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席に着き、アズラ王太子殿下の上に乗り出すようにして、オニキス伯爵令息に小声で話しかける。
「ルチル嬢、それはよろしくないですよ」
「アズラ様は喜ばれるからよろしいんです」
「よろっ……よろこぶとか……そんな……ことないけど……」
真っ赤になるアズラ王太子殿下の声を、とりあえず聞こえないフリをする。
「オニキス様、グッドタイミングでしたわ。ありがとうございます。最後の言葉も最高でした」
「お褒めいただき光栄です。未来の王太子妃殿下も演技がお上手でしたよ」
「声を荒げるのは難しいなと思っていましたの。嬉しいですわ」
笑い合って、姿勢を正した。
狼狽えてた割にもう終わりなのかと落ち込むアズラ王太子殿下に、笑顔を向けた。
「遅くなりましたが、アズラ様、おはようございます」
「おはよう。今日も可愛いよ、ルチル」
「アズラ様はカッコいいですわ」
よし! これで機嫌も直ったでしょう!
さすがに、アヴェートワ公爵家と王家の両方から責められたら、ダンピマルラン侯爵家が可哀想だからね。
平民の皆様のありがたさを、あの子がちゃんと分かってくれたらいいけど。
そのために大袈裟に叫んだんだから。
それにしても……親を持ち出すなんて悪役令嬢の行動だな。
悪役令嬢にならないよう気をつけよう。
話がズレている分、怖いからね。
「スッキリしたわ。私もあの子嫌いなのよね」
「そうでしたのね。私、顔しか知らなかったものですからビックリしました」
「あの子、いつも真似してくるから嫌なのよ。ドレスも同じ物を作ったりしてくるのよ」
「それは、憧れられているのではありませんか?」
「やめてよ。私、あんなに下品じゃないわ」
「そういう意味ではなくて、シトリン様は可愛いですので、皆さん真似をしたくなるってことですよ」
「真似しても私にはなれないのに? 変な人たちね」
美意識が高いのに、本当に憧れというものが分からないのね。
でも、真似してもその人にはなれないっていうのには同感だわ。
その子の良さを伸ばせばいいのにって思う。
けど、自分ではどうすればいいのか分からないから、可愛いと思うものを真似する気持ちも分かる。
人ってない物ねだりだものね。
全ての授業が終わり、ルチルは約束通りモスアとセレにノートを渡した。
「ヌーから借りるから大丈夫ですよ」
「ヌーさんのと合わせて2冊あった方が便利ですわ。遠慮なさらず、どうぞ」
「ありがとうございます。必ずお返しいたします」
モスアとセレは、深くお辞儀をして教室を出て行った。
ルチルも、アズラ王太子殿下たちと女子寮に向かって歩き出す。
「ルチル。僕はこの後王宮に帰るんだけど、一緒に帰る?」
「申し訳ございません。明日の朝、カーネたちが迎えに来る予定なのです」
「それは王宮に帰ってチャロに言えば、アヴェートワ公爵家に伝えてくれるから大丈夫だよ」
「しかし……アズラ様は、お仕事がお有りなのでは?」
学生の間は、王家所有の領地経営を任されることになるって聞いてるよ。
忙しいんじゃないの?
あらら、気まずそうに目を逸らしちゃった。
「そうだけど……夕食は一緒に食べられるから……一緒にいたいなって……」
「お仕事はサボりませんか?」
「サボらないよ」
「では、ご一緒させていただきます。チャロの仕事を増やすことになって申し訳ありませんが」
「チャロは優秀だから大丈夫」
優秀と仕事が増えることは、別問題だからね。
王宮も領地経営も、何気にブラックなんだよねぇ。
就業時間てものが明確にないのが駄目なのかな?
1度寮に戻ってワンピースに着替え、女子寮の前でアズラ王太子殿下と待ち合わせをした。
一緒に学園の受付所がある玄関ホールに行くと、チャロが頭を下げて待っていた。
どこから来るのが分かっていたのだろうと、少し怖くなった。
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