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さて、そろそろ我慢できなくなってきたわ。

やっぱりここはお祖父様に相談するべきだよね。


でも、相談して大丈夫かな……


というか、どんな風に相談するのがいいのかな。

この国にはないスイーツ。

そして、今は何よりも生クリームが食べたいだなんて……


ルチルが、ずっと前から1つだけ残念に思っていた事。

それは、スイーツが無いことだった。


赤ちゃんの時は飲み物だし、その後は離乳食だからと諦めていたが、家族と同じように食べ始めてもデザートが出てこない。

お茶の時間にはジュースだけだし、大人たちには紅茶しか用意されない。

たまに、お茶請けにナッツ類やドライフルーツが添えられていたが、スイーツが姿を見せないのだ。


だからというか、その所為というか、ルチルは甘味を求めてフルーツを食べていた。

だが、フルーツで自分を誤魔化すのにも限界がきていた。


ルチルは、前世で生まれてから死ぬまでぽっちゃりさんだった。

理由は体質だと思いたいが、たぶんスイーツが大好きだったからだろう。


若い時は、コンビニスイーツからデパ地下スイーツ、スイーツビュッフェにも行くし、本場の味が食べたいと思ったスイーツは長期休暇を使って海外まで足を運んでいた。

年老いてからは、月1で行く孫たちとの可愛いカフェ通いが楽しみだった。


それぐらい生涯を通じて、スイーツが大好きだった。


正直に、生クリームが食べたいって言ってみる?

なんだかもうお祖父様には、子供のフリをしているのがバレているような気がするのよね。


それとも、料理長にお願いをして生クリームを作ってもらって、お祖父様に食べてもらう?


料理長は、初日に泣いて喜んで料理を作ってくれたほど、誰かに向けて料理を作ること、新しい料理に挑戦することを生き甲斐にしている。

毎日のように今日はどんな料理が食べたいか聞いてくれるし、お祖父様やお祖母様と同じ料理でも子供が食べやすいように味や見た目を変えてくれるほど心を配ってくれている。

そんな料理長だからこそ、あたしが言っても興味本位で作ってくれそうな気がするんだよね。


でもなぁ、お祖父様に最初に相談しないと拗ねちゃうだろうしなぁ。


部屋の中をウロウロしながら考えていたが、きっと祖父なら何を言っても大丈夫と思い、祖父の執務室に向かった。


実は、領地のことは祖父が取り仕切っていたのだ。

祖父は父に早くに爵位を渡してお気楽に旅行三昧しようとしていたらしいが、父から「まだまだ元気なんだから領地のことはしてください」と、若くして爵位を相続する条件にされたんだとか。


祖父曰く、王都の面倒事を押し付けられたからいいんだそうだ。

領地のことなんて簡単だとのこと。


お祖父様、察していたけど優秀なんですね。


祖父の執務室をノックすると、ドアが開いて笑顔のサーぺが迎えてくれた。


「ルチルお嬢様、いかがされました?」


「おじーちゃまに、そうだんがあるんでしゅ」


サーぺに促されソファに座ると、祖父は執務机の椅子からすぐに向かいのソファに腰掛けた。

サーぺは、執務室にある小さな冷蔵庫からアイスティーとジュースを用意してくれる。


ルチルは、祖父の執務室で冷蔵庫を初めて見た時、声を上げて驚いた。

これは魔道具らしく、曾お祖父様が食材を管理するために作り出したそうだ。

他にもコンロやオーブンなど料理に関する魔道具も、曾お祖父様の作品らしい。


この類の魔道具は、貴族は持っているが平民には普及していない。

平民が火を扱う時は薪を使っているんだそう。

理由は、魔道具には魔法陣が組み込まれていて、魔法を使えないと起動できないとのこと。

魔石を使うという手もあるが、より高価になるので買える平民は一握りらしい。


「じゃあ、魔法を使えばいいのでは?」と思うところだが、驚くことに魔法は基本貴族しか使えないそうだ。

毎年数人は平民でも魔法が使える人が出てきて、その人たちは貴族が15才から17才までの3年間通う学校に特待生として入学するらしい。

王立学園は魔法の使い方を学ぶ学校だそうだ。


アイスティーを1口飲んだ祖父が、柔らかく微笑んできた。


「ルチル、何を相談したいんだ?」


「えっと……おじーちゃま……その……」


ああ、緊張して言葉が出てこない。

もしこの祖父に、白い目で見られたり嫌われたりしたら生きていけない。

だって、もうこの愛情は手放せないもの。


「どうした?」


「あの……おじーちゃま……すきでしゅ……」


祖父が、両手で顔を隠してソファに倒れてしまった。

サーぺがやれやれと肩をすくめたのが、視界の端に映った。


「私もルチルを愛しているよ」


数秒後、ニヤけ顔を戻せないまま姿勢だけは正した祖父を見て、生クリームを食べたいよりも嫌われたくない気持ちの方が勝ってしまった。


「やっぱり……そうだんはいいでしゅ」


「ルチル、何でも言っていいんだよ。何だって私が叶えてあげるからね」


「でも……おじーちゃまにきらわれたくないでしゅ」


またもや祖父は、ソファに倒れそうになっていたが、何とか思い留まらせたみたいだった。


「ルチルを嫌うなんてことは死んでも有り得ない。怖がらず言ってごらん」


どうしようかなぁ。

ここは生クリームとか作り方を知ってるとか言わずに、遠回しに言ってみる?


「あの……あまいものがたべたいでしゅ……」


「甘い物?」


スイーツが無い世界。ピンとこないようだ。


「えっと……おさとうじゃないけど、おさとうみたいなものでしゅ……しろくてふわふわの……」


「うーん、砂糖じゃないのに砂糖みたいに甘くて、白いふわふわした食べ物か。聞いたことないな。サーぺはあるか?」


「いえ、私も存じ上げません」


「料理長なら知っているかな?」


「さぁ、どうでしょうか?」


祖父が、閃いたようにルチルを見てきた。


「そういえば最近、砂糖や牛乳は高いのかどうか聞いてきたな。関係あるのか?」


うっ……まだお金持ちに慣れていないせいもあって、砂糖が高いからスイーツが無いのでは?

だったら、作ろうとしたらかなりの材料費がかかってしまうのでは?

と心配になって、色んな調味料の話に混ぜて聞いたのに……


ちなみに、砂糖や塩をはじめとした調味料は高くなかった。高かったのは油だった。


「えっと……その……はい、そうでしゅ……」


「そうか。それで、甘くて白いふわふわの食べ物は牛乳と砂糖で作れるのかな?」


「えっと……その……おじーちゃま……」


「なんだい?」


どうして作れるのか? とか、その食べ物はなんだ? とかの疑問はないんでしょうか?


「ルチルは……その……きもちわるくないでしゅか?」


「そういうことか」


祖父はソファから立ち上がると、ルチルの横に座り直し、柔らかく抱きしめてくれた。






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