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タウンハウスに帰宅すると、「殿下を甘やかしすぎだ」と祖父と父から怒られた。

金曜は王宮に泊まらず、家に帰ってくるようにと約束をさせられた。


怒りが落ち着いただろう2人から、「昨日ダンピマルラン侯爵が謝りにきたが、学園で何かあったのか?」と聞かれた。


ああ、忘れてた。


縦ロールのことを話すと、祖父と父からは呆れたようなため息が漏れていた。

「何も分からなかったが『2度目はないですよ』と言っておいたから、もう大丈夫だろう」とのことだった。

青い顔をして帰って行ったそうだ。


あの時は取り引きを切ってしまってもと思ったが、後から考えるとダンピマルラン領の人たちが困ることになると思い、2人にどう話すか考えていたのだ。

答えが出ずに忘れていたから、穏便に済んだようでありがたい。


その後は、教科書と飾りのないアクセサリー類の手配をお願いし、刺繍のコースターと小さな花々を見せた。

可愛いが売れるのか? と疑問に思う2人に、王妃殿下のお墨付きと学園内で流行らせたいということを伝えると、オッケーをもらえた。


やはり装飾品は女性目線があった方がいいのかと、これからは祖母と母に相談しようと決めた。

王妃殿下は、勢いと圧が凄くて耐えるのが大変だからだ。


刺繍糸を買いに行きたいと相談したが、許可が貰えず、夕方には刺繍糸と他に頼んだ物を用意してもらえることになった。


夕方までにリップクリームを作り、全ての準備が済んだら学園へ戻った。


学園に戻ると、ちょうど夕食の時間だった。

アンバー公爵令嬢に誘われたが、家で散々スイーツを食べてしまったせいでお腹が空いていなかったので、「後でお茶をしましょう」と断った。


その時間を使って、ゴムとコームに刺繍糸の花を付けていく。

可愛くできて満足だ。


アンバー公爵令嬢とお茶をしていると、寮に戻ってきたそのままの足でだろうシトリン公爵令嬢がルチルの部屋に姿を見せた。


「アレ、できているわよね?」


「リップクリームですよね。持ってきてますよ」


用意していたリップクリームを渡し、「寝る前に少量つけてください」と説明する。

日頃からつけているとテカテカになってしまうので、夜の保湿を勧めているのだ。

ルチル自身が、カップに付着するのが嫌いという理由もある。


「それと、お2人に見せたいものがあるんです」


「なにかしら?」


「楽しみですわ」


「ジャーン」と効果音付きで、制服のウエストポーチを見せた。

小さなカバンの隅に、刺繍花の桜を付けている。

鞄の外側に縫い付けても魔法陣には影響しないと、リバーに確認済みだ。


「「可愛い(ですわ)!」」


「なにこれ! またアヴェートワ商会の新商品なの! いつ買えるの!? もちろんコスモスあるわよね!?」


王妃殿下に負けず劣らずの圧……

女子力高いっすね……


「先に王妃殿下の注文を作り終えてから販売になりますので、商会で売り出すのはまだ先かと」


言いながら、コースターを見せた。

使い方を教えると、シトリン公爵令嬢はコースターにも飛びついた。


「欲しいわ! でも、王妃様が先なのよね……仕方がないわ……」


「すみません。これらは、私1人で作るので大量生産は難しいのです」


「え!? ルチル様が全て作っているんですか!?」


「はい。難しくはないので隙間時間に楽しく作っているんです。趣味みたいなものですね。

ですので、先にお2人の分は作成済みなのですよ」


また「ジャーン」と言って、コスモスと蓮を出した。

アクセサリー類も一緒に。


本当は某猫型ロボットの真似をしたかったが、真似をして冷たい目で見られると悲しいので止めたのだ。


「コスモス! もう、先に言いなさいよね」


「蓮まで! ありがとうございます!」


「よろしかったら鞄に付けますよ」


「持ってくるわ!」


素早く部屋から出ていくシトリン公爵令嬢に、ルチルとアンバー公爵令嬢は顔を見合わせて笑った。


アンバー公爵令嬢も鞄を取りに行き、2人の鞄にそれぞれの花を付ける。


「それと、薔薇の花のゴムをアンバー様に。ポニーテールの時に使ってください」


「ありがとうございますわ。明日から早速使います」


「アネモネのコームはシトリン様に。お団子をしても、どこにでもつけられますわ。明日から使いますか?」


「使ってあげるわ。ありがとう」


シロツメクサのゴムは、ルチルが使う予定だ。


制服に宝石類をつけている学生もいるが、お洒落大好きシトリン公爵令嬢はつけていない。

どうつけても似合わないからだ。

アンバランス感がすごいのだ。


「これ、絶対流行るわよ」


「でも、ドレスには合いませんから。材料費も安いですし、学生や平民の皆様に売れればと思っていますのよ」


「何を言ってるの。花の真ん中を宝石にすればいいのよ。それに、金粉や銀粉を塗して、ドレスのスカートに縫いつけてもいいわ。手袋のワンポイントに付けても可愛いわよ」


「なるほど。シトリン様、素晴らしいですね」


「そ、そうよ! 私は素晴らしいのよ!」


純粋な褒め言葉には慣れていないと。

可愛いですねぇ。


「ですが、制服でもお洒落できないかと考えた物ですので、ドレスへの応用はなくてもいいかなぁと」


「勿体無い……」


「でも、花の真ん中を宝石にしてイヤリングやカチューシャにしましょう。普段着のワンピースに合いそうですわ」


「合うわ! 欲しいわ!」


「王妃殿下のコースターと並行して作りますよ。楽しみにしていてください」


「できれば春休みまでにね」


春休みかぁ……期限短いなぁ……

来週には、小さな宝石類も用意してもらおう……


この学園は1月から12月の1年が1学年となっていて、春夏秋冬で長期休みがある。

休みの前にはテストもある。


長期休みは、それぞれ3週間ずつ。

領地が遠いのに転移陣を使えない学生は、3週間で行き来するのはお金や時間が勿体無いので、学園に滞在する人が多いそうだ。


次の日、公爵令嬢が3人共可愛いアクセサリーをつけていると、すぐに話題になった。

鞄にも付いていて羨ましいと、どうやったら鞄に付けられるのかと、学園に問い合わせが殺到したそうだ。


学園がアヴェートワ商会だろうと目星を付け、アヴェートワ商会に問い合わせたら「娘に聞いてほしい」とのことだったと、学園長の部屋に呼び出された。

「勝手に付けてすみません」と、心の中で誠心誠意謝った。


学園から生徒たちに「アヴェートワ商会の新商品だが、試作品でまだ販売していない」という説明をしてもらった。


何種類の花を作ればいいのだろうと、ルチルは隙間時間ずっと刺繍糸の花とコースターを作っていた。


アズラ王太子殿下から「もっと構ってほしい」と言われ、反省したのは後日のことだった。






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