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次の日の昼食後、寒いが部屋の窓を開けて石鹸作りを開始した。
なぜかリバーもいて、リバーの瞳が輝いている。
「苛性ソーダが石鹸になるんですねぇ。楽しみですねぇ」
この世界での苛性ソーダは、元の世界の電気分解をしたものとは違う。
砂漠に生えている灌木と石灰とお湯で作ったものだ。
掃除用の強力な洗剤が必要でできたものらしい。
ただ劇物なので、取り扱い注意なのは一緒だ。
マスクはないのでタオルを口を隠すように巻き、手袋をつける。
朝に熱湯で濃い目に作っておいた冷めたカモミールティーと苛性ソーダを混ぜる。
用意していたひまし油と苛性ソーダ水をそれぞれ40℃にし、少しずつ入れ、混ぜる。
苛性ソーダ水を全部入れたら、ひたすら混ぜる。
トロッとしたら、深めの長方形の型に流し込む。
タオルを巻いて1日温かい場所で寝かせる。
ひまし油は、各家庭にも常備薬として置いているくらい、この国にはたくさんあった。
ひまし油は湿布として使えるし、下剤にもなるからだろう。
そして精油はないが、ハーブティーは好まれていて何種類もある。
精製水の代わりに使えるし、香りもよくて便利だ。
同じようにラベンダーティーとローズマリーティーとペパーミントティーの石鹸も作った。
オイルをオリーブオイルとココナッツオイルを混ぜ合わせた物に変えて、合計8種類の石鹸を作った。
途中からリバーも作りたがったし、祖父と父も手伝ってくれたので、8種類あっても最後まで楽しんで作れた。
でも、まだ完成ではない。
1日寝かせた石鹸を乾燥させなければいけない。
本来なら乾燥に1ヶ月かかるが、ここは魔法の世界。
魔法で簡単に乾燥させちゃいましょう!
祖父は、火と水の魔法の使い手だ。
「お祖父様、明日はこの石鹸から水分だけを取ってほしいのです」
「水分だけを取るか……やったことはないがやってみよう」
「タンザ様、できなくてもフリーズドライの魔道具はいちご丸ごとチョコで完成済みですから、石鹸用にすぐに作れますよ」
「うるさい! 私がルチルに頼られたんだ! 水分だけ取れる!」
「リバー、フリーズしなくていいの。ドライだけでいいの」
という、やり取りが昨日あった。
石鹸を型から出して包丁で切り、祖父に乾燥をお願いした。
乾燥させようとしている祖父に、リバーは簡易ながらも作ってきた乾燥魔道具を見せた。
だが、祖父は「私がやる!」と見事に水分だけを取って乾燥させたのだ。
リバーが悲しそうにしていたので、1日寝かせる作用がある魔法陣をお願いした。
全身を使って喜びを表現されて、このドMめと思ってしまった。
出来上がった石鹸からは、仄かにハーブティーの匂いがする。
「手を洗ってみましょう」というルチルの声に、用意していた水を使って泡立ててみた。
「いい匂い……癒される……」
「泡立てたら匂いが強くなったな」
「今までより泡立ちがいいから気持ちがいい」
「苛性ソーダが入っているのに肌が荒れないです……」
水で泡を流しても肌はしっとりしている。
肌が突っ張ってない! これよ、これ!
「すぐに作り始めよう」
「販売する時ですが、もしかしたら肌に合わない方もいらっしゃるかもしれません。使う前に少量の泡を腕の内側に付けて、荒れないかどうか試すように伝えるようにしてください」
「分かった。必ず伝えるようにしよう」
「作った石鹸、少しだけアズラ様たちにあげてもいいですか?」
「うーん……献上は改めてすると伝えるようにな」
「分かりました」
石鹸1種類ずつにリボンを巻き、計8個をバスケットに入れた。
祖母や母にも持っていき、物凄く泡立ててから、顔や体や髪の毛を洗ってほしいと伝えた。
ちゃんとパッチテストのことも説明している。
祖母と母は、今日の湯浴みの時に使用すると、石鹸の匂いを嗅いで喜んでいた。
2日後。
今日は、王宮で両陛下とアズラ王太子殿下と夕食る予定がある。
アズラ王太子殿下からは昼から会いたいと手紙をもらっていて、ルチルは昼過ぎに石鹸を持って王宮に向かった。
アズラ王太子殿下に出迎えられ、温室を散歩してから、アズラ王太子殿下の部屋でお茶をした。
その時に「ルチルの部屋のベッドは、新しいものに替えているからね」と教えてくれた。
夕食の時間になり、両陛下とアズラ王太子殿下と楽しく食事をする。
ルチルの体力と食事量が戻るまで食事会はなかったが、最近になって復活したのだ。
デザートも食べ終わり、ルチルは王妃殿下に石鹸が入ったバスケットを渡した。
美に関する物は、女性が喜ぶからだ。
使用方法と注意事項を説明し、商品化したら献上するということも忘れずに伝えた。
「3人で使用してください」と言って渡したから、陛下とアズラ王太子殿下に1個ずつは渡るかなと思っていたが、使用した王妃殿下が大層気に入り、献上がいつか分からないからと1つも渡っていなかった。
後日、ルチルはアズラ王太子殿下にだけ、こっそりラベンダーティーの石鹸を渡した。
アズラ王太子殿下の寝不足の解消を祈ってラベンダーティーの石鹸にしたおかげか、「石鹸を使い始めてから、前よりも少し眠れるようになったよ」と不思議そうに話してくれた。