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お見舞いに来てくれたアズラ王太子殿下と、サンルームでお茶をしている。
アズラ王太子殿下の笑顔は、今日もとても素敵だ。
「ルチルに話しておかないといけないことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
その前にと、全員部屋から下がらせた。
デュモルは嫌がったが、タウンハウスの中だからと言って無理矢理部屋の外に出した。
アズラ王太子殿下の話は、どうやってルチルが目覚めたかという話だった。
聞き終わり、右手を掲げて、薬指の指輪を見る。
「父や母、アヴェートワ前公爵たちには既に伝えているよ」
「アズラ様、救っていただきありがとうございます」
「お婆さんの言葉の意図に気づけて、本当によかったよ。ルチルとこうやってお茶ができるなんて幸せだ」
これが嘘ならアズラ様は俳優になれるわ。
お婆さんの話が出たから、ちょうどいい感じに話せる。
「お婆さんの言葉が全てこれから起きることだとして、私心配なことが1つだけあります」
「うん、僕もある。ルチルを絶対誘拐なんてさせない。守るから安心してね」
「違います」
「他には無いよ」
「ありますよ。アズラ様へと盛られる媚薬です」
お茶が変なところに入ったようで、アズラ王太子殿下が咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。それと媚薬の件は心配しなくていいよ」
「心配します。アズラ様の初めては、全て私のものです」
「え……あの……え……」
狼狽えている姿も萌える! 可愛いー!
アズラ様は白だわ。真っ白だわ。
アズラ王太子殿下は、動揺を隠すように1つ咳払いをした。
「その……媚薬はもう盛られたんだ」
はぁ!?
どこの誰だ! うちの天使を汚した奴は!!
アズラ様がエロエロ堕天使にー……
憂いが含まれるようになったのは、そんな理由なのか……
「そんな……アズラ様、もう初めてではないのですか……結婚初夜を夢見てましたのに……」
別にあたしは、アズラ様が初めてだろうが初めてじゃなかろうが気にしないよ。
でも、本のように所構わずされるのは御免だからね。
予防線を張らせてもらうね。
「ま、まって! 違う! やってない! 僕はまだだよ!」
「え?」
「ちゃんと説明するから聞いて」
「はい」
「僕はルチルが眠っていた間、まともにパーティーに出ていないんだ。始めと終わりだけいるようにしてた。
今年の新年祭も挨拶が終わったら部屋で休んで、終わりくらいに戻ったんだ」
「アズラ様がパーティーを嫌々だなんて」
「嫌だよ。パーティーでは、ずっと隣にいたルチルがいないんだよ。それに、そんな時間があるならルチルの側にいたいんだから。眠っていたとしても顔を見られる。僕がずっと側にいたかった」
ごめん……
あの2年間の寂しさは、この数ヶ月じゃ埋まらないよね。
ごめんね。
「会場に戻る途中で、蹲っている子を見つけてね。吐きそうだって言うからお手洗いまで付き添ったんだけど、まだ気分が悪いって言うから客室を用意したんだ。そして、その子を休ませてパーティーに顔を出した」
うーん、どこで襲われるの?
「夜にチャロを下がらせて、周りが寝静まった頃だよ。ルチルの部屋から物音が聞こえたんだ。不思議に思って見に行ったら、ベッドが盛り上がっててね」
「まさか……」
「そのまさか。近づいた途端にスプレーでかけられた。もう地獄だったよ。足に力が入らないし、馬乗りされても退かす力もない。寝る前だから薄着。万事休すかと思ったら、夜中に家を抜け出して遊びに来たオニキスが助けてくれた」
オニキス様か……
オニキス様は、小説に出てこないのよね。
こんなにも仲がいいなら、小説に出てきてもおかしくないのに。
ここも重要な相違点よね。
「オニキス様には感謝しきれませんね」
「助けたお礼にって、今年1年のスイーツ代を要求されたけどね」
「オニキス様らしい」
笑い合うが、ルチルは気になって仕方がないことがある。
「無理して答えなくてもよろしいのですが……その、気持ちよかったですか?」
「は? いやいや、待って。話ちゃんと聞いてた? 僕地獄だったって言ったよね。気持ち悪くて悔しかったよ」
怒らせてしまいました。
目が僕を信用していないのかと問うてきてる。
だって、最後までしていなくても気持ちいいって思ったら、またヤリたくなるものだよね。
興味津々の年齢に差し掛かってきてるだろうし。
「……ごめんなさい。媚薬のせいだったとしても、アズラ様が気持ちいいって思われたら嫌だなと思って。気持ちいいと思わせられるのも私だけがいいと思ったんです。嫉妬してごめんなさい」
ヤキモチ嬉しいよねぇ。
あたしは機嫌直してくれて嬉しいよ。
「僕は、その、ルチルにしか触りたくないと思ってるから。だから、ルチルとなら、その、気持ちいいと思う……思うけど、ちゃんと、しようと思ってるから……だから、その……」
「アズラ様、ありがとうございます。結婚初夜を楽しみにしていますね」
「あ、うん……頑張るよ」
苦笑いしている顔も素敵だわ。
リバーに言ってカメラ作ってもらおう。
「でも、まだちょっと心配ですね。アズラ様はこれからもっと魅力的になるでしょうから、また媚薬を使って狙われそうで心配です」
「あんな思いはもうしたくないからね。気をつけるよ」
言いたい! 言ってしまいたい!
16歳の夏休みで媚薬を盛られることを!!
それに、来年から魔物の事件も盛りだくさんなんだよねぇ。
言いたい! 言ってしまいたい!
ん? ちょっと待って……
今年の新年祭でなら、アズラ様はまだ13才だよね?
14才での媚薬事件は、いつ起きるの?
学園入学まで後少ししかないのに……
それも踏まえて、言いたい! 言ってしまいたい!
もうさ、金色の魔法は予知夢とかでよくない?
何よりアズラ様が死ぬのは阻止しなきゃだし。
「ルチル、大丈夫?」
「すみません。少し考え事……を……」
急に立ち上がるからビックリしたー。
「アズラ様、どうされました?」
「あ、ごめん……ちょっとこわ、くて……」
え? え? 泣きはじめた。
よく見ると、手も体も震えている。
ルチルは立ち上がって、アズラ王太子殿下の横に行き抱きしめた。
縋りつくように強く抱きしめ返される。
「ごめん……ルチルが血を吐いて倒れる前、考え事してたって聞いて……また倒れたらって……ごめん……」
あたしのせいで心の傷が深い……
アズラ様の前で考え事をするのはやめよう。
「大丈夫ですよ。もう2度と倒れません。約束です」
「うん、もう2度と離れないで。ルチルがいないと息ができなくなる」
少し体を離し、アズラ王太子殿下の腕の中で、アズラ王太子殿下の涙を手のひらで拭った。
恥ずかしそうに微笑む顔に萌えが爆発し、背伸びして頬にキスをすると、アズラ王太子殿下も頬にキスを返してくれた。
アズラ王太子殿下の媚薬事件は、その後起きた。
両陛下の代わりに、公務でオペラ鑑賞に訪れた劇場で事件は起こった。
遅効性の媚薬を飲み物に混ぜられ、体調がおかしいと思ったアズラ王太子殿下は控え室へは行かず、王宮に帰った。
1度経験しているのだ。
媚薬だとすぐに分かった。
毒見役のチャロも同じように苦しんだそうだ。
王族専用とされていた控え室には、劇場の支配人の娘が裸で待っていたそうだ。
アズラ王太子殿下の命令で調べた騎士に捕まっている。
年に2回も襲われるとは……可哀想でしかない……
ここはやっぱり予知夢ができると伝えるべきか……
難しい問題だ。
あらすじ回収終わりました。
<皆様が疑問に思うかもしれないだろうところ>
強姦防止は、指輪の裏にある魔法陣を使って防止できるんです。他の魔法陣はちゃんと使い方が分かっているのに、2人はいつ気づくんでしょうね。
媚薬は毒ではありませんので、消すことはできません。
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読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。