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考えなければいけないことは多いが、今何よりも気になっていることがあり、祖父の執務室を訪ねた。

笑顔で迎えてくれる祖父とサーペは、小さい頃から変わらない。


「ルチルがここに来るのは久しぶりだな」


「そうですね」


「来月から学園に通うのか。平日はルチルと会えないのか」


魔法学園には寮がある。

通っていれば誰でも入寮できる。

入寮する生徒は、地方に住む子供たちばかりだ。

王都に住む子供は、馬車で通えるからだ。


でも、ルチルは朝の馬車渋滞に巻き込まれるのが嫌で入寮を決意した。

アヴェートワ公爵家のタウンハウスからは45分ほど。まだ近い方だ。

だが、登校時間は被る。

馬車渋滞が起きれば何時間かかるのか分からない。


馬車の中で毎朝待ち続けるのは時間の無駄なので、それなら寮から歩いた方がいいとなった。

ちなみに、寮からも30分程歩く。

王宮並みに広い学園なのだ。仕方がない。


ルチルが入寮すると知って、アズラ王太子殿下も入寮すると言い出した。


そうなると自然的に、ほとんどの子供が入寮になってしまった。

この国の王太子殿下が入寮するのに、同じようにさせない親はいない。

フロー公爵令息もジャス公爵令息もオニキス伯爵令息もシトリン公爵令嬢も、入寮すると親が決めた。

アンバー公爵令嬢は、自分の意思で残り1年の学園生活は入寮すると決意したそうだ。


ここでの問題は2つ。


1つは、侍女も侍従も連れていけないこと。

食事は食堂に用意されるし、カフェテリアもあるから困る心配はない。

だが、部屋での生活は1人ですることになる。

着替えも髪の毛のセットも湯浴みも、してくれる人は側にいないのだ。

ルチルは前世の記憶があるから問題ないが、ほとんどの令息令嬢は慣れるまで大変だろう。


もう1つは、警備の問題だ。

なにしろアズラ王太子殿下と未来の王太子妃が入寮するのだ。

今までの警備では安心できない。

学園側は警備員を増やし、巡回は夜通し行われることになった。

学園の外側は、国の騎士団が巡回することになった。

不審者が多く見つかるようならば、更に警備を見直すそうだ。


「日曜日は一緒に過ごしましょうね」


「当たり前だ。土曜日も帰ってきなさい」


来月から王太子妃の勉強を再開することになった。

土曜日は王宮に泊まり、日曜の朝タウンハウスに帰ってきて、夕方寮に戻ることになる。


曖昧な笑顔で濁して、サーペが淹れてくれたお茶を飲んで話を無かったことにする。


「お祖父様。私、作りたい物があって相談にきましたの」


「新しいスイーツは、もう料理長に直接言って作っていただろう? 今回は難しいのか?」


「スイーツではないんです」


祖父が、手に持っていたカップをソーサーに置いた。


「難しい魔道具か?」


「違います。とても欲しかった物なんです」


「聞こう」


「石鹸です」


祖父のお尻が上がりかけたが、何事もなかったように座り直している。


「それは、どんな石鹸だ?」


今、トゥルール王国で主に使われている石鹸は、液体石鹸になる。

従来の石鹸と同じように水と混ぜると泡立つ実がなる木が、カカオが取れるバゴディ島にあり、バゴディ島の人たちにはその実が石鹸だった。

汚れもちゃんと落ち、無臭だ。


「固い石鹸です。そして保湿性に優れ、匂いもいい石鹸です」


「そんな物が作れるのか?」


「作れます。体や髪の毛には今から作る石鹸にして、洋服を洗ったり食器を洗ったりするにはバゴディ島の石鹸がいいかと思います」


「北の国はまだ復興途中だし、在庫も心許ない。

石鹸でも用途が違うように売り出すのは得策だ。

さすが、ルチルだ」


作り方が分かった時、材料も全部見たことあるって喜んだわー。

作るからね、いい匂いがする石鹸!


祖父に材料を伝えると、そんな物でいいのか? と驚かれた。

明日までに用意してくれるそうで、明日の昼食後に作ることになった。


夕食時に父にも話して、作り方を見たいということで、明日父も一緒に作ることになった。


祖母と母は早く使ってみたいと楽しみにしていて、弟もいつも通り「お姉様すごい」と尊敬の眼差しを向けてくれていた。






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