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次の日リバーに「お祖父様とお父様が忙しくて、相談できなかったわ」と伝え、今日は何をしようかという話になった。
「一通り思いつく魔法はやりましたしねぇ」
そんなことないよ、リバー。
あたしは知っている。まだあることを。
魔法がある冒険物には、よくあったもの。
「確認なんだけど、剣や防具についている魔法付与は強化魔法だよね?」
「はい、魔法強化か身体強化を選べます」
「その魔法陣があるってことは、その魔法があるってことだよね?」
「いえ、魔法陣以外ありません」
「じゃあさ、やってみない?」
途端にリバーの顔が輝いた。
「ええ、ええ、やってみましょう!」
リバーと向かい合って立ち、リバーに向かって手を翳した。
「ルチル様が、私にかけるのですか?」
「そうよ。不満そうな顔しないでよ」
「殺さないでくださいね……しくしく……」
「殺さないわよ! まずは、私の魔力をリバーに流すわね」
「光の魔法の使い方と一緒ですね」
リバーの中に魔力を入れるようにイメージしながら、手のひらから少しずつ放出する。
「何も感じません」
「結構頑張ってるのに……」
次はリバーからルチルに流してもらったが、ルチルも何も感じなかった。
次に体の一部に触れて、流してみることにした。
ルチルは、リバーの背中に触れてゆっくりと流していく。
「体が冷たくなってきました」
「魔力の流れって冷たくない?」
「冷たくないですよ。温かいです」
嘘だーと思って騎士たちを見ると、3人同時に頷かれた。
「ルチル様の魔力は冷たいということですね」
「そうみたいね。私の魔力をリバーが使うことはできそう?」
「試してみます」
手を斜め下に翳したリバーが、1メートル程離れた地面に穴をあけた。
「できました! できましたよ! 魔力の譲渡はできるようです!」
飛び跳ねて喜んでいたリバーが、今度はルチルの背中に触れてきた。
自分に入ってくる魔力を確かに感じる。
「本当だわ……背中から温かい空気が体を流れてる……」
「私の魔力は温かいということですね。ルチル様、使えるかどうか試してみてください」
ルチルは、勇むように頷いた。
手のひらに火を灯そうとして、子供1人分くらいの大きな火を出してしまった。
ルチルとリバーは火に仰天し、後ろに倒れてしまう。
「いたたたた。ルチル様、魔力の加減下手ですよ」
「ごめん。自分の魔力じゃないから難しかったの。ぶわって外に漏れてしまったの」
デュモルが手を貸してくれ、立ち上がった。
念のため、護衛騎士3人にも譲渡をし合ってもらい、誰でも魔力の譲渡ができることの確認が取れた。
新しい発見に、リバーは奇妙な小躍りをしている。
「待って、リバー。喜ぶのはまだ早いわ。もう1つ残っているでしょ」
「そうでした! 身体強化!」
「私、こっちの方が簡単なような気がするのよね。だって拳に魔力を集めて、拳を石か岩だと思えばいいと思うの」
そう言いながら拳を握り、魔力を集中させた。
「よし!」と気合いを入れ、地面を勢いよく殴った。
「いったーい!」
「痛そうです……」
ううっ、怪我しちゃったよぉ……
痛いよぉ……
「ジャンプとかから始めましょうか」
リバー、少しは騎士のみんなみたいに心配してくれていいのよ?
「そうね、その手があったわね……」
「ジャンプとなると、どこに魔力が必要でしょうか?」
「膝じゃないの?」
リバーがジャンプした。
普通のジャンプだった。
「足の裏?」
またリバーがジャンプした。
また普通のジャンプだった。
「膝と足の指!」
またリバーがジャンプした。
今度はルチルの背丈くらいジャンプして、全員口を開けたままリバーを見つめた。
「高く飛べました! やりました!」
騎士たちが真似をしてジャンプしているが、普通のジャンプばかりだ。
「どうやって高く飛べたの?」
「膝から下の足に魔力を溜めて、跳ぶ瞬間に足の裏から魔力を放出するんです」
「ルチル様はワンピースですので、跳ばないでくださいね」
跳ぼうとしたのがバレて、デュモルに肩を下に軽く押された。
残念に思いながら、騎士たちが何回もチャレンジする姿を応援していた。
みんな1時間くらいかけて、2階の窓くらいまで跳べるようになっていた。
昼食の時間がきて、今日の訓練は終わりとなった。
昨日から見ていない祖父と父が心配になるが、ルチルに手伝えることはない。
あるとすれば、石鹸の作り方を思い出すことだけ。
この日も前世の色んな種類の石鹸を思い出すが、材料や作り方は一切思い出せなかった。