに驚いて、急いでドアを開けると、申し訳なさそうに立っている姿が目に入る。
「突然の訪問、誠に申し訳ございません。ご相談したいことがありまして」
「気にしないで大丈夫ですよ。さぁ、入ってください」
ヌーの入室にシトリン公爵令嬢は本とお茶を持ち、ルチルが座っていた横に移動している。
夜は怖いから、部屋に戻る気はないようだ。
ヌーに着席を促し、ヌーの分のお茶を淹れる。
シトリン公爵令嬢のお代わりにも、もちろん応えた。
遠慮するヌーに、マカロンも勧めた。
緊張しながらもマナーがなっているヌーに、頑張ったんだなぁと熱い物が込み上げてくる。
泣かないけどね。
「美味しいです。ありがとうございます」
「よかったですわ。それで相談とは?」
「あの、それが……勉強できる場所を探しているんです……」
「食堂を使っていると、おうかがいしましたが」
ヌーが言いづらそうに、ゆっくりと口を開いた。
「食堂で勉強をしていると、休憩できないとか五月蝿いとかで注意をされることが多くなりまして……場所を図書館に移したのですが、そこでも同じように注意されまして……部屋には大きな机はありませんから、今みんなで勉強できる場所を探しているんです。ですが中々見つからず、ルチル様なら何処か知っているかもしれないと思いまして、相談に来ました」
「食堂で勉強される時は、食事時は避けていらっしゃるのでしょう?」
「はい。できるだけ邪魔にならないようにと、隅で勉強していました」
「カフェテリアでしたらいいじゃない」
本を読んでいるはずのシトリン公爵令嬢から意見が出たので驚いた。
シトリン公爵令嬢を見ても、視線の先は本の文字を追っている。
「どうしてカフェテリアですの?」
「みんな、五月蝿いくらいに話しているのよ。同じように話していても問題無いでしょ」
「それが……」
「どうされました? まさかカフェテリアでも注意されたのですか?」
「いえ……あの……カフェテリアには入れないんです……」
は?
あたしは行ったことないけど、カフェテリアは学生全員が使える場所だ。
入れないことなどない。
「どうして入れないのですか?」
「えっと……平民がお茶やスイーツを嗜むのは烏滸がましいと言われまして……」
待って。あり得ない。
スイーツの提供止めるぞ、こら。
「バカな子たちが多いのね。目障りなら目に入れなければいいのよ」
ごもっとも。
「その注意は、どなたがという特定の方はいらっしゃるのですか? それとも、不特定多数からなのでしょうか?」
誰がとなれば、学園からとかあたしから注意すれば済むけど、不特定多数となると注意が難しくなる。
あたしが常に平民の子たちと共に行動できるわけじゃないしね。
「えっと……勉強できる場所があればいいだけですので。それに、誰かというのは……」
目が泳いでいるってことは、特定の誰かなのね。
告げ口したでしょという報復があったらと思うと怖いしね。
もしかしたら、実際告げ口するなと言われているかもしれない。
でも、カフェテリアを利用できないなんて嫌でしょうよ。
ここじゃないと平民の子たちは、お腹いっぱいスイーツ食べられないでしょうし。
誰か聞ければいいけど、無理矢理聞いてもねぇ。
「誰か分からないのでしたら仕方ありませんわ。生徒数多いですものね」
明らかにホッとした顔。
誰だよー! 虐めてる奴!
「勉強できる場所ですよね……」
何処があるんだろう?
刺繍糸でコースターと花を作るのに部屋に篭ってたからなぁ。
学園探検は、まだしてないんだよねぇ。
でも、あたしには小説の知識がある!
めくるめく事をしていた場所なら人も来ないだろうし、使っても問題ないでしょう!
「空き教室はいかがでしょう? 事務の方に申請して、使用許可をもらっていれば文句を言えませんわ」
「空き教室があるんですか?」
「ええ、確か東棟の方にあるはずですわ。もしかしたら、東棟以外にも空き教室はあるかもしれませんから、申請する時に聞いてもよろしいかと思います」
「教えていただき、ありがとうございます。明日早速聞いてみます」
ヌーが帰る際に、他のみんなにもあげてとマカロンを持たせた。
何度もお礼を言って、元気よく帰っていくヌーに安堵した。
「選民意識の高い方が多いのかしら?」
「さあ? ただ暇なんじゃない」
「暇ってだけで虐めるのですか? 最低ですね」
「虐めってそんなものよ」
シトリン様が、まともな事を言っている……若干怖い……
というのは嘘で、彼女は丸くなったからね。
入学当初よりも更に丸くなっていると思う。
ヌーさんたちには、毎週何かスイーツを差し入れしよう。
カーネが毎日来られるなら持ってきてもらえるが、送り迎えの時にしか来られないものね。
虐められている現場を押さえられたらいいんだけどなぁ。




