8 〜祖父の想い〜
ルチルを見送って、ソファに深く座り直した。
重たいため息が漏れる。
「アイスティー、淹れ直しますね」
「いや、このままでいい」
「かしこまりました」
背もたれに体を預け、天井を見上げる。
「サーぺ、どうしたらいいんだろうな」
夢のことは3人以外知ることはないとはいえ、いつまで隠していられるか……
アラゴには折りをみて言わないとな。
「お嬢様のお心のままでよろしいかと」
「そうであってほしいが、王家と神殿に目を付けられたらと思うとな。それに、古臭い決まりもある」
「王家に関しては、彼らはアヴェートワ公爵家に強くでられませんから。お嬢様が望まない限り、嫁ぐことはございません。決まりも撤回できるでしょう」
「そうだな。問題は神殿か……あいつらは厄介だからなぁ」
「そうですね。聖職者とは名ばかりの者たちですからね」
「ったく。王家が抑えてくれればいいものを」
1000年前の国王が欲望の塊のような人間で、それでいて救いようがないほどに知能も低かったらしい。
その時に民が神殿に救いを求め、王家と同じくらい神殿が力をつけてしまった。
そこからは、弱い国王の時に王家を滅ぼそうと、神殿が何度かクーデターを起こしかけている。
臣下たちの努力で未然に防げてはいるみたいだが、危機的状況は幾度もあったそうだ。
ここで、光の魔法の使い手が重要になってくる。
民は王家や神殿より、実際に怪我や病気を治してくれる光の魔法の使い手を1番に大切にするからだ。
スミュロン公爵家の支持が高いのは、医師が多いから。
年に数回、慈善事業として無料で診察をしている。
そのスミュロン公爵家が王家に誓いを立てているから、王家の支持率が底辺になることはない。
他の四大公爵家の慈善事業も王家に劣らないから、四大公爵家が裏切らない限り王家は安泰だろう。
それに光の魔法の使い手も、神殿に閉じ込められるより王妃になることを選ぶから、神殿は最後の一手を掴めずにいる。
ルチルもどちらかを選ぶとなると、王妃を選ぶだろう。
「アズラ王子殿下は、歴代1の優秀なお方と聞き及んでおりますが」
「そうみたいだな。だが、まだルチルと同じ3才だ。この先どうなるかも分からん。神殿を抑えられる力をつけてくれればいいがな。それに、ナギュー家のシトリン嬢のこともあるしな」
「ああ、あのお嬢様ですか。評判悪うございますね」
「3才で悪評がつくとはな。一体どんな育て方をしているんだか」
「天才のお嬢様とは雲泥の差ですね」
「そうだな」
さすがに、さっきは驚いた。
教えてもいないのに、読み書きや計算、刺繍ができるとは。
それに、魔道具の発案までスラスラと出てきた。
挙げ句、光の魔法の使い手ときた。
可愛いだけじゃないとは。
神の寵愛を一身に受けているように思える。
本当にどうしたものか……
欲に塗れた者たちが多いのが、現実だ。
あの子の思うがままに道が開かれればいいが、中々に難しいだろう。
変に隠すと悪魔扱いされかねんから、天才だということは隠さないようにさせたが。
そこに関しては、私もアラゴも天才だと言われてきたから問題ないだろう。
ただ規格外すぎるだけで。
はぁ……あの子の将来が心配だ……
考えが何度も同じところをグルグル回り、どうすればいいのかの答えは結局見つからなかった。
この世界の説明をある程度できました。
次話で初めてのスイーツ作りになります。
(季節の問題でアズラもシトリンも今年3才です。誕生日がまだなだけです)
ここまで読んでいただきありがとうございます(人゜∀゜*)続きも頑張ります!