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次に起きた時は、明るかったから朝かお昼だった。

カーネが「おはようございます。飲み物をご用意しますね」と言った声とドアの音が聞こえた。


相変わらず、体は動かせない。


ため息を吐いているとドアの音が聞こえ、祖父が現れた。


「ルチル、おはよう。起きるか?」


頑張って頷くと、スミュロン公爵がしてくれたみたいに抱えるように起こしてくれた。

カーネが水と牛乳を持ってきてくれ、祖父がスプーンで飲ませてくれる。


「美味しいか?」


「ぉ、じぃさ、ま……」


「おお! ルチル、声出せるのか!」


これ出せてるかどうか怪しいけど、伝わっているみたいでよかった。


「なにが、ぁったの、で、すか?」


「何がか……」


祖父は、ルチルに飲ませていた牛乳をサイドテーブルに置いて、真剣な表情で見てきた。


「ルチル。ルチルは、2年程眠っていた」


えっと……2年……眠ってた……


はて?


カーネが静かに泣き出したようで、啜り泣く声が聞こえてくる。


「2年前、血を吐いて倒れてな。そこからずっと眠っていたんだ。覚えているか?」


血を吐いて倒れた? あたしが?


えっと……昨日は……

違う違う、2年前か……


あ!

確かに「吐く」とは思ったんだよね!

でも、吐いたのは血だったのか。


ゆっくりと頷くと、手を取られ握られた。


「すぐにスミュロン公爵に診てもらったんだが『目覚めるのを待つしかない』と言われてな。私たちは、ずっとルチルが目覚めるのを待っていたんだよ。

ルチル、よく頑張ってくれた。目覚めてくれて、ありがとう」


祖父の優しい慈しむ声に、喉が熱くなってきた。

涙が溢れてくる。

祖父の瞳にも涙が溜まっている。


どんなに辛い想いをさせていたんだろう。

あたしには昨日の事だけど、周りの人たちは違う。

何かしたくても何もできない日々は、悩ましく苦しく痛かっただろう。


あたしが逆の立場なら、毎日焦燥感に駆られ、神様仏様に祈りを捧げただろう。

ただ待つだけの日々。

恐くて仕方がない。


それでも待っていてくれた。

感謝しかない。


祖父に柔らかく抱きしめられ、泣き続けた。


泣き止むと、少しだけお水を飲ませてもらって、寝転ばせてもらった。


2年も寝たきりだったのなら、全身の筋肉がなくなっているよね。

体力もないよね。

みんなのためにも頑張って元気にならなきゃ!


意気込んだはいいが、その日はそのまま眠り続けてしまい、次に起きたのは夜中だった。


夜中だったにも関わらず、カーネが側にいて、すぐに父が部屋に来てくれた。

父に水と牛乳を飲ませてもらう。

掠れる声で何とかお礼を伝えると、涙目になりながら頭にキスをしてくれた。


次に起きたのは、夕方。

今度は母が看病してくれた。


次は朝。

祖母と母が看病してくれた。


起きる度に、窓辺の花瓶に生けてある花が違う。

綺麗な花たちは起きた時の楽しみになった。


次に起きた時も朝だったが、その日は朝から昼過ぎまで起きていられた。

弟が部屋に来て、2年間の話をしてくれる。


この可愛い子が成長した弟だったとは!

姉は感無量よ!


弟の話を聞きながら思うことは1つ。


とすると……

もしかしなくても、あの麗しい堕天使様は成長したアズラ様だよね。


あー、なんであたし寝てた!

成長の過程を見られなかったとか、悔やんでも悔やみきれない!


起きた時、分からなかったからなぁ……

物凄く泣かせてしまった……

どうしよう……


その次の日は、朝から夕方まで起きていた。


少しずつ起きている時間は延びているが、ルチルは知らない。

夜にアズラ王太子殿下が、花束を持ってお見舞いに来ていることを。


水と牛乳を飲める量も日々増え、スミュロン公爵の診療の日がやってきた。

診察してもらい、健康体だというお墨付きをもらった。

明日からお粥をすり潰した物を食べるように言われた。


次の日からカーネに手伝ってもらい、ベッドの上で体を動かす練習を始めたが、すぐに疲れてしまい、気づいたら眠っている。


スミュロン公爵からは焦らずゆっくりとと言われているが、ゆっくりしている場合ではない。

動けないことには、アズラ王太子殿下に会いに行けないのだ。

手紙を書く手の力もない。

謝罪ができない。


早く会って誤解を解かなければと意気込んで頑張るが、現実は厳しく落ち込んでいた。






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