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身体強化、2日目。
昨日のジャンプの用法を活かして、速く走れるか試してみた。
ジャンプを成功させたリバーや騎士たちは、すぐに速く走れるようになった。
ルチルだけ感覚が掴めず時間がかかった。
次に試したのが、昨日ルチルが失敗した拳。
リバーが考えてきた方法が、魔力を拳に纏う、もしくは殴る瞬間に拳から魔力を放つやり方だった。
これは昨日ルチルが怪我をしたため、騎士たちが代わりに試すことになった。
魔力を拳に纏う方法は、普通の力だったが、地面を殴っても擦り傷の怪我すらしなかった。
「これを腕に纏うと、防御になるんじゃないか」と話し合った。
試しに腕を守る防具アームガードをイメージして、投げられた石を受けてみる。
痛くない。
石を大きくして、また投げられる。
痛くない。
殴ってもらった。
痛くない。
殴った方は痛かったらしい。
ナイフで切ってもらった。
服も腕も切れてない。
剣で切ってもらった。
腕の数ミリ上で剣が止まった。
この発見は、リバーよりも騎士たちが喜んだ。
ただ、全身を覆い続けるには魔力が足りないし、他の魔法を使いながら何処かを覆うことは難しいらしい。
瞬時に攻撃される場所を次から次へと覆うことも、意識が色んな所に飛んで困難とのこと。
魔力操作をもっと練習して、効率良く魔力を使えるようにしなければ、戦闘では使えそうもないとのことだった。
次に拳に魔力を纏いながらも、殴った瞬間に魔力の放出をしてもらう。
すると、地面に少しだけヒビが入った。
これは、放出する魔力量によって威力が変わるだろうとのこと。
だが、邸の裏庭にこれ以上ヒビを入れるのは躊躇われ、秋のハイキングの時に適当な岩で試してみようという話になった。
そして、ルチルたちは、次の日から魔力操作の訓練と身体強化と魔力譲渡の練習をはじめた。
祖父と父に会わなくなって1週間が過ぎた。
週末に会えるアズラ王太子殿下に「お祖父様との訓練は続いているんですか?」と尋ねたら、「続いているよ。アヴェートワ前公爵は元気だよ」と教えてもらった。
それだけでも安心できた。
アズラ王太子殿下も詳しくは知らないが、「お金と食料を支援することになったんだけど、どうやって届けるかで今揉めているみたい。連日会議をしているらしいよ」とのこと。
父に会えるのもまだ先になるのかもしれないと、少し落ち込んだ。
ルチルは、いつも夕食時に祖父と父に報告していた訓練内容を、アズラ王太子殿下に話した。
「魔力譲渡と身体強化はぜひ試してみたい」と顔を輝かせていて、祖父に相談して訓練内容に取り込んでもらおうと意気込んでいた。
ルチルは生まれてから初めて、祖父と父にもう10日も会っていないと寂しくなっていた。
小さい頃、アヴェートワ領に引っ込んでる時は祖父と毎日遊び、父には週に1度会っていた。
領地とタウンハウスを行き来するようになってからは、会わない日はなかった。
北の国への支援は、国の騎士団とトゥルール王国の北の国境を領地に持つ辺境伯の騎士団とで運ぶことになったと、母から教えてもらった。
トゥルール王国内なら転移陣での移動で楽ができるが、国境からは山を3つ越えないと北の国に辿りつけない。
山では魔物との戦いが続くだろうとのこと。
だから、誰が行くか、どのルートが1番安全かの話し合いに時間がかかっていたそうだ。
父は王宮での会議は終わったが、北の国と取り引きしていた石鹸を他でも作っている国がないか、祖父と一緒に探しているらしい。
石鹸を作っていたり、代用品がある国や商会はあるが、アヴェートワ商会と取引ができるだけの量がないそうだ。
在庫はあるが、次の入荷の目処が立たないことには無くなってしまう。
他の商会では、倍の値段で販売しはじめたそうだ。
足元見るよねぇ。
商売ってそういう物かもしれないけど、アヴェートワ商会みたいに値段上げないでいようよ。
転売してる人もいるみたいだし。嫌だねぇ。
石鹸の買い占めも始まっているらしいし、これは早々に石鹸を作るしかない!
でも、どうしても思い出せない……
こら、脳みそちゃんと仕事しろ!
どこかの引き出しにあるでしょ、作り方が!
あー! もー!
困ってる時に金色の魔法が、ちょちょいと働いてくれたらいいのに!
ん?
どこにだ? どこに働けばいい?
石鹸出でよ! なんて言っても出てくるわけがない……
金色がそんな魔法なら、何でもありだもんね。
となると、作り方……
脳みそ!
リバーは、あたしを金を生み出す人間のように言っていた。
今までお金を生み出したのは、頭の中の記憶。
金色の魔法は、脳に効くんじゃないだろうか?
脳みそに魔力を流してみたら、どうだろう?
活性化して記憶思い出すかな?
試してみる価値ありだよね!
いくよー! 脳みそ活性化!
思い出せ! あたし!
あ……だめだ……
吐く……
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