表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/373

64

ドアが壊れるような勢いで開いたようで、大きな音を立てた。

何個も足音が聞こえ、ベッドの周りを囲まれる。


「ルチル!」


「よかった……よかったわ……」


えっと……どうして、みんな泣いてるの?


あれ?

お祖父様とお祖母様、お父様にお母様……ほんの少しだけど老けた?


ううん、老けてないか。

あたしったら、何を考えてるんだろ。


というか、手を握ってるこの大天使様は誰だろ?


ふふ……大天使というより憂いがあって堕天使様みたい。

綺麗だなぁ。麗しすぎる。


アズラ様に似てるんだよねぇ。

でも、アズラ様に兄弟はいないし……


まさか! 陛下の隠し子!?

陛下の隠し子が、何でここに?

どうしてあたしの手を握っているの?


起き上がろうとするが、体に力が入らなくて起き上がれない。


「お姉様!」


弟の声が聞こえたのに、姿を見せたのは男の子か女の子か分からない可愛い子供だった。


あれ? ミソカの声じゃなかった?


「お姉様……よかっ……よかったですぅ……」


んん?

この可愛い子からミソカの声がする……なんで?


もしや! 弟が一晩で変身魔法を身につけたとか!?


「ブロン、すぐに両陛下とスミュロン公爵に連絡を」


「かしこまりました」


ブロンもいたのね。

もー! なんで起き上がれないの!


「お、お嬢様……」


ベッドの下から、ゆっくりとカーネが現れた。

一瞬お化けに見えてしまって悲鳴をあげかけたが、声が掠れて出なかった。


さっきも出しにくかったけど、どうして声が出ないんだろ?

腕も上がらないし……変なの。


「殿下。ルチルが目覚めた時の様子をおうかがいしてもよろしいですか?」


固まったままの堕天使様に、父が声をかけた。


ん? んん?

お父様、この麗しい堕天使様を殿下って呼んだ?


ええ!?

やっぱり陛下の隠し子なの!?

いつ! いつ! 発覚したの!!?


「あ、うん……まつ毛が動いたような気がして、呼びかけたら目が開いたんだ。それで……その……僕を覚えて、ない、、みたいで……」


父たちの息を飲み込んだ音が合唱した。


覚えてないっていうか、会ったことないよね?


「ルチル、私が分かるか?」


父が自分を指して問うてくる。

ほんの少しだけど顔を動かせ、微妙だが頷けた。

父の安堵した表情に首を傾げるが、疑問を聞く間もなく母にも同じことをされた。


「スミュロン公爵が到着されました」


ブロンの声が聞こえて、挨拶の時にだけ見たことがあるスミュロン公爵が現れた。


あれ? スミュロン公爵老けた?


でも、半年前に見ただけだからなぁ。

イケオジなのは変わらないけど。


というか、どうしてスミュロン公爵が?


「殿下、代わっていただいてもよろしいですか?」


「スミュロン公爵、ルチルが僕を覚えてないみたいで……どうしてだろうか……思い出してくれるよね……」


ああ、堕天使様が泣いている……

アズラ様に似ているだけあって、心が苦しくなる……


「診察してみます」


その時、両陛下も到着したようで「よかった……よかった……」という声が聞こえてきた。


どうして、みんな泣きながら「よかった」と言うのか分からない。


さっきまで堕天使様に握られていた手を、スミュロン公爵に握られた。

手から温かい空気が、体の中に入ってくる。


スミュロン公爵の魔力も温かいのか。


「これは……」


「どうした? ルチルはどうなんだ?」


「アラゴ、驚くなよ」


「ああ」


「健康体だ。信じられないが、悪いところが1つもない。違うな、1つだけある」


「なんだ?」


「栄養失調だ。執事よ、牛乳を温めて持ってきてくれ」


えー、なんでみんな泣き笑いしてるのー。

まぁ、あんなに食べるあたしが栄養失調なんて笑うよね。


「脳は、もう心配ないんだな?」


「心配することなど1つもない。脳も心臓も元気に動いている。奇跡だよ」


「スミュロン公爵、でもルチルは僕が分からないって……」


「そうでしたね。でも、脳のどこにもシコリや詰まりが無いんです。ですから、覚えていないなんてことはないと思うんですが……」


スミュロン公爵が、堕天使様に向けていた顔をルチルに戻した。


「少し体を触るからね。触っているって分からなかったら、繋いでる手に力を入れてくれる? 今、試しに力を入れてみようか」


イケオジに優しい笑顔で言われて、少しキュンとしながら手に力を入れた。

入ったかどうか分からないくらいにしか握れなかったが、イケオジことスミュロン公爵は優しく頷いてくれた。


それから、両手、腕、肩、顔、お腹、足等たくさん触られたが、全部触られていると分かった。


両目は、それぞれスミュロン公爵に大きく開かされ、前後左右に動かすように言われて動かした。

片目ずつ隠されて「見えている?」と聞かれた。

もちろん見えている。


が、左目だけの時に違和感があった。

でも、それが何か分からない。


「うーん、体はどこも悪くなさそうだね。魔力診察と相違なさそうだ」


「では、記憶だけ……」


「しかし殿下、ルチルは私と妻のことは分かりましたよ」


ああ、また堕天使様が泣いてしまった……


「ルチル嬢、私のことは分かりますか? 分かったら握ってください」


スミュロン公爵だよね。

ちゃんと分かるよ。


「話したこともなかった私のことも分かると……殿下、言いにくいのですが……」


「やめ、てくれ……聞きたくない……」


悲痛な声に誰もが俯いている。

そんな中、元気な声が聞こえてきた。陛下だ。


「まぁまぁ、アズラよ。ルチルが目覚めただけでもよかったじゃないか。待っていてよかったな」


今……なんて言った?


「はい……」


そういえば、陛下も王妃殿下もいるのに、アズラ様がいないんだよね。

なんで、ここにみんながいるのか分からないけど、アズラ様だけいないなんてことある?


待って、ミソカの声をした可愛い子もいたわ。


え? あれ? なにこれ?


「ルチル様のホットミルクをお持ちしました」


「ありがとう」


ブロンが、スミュロン公爵の横まで持ってきた。


「さぁ、ルチル嬢。起き上がれるかな?」


スミュロン公爵が背中とベッドの間に腕を入れて、抱えるように起こしてくれた。

背中側には枕とクッションが入れられる。


「持てるかな?」


ホットミルクを胸の辺りに持ってきてくれたが、腕が上がらない。

視線が下にいき、見えた自分の体に目を見張った。


は? はぁあ!?

なんか胸ある! なにこのデカパイ!?

ってか、胸あるのに腕ほっそ! 棒だよ!

手も骨と皮だよ!


「無理かな。飲ませるよ。ゆっくり、ゆっくりだからね」


口元にカップを持ってきてくれ、スプーンで掬って口の中に入れてくれた。

五臓六腑に染み渡る。


「飲めるだけ飲んでみよう」


生き返るーと思っていたのに、数口でいらなくなった。

口を閉じて頑張って首を振ると「十分だよ」と、頭を撫でてくれた。


「1週間は水や牛乳を飲ませてくれ。1週間後にまた診察をして、問題がなさそうならお粥を始めよう」


「分かった。ありがとう、スミュロン」


「よかったな、アラゴ」


スミュロン公爵は立ち上がり、堕天使様の肩を優しく掴んでから帰って行った。

父が中腰になり、話しかけてくる。


「ルチル、疲れてないか?」


ものすっごく疲れてる。

何でだろう?


頭が船を漕ぎ出し、父が笑った。


「ゆっくり眠りなさい。起きたら話をしよう」


父がベッドに寝転ばせてくれ、瞬時に眠りに落ちた。

最後に瞳に映ったのは、辛そうに泣いている堕天使様の顔だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんど読んでもこの辺は切ないです(>_<) 男の子の12歳~14歳は………確かに別人ぐらい変化する時期ですよね(꒪д꒪II みんな気づいて!!! 本人、2年も眠ってたって分かるわけない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ